リウマチってどんな病気?(平成27年10月17日市民公開講座 講演概要)このページを印刷する - リウマチってどんな病気?(平成27年10月17日市民公開講座 講演概要)

151017 関節リウマチのすべて-診断から最新の治療まで-

宇多野病院リウマチ膠原病内科の柳田英寿です。
当院のHPは更新されることがなく、あまりにも長い時間が経過してしまいました。
これは、ひとえに私の怠慢に帰するものではありますが、あえて言い訳をさせていただけるのであれば、あまりにも関節リウマチ治療の進歩が速過ぎて、どこでまとめたらよいのか判断に迷っていたということもあります。
今回、当院主催の講演会を行うに当たって、当日は時間の制限もあってお話できなかった内容も含めて、ここに記載させていただこうと思います。スライドに示した図については、とくに世界中からの研究成果については著作権の問題もあり、ここに掲載できないのが残念ですが、読んでいただきましたら、内容は理解していただけるものと思います。
前置きはこのくらいにして、早速始めさせていただきましょう。

本日は、お忙しい中をお集まりいただきまして、誠に有難うございます。
ここにお集まりの方々は、ご本人、ご家族などがリウマチにかかっていらっしゃる方、そしてリウマチの治療を受けていらっしゃる方が多いと思われます。
関節リウマチの診療は、この十数年でめざましい進歩を遂げました。それでも、まだまだ、治療がうまくいっていない患者さんもいらっしゃいます。
治療がうまくいっていれば、それほど喜ばしいことはありません。もし、うまくいってなければ、何かもっとできることはないか、と考えていらっしゃることでしょう。本日は、治療がうまくいっている人、うまくいっていない人を含めて、お役にたてる情報を提供したいと考えています。
 

治療がうまくいっていない、とはどういうことか?

今、治療がうまくいっていないといいましたが、いったい、治療がうまくいっていないとはどういうことなのでしょう?その尺度となるのは、どのようなことなのでしょうか?
 

リウマチの進行は3階建て

関節リウマチは、①炎症(痛みや腫れ)、②関節の破壊、③関節の機能障害、という3階建ての構造で患者さんの生活を脅かしていきます。
そこで、具体的な日々の治療の目標としては、この3階建ての基礎となる、1階部分の炎症(痛みや腫れ)を抑え込むことになります。
 

2階以上に影響が及ばないように、1階の炎症を抑えこむ、新寛解基準

では、どこまで炎症を抑え込んだらよいのでしょうか?当然のこととして、その一つ上の2階の「関節の破壊」が進まないところまで抑え込むということになります。
その条件が2011年の新寛解基準です。①圧さえて痛い関節の数が1個以下、②腫れている関節の数が1個以下、③最悪を10とした場合に、現在の状態を患者さん本人が評価して1以下、④血液検査でCRPの値が1以下、というものです。可能な限り、このレベルまでに炎症を抑え込むのが、我々の目標です。
ただし、すでに発症してから長い時間が経過し、関節の変形もある方、ご高齢で治療のリスクのある方などでは、目標はもっと緩やかなものになります。①~④の数が3以下くらいでしょうか。
 

治療目標達成を阻むものは?

しかし、すべての患者さんがこの目標を達成できているわけではありません。達成をはばんでいる原因はどのようなことにあるのでしょうか?
治療がうまくいっていない原因をおおづかみに考えると、以下のようになります。

①痛みや不具合の原因が、関節リウマチではなく、紛らわしい他の疾患によるものである
②関節リウマチによる痛みや不具合ではあるが、薬物治療でなく、外科手術や理学療法のほうが有効
③薬物治療の強度が不十分
それぞれにつきまして、説明させていただこうと思います。

①痛みや不具合の原因が、関節リウマチではなく、紛らわしい他の疾患によるものである
実際のところ、関節リウマチの診断は、なかなか難しいもので、かくいう私も、100%の自信があるわけではありません。といっても、これは私が不勉強なわけではなく、関節リウマチの特徴を全て備えた、他の病気がいくらでもあるからです。
 

実は複雑な、関節リウマチの診断

関節リウマチの診断は、実際には、どのようにしてなされているのでしょうか。
まずは、他の関節の病気を除外することから始まります。
これは、日本リウマチ学会が示した鑑別対象となる病気の一覧表です。本日は、これをいちいちは説明しませんが、けっこう数が多いということを認識していただければと思います。これらを区別していく糸口になる所見としては、発熱の程度(リウマチでは、38度を超える高熱はあまりありません)、手や顔の状態(血流の状態、硬さ、腫れかた、発疹の性状)などが挙げられます。
 

