血管炎の治療:ANCA関連血管炎、リツキサン®、ヌーカラ®、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、アクテムラ®を中心にこのページを印刷する - 血管炎の治療:ANCA関連血管炎、リツキサン®、ヌーカラ®、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、アクテムラ®を中心に

はじめに

みなさん、こんにちは。お体の具合はいかがでしょうか。宇多野病院の柳田です。
もう2年前になりますが、2016年5月14日(土)に膠原病友の会の京都支部が主催した講演会で、血管炎に関するお話をさせていただきました。
2年という歳月を短いとするか、長いとするかは、個々人によって違うでしょう。ただし、血管炎の分野の進歩は急速で、当時はまだ保険で承認されていなかった薬剤が、続々と日常臨床で使えるようになっています。
また、国内外の血管炎のガイドラインも、新しいものが次々と発表されています。
本日は、これらの進歩を踏まえて、2018年8月時点での「血管炎の治療」をお話ししようと思います。
いつものようにスライド画像はありませんが、画像無しでもわかるようになっています。
さっそく始めましょう。

ひとつだけ注意事項があります。
今回のお話では今後の発展の方向性も述べているため、保険適応外の治療のことも紹介されています。
ただし、これはあくまで情報提供のためであって、保険適応外の治療をお勧めするものではありません。ご理解のほどをお願いします。

本日の話の構成

今日のお話は7つに分かれます。

1.始めは血管炎という病気の概観です。血管炎には一次性のものと二次性といって他の膠原病、あるいは他の病気に伴うものがあることや、炎症の起こる血管の太さによって分類されることなどをお話しします。

2.代表的な血管炎として、ANCA関連血管炎、この中には3種類の血管炎、①顕微鏡的多発血管炎と、②多発血管炎性肉芽腫症(昔の名前はウェゲナー肉芽腫症)、それから、③好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(昔の名前はチャーグ・シュトラウス症候群)、が含まれますけれども、これらについてお話しします。
ただし、③の好酸球性多発血管炎性肉芽腫症については、4.のヌーカラのところで詳しく述べます。

3.ANCA関連血管炎の治療薬として、Bリンパ球を標的とした治療薬であるリツキサン、これは2013年6月に保険で使えるようになりましたけれども、この薬剤についてお話します。

4.また、2018年5月にANCA関連血管炎のなかの好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の治療薬として保険で使えるようになりました、IL-5阻害薬のヌーカラについても触れさせていただきます。

5.次に、大型血管炎、若い女性に多い高安病と呼ばれる血管炎、そして高齢の男性に多い巨細胞性動脈炎、そういう大型血管炎の話をします。

6.また、大型血管炎の治療薬として2017年6月に保険で使えるようになりました、アクテムラという関節リウマチなどに使われている治療薬のお話をします。

7.それから最後に安全性の問題ですね。血管炎の診療は、感染症との闘いでもあります。
特に、B型肝炎ウイルスの再活性化については詳しくお話します。

1.血管炎の概観

「血管は様々の太さがある」

さて、まず血管ですが、血管は心臓から大動脈として出ていったあと、枝分かれをしていき、だんだん細くなって、体中に分布していきます。
ここに示しましたように、大きな血管、中ぐらいの太さの血管、それから毛細血管といわれる血管に分けられます。
この図は腎臓を拡大したものですが、腎臓に入り込むところの大型の血管から、入り込んだ後の中型の血管、さらに分かれて小さな血管、そういう様々な太さの血管によって、我々の体は養われています。

「血管に炎症が起こると」

組織が痛んだり、腫れたり、赤くなったり、熱を持ったりすることを炎症といいます。
血管に炎症が起こると、血管が狭くなって、つまってしまい、血の流れが悪くなってしまいます。
炎症によって血管の内側の組織がどんどん増えてきて血管が狭くなる、あるいは血の固まり、血栓ができて詰まってしまう、そうするとそれぞれの臓器に障害がおきてしまい、生活に悪影響を及ぼすことになります。
すべての臓器に血管は存在しますので、血管に炎症が起こる血管炎という病気では、様々の症状がでることによって、患者さんを苦しめることになります。
また、どこの血管に炎症が起きるかによって、症状の個人差が大きいことも特徴的です。

