重症筋無力症このページを印刷する - 重症筋無力症

重症筋無力症は、手足を動かすと筋肉がすぐに疲れて力が入らなくなる病気です。全身の筋力が弱くなったり、疲れやすくなったりします。また、まぶたが下がってくる(眼瞼下垂)や、ものが二重に見える(複視)など、眼の症状を起こしやすい特徴があります。

重症筋無力症の原因

人は筋肉を動かそうとするとき、脳からの命令を神経が伝え、さらに筋肉に伝えられます。その神経と筋肉のつなぎ目(神経筋接合部)では、神経の末端から「アセチルコリン」という物質が筋肉に向かって放出され、筋肉表面に存在する「アセチルコリン受容体」で受け取ります。重症筋無力症の患者さんでは、この「アセチルコリン受容体」を壊してしまう自己抗体(抗アセチルコリン受容体抗体)が、血液中に検出されます。この自己抗体の作用により、アセチルコリン受容体の数が減ってしまい、筋肉を収縮が起こりにくくなります。しかも、数少ないアセチルコリン受容体だけで体の動きをまかなおうと頑張っているので、運動を繰り返していると、ますます筋肉が働かず、力が入らなくなってしまいます。

重症筋無力症の疫学

2006年の全国調査では人口10万人あたり11.8人と報告され、現在、患者数は約20000人です。20~50歳代の女性に多く、近年では男女ともに50歳以上で発症する患者さんが増加しています。

重症筋無力症の症状

重症筋無力症は、まぶたが下がる、二重に見えるなど、眼の症状だけを呈する「眼筋型」と、眼だけでなく手足や飲み込む力など全身の筋力が低下する「全身型」があります。症状があらわれる身体の部位やその程度には個人差があります。また、朝起きたときには何も異常がなかったのに、夕方になると筋力が弱くなるというように、1日の中でも症状が変動(日内変動)したり、日によって疲れやすさが違う(日差変動)のが大きな特徴です。
 
  • 球症状:口やのどの動きが悪くなることによって、食べ物が飲み込みにくく(嚥下困難)、また話しにくくなります(構音障害)。
  • 呼吸症状:呼吸に関係する筋力が低下することにより、日常生活の中で息苦しさがでることがあります。
  • 手足の症状:手足の筋力が低下することによって、物を持ちにくくなったり、歩くのが困難になったりします。繰り返し運動を続けると早く疲れます。
  • 眼の症状:まぶたが下がってくる(眼瞼下垂)や、ものが二重に見える(複視)という症状があります。

重症筋無力症の検査

アイスパック試験

冷凍したアイスパックを約2分間まぶたにあてて、2mm以上まぶたが上がって眼が開きやすくなるかどうかをみます。

テンシロンテスト

テンシロンという、アセチルコリンの分解を抑える薬剤を投与し、眼や全身の症状が改善されるかどうかを確認します。

血液検査

抗アセチルコリン受容体抗体を測定します。この抗体は全身症状のある患者さんの90%以上で陽性となります。しかし、近年、抗体陰性の患者さんの約半数近くに別の抗体(抗MuSK抗体、抗Lrp4抗体)が見出されています。

筋電図検査

反復運動によって筋肉が興奮しにくくなることを確認するために、神経を反復刺激しながら筋電図をとり、減衰現象(waning)を確認します。

画像検査

重症筋無力症の患者さんでは高率に胸腺腫を合併し、アセチルコリン受容体を攻撃する自己抗体を産生している可能性があります。治療法を選択する上で重要となりますので、胸部CT検査で胸腺腫の有無を確認します。

重症筋無力症の治療

  • 抗コリンエステラーゼ薬:神経から放出されたアセチルコリンは、即時にコリンエステラーゼという分解酵素によって分解されてしまいます。その分解酵素の働きを阻害するのが抗コリンエステラーゼ薬(メスチノンやマイテラーゼ)です。重症筋無力症の症状を軽減する対症療法として投与されます。
  • 胸腺摘出術:画像検査で胸腺腫が明らかでな場合でも、胸腺摘出術で摘出した肥大胸腺に小さな胸腺腫が埋もれて発見されることもあり、胸腺摘出術がすすめられます。これまでに、手術を受けた患者さんと受けなかった患者さんの症状変化を比較した研究で、胸腺摘出術の有効性が証明されています。 また、眼筋型では、下記の副腎皮質ステロイドで改善することが知られており、胸腺摘出術を選択されない場合が多いですが、近年眼筋型も全身型の軽症例であるとの考えや、高齢者では胸腺腫を合併する頻度が若年者より高いことから、高齢者においても拡大胸腺摘出術が行われることがあります。
  • 免疫抑制剤:副腎皮質ステロイドが、抗体産生を抑えるために投与されます。通常は、胸腺摘出直後から大量投与が行われ、半年くらいを目処にゆっくりと減量します。その他に、タクロリムスという免疫抑制剤が併用されます。
  • 免疫グロブリン療法:献血ヴェノグロブリン®IH(1日あたり400 mg/kg)を5日間連日点滴静注します。本治療は下記の血液浄化療法と同程度の効果であることが、臨床試験において確かめられています。また、血液浄化療法のように特別な装置を必要としないため、より簡便であるといえます。
  • 血液浄化療法:血液浄化療法は、血中の抗体を除去する目的で行われます。血液浄化療法には、単純血漿交換法、二重膜ろ過法、免疫吸着法があります。これによって、症状は劇的に改善しますが、抗体の産生は変わらず続くので、その効果は短期間にとどまります。また、特別な装置を必要とするため、治療に難渋する場合に検討されます。

重症筋無力症の予後

本症は「重症」という名前の通り、20世紀半ばまでは、死亡率が30%以上の重い病気でした。しかし、重症患者に対する人工呼吸管理などの治療の進歩により、死亡率は激減しています。
上記の治療法を組み合わせることで、70%の患者さんは軽快あるいは寛解(症状が改善して服薬を必要としない状態)となりますが、30%の患者さんは改善が乏しいために、社会生活に困難を感じることがあります。しかし、早期に拡大胸腺摘出術を行うことで、さらに予後が改善しうることがわかっています。

重症筋無力症における注意すべき点

  • クリーゼについて:感染や外傷、ストレスなどをきっかけに、急激に全身の筋肉が麻痺することがあります。特に、呼吸筋の筋力低下によって急に息苦しくなる状態を、クリーゼといいます。クリーゼにならないために、普段より息苦しさが強くなったときは、早めに受診する必要があります。
  • お薬について:睡眠導入薬、抗菌薬、排尿障害治療薬など、お薬によっては重症筋無力症の症状を悪化させることがあります。他の医療機関を受診するときには、重症筋無力症であることを伝えて下さい。