関節リウマチの分類基準

これらの疾患の可能性が否定的であると判断したら、4つのポイントから、関節リウマチを確定していきます。
その4つのポイントとは、①関節の炎症の分布(本来は腫れや、圧痛があるかで判断します。ただし、関節の炎症の有無がわかりにくいときには、実際の現場では超音波エコーやMRIを参考にすることもあります)、②抗CCP抗体、リウマトイド因子という自己抗体の有無とその値、③関節の炎症の持続期間が6週以上か、④CRPや血沈という炎症があるときに上昇する血液検査の項目、で、これらの合計が6点以上になると関節リウマチと診断され、後述するメトトレキサートで治療を開始しなさい、ということになります。
このなかでは、やはり関節の炎症の分布が最も重視されていて、6点以上が関節リウマチという中で、最大5点、そのつぎに抗CCP抗体やリウマトイド因子に最大3点があてられています。症状の持続期間や、CRP/血沈には最大で1点しかあてられておらず、抗CCP抗体やリウマトイド因子を重視した診断基準といえます。
 

抗CCP抗体とは?

ここで、抗CCP抗体の意義について触れてみたいと思います。
抗CCP抗体は、関節リウマチの患者さんの7~8割で陽性になります。リウマチの関節症状が出てくる数年以上前から陽性になることもあります。
ただし、他の関節の病気で陽性にならないわけではなく、ここにお示ししますように、全身性エリテマトーデスのような他の膠原病でも陽性になることがあります。抗CCP抗体が陽性のエリテマトーデスでは、関節症状が出ることが多いことが知られており、関節リウマチと紛らわしい場合もあります。しかし、極端なことを言えば、治療のやり方はほぼ同じですので、後になってエリテマトーデスと判明しても、患者さんのデメリットは少ないと考えられます。
 

診断が紛らわしくなく、なおかつ治療が異なる、変形性関節症と線維筋痛症

問題となるのは、関節リウマチと紛らわしくて、なおかつ治療のやり方が違ってくる病気です。代表として2つの病気を挙げます。一つは変形性関節症、もう一つは線維筋痛症です。
変形性関節症は、新聞やテレビの広告でもおなじみの、年齢と共に軟骨が減る病気です。いわゆる手指の「第一関節」や膝関節などの痛みがでてきます。これについては、ヒアルロン酸の関節内注入や、症状が強いときに消炎鎮痛剤を内服、筋力維持・増強のための理学療法で対応します。いわゆる抗リウマチ薬は効果がありません。
線維筋痛症はストレスなどで、全身の筋肉の緊張度の調節がうまくいかなくなってしまい、異常にこわばってしまう病気です。自律神経失調症状を合併することがほとんどです。あちこちの筋肉の強い痛みで生活も困難になります。これに対しては、神経痛の薬リリカや、抗うつ剤でもあるサインバルタなどで、痛みを和らげていきます。

リウマチにかかっているからといって、体の痛みや不具合が、すべてリウマチによるものとは限りません。他の整形外科的な病気による痛みもかなりあります。骨粗しょう症も大きな問題ですが、これは大きなテーマですので、本日のお話では割愛させていただきます。
 

②関節リウマチによる痛みや不具合ではあるが、薬物治療でなく、外科手術や理学療法の方が有効

リウマチの進行が食い止められずに、残念ながら関節の破壊が進んでしまうと、いろいろな痛みや不具合が生じることがあります。以下のような状況では、薬物治療よりも外科的手術のほうが有用です。

#1:骨を保護している軟骨が壊されていけば、クッション効果が減少して機械的な痛みが誘発されたり、関節が十分に動かなくなったりすることがあります。
#2:骨と骨をつないでいる、靭帯という紐状の組織が壊されていけば、関節の固定性が悪くなって、ものを支えられないようになります。
#3:骨と筋肉をつないでいる腱が壊されていけば、指が動かなくなってしまうことがあります。ひどいときには、腱が切れてしまうこともあります。とくに腱断裂が起こりやすいのは、手の背中側の小指と薬指です。
#4:骨の変形のしかたによっては、神経を圧迫して、しびれや痛みが生じることがあります。首の頸椎が代表的で、手のしびれや痛みという形であらわれます。
 

③薬物治療の強度が不十分な場合

さあ、いよいよリウマチの薬物治療の説明に入っていきます。
まず初めに、リウマチの治療の基本をおさらいしてみましょう。
最初にお話ししましたように、生活を守るためには、関節の機能を守る、そしてそのためには関節破壊の進行を抑える、そしてそのためには、痛みや腫れといった関節の炎症を抑え込むという3階建ての構造が、治療の考え方です。
その抑え込む程度としては、このような寛解という基準を目標にするとも申し上げました。リウマチに長期にわたって罹患していて、不幸なことにすでに関節が変形している方や高齢の方の場合には、もう少し緩やかな低活動性という目標がたてられます。
 

