レビー小体型認知症(DLB)
どのような病気ですか?
DLBは、認知症の約10−30%を占め、アルツハイマー型認知症(AD)についで2番目に多い認知症です。大脳皮質、扁桃体、マイネルト基底核、黒質、青斑核、縫線核、迷走神経背側核などの中枢神経系の一部や自律神経系に、レビー小体という異常なタンパク質が出現しますが、認知症以外にもさまざまな症状がみられます。主な症状としては、ぼんやりとしている時としていない時がある(認知機能の変動)、見えないはずのものが見える(幻視)、動きが遅く筋肉が固くなるといったもの(パーキンソン症状)があります。
どのような症状が特徴ですか?
- 認知機能障害:「物分かりがよく意識がはっきりしている時と、反応が乏しくぼんやりとしている時がある」といったように、認知機能が変動することが特徴です。この変動は、数分から数時間続きますが、ときには数週~数ヶ月におよぶこともあります。アルツハイマー型認知症(AD)では、病初期から新しい事実や出来事を覚えることができないといった記憶障害が目立ちますが、DLBでは記憶障害の程度は軽度です。
- 幻覚:幻覚の中で、幻視が最も多くみられます(60−70%)。幻視とは、他人には見えないもの(人、動物、虫など)が見えるという症状であり、「自分の部屋に黒い服を着た人が立って、じっと自分を見ている」など、具体的な内容であることが多いです。患者さんは、それを幻視であると分かっていることもあれば、幻視であると全く分かっていないこともあります。また「壁の模様が人の顔に見える」、「小さなごみが虫に見える」など、実際に存在するものがそのものとは異なったように見える錯視という症状もあります。その他に、他人には聞こえない音が聞こえるといった幻聴(6.2%)があります。
- パーキンソン症状:手足の振るえ(振戦)、手足の筋肉が固くなる(筋強剛)、動作が遅くなる(動作緩慢)、体のバランスをくずして転倒しやすい(姿勢反射障害)など、パーキンソン病と同じ症状がみられます。また進行すると嚥下障害がみられ、誤嚥性肺炎を来します。
- レム睡眠行動異常症(RBD):人の眠りには、深い眠りの「ノンレム睡眠」と浅い眠りの「レム睡眠」があります。RBDは、レム睡眠中に、なまなましい夢や怖い夢を見てしまい、睡眠中に誰かと声を出して話す、大声を出す、腕や足を動かすなど、夢の中と同じ動きをします。そのため患者さん自身がケガをしたり、隣で寝ている人にケガをさせてしまったりすることがあります。
- 自律神経症状:便秘、トイレに行ってもまたすぐに行きたくなり尿回数が増える(頻尿)、急におしっこがしたくなり我慢できずにもらしてしまいそうになる(尿意切迫)、排尿後も尿が残っている感じがある(残尿感)、尿が漏れる(尿失禁)といった症状がみられます。また起立時の立ちくらみ(起立性低血圧)がみられます。これは、立ち上がった際に血圧が急激に下がることで脳への血流が減少し、めまいや失神(意識を失ってしまう)が起こります。失神は、ひどく転倒して大きな怪我につながるため注意が必要です。
- 前駆症状:認知機能障害が出現する何年も前から、次のような様々な症状が先立ってみられることが知られています。においが判りにくい(嗅覚の低下)、うつ、RBD、自律神経症状(便秘や起立性低血圧)があります。
どのような検査が病気の診断には必要ですか?
