筋萎縮性側索硬化症(ALS)
運動神経が障害され、体を動かすのに必要な筋肉が徐々にやせて力がなくなっていく病気です。有病率は10万人あたり7~11人で、主に中年以降に発症します。家族内で発症する家族性ALSは全体の5~10%程度で、それ以外の場合(孤発性ALS)には遺伝しません。孤発性ALSでは、神経細胞内にTDP-43と呼ばれる異常なタンパク質が蓄積して、神経が徐々に減少(神経変性)します。
ALSの症状
運動神経は、脳から脊髄(上位運動ニューロン)、脊髄から末梢神経(下位運動ニューロン)を通って、全身の筋肉に運動の命令を伝えています。ALSではこの上位運動ニューロン、下位運動ニューロンともに障害されます。
- 四肢の筋力低下:上肢に筋力低下が出現すると、ペットボトルのふたを開けにくくなったり、髪を洗うときに腕を挙げるのが困難になったりします。下肢に筋力低下が出現すると、歩くのに手すりが必要になったり、イスから立ち上がりにくくなったりします。
- 構音障害・嚥下障害:話したり、食べ物を飲み込んだりするのにも運動神経の命令が必要です。これらが障害されると喋りにくくなったり、むせやすくなったりします。特に嚥下障害が進行すると、誤嚥して肺炎を起こすことがあります。
- 呼吸困難:呼吸も運動神経の命令で行っています。息切れしやすくなったり、横になると息苦しくなったりします。大きく息を吸ったり吐いたりできず、大声を出せなくなります。
- 認知症:ALSでは、約20%の患者さんが認知症を合併し、進行するとその頻度は高くなります。重度の記憶力低下はまれですが、性格変化のために怒りっぽくなったり、意欲低下が起こったり、言葉数が少なくなったりします。
- ALSではみられにくい症状:全身の運動神経が障害されますが、眼球を動かす筋肉は保たれます。感覚神経は障害されないので、しびれ感や感覚低下はありません。自律神経も障害されないので、排尿障害もありません。また、皮下組織に病気の変化が起こるとされており、床ずれはできにくくなります。
- ALSの経過:病気の変化がどの神経に最初に出現するかは患者さんごとに異なるので、経過も個人差が大きいです。しかし、どの患者さんでも病気が進行すると全身の運動神経が障害され、発症から2年程度で自分の力では十分に呼吸ができなくなります。認知症を合併する場合や嚥下障害・呼吸困難で発症した場合には、予後が悪い傾向にあります。また、上肢の近位筋(肩周囲の筋肉)の筋力低下で発症した患者さんの一部には、進行が遅い例があります。
ALSの診断と検査
ALSの診断は、上位および下位運動ニューロン障害が進行性に増悪していることを確認し、似たような症状を示す疾患を除外することで診断します。これらのためにレントゲンやMRIなどの画像検査、髄液検査、神経伝導検査や針筋電図などの電気生理学的検査を行い、総合的に評価します。特に電気生理学的検査は運動ニューロン障害を直接評価することができ、最も重要な検査です。 病状の評価のために、呼吸機能検査や血液ガス検査などで呼吸筋障害の状態を確認します。嚥下障害がある場合には、嚥下造影検査などで適切な食事形態や摂取方法を評価します。また、認知症を合併する場合もあり、必要に応じて神経心理検査などを行います。
- 遺伝子診断:孤発性ALSの場合には、必ずしも遺伝子診断を行う必要がありません。しかし、遺伝性ALSや類似した症状を示す遺伝性疾患(例:球脊髄性筋萎縮症など)があり、これらを調べるために遺伝子診断を行う場合があります。これらの疾患の診断がつくことは、その後の経過を予測したり治療方針を決定したりする上で非常に大切です。それと同時に血縁者が将来発症する可能性を予測することにもつながります。そのため、遺伝子診断を行う前には、検査を受けるかどうか、検査を受ける場合には結果を知りたいかどうかなど、よく相談して同意を得た上で行います。希望があれば遺伝カウンセリングを受けていただきます。
ALSの治療とケア
現在のところ神経の減少を止める根治治療はありません。進行抑制治療がありますが、効果は限定的で、生活の質を保っていくためにはケアが不可欠です。
薬物治療
リルゾール(内服)
進行を抑える効果が認められています。しかし、呼吸機能が低下している場合には、予後をかえって悪化させることがあり、呼吸機能検査をした上で適応を判断します。
エダラボン(点滴)
病初期に進行を抑える効果が認められています。初回は2週間点滴して2週間休薬し、以後は、毎月10日間点滴します。腎機能が低下している場合などに使用できないこともあるので、血液検査などをした上で適応を判断します。
民間療法
現時点では、リルゾールとエダラボンの他には有効性が証明された治療薬はありません。さまざまな民間療法がなされている場合がありますが、医学的根拠がないものも多く、誤った使用方法により健康被害が発生する恐れもあるので、民間療法を病院から紹介することはありません。
リハビリテーション