T2T(Treat to Target):治療目標が達成されなければ、3カ月ごとに治療を変更し、速やかな目標達成を実現する治療戦略

これらの治療目標達成に向けて、どのようなやり方で治療が行われるかを、より具体的にご紹介しましょう。
目標が達成できるまでは、最低でも1か月ごとにリウマチの活動性を評価して、目標が達成できそうになかったら、3か月ごとに治療を切り替えていきます。3か月という設定の根拠は、一つの治療薬の有効性を十分に確認するのには、そのくらいの時間が必要だからです。
ひとたび、治療目標が達成されたら、もっと間隔をあけて評価をし(6ヶ月くらいごと)、治療を調整し、長期にわたって炎症の抑制を維持し、関節を守っていくことになります。
このような治療戦略をとる目的は、可能な限り速やかに目標を達成して、関節が壊れてしまうのを可能な限り最低限にとどめることにあります。
 

関節リウマチの治療薬

さて、このように治療目標を達成するためには、治療薬を効果的に使うことが必要になってきます。現在使用できるリウマチの治療薬は、以下の4種類に分けられます。

#1:合成抗リウマチ薬(従来型)
商品名でいいますと、リウマトレックス(メトトレキサート)、アザルフィジンEN、リマチル、プログラフ、アラバ、シオゾール、ケアラムです。
#2:合成抗リウマチ薬(標的限定型)
ゼルヤンツ
#3:生物学的製剤(先発品)
レミケード、エンブレル、ヒュミラ、シンポニー、シムジア(以上はTNF阻害薬)
アクテムラ(IL-6阻害薬)、オレンシア(T細胞共刺激阻害薬)
#4:生物学的製剤(後発品)
インフリキシマブBS(レミケードの後発品)
 

基本となるのはメトトレキサート

診断がついたら、まずは従来型抗リウマチ薬で最も有効なメトトレキサートを使用します。
メトトレキサートの利点は以下のようなものがあります。

#1:炎症抑制効果が高い
#2:従来型抗リウマチ薬の中では、関節破壊抑制効果が高い
#3:安価
#4:生物学的製剤(とくにTNF阻害薬)との相加効果がある
メトトレキサートが使えない場合は
メトトレキサートが使えない場合は、他の従来型合成抗リウマチ薬を使用します。
これらの薬も十分に有用なのですが、メトトレキサートに比べると関節破壊が進行しやすく、より厳格に炎症を抑制していく必要があります。
実は、さきほどからお示ししている治療目標「寛解」は、メトトレキサートを使っている場合に、治療の2階部分の関節破壊が進行しないという条件を設定したものです。メトトレキサート以外の薬剤を使っているときには、1階部分の炎症をどの程度抑え込めばよいのか、厳密にはわかっていません。ですから、メトトレキサートが使えない場合は、治療目標が達成できそうになければ、後で述べる生物学的製剤の導入を、より積極的に考える必要があります。
 

メトトレキサートの限界

メトトレキサートといえども万能ではありません。治療の2階部分の関節破壊の進行抑制という点で見ますと、ここに示しましたように、約半数の方は進行してしまうことになります。
そのように関節破壊が進行してしまう患者さんの特徴は、すでに明らかになっています。ここにお示ししましたように、①関節の炎症の勢いが強い、②抗CCP抗体やリウマトイド因子が陽性(両者が陽性ならばより高リスク)、③治療開始時点ですでに関節の破壊がある場合です。
このような場合には、メトトレキサート導入後3~6か月の時点で、さらに強力な効果を持つ生物学的製剤を導入します。あるいは、わが国であれば、最初からヒュミラやシムジアという生物学的製剤を導入することも可能です。
 

生物学的製剤の利点:関節破壊抑制効果

生物学的製剤は、関節リウマチにとって重要な、特定の物質や分子に結合して、ピンポイントに作用して、炎症を抑制し、関節破壊の進行を抑制する薬剤です。
生物学的製剤は、炎症を抑える効果が高いだけではなく、たとえ、1階部分の炎症を十分に抑え込めなくても、2階部分の関節破壊をある程度直接に抑制できるという利点があります。それは、関節の骨を削る「破骨細胞」を直接に抑える作用があるからです。
メトトレキサート単独治療と、TNF阻害薬ヒュミラとメトトレキサートの併用療法での、関節破壊を防止する効果を比較してみましょう。
これはヒュミラのOPTIMAというStudyからとったものですが、メトトレキサート単独で治療している間の6ヶ月間は、関節の破壊が進行してしまっているのが、ヒュミラを追加したあとでは、ほとんど進行しなくなっているのがわかります。
 