神経心理検査
認知機能の評価を行います。スクリーニング検査として、国際的に広く用いられるMini-Mental State Examination(ミニ-メンタル ステート検査)が行われます。アルツハイマー型認知症では、病初期から記憶障害がみられますが、DLBでは、記憶障害に比べ、構成障害、視覚認知障害、注意障害、遂行機能障害が目立ち、錯綜図課題やTrail Making Test(トレイル メーキング テスト)などをスクリーニング検査に加えます。また、DLBでは、幻視、錯視といった症状が特徴的です。特に、壁のしみ、木目、雲などが、人の顔や動物に見えるような錯視を、パレイドリアと呼びます。パレイドリアテストでは、風景画像の中に見えないはずの人の顔や動物などの錯視が見えるかどうかを検査します。
画像検査
脳MRI
脳MRIでは、大脳全体の軽度の萎縮がないかを確認します。アルツハイマー型認知症と比べ、海馬や扁桃体の萎縮の程度は軽く、その他の認知症をきたす病気との鑑別に有用です。
MIBG心筋シンチグラフィー
心臓の動きは、交感神経と副交感神経により調整されています。この検査では、123I-MIBGという薬剤を注射し、薬剤が心臓に集まる(集積する)程度を評価することで、心臓に分布する交感神経の機能を調べる検査です。DLBでは交感神経が障害され心臓への薬剤の集積が低下するため、病気の診断に用いられます。
ダットスキャン検査
この検査では、ダットスキャンⓇという薬剤を注射し、脳内の線条体に集まる(集積する)程度を評価することにより、ドパミン神経の変性・脱落を評価する検査です。DLB、パーキンソン病、パーキンソン症候群では、ドパミン神経が変性・脱落するため、薬剤の線条体への集積は低下します。
脳血流シンチグラフィー
この検査では、123I-IMPという薬剤を注射し、脳の血流を評価する検査です。脳の血流の異常は、その部位の脳の機能の異常を意味します。DLBでは、後頭葉の血流低下がみられます。
脳波検査
DLBでは、後頭部の徐波化が特徴的ですが、その他に前頭部優位の徐波群発や、側頭葉の一過性の鋭波混入を認めることがあります。
血液検査
認知症を来しうるその他の疾患(ビタミン欠乏症、甲状腺機能低下症、橋本脳症、血糖異常、電解質異常、肝性脳症、尿毒症、感染症など)を除外するために、血液検査を行います。血算、一般生化学検査に加えて、ビタミンB1・B12、葉酸、甲状腺ホルモン、アンモニア、梅毒血清反応(TPHA、RPR)などで確認します。
どのような治療がありますか?
多彩な症状に対して、対症的に早期から治療介入を行うことが重要です。現時点で根本的な治療法はありません。
- 認知機能と幻覚:アルツハイマー型認知症の治療で使われる「ドネペジル」や「リバスチグミン」が、DLBの認知機能と幻覚、妄想といった症状に対して有効であることが示されています。副作用として、嘔気、嘔吐、食欲不振等がみられることがあるので、飲み始めるときは少ない量からの投与が行われます。
また、幻覚や妄想に対しては、非定型抗精神病薬である「クエチアピン」や「オランザピン」が有効です。症状が緩和される必要最少量の使用にとどめ、パーキンソン症状の悪化、過鎮静、ふらつき、転倒などが出現しないかについて注意が必要です。
日常のケアでは、幻覚、妄想がみられても、いきなり否定するのではなく、いったん訴えを聞くことで安心感を与えてあげるのが大切です。 - パーキンソン症状:パーキンソン病の治療で使われる「レボドパ」が、DLBのパーキンソン症状に対しても有効です。「レボドパ」は、抗パーキンソン病薬の中でも、幻覚や妄想等の精神症状が起こりにくい薬剤ですが、まれに精神症状を悪化させることがあるため、治療は少量から開始し、増量する場合も必要最少量にとどめます。その他の抗パーキンソン病薬のうち、ドパミンアゴニストや抗コリン薬は、幻覚などの精神症状を悪化させるため、一般に使用されません。
理学療法(ストレッチ、筋力強化、バランス訓練、運動プログラムなど)は、歩行速度やバランスを改善させ、転倒も少なくします。しかし、DLBでは認知機能の変動があるため、反応が悪い時間を避けて、認知機能の比較的良い時間帯にリハビリテーションを行うなどの工夫が必要です。 - レム睡眠行動異常症(RBD):「クロナゼパム」が、RBDに対して効果が示されています。鎮静作用を有するため、早朝の過鎮静、ふらつき、転倒に注意が必要ですが、一般的には投与量の調整により続けることが出来ます。
- 便秘:緩下剤、消化管運動改善薬「モサプリド」「ドンペリドン」が使用されます。食物繊維を豊富に含む食事(野菜類、いも、豆類、キノコ類、パン等)をとることも有効です。
- 起立性低血圧:弾性ストッキングを着用することで血圧上昇効果が期待できます。その他、血圧を上げる作用をもつ、「ドロキシドパ」、「ミトドリン」、「フルドロコルチゾン」などが使われます。座位から立ち上がる際には、ゆっくりと立ち上がるように指導します。眼前暗黒感がみられた場合には、しゃがみこむ、横になるなどの対応をとることで失神が予防できます。脱水症は、血圧をより低下させてしまうため、普段からの水分摂取を促したり、汗をかきすぎないように室温を調整したりします。