「血管炎の治療の原則」

では、それをどのようにして治療するのかといいますと、

①血管の炎症に対しては免疫反応を抑制し、炎症を抑制することになります。

②血流が悪くなっているところに関しては、血流改善剤、血管を拡げる薬や血が固まらないようにする薬を使って血の流れを良くしていきます。

③不幸にして臓器の働きが悪くなってしまったら、それぞれの臓器を保護する薬を使っていきます。

この3つの手段を組み合わせて、血管炎の治療は行われます。

「血管炎の治療の進歩と、特定疾患認定の問題」

血管炎の現状です。私が医者になりました30年前は、血管炎という病気は、かなり命を失う、もう数年でかなり命が危ないという状況でした。
現在は、これは半年ぐらいの期間でみたものですけれど、一般的に血管炎になっても、ほとんどお亡くなりになる人はいないというところまできています。
この30年ぐらいの間に治療はずいぶんと進歩しました(Mod Rheumatol 2015-00697)。
これは非常に喜ばしいことですが、逆に、特定疾患の認定基準が非常に厳しくなりました。特定疾患認定による公費補助は、基本的に生命の危険がある状態に対して行われます。
ここに示しました3度以上というところが公費補助を受けられる範囲です。3度というのはしばしば再燃によって入院または入院に準じた免疫抑制療法、ないし合併症に対する治療を必要とするという状況です。ステロイドを含めて免疫抑制剤などでいろいろ治療はしていても、外来通院で治療している人は、3度にはならずに、それより軽症の2度になります。
つまりこの1年間入院していない人は、残念ながら血管炎の公費補助というのは停止となってしまうことになります。
色々な治療を受けていて、色々な不具合を感じていらっしゃっても、外来で治療ができてしまうレベルであれば、高額な薬剤を使う場合は別ですけれども、一般的には公費補助の対象としては認められません。
しかし、これは、裏を返せばそれだけ命にかかわることは少なくなってきた、血管炎の患者さんが命にかかわるような病態になることは少なくなってきたということをあらわしているわけでもあります。

「血管炎の種類:血管炎には一次性と二次性がある」

さて、その血管炎について、どんな種類があるのかをお話をしていきます。

①まず1つは、単独で起こる血管炎で、一次性の血管炎とよびます

②これに対して、他の病気、たとえば全身性エリテマトーデスなどの膠原病に伴って起こるもの、あるいはC型肝炎ウイルスなどの感染症によっておこる血管炎もあります。
このようなものを、二次性の血管炎といいます。

二次性の血管炎としては、膠原病に伴うものと、それから他の病気、今言いましたC型肝炎ウイルスからくるものもありますし、B型肝炎ウイルスからくるものもあります。
あるいは、最近はあまりありませんが、梅毒や、薬剤とか癌に伴って起こる血管炎もあります。
癌が隠れていないかを探すことも、血管炎の診断の時に大事なことです。

「二次性の血管炎の代表:神経の血管炎」

さて、その二次性の血管炎について代表的なものを1つだけお話をします。
膠原病に伴ってよく起こる血管炎は、神経の血管炎です。色々な膠原病で神経障害が起こりますが、パターンとしては2種のタイプが多く、(1)多発単神経炎、それから、(2)軸索障害型の多発神経障害というものがあります。

(1)多発単神経炎は、全く一か所だけの単神経炎のこともありますし、何箇所か2,3箇所に起こる多発単神経炎の場合もあります。
片側だけ痛いとか動かしにくいという症状が出る場合もありますし、多発する場合もあるわけです。
だいたい2カ月以内ぐらいで、もっと速い場合もありますが、急速に進行します。
動きが悪くなった、あるいは痛くなったと思って、数日のうちに動かなくなることもあります。
多発単神経炎は、片側であって進行が速く、神経組織を輪切りにして顕微鏡で調べると、神経組織全体が悪くなっています。

(2)一方で、軸索障害型の多発神経障害は、一般的に左右対称で起こります。
両足と両手、あるいは足だけの事もありますが、多発単神経炎の場合は片側だけ、軸索障害型の多発神経障害は両側という違いになります。
ゆっくりした進行で、一般的には、何かちょっと変な感じがするなと思っていると、月単位で次第に症状がきつくなっていく、というパターンです。
どちらの神経炎でも、血管炎が普通の末梢神経障害と違うのは、