生物学的製剤の種類

現在わが国で使用できる生物学的製剤には、このように7種類あります。
TNFというサイトカインを抑制する薬剤が5種類、IL-6というサイトカインを抑制する薬剤が1種類、細胞表面のCD80/86という分子を抑制する(T細胞共刺激分子阻害薬)オレンシアです。
この他にバイオシミラーといわれるTNF阻害薬レミケードの後発品1種類があります。
これらの薬剤は、一般的にはメトトレキサートで3~6か月で目標を達成できなそうなときに導入されますが、さきほどのように、病気の活動性が高くて、メトトレキサート単独ではとてもおさまりきらないと予測される場合には、最初からメトトレキサートと生物学的製剤を併用することも可能です。日本の保険診療では、TNFを阻害する生物学的製剤のうちのヒュミラとシムジアに、治療開始時点からの使用が認められています。
この根拠として、さきほどもお示しした図ですが、メトトレキサート単独での治療では、これだけの関節破壊進行がありますが、最初からメトトレキサートとヒュミラを併用した場合には、わずかな進行にとどまっていることが見て取れます。わが国でのHOPEFUL 1というStudyでは、メトトレキサート単独で治療したグループでは、最初の6ヶ月の間に意味あるレベル以上に関節破壊が進行してしまった患者さんが37.3%いたところを、ヒュミラ併用で治療したグループでは14.0%に抑えられています。
 

新たな選択肢、ゼルヤンツは内服薬だが生物学的製剤と同等の効果

メトトレキサートの効果が不十分なときには、生物学的製剤追加と申しましたが、2年前から、新たな選択肢、ゼルヤンツが登場しています。まだ、皆様にもなじみの薄い薬剤だと思われますので、少し説明させていただきます。
ゼルヤンツの適応は、メトトレキサートで効果不十分である関節リウマチです。ゼルヤンツの一番の特徴は、内服薬であるということです。いずれも注射製剤である生物学的製剤に比べて、ゼルヤンツは、はるかに簡便に使用できます。
しかし、いかに簡便に使用できるとしても、効果が不十分であったら意味はありません。ここに示しましたように、メトトレキサートによる治療で効果不十分であった人にゼルヤンツを追加しますと、1週間目から明らかな改善効果がみられています。
生物学的製剤との効果の比較はどうでしょうか?ここに示しましたように、TNF阻害薬のヒュミラと比べても同等の効果をあらわしています。TNF阻害薬の治療で効果不十分の場合でも、一定の改善効果が報告されており、生物学的製剤と並んで、これからの関節リウマチ治療の中核となっていく薬剤です。
 

生物学的製剤の選び方

生物学的製剤7剤(バイオシミラーを入れれば8剤)をどのように選んでいったらいいのでしょうか。
これは難しい問題です。この質問に適切に答えられる人はいません。各国の治療ガイドラインではどのようになっているのでしょうか。
わが国の治療ガイドラインも参考にした、権威あるヨーロッパリウマチ協会(EULAR)のガイドラインを見てみますと、いずれの生物学的製剤でもかまわない、主治医と患者さんの選択だ、ということになっていますが、メトトレキサートを併用できない場合には、アクテムラがよいのでは、となっています。
たしかに、メトトレキサートが併用できない条件下では、アクテムラの関節炎症抑制効果はヒュミラに勝ったという報告があります(この報告では、関節破壊抑制効果は評価されておらず、この点では未知数です)。
生物学的製剤の効果を評価するためには、①単独で使った場合の効果と、②メトトレキサートなどと併用した場合の効果とを分けて考えたほうがよいでしょう。メトトレキサートはいずれの生物学的製剤の効果をも高める作用がありますが、その高める程度には、個々の製剤間で差があるからです。TNF阻害薬、アクテムラ、オレンシアの間での比較から入っていきます。
ここでくれぐれも念を押しておきたいのは、これから述べる話は、集団レベルの話であって、個々の患者さんにそのまま適用できるものではなく、現実は反対の結果になることがよくあるということです。効果を予測するうえでの一つの目安であって、これらの結果が普遍的に適用できるのであれば、われわれリウマチ科医のストレスはもっと少ないものになっているでしょう。せっかく高価な薬剤を使うのですから、効いて欲しいと思う気持ちは、われわれも同様なのですから。
 

メトトレキサートを併用しない、単剤での効果がTNF阻害薬より高いアクテムラ

単剤で使った場合の効果は、アクテムラはTNF阻害薬ヒュミラより関節炎症抑制効果が高いことが報告されています。そのため、メトトレキサートが使用できない患者さんでは、アクテムラの優先度は高いものになっています。

メトトレキサートを使用しない場合に、オレンシアとTNF阻害薬の効果を比較した報告はまだありません。メトトレキサートが使用できない患者さんの治療で、オレンシアが、アクテムラとTNF阻害薬の間で、どのような立ち位置にあるかは、まだ不明です。