残存機能を維持し、生活の質を保っていくためにリハビリテーションを行います。また、上肢や下肢の補助具の必要性についても評価します。過剰な運動負荷は、筋力低下をかえって悪化させることがあり、疲労が残らない範囲で行います。
ケア
コミュニケーション
構音障害が進行したり、呼吸困難から気管切開処置を行ったりすると発語ができなくなります。上肢が動かせる場合には、筆記や文字盤の指差しなどでコミュニケーションをとります。眼球運動は保たれることが多く、透明文字盤を追視することでコミュニケーションをとります。また、パソコンと視線を追跡するデバイスを用いてコミュニケーションを図る機器もありますが、高額なため、お住いの都道府県に申請して助成を受けることが望ましいです。
食事摂取
嚥下障害が進行すると、誤嚥しやすくなり、喀痰が増えたり肺炎になったりします。嚥下しやすい食事形態に変更し、喀痰が多く自力で出せない場合には吸引を行います。食事形態を工夫しても誤嚥して肺炎になる危険性が高い場合には、点滴(末梢点滴や中心静脈栄養)や経管栄養(経鼻経管栄養や胃瘻からの経腸栄養)を行います。点滴の場合には、看護師が毎日新しい点滴につなぎ替える必要があります。経管栄養の場合には、介護者の方に食事の度に経腸栄養剤を接続してもらう必要があります。経腸栄養剤は完全栄養食になっており、それのみで必要なカロリーやミネラルを摂取することができます。
呼吸補助
呼吸は酸素を吸って二酸化炭素を出しています。呼吸困難が進行すると、呼吸補助装置の力を借りなければ自力でこれらを行うことができなくなります。呼吸補助装置には、鼻や口にマスクをつけて行う非侵襲的陽圧換気と気管切開をして行う侵襲的な換気(気管切開下陽圧換気)とがあります。ALSでは呼吸補助装置を使用することで、健常者と変わらない程度にまで延命を期待できます。しかし、ALSの進行が止まるわけではなく、呼吸補助装置をつけるより前もしくはつけて数年以内に四肢筋力低下が進行して寝たきりになります。構音障害や嚥下障害も進行するため、上記のコミュニケーションや食事摂取についてもケアを受ける必要があります。進行性の疾患のため、終日呼吸補助装置をつける必要がある場合には、生涯外すことができません。そのため、呼吸補助装置を使用するかどうかは、患者本人や家族とよく相談した上で決める必要があります。
呼吸補助装置を使用しない場合には、酸素吸入などによって苦痛が十分に軽減されるように治療します。また、二酸化炭素を十分に出すことができずに血中濃度が徐々に上昇しますが、軽い麻酔作用により苦痛を和らげる効果があります。
呼吸補助装置のうち、非侵襲的陽圧換気は、鼻や口にマスクを装着することで気管切開をすることなく非侵襲的に人工呼吸器を使用できます。しかし、呼吸筋麻痺が重度になると呼吸を十分に補助することができなくなるため、自発呼吸がない場合には、使用は禁忌とされています。また、誤嚥があり咳で十分に排出できない場合にも、使用しないほうが良いとされています。ALSでは一般的に進行が早く、自発呼吸がなくなったり誤嚥が生じたりして、非侵襲的陽圧換気を安全に使用できる期間は限られます。非侵襲的陽圧換気を使用するかどうかは、気管切開下陽圧換気を行うかどうかを十分に考えた上で決めることが望ましいです。また、いずれの呼吸補助装置を使用する場合でも、コミュニケーションや栄養摂取法、日中・夜間の喀痰吸引や体位変換、緊急時の対応など、本人・家族のみならず在宅支援体制の構築が不可欠です。あらかじめ往診医や訪問看護師、ヘルパーなど多職種での連携を密にとっておく必要があります。
呼吸補助装置を使用しない場合には、酸素吸入などによって苦痛が十分に軽減されるように治療します。また、二酸化炭素を十分に出すことができずに血中濃度が徐々に上昇しますが、軽い麻酔作用により苦痛を和らげる効果があります。
呼吸補助装置のうち、非侵襲的陽圧換気は、鼻や口にマスクを装着することで気管切開をすることなく非侵襲的に人工呼吸器を使用できます。しかし、呼吸筋麻痺が重度になると呼吸を十分に補助することができなくなるため、自発呼吸がない場合には、使用は禁忌とされています。また、誤嚥があり咳で十分に排出できない場合にも、使用しないほうが良いとされています。ALSでは一般的に進行が早く、自発呼吸がなくなったり誤嚥が生じたりして、非侵襲的陽圧換気を安全に使用できる期間は限られます。非侵襲的陽圧換気を使用するかどうかは、気管切開下陽圧換気を行うかどうかを十分に考えた上で決めることが望ましいです。また、いずれの呼吸補助装置を使用する場合でも、コミュニケーションや栄養摂取法、日中・夜間の喀痰吸引や体位変換、緊急時の対応など、本人・家族のみならず在宅支援体制の構築が不可欠です。あらかじめ往診医や訪問看護師、ヘルパーなど多職種での連携を密にとっておく必要があります。
疼痛の緩和
ALSではしばしば疼痛が生じ、特に進行期には動けないことや圧迫に伴う耐え難い痛みを経験します。体位変換やマッサージのほか、消炎鎮痛薬を使用します。程度が強い場合には、モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬を使用します。