①まず、足に多いということ
②それから、しびれだけではない、触った感じが変というだけでなくて、痛みを結構伴うということ
③さらに、痛いといった感覚障害だけでなく、動かなくなる運動障害を伴うことが多いということです。

多発単神経炎のような片側もしくは両側で、足が急に痛くなって動かなくなる、そういうパターンでは、血管炎による神経障害を疑う必要があります。

「血管炎の種類:一次性の血管炎は、炎症が起きる血管の太さによって分類される」

さて、次は一次性の血管炎についてお話ししていきます。
ここに示しましたのは、大きな血管、中等度の血管、それから小さな毛細血管といわれる血管の生体内での分布図です。どの太さの血管が炎症によって侵されるかによって、一次性の血管炎は分類されます。
それぞれの血管炎で、炎症を起こす血管の太さが異なっているのはなぜか?と疑問に思われるでしょうが、原因はわかっていません。

①太い血管に炎症を起こす血管炎(大型血管炎)としては、高安動脈炎や、巨細胞性動脈炎といわれるものがあります。

②中等度の太さの血管に炎症を起こすものとしては、結節性多発動脈炎、あるいは小児の川崎病です。

③細い血管の血管炎、この中にはANCA関連血管炎、血管炎の中では最も患者数の多い疾患が含まれます。

ANCA関連血管炎は、①顕微鏡的多発血管炎と、②好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(昔の名前はチャーグ・シュトラウス症候群)、それから、③多発血管炎性肉芽腫症(昔の名前はウェゲナー肉芽腫症)があります。
この3つが主にANCA関連血管炎といわれます。
細い血管の血管炎としては、さらに免疫複合体を伴う細小血管炎があります。

④さまざまな太さの血管が障害される血管炎の代表が、ベーチェット病です。ベーチェット病は動脈も静脈も、太い血管も細い血管も侵されるので、さまざまの病変がでやすく、視力が障害されるなど、深刻な病態にもなることもあります。
本日のお話では触れませんが、TNF阻害薬を保険で使えるようになってから、ベーチェット病の治療は飛躍的に進歩しました。

⑤この他にたとえば脳(中枢神経)だけにくる血管炎、臓器特異的といわれる一か所だけに起こる血管炎もあります。

2.ANCA関連血管炎:多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(チャーグ・シュトラウス症候群)

「白血球に対する抗体(ANCA)が出現する、ANCA関連血管炎」

さて、その一次性血管炎の中でも一番患者数が多いANCA関連血管炎についてお話します。
ANCA関連血管炎には以下の3種類があります。

①多発血管炎性肉芽腫症(以前の名称は、ウェゲナー肉芽腫症)

②顕微鏡的多発血管炎

③好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(以前の名称はチャーグ・シュトラウス症候群)

ANCAとは何かといいますと、これは好中球、白血球の一種ですけれども、その細胞質(人間の細胞には核と細胞質があります。
この黒く抜けているところが核で、この明るいまわりのところが細胞質です)に対する抗体を、ANCAといいます。

「ANCAにはMPO-ANCAとPR3-ANCAがある」

ANCAには2種類あり、MPO-ANCA(P-ANCA)、もう一つはPR3-ANCA(C-ANCA)です。この2種類のANCAの種別は、ANCA関連血管炎で様々な意義を持っています。
まずは、病気の種類との関係です。多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)の患者さんではPR3-ANCA(C-ANCA)が多く、顕微鏡的多発血管炎の方ではMPO-ANCA(P-ANCA)が多く、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(以前の名称はチャーグ・シュトラウス症候群)の場合は、どちらかというとMPO-ANCA(P-ANCA)が多く認められます。
ただし、両方とも陰性の方もいますし、他の病気の場合でもANCAが陽性になることがあります。
薬剤性ループス(薬剤によって誘発される全身性エリテマトーデス)とか、全身性エリテマトーデスに伴う血管炎でも、ANCAが陽性になることがあります。