ちなみに、TNF阻害薬の間でも、その効果がメトトレキサートにどれだけ依存するかは、ばらつきがあります。レミケードは、その使用にあたって、メトトレキサート併用が必須とされています。ヒュミラは単独でも使えるのですが、これから述べますように、メトトレキサートを併用してこそ、効果が高まる薬剤です。また、ヒュミラは、メトトレキサートを併用しないと、「抗体」が出現して、効果が弱くなりがちです。これに比べると、エンブレルは、メトトレキサートへの依存性が少ないようにみえます。シンポニーは、通常の倍量の100mg使用時には、メトトレキサートの併用不要と保険承認されています。シムジアは通常量でも、メトトレキサートの併用なしで使用することができます。
ただし、いずれのTNF阻害薬でも、たとえシムジア、シンポニーであっても、メトトレキサートを併用したほうが、その効果が高まることが示されています。
 

メトトレキサートとの相加効果のあるTNF阻害薬

メトトレキサートが併用可能な場合には、TNF阻害薬の存在感が俄然増してきます。
生物学的製剤におけるメトトレキサートの上乗せ効果については、ヒュミラでの解析が最も進んでいます。ここに示しましたように、併用するメトトレキサートの量が多いほど、ヒュミラでリウマチの活動性が低活動性以下になった人の割合が高いことが報告されています。このStudyは海外のものですので、体の大きさや代謝の違いを勘案しますと、日本人だったら、8~10㎎以上、つまり4~5カプセル以上のMTXを使っていたら、十分にヒュミラの効果が引き出せるものと思われます。
ちなみに、単剤でヒュミラに勝ったアクテムラは、MTXの上乗せ効果があまりないという特徴があります。これからしますと、メトトレキサートが十分に併用できるときは、ヒュミラとアクテムラの効果は同様かもしれません。メトトレキサートを十分量併用した場合での、アクテムラとTNF阻害薬の効果を比較した報告は、まだありません。

それでは、オレンシアとTNF阻害薬の効果の比較はどうでしょうか?ここに示しましたように、メトトレキサートを十分量併用した場合は、ヒュミラとオレンシアの臨床効果、関節破壊抑制効果は同等だということが報告されています。

まとめますと、メトトレキサートを十分量併用したときは、TNF阻害薬でも、アクテムラでも、オレンシアでも、効果はほぼ同等ではないか、ということになりそうです。
 

TNF阻害薬5剤のそれぞれの特徴

それでは、TNF阻害薬5剤の中での比較に移っていきましょう。ここからの話は、さらにあいまいなものになります。以下の話は、私の個人的な印象にとどまると思って、聴いてください。
メトトレキサートへの依存度については、さきほど触れましたので、ここではそれ以外について、お話します。
 

効果発現の早さは、レミケード、シムジア

両者とも有効血中濃度に一週間以内に達し、これは他のTNF阻害薬や、アクテムラよりも早いものになっています。ここにお示ししたのはシムジアのデータですが、血中濃度が速やかに立ち上がり、それを反映してか、メトトレキサート単独での治療とは、1週間で効果に差が認められています。
 

増量が可能なのは、レミケード、シンポニー

炎症を抑える効果が不十分なときに、これらの薬剤をタイミングよく増量すると、さらなる効果が得られる場合があります。
また、炎症の勢いの強い人では通常に設定された量では足りないだろうとの想定のもとで、増量を前提して、あるいはシンポニーのように最初から通常の2倍量を使っていくという方法もあります。この場合、ずっと増量したままではなく、炎症が落ち着いてきたら(患者さんの体内のTNFの量が減ってきたら)、通常量に減量します。
ヒュミラも増量可能なのですが、増量した場合には保険診療の制約上、メトトレキサートを併用できないので、せっかくのヒュミラの持ち味、メトトレキサートとの相加効果を殺した使い方になってしまいます。
 

継続率の高いのは、エンブレル

継続率というのは、効果が長く続くということと、長期間安全に使えるということの両者があいまって決まってくるものです。
生物学的製剤は、通常の内服薬よりも大きく、複雑で、われわれの免疫システムの注意を引きやすい構造になっています。このために、生物学的製剤に対する「抗体」ができることがあります。「抗体」ができると、生物学的製剤の作用を邪魔して治療効果を落としてしまったり、アレルギー反応などの副作用を起こしやすくなったり、ひいては治療の中止につながってしまうことがあります。
原則として、後になって承認された薬剤ほど、製造技術が進んだため、「抗体」ができにくいという傾向があります。ちなみに、わが国でのTNF阻害薬の承認の順番は、レミケード、エンブレル、ヒュミラ、シンポニー、シムジアです。エンブレルは、例外的に、「抗体」ができても作用の支障をきたしにくいという特徴があり、継続率の良好な理由の一つとなっています。
TNF阻害薬の話からはずれますが、アクテムラやオレンシアも「抗体」ができにくい製剤です。とくにオレンシアは生物学的製剤の中で最も抗体ができにくい製剤といえるかもしれません。アクテムラも継続率の高い薬剤といわれています。
 