「ANCA関連血管炎の症状」

ANCA関連血管炎の共通症状としては、発熱、倦怠感、食欲低下、体重減少、体の各部の痛みなどがあります。
日本人では、顕微鏡的多発血管炎が多く、ウェゲナー肉芽腫症は少ないのですけれども、顕微鏡的多発血管炎は肺と腎の病変が多く、ウェゲナーの方は腎臓の病変もありますが、鼻から肺にかけての上気道といわれる場所の病変を起こします。
ウェゲナー肉芽腫症(多発血管炎性肉芽腫症)からお話ししましょう。

「多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)の症状」

主な症状は、①上気道症状、②肺症状、③腎症状に別けられます。

①上気道症状は、中耳炎や耳たぶの軟骨の炎症、鼻漏、副鼻腔炎(いわゆる蓄膿)、鼻の粘膜の潰瘍、のどの痛み、のどの粘膜の潰瘍、呼吸がしにくい感じ、です。

②肺症状は、気管・気管支の炎症、喘息のようなヒューヒューいう音、咳、血痰、レントゲンやCTで肺の結節・腫瘤とそれが壊れて空洞になった像、です。

③腎症状は、蛋白尿、血尿、腎機能の悪化(なかには急速に進行する場合も)、です。

多発血管炎性肉芽腫(ウェゲナー肉芽腫症)の病像の一例をお示しします。
これは鼻のところを横切りにしたCT像ですが、鼻の中は普通はもっと空間が広がっているのですけれども、炎症が起きているので炎症組織の増殖により、鼻の中が狭くなってしまっています。
ウェゲナー肉芽腫症は鼻や気道にも病変を起こします。
これは、気管支ですが、炎症組織がどんどん増えて、気管支が圧迫されて右の方が左よりも狭くなっています。
下の写真は治療をしたら炎症組織が縮小して、気管が拡がったことを示しています(Mod Rheumatol 2015;25:649)。
このように鼻から肺にかけての気道のところに、ウェゲナー肉芽腫症(多発血管炎性肉芽腫症)は起こります。

「血管炎の活動性を評価するための新しい画像検査:FDG-PET」

今お示ししたのはCTという画像検査でしたが、今はさらに進歩していまして、FDG-PETという画像検査を使って、より細かい病変もわかるようになりました。たとえば、こちらの図ですが、従来のCTでみると、このあたりは問題ないかと思うのですが、FDG-PETを撮ってみますと、このように光っているのですね(Mod Rheumatol 2010;20:205)。
FDG-PETでは、明るい色であればあるほど、炎症が強いことをあらわします。
従来のCTでわかりにくい炎症でもPETでみればわかる、CTでは活動性があるかが分からない病変が、FDG-PETを組み合わせると、活動性の炎症であるとわかる、ということがあります。
たとえば、この画像の空洞は、昔の病変の痕跡のようにも見え、一見、治療の対象ではないと見えます。
しかし、FDG-PETを取ってみますと明るい色になっていて取り込みがありますので、現在、活動性がある病変であることがわかります。
そこで治療すると、実際に小さくなっています。
CTだけであったら、もっと進行してからでなければ治療しなかったでしょう。
ただ、問題がありまして、FDG-PETは保険適用ではありません。FDG-PETは非常に高額の検査ですから、保険適応外では、なかなかできないというのが現状です。保険承認が通ってほしいというのが我々の希望です。今の話を聞くと、条件によっては保険承認が必要と思いますよね。
FDG-PETは、2018年4月に保険適応になっていますが、承認条件は、「他の検査で、病変の局在(どこに病変があるか)、または活動性の判断がつかない大型血管炎」です。ANCA関連血管炎は適応ではありません。

「ANCAの種類によって、ANCA関連血管炎の病気のタイプは異なる」

画像検査の話に脱線しましたが、ANCAの意義についてのお話しにもどりましょう。
MPO-ANCAが陽性か、PR3-ANCAが陽性かによって、病気の種類、病像が変わってきます。

①MPO-ANCAが陽性だと、腎臓、肺、皮膚、神経の病変が多くなります

②PR3-ANCAが陽性だと、鼻から気管支にかけての上気道のところの病変が多くなります

日本人は、圧倒的にMPO-ANCA陽性の方が多いのが特徴です。9割ぐらいがMPO-ANCA陽性です。

幸いなことに、日本人に多いMPO-ANCA陽性の患者さんの方が、PR3-ANCA陽性の方よりも治療中に再燃することが少ないといわれます。
日本人は血管炎のうちではまだ幸いなのかなとも思います。

「日本人に多い、顕微鏡的多発血管炎」

ほぼ100%の患者さんでMPO-ANCAが陽性になる、顕微鏡的多発血管炎の病像をお示しします。

①顕微鏡的多発血管炎の症状で最も多いのは、腎病変です。血尿とともに、数週から数か月の経過で急速に腎臓の機能が悪化する、急速進行性糸球体腎炎を呈することがしばしばです。

②また、肺にも病変を起こすことがよくあります。
細菌などによって肺胞の中で起こる、一般的な肺炎と違って、間質性肺炎や肺線維症という肺の壁の部分(ここに血管が通っているからです)に炎症を起こす肺炎のパターンをとります。
炎症が高度であると、肺の血管から出血して、血痰が出たり、肺胞出血といわれる生命の危険もあるような状態になることがあります。

③その他は、神経の血管炎である多発単神経炎など末梢神経障害や、紫斑、皮下出血、網状皮斑などの皮膚症状が多く、中耳炎や、眼の充血、心臓の病変や、腸などの消化管の障害も起こることがあります。

「ANCAの値は、病気の勢いと関連することもしないこともある」

ANCAの値は、いろいろと病像に影響しますが、活動性とどのように関係しているか、血管炎の状態が悪い時にANCAの値がどうなるかは気になるところです。
いろんなパターンがあります。
①血管が悪くなるとMPO-ANCAの値も増えるという方もいらっしゃいますし、②全然関係ない場合もあります。
③最初だけ高値ですぐに陰性化する、④逆に血管炎が落ち着いても高いままという場合もあります。
しかし、どちらかといえば相関する方が多いので、定期的にMPO-ANCAを測って(毎月毎月測るような必要はないのですが)、再燃の予兆がないか調べる必要があると思います。
ANCAの値が上がった、下がったということであまり一喜一憂してはいけないけれど、ある程度参考にすべきだと思います。

「ANCAがあまり陽性にならないANCA関連血管炎:好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(チャーグ・シュトラウス症候群)」

もう一つのANCA関連血管炎である、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(チャーグ・シュトラウス症候群については、ANCAの陽性率が他の2つの血管炎に比べてかなり低率であることや、治療のやり方も少し違いますので、のちほど、別にお話しします。

「ANCA関連血管炎の治療」

さて、そういう血管炎に対する治療ですけれども、2つのステージに分けられます。

(1)寛解導入療法:血管の炎症の勢いが強い時に、強力な治療を行って、炎症を鎮め、寛解といわれる状態に導入する治療)

(2)寛解維持療法:寛解導入療法で炎症がおさまった後で、炎症が再発しないように抑え込んでいく治療

(1)まずは寛解導入療法です。最初は強い治療をするのですね。
ステロイド剤が第一選択です。病態によってステロイドの使用量は異なりますが、プレドニゾロンに換算して、1日量0.6~1.0㎎/㎏体重(つまり、体重50㎏の人であれば、30~50㎎)が一般的です。速やかな効果を期待する場合などは、点滴で投与することもあります。
ステロイド剤の投与にあたっては、多くの場合は免疫抑制剤を併用します。
一般的には、免疫抑制剤を併用したほうが治療効果が高いとされています。
免疫抑制剤としてよく使われるのがエンドキサン®で、このほか、メトトレキサートやセルセプト®が使われます。
重症の場合は血漿交換もすることがあります。
この寛解導入療法がうまくいったら、次はその状態を維持するための、寛解維持療法となります。

(2)寛解維持療法でも、基本となる薬剤はステロイド剤です。プレドニゾロンで1日量5~10㎎くらいが使用されます。
ステロイド剤にはいろいろな副作用がありますので、ステロイド剤に頼らない寛解維持療法が模索されていますが、現状では、ステロイド剤が治療の中心といわざるを得ないでしょう。
ステロイド剤と併用される免疫抑制剤として、寛解導入療法のところで紹介しました薬剤のほかに、アザニン®がよく使われます。
この寛解導入の治療がうまくいかない、あるいは寛解の維持がうまくいかなくて再燃してしまう場合に使われる治療薬として、約5年前にモノクロナール抗体の薬剤が保険で使えるようになりました。リツキサン®という薬剤です。次はリツキサンのお話をしましょう。