エンブレルの治療標的の微妙な違い

エンブレルは、TNFグループの代表であるTNFαを阻害するだけでなく、類縁のリンフォトキシンαを阻害する作用も持ちます。そのため、理論的にはやや広い守備範囲を持っている可能性があります。実際の治療の場ではそれほどクリアカットにいきませんが、他のTNF阻害薬が効果不十分の時にエンブレルの継続率が高かったとの報告もあります。
 

生物学的製剤-価格面での比較

生物学的製剤の欠点の一つが、その価格が高額であるということです。そのために、経済的な問題から、必要な患者さんに使えなかったり、なかなか導入に踏み切れず、すでに関節が壊れてしまい、機能の点でも障害が生じてしまってから、やっと導入されたりなど、様々の問題が生じています。
ここでは、生物学的製剤の価格面での比較をしてみましょう。
減量して投与されることが一番多い生物学的製剤は、エンブレルです。実は承認前の我が国の試験で、1週間に50㎎(25㎎2回)と20㎎(10㎎2回)とで、炎症を抑える効果は差がありませんでした。エンブレルは、体内での濃度が低くなっても中和する「抗体」ができにくいこともあって、推奨使用量の半分の週25㎎で使用されることがよくあります。これだと3割負担で、月に約1万8千円で、最安値になります。
ただし、炎症を抑える効果に差はなくても、2階部分の関節破壊を抑制する効果は、やはり推奨用量の週25㎎には劣ります。エンブレル半量投与は、①経済的な問題をクリアできない、②高齢など強い治療を行うにはリスクがある、③もともと週50㎎使っていたが症状のない状態が半年以上続いている、というような限定された場合にとどめるべきでしょう。

そのつぎに価格面で魅力があるのは、アクテムラ皮下注です。エンブレル半量と違って、これは通常用量なので、これで3割負担で月2万3千円は魅力があります。
ただし、アクテムラ皮下注は、体重別に投与量を調節するアクテムラ点滴に比べて、固定された投与量ですので、体重が重い人(60㎏くらいが分かれ目ではないかといわれています)では、点滴の方が有用かもしれません。
ちなみに、アクテムラ点滴であっても、60㎏を超えた人でも3割負担で月3万円以下の多と比較して低い負担ですみます。

そのつぎに価格が安いのはオレンシアです。オレンシアもアクテムラと同じように皮下注射と点滴製剤とがありますが、オレンシアはアクテムラほど細かい体重調整ではないので、体重60㎏未満の人では、両者の価格は一致します。3割負担で月3万2千円です。

その他の生物学的製剤、いずれもTNF阻害薬ですが、どれも3割負担で月4万円程度で、大きな差はありません。もちろん、増量可能な製剤、レミケードやシンポニーでは、増量すればより高額の負担となります。

生物学的製剤の後発品もあります。現在はレミケードの後発品のインフリキシマブBSのみですが、今後、続々と出てきます。現時点では、インフリキシマブBSの価格はレミケードの7割程度で、アクテムラとオレンシアの中間の価格です。
 

医療費助成の活用を

ここで注意すべきなのは、現実には、それぞれの製剤の価格だけでは単純には比較できないということです。それは、高額療養費の公費扶助や、勤務先の医療費補助制度によっては、高額の治療を選んだ方が、負担限度額を超えることができるため、かえって自己負担が少なくなることがあるからです。区役所や勤務先で、一度ご相談されてはいかがでしょうか。
しかし、個人負担は減っても、社会は何らかの形で薬剤費を負担するわけですから、大赤字の国家財政を考えると、判断の微妙な問題です。ただし、関節リウマチに対する生物学的製剤の治療効果は、医療の他の分野よりも一般的に効果が高く、費用対効果が良好だという特徴があります。患者さんは働き続けて、税金・保険料を収めることも多いうえに、治療を手控えたために介護が必要になったら、その介護には莫大な費用がかかってしまうことを考えますと、各種治療費助成制度を積極的に利用して、十分な治療を受けられた方が、ご本人だけでなく社会にとってもメリットが大きいでしょう。
 

生物学的製剤の安全性

これまで、効果の面からお話してきましたが、生物学的製剤の安全性はどうなのでしょうか?薬を使うにあたって、安全性が大事なのはいうまでもありません。ここからは安全性の話をさせていただこうと思います。
 

最も注意すべきは感染症

生物学的製剤を使用するにあたって、最も注意すべきは感染症です。たとえば、ここに示しましたTNF阻害薬シンポニーの国内市販後調査の結果をみますと、最も多い副作用は感染症となっています。
 

それぞれの製剤で感染症のリスクに差はあるか?