3.ANCA関連血管炎の治療薬:「リツキサン®」

「リツキサンは、Bリンパ球を攻撃する、モノクローナル抗体」

これは中外製薬さんのパンフレットからの抜粋ですけれども、モノクロナール抗体というのは、1つの物質にだけくっつきます。
これはBリンパ球、リンパ球というのは、血管炎やいろんな膠原病で活性化していろいろ悪いことをしているのですけれども、そのBリンパ球にだけにくっついて、Bリンパ球を壊してしまうモノクロナール抗体です。
抗体というのは、普通は細菌などの病原体にくっついて、病原体だけをやっつけるというようになっていなす。
この、抗体が特定のものだけにくっつくという特徴を利用して、例えばリツキサンであればBリンパ球の表面の物質にだけくっついて、Bリンパ球が過剰に働かないようにして、病気の勢いを鎮めます。
特定のものにだけ結合しますので、従来の化学療法と比べると正常細胞への攻撃が少ない、強力だけれども他のところに影響が少ないので、副作用も限定的だというのがモノクロナール抗体の利点です。
ANCA関連血管炎に関するリツキサンの効能・効果につきましては、「ヴェゲナ肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎については、初発例を含む疾患活動性が高い患者、既存治療で十分な効果が得られない患者等に対して、本剤の投与を考慮すること」となっています。

「リツキサンの効果:臨床試験の成績から」

リツキサンによって、寛解に導入する効果を見た試験の2つを紹介しましょう。

(1)RAVE試験は、リツキサンの効果とエンドキサン®の内服薬の効果を比較した試験です。 治療開始後6か月の時点で、①完全な寛解の状態になった患者さんの割合は、リツキサンで治療したグループでは64%でした。②これに対して、エンドキサンで治療したグループの完全な寛解の割合は53%でした。標準の治療薬であるエンドキサンの内服薬に対して、リツキサンは、同等の効果を示したわけです。安全性も同等でした。

(2)RITUXVAS試験は、リツキサンの効果とエンドキサン®の注射薬の効果を比較した試験です。治療開始後12か月の時点で、寛解の状態になっていた患者さんの割合は、①リツキサンで治療したグループでは76%でした。②これに対して、エンドキサンで治療したグループの完全な寛解の割合は82%でした。標準の治療薬であるエンドキサンの注射薬に対して、リツキサンは、同等の効果を示したわけです。安全性も同等でした。

現在、わが国でエンドキサンを使う場合には、内服約よりも注射薬で用いられることのほうが多いので、エンドキサンの注射薬との同等性を示せたのは意義あることといえます。

「リツキサン投与前のチェック、安全性の確保」

・点滴することに問題がないかをみるための、血圧や脈拍などの一般状態のチェック
・血球数や肝臓・腎臓の機能をみるための一般的な血液・尿検査
・必要に応じて心臓や肺の働きをチェックするための検査
・肝炎ウイルス、結核菌などの感染症の検査

リツキサン投与によってBリンパ球の数が減りますと、感染症にかかりやすくなることもあります。
投与後も、発熱、のどの痛み、咳、胸の痛み、お腹の痛み、下痢、膀胱刺激症状(何度もトイレに行きたくなるなど)などの感染徴候に注意し、それらの徴候があるときは医療機関に連絡することが望まれます。
また、必要に応じて、ST合剤(バクタ®)を予防的に投与したり、潜在性の結核に対して抗結核薬を投与します。
わが国での承認後に行われました特定使用成績調査での、感染症の発症の状況をご紹介します。
顕微鏡的多発血管炎(年齢の中央値は68歳)やウェゲナー肉芽腫症(多発血管炎性肉芽腫症)(年齢の中央値は55.5歳)の患者さん108人のうちで、22人に感染症が起こりました。このうちで重症の感染症は15人で認められ、5人のかたがお亡くなりになっています。
2人以上のかたに起こった感染症をピックアップしますと、気管支炎、サイトメガロウイルス感染、鼻咽頭炎、口腔カンジダ症、肺炎、尿路感染、ニューモシスチス肺炎となります。
リツキサンは効果の高い有用な薬剤でありますが、安全性の確保に十分留意すべき薬剤でもあります。

「リツキサンによる治療の実際」

リツキサンは点滴で使用されます。
点滴は入院で行われることが一般的です。
アレルギー症状が出るのを予防するために、抗アレルギー薬などを前もって使用することと、最初は体ならしとして時間をかけてゆっくりと点滴します。
そのあと1週間ごとに4回、合計4回ですね、その4回の1セットを再投与(再治療)する場合もあります。
効果はどのくらいであらわれるかといいますと、一般的には効果は速いという印象です。数か月かけてゆっくり効いてくる場合もありますが、速やかに効く場合が多いように思われます。
ANCA関連血管炎での例を示します。
ウェゲナー(多発血管炎性肉芽腫症)の患者さんの例ですが、他の免疫抑制剤で治療中に炎症が強くなっている、でもリツキサンを使ったらその炎症が速やかに消失する、そのように、他の治療に抵抗性の病態でもリツキサンは有効であることが報告されています(Mod Rheumatol 2015;25:603)。
リツキサンは単に炎症が治まるだけでなくて、患者さんの色々な生活の面で、使ってよくなったという効果が実感できる薬剤です。生活動作、体力、社会生活のしやすさ、気分が爽快になるとか、いろんな点でリツキサンは効果があります(Mod Rheumatol 2012;22:877)。

「寛解導入と寛解維持・再燃予防」

リツキサンは、最初の寛解導入で使うだけではなく、途中で再燃してきた場合にも使われます。
1回だけの投与よりも、追加投与した方が効果が高いというようにも言われています。
しかし、やはりBリンパ球を抑えるということは免疫を抑えるということにはなりますので、感染症(前述のように重症の感染症も起こりえます)のリスクと治療上のベネフィットを、慎重に考慮する必要があります(Rheumatology (Oxford) 2014;53:532)。

「リツキサンの意義:JCS2017ガイドラインから」

顕微鏡的多発血管炎やウェゲナー肉芽腫症(多発血管炎性肉芽腫症)を寛解の状態に導入するための治療に関して、リツキサンは、これまで標準的に使われているエンドキサンに比べて、同等の効果、同等の安全性の薬剤とされています。
現時点では、リツキサンが高額の薬剤であることなどから、エンドキサンのほうが優先して使うべき薬剤となっています。
しかし、エンドキサンの副作用(女性・男性の生殖機能への懸念など)のリスクが無視できない場合などは、リツキサンが優先して使用される場合もあるとされています。
リツキサンを使用する際は、感染症に注意することも記載されています。

4.好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の治療薬:ヌーカラ®」

「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(チャーグ・シュトラウス症候群)」

次に、もう一つのANCA関連血管炎である、チャーグ・シュトラウス症候群に関してお話をいたします。
今の名前は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症ですけれども、病像としては肺、腎臓、神経の病変が多い血管炎です。
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の発病のパターンは、①喘息の人、喘息で何年も治療をしている人が、ある日突然足が痛くなって、動けなくなるのが一番典型的です。②その次に多いパターンとして、やはり喘息のある人に呼吸器の症状が出て肺炎などを疑い、レントゲンやCTを撮ってみたら、普通の肺炎とは違った像を呈していて発見されたというものになります。
足の神経を侵すパターンと肺を侵すパターン、その2つが多い血管炎です。
その他の部位の病変としては、皮膚や消化管、心臓にも病変を起こすことがあります。
心臓が侵されると、その後の経過にも影響がでますので、とくに好酸球の数の多い人などには心臓の病変に注意が必要です。

「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は、血管炎主体と、アレルギー主体の2タイプがある」

チャーグ・シュトラウス症候群、現在の名前は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症ですけれども、先程から申し上げているANCAが陽性かどうかで、2つのタイプに分かれます。
ANCA陽性の場合は血管の炎症が多い、すなわち、血管が詰まったりして臓器障害がでやすい傾向があります。
ANCAが陰性の場合はどちらかというとアレルギー型です。喘息がきつかったり、色々なところの浮腫がでるなどアレルギー症状が主で、ANCAがないとアレルギー、ANCAがあると血管炎というように同じ好酸球性多発血管炎性肉芽腫症でも2つの病態があります。
ANCAが陰性の場合は血液中の好酸球の数も多く、病変の主体である肺や神経の組織に好酸球が侵入している度合いも多いことがわかっています(Mod Rheumatol 2011;21:290)。 まだ確認されていませんが、ANCAが陰性の好酸球性多発血管炎性肉芽腫症では、好酸球を標的とした治療がより有効なのかもしれません(のちほど紹介するヌーカラの治験ではANCAが陰性の患者さんが9割を占めていました)。 それでは、好酸球を標的とした治療薬剤として、2018年5月から保険で使えるようになりました薬剤、ヌーカラ®皮下注用100㎎のお話をしようと思います。