日本リウマチ学会のHPを見ますと、各製剤で感染症をおこしやすい人の特徴が示されています。ここでは、同じような項目を同じ色で示していますが、どの製剤であっても、①高齢、②もともと肺の病気がある、③ステロイド剤を併用しているといった、リスク要因は同様であることがわかります。

ここで、区別をするとすれば、「高齢」というリスク因子が統計学的に出なかった製剤として、シンポニーとオレンシアがあります。
とくにオレンシアは、国内市販後調査においても、同様の時期に認可された製剤と比べても、感染症が少ない印象があります。この印象は海外でも同様のようで、米国リウマチ学会の治療ガイドラインでは、まだ未決定稿の段階ですが、重篤な感染症にかかったことのある患者さんの場合には、TNF阻害薬よりもオレンシアを使用したほうが適切なのではないかという記載もあります。しかし、だからといってオレンシアで感染症が起こらないわけではありません。
 

生物学的製剤のリスクは、従来治療と大きく変わるものではない

こういうふうにお話しますと、生物学的製剤というのは危険な薬剤ではないか、という印象をもたれるのではないかと思います。そこで、入院を必要とするような感染症にかかった関節リウマチ患者さんのリスク因子を調べた報告をご紹介したいと思います。これはわが国からの報告です。
これを見ますと相対危険率としては、TNF阻害薬が1.97、週10mg以上のメトトレキサートが2.14、プレドニゾロン換算で1日10mg以上のステロイドが2.49となっていて、生物学的製剤のリスクは他の治療手段と同様のレベルにとどまっていることがわかります。
 

感染症リスク軽減のために

感染症のリスクを低減させるための対応には、様々のものがあります。

①年齢や体重、栄養状態(アルブミン3.0g/dL未満)、リンパ球数(500~1000以下)などを考慮して、バクタ予防投与(ニューモシスチス肺炎予防)を行います。あるいは、これらのリスク要因が重なるときは、可能であれば生物学的製剤の導入を回避します(実際の医療現場ではこれは困難なことが多いのですが)。
②結核の既往があれば、あるいは検査で結核の既往が疑われる場合には、抗結核薬を予防投与し、9ヶ月間継続します。
③インフルエンザワクチンの接種はいずれの患者さんでもお薦めです。肺炎球菌ワクチンの接種は、高齢の方でお薦めです。
④体の調子がいい状態で、生物学的製剤を導入することが望まれます。どういうことかといいますと、たとえば、関節炎症の活動性が高いために体が弱っているときには、生物学的製剤使用下での感染症が多く、生物学的製剤を使い続けて、関節の炎症がおさまって体が元気になれば、そこからは感染症をおこす確率は減少するという報告があります。関節リウマチを発症してから早期の、体が弱っていないときに導入したほうが、生物学的製剤を安全に使用できそうです。
 

癌のリスクはどうなのか

生物学的製剤が導入された当初に、一部のマスコミから悪性リンパ腫などの癌のリスクが高まるというセンセーショナルな報道がなされました。この問題を冷静に分析しますと、①リウマチの患者さん、とくに生物学的製剤を使うような病気の勢いの強い人での癌のリスクはどうか?②従来型の抗リウマチ薬、メトトレキサートなどの癌のリスクはどうか?③そういう薬に生物学的製剤を併用して使ったときに、癌のリスクはどうか?を総合して考える必要があります。
これはわが国でのデータですが、リウマチ患者さんでは、残念ながらもともと悪性リンパ腫を発症する危険率が一般の人の約3倍であることが示されています。念のため申し上げますが、もともと、悪性リンパ腫は発症率が非常に低い疾患ですので、過度に不安になる必要はありません。そして、そのリスクは、従来型の抗リウマチ薬(とくに免疫抑制薬といわれる薬剤)で危険率3というリウマチ患者さんの平均と同様で、生物学的製剤では、かえって平均より低い0.9になっています。従来の治療に比べて、不安になる必要はなさそうです。

生物学的製剤の中には、癌の進行を抑制するといわれているものもあります。
ここで紹介するのはアクテムラの例ですが、末期の卵巣癌の患者さん18人に使用して、8人で進行を抑制できたという結果が報告されています。
 

生活上の注意

最後になりますが、生活上の注意で、何かできることはないでしょうか。
 

禁煙

そもそも、喫煙は、関節リウマチを発症させる主要なリスク要因と考えられています。それだけでなく、喫煙は治療効果を低め、間質性肺炎などの関節病変以外の関節リウマチの合併症の発症リスクを増やすとされています。報告の一例をお示ししましょう。
現在喫煙をされている方は、一刻も早く禁煙しましょう。ここで宣伝ですが、当院には禁煙外来もあります。お電話でご予約ください。
 

体重(BMI)コントロール

肥満も、治療効果に影響しそうです。ここでは、生物学的製剤の治療効果とBMIの関係をお示しします。まだ異論もあるところですが、単純に重みで下半身の関節に負担がかかって壊れやすくなるだけでなく、脂肪組織から分泌される物質が炎症を悪化させると考えられています。バランスの良い食事で、良好な体型を維持するように心がけましょう。
 

飲酒

飲酒は、関節リウマチには直接の影響はなさそうです。少しはお酒を嗜んだほうがよいという報告すらあります。ただし、ビール換算で1日500ml以上の飲酒は、骨粗しょう症を悪化させるリスクになりますので、やはり、お酒は適量にとどめておかれたほうがよいでしょう。
 

まもなく導入される薬剤

1階部分の炎症を抑えるのではなく、治療の2階部分である関節破壊の進行(骨の破壊)を直接抑える薬剤、プラリアが、間もなく関節リウマチの治療の承認を得るものとみられます。プラリアは、骨粗しょう症の薬としてすでに認可されている、半年に1回、皮下に注射する薬剤です。骨粗しょう症で骨を削っていく「破骨細胞」は、リウマチにおいても骨を壊す主要な要因ですので、これを抑えるプラリアは、関節破壊を抑制する効果があるのです。リウマチに使われる場合は、骨粗しょう症よりも短い間隔で使用されます。
これはだいぶ先の話になりそうですが、同じ骨粗しょう症の薬として開発中の抗スクレロスチン抗体なども、関節破壊抑制のために期待できる薬剤です。
 

おわりに

現在の関節リウマチの診療について、駆け足で述べてまいりました。実際の診療は、非常に複雑なもので、患者さん個々の状況を考えながら、きめ細かく行っていくものです。以上の講演を踏まえまして、この後の質問コーナーで、個別の状況について補っていこうと考えています。
どんな病気でもそうですが、良好な治療効果を得るためには、患者さんと医療関係者が良好な関係を形成し、治療に伴う様々の情報を共有していくことが何よりも大事です。本日の講演が、その一助になりましたら幸いです。ご清聴ありがとうございました。
(2015年10月17日記述)
 

補追

生物学的製剤が効果不十分のときの対応

せっかく導入した生物学的製剤の効果が不十分な場合は、どのように対応するのでしょうか。
 

まったく効果が見られない場合

このような場合は、

①増量できる薬剤は、増量する
シンポニーやレミケードでは、この対応です。増量するときはタイミングが大事で、速やかに決断することが必要です。

②投与期間を短縮できる薬剤は、短縮する
レミケードが、この対応が可能な薬剤です。
また、オレンシアの場合も、4週間隔の点滴で効果が不十分な場合に、1週間隔の皮下注射に切り替えると効果が増強することがあります。
アクテムラの場合も、4週間隔の点滴で効果が不十分な場合に、2週間隔の皮下注射に切り替えることがありますが、体重が60kgを超える人の場合は、点滴の方が有用かもしれません。これは点滴だと体重別に細やかに増量できるからです。

増量や期間短縮というのは、ずっとその投与方法を続けるのではなく、炎症が落ち着いてきたら、もとの投与方法にもどすことも、多くの場合は可能です。

効果が十分にあったのだが、鈍くなってきてしまった:効果減弱
この場合の対応は、効果減弱してきかけた早期の時点であれば、増量や期間短縮でもしのぐことができる場合があります。
そうでなければ、やはり他の生物学的製剤への切替です。
効果減弱は、その薬剤に対する「抗体」ができてしまったことによることが大半ですので、より「抗体」のできにくい薬剤に切り替えることが基本です。
この話の中でも触れましたが、原則として、後になって承認された薬剤ほど、製造技術が進んだため、「抗体」ができにくいという傾向があります。ちなみに、わが国でのTNF阻害薬の承認の順番は、レミケード、エンブレル、ヒュミラ、シンポニー、シムジアです。エンブレルは、例外的に、「抗体」ができても作用の支障をきたしにくいという特徴があります。
アクテムラやオレンシアも「抗体」ができにくい製剤です。とくにオレンシアは生物学的製剤の中で最も抗体ができにくい製剤といえるかもしれません。
また、「抗体」とは関係のない、ゼルヤンツへの切替も有効です。

この部分の話も、あくまで原則論で、現状では「やってみないとわからない」というのが正直なところです。それぞれの製剤の効果予測に関しては、精力的に研究が進められており、将来は、もっと自信をもってお話ができるときが来るはずです。