「好酸球を活性化する因子、IL-5を阻害するモノクローナル抗体である、ヌーカラ®」

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(チャーグ・シュトラウス症候群)は、その病名の通り、好酸球の異常な活性化が病気の主な原因となっています。
ですから、この好酸球の活性化を抑え込もうとするのは、当然の治療戦略といえるでしょう。
現在の治療の主役であるステロイド剤も、好酸球の活性化を強力に抑制する効果を持っています。
その効果たるや、中等量以上のステロイド剤を内服していますと、血液中の好酸球の数は0%になるくらいです。
好酸球の活性化に重要な因子として、IL-5とよばれる物質があります。
このIL-5の働きを抑え込めば、好酸球の活性化を抑え込める、こう考えて開発されたのが「ヌーカラ」です。 ヌーカラは、さきほど紹介しましたリツキサンのように、モノクローナル抗体です。IL-5だけにくっつき、IL-5の働きを抑え込みます。
ヌーカラは、これまで気管支喘息の治療薬として、わが国で発売されてきました。それが、投与量を3倍にして、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の治療薬として承認されたわけです。 適応は「既存治療で効果不十分な好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」です。

「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に対するこれまでの治療」

ヌーカラの説明の前に、現在までに行われている治療について、簡単にご紹介しましょう。 寛解導入療法の主体は、やはりステロイド剤で、プレドニゾロン換算で1日量0.5~1.0㎎/㎏体重の量で用いられます。
点滴で大量に投与するパルス療法が併用されることもあります。
寛解導入療法の際にステロイド剤と併用される免疫抑制剤は、エンドキサン、アザニン、メトトレキサートがガイドラインに挙げられていますが、プログラフやネオーラルが用いられることもあります。
好酸球性多発血管炎で特徴的なのは、γグロブリン大量療法が2010年1月から保険適応になっていることです。この治療は原則として入院で行われますが、5日間連続でγグロブリン製剤を点滴で投与するものです。残存する治療抵抗性の末梢神経障害に有効であるという成績があります。
神経が障害されてから長期間が経過してしまっている場合には、治療効果はかなり限定的と思われますので、この治療を行うのであれば、タイミングが重要と思われます。
寛解維持療法では、ステロイド剤をプレドニゾロンで5~10㎎で維持するのが一般的です。この段階では、寛解導入療法でエンドキサンを使っていた場合には、エンドキサンの副作用のことから、メトトレキサートやアザニンに切り替えていくのが一般的です。

「ヌーカラの用法・用量」

ヌーカラは、「過去の治療において、全身性ステロイド薬による適切な治療を行っても効果不十分な場合に、本剤を上乗せして投与を開始すること」となっています。
具体的な投与方法としては、1回300㎎を4週間ごとに皮下注射で使用することになります。

「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に対するヌーカラの効果」

ヌーカラの代表的な治験であるMEA115921試験の成績をご紹介しましょう。この試験では、参加した患者さんは136人で、日本人6人もふくまれています。
対象となった患者さんは以下の9つの項目の2つ以上を満たしている人です。

・病変組織を採取して調べる検査を行って、診断が確定している
・神経の炎症がある
・肺に浸潤している病変がある
・副鼻腔の異常がある(蓄膿)
・心臓の筋肉の病変がある
・糸球体腎炎(血尿、赤血球円柱、蛋白尿)がある
・肺胞からの出血がある
・小さく盛り上がっている紫色をした皮膚病変がある
・MPO-ANCAまたはPR3-ANCAが陽性

さらに治療としては、①プレドニゾロンを7.5㎎以上を服用していても、病気が再燃してしまっているか、②プレドニゾロン7.5㎎以上を服用していても、寛解の状態に至らないこと、が条件となっています。

試験の結果はどうだったでしょうか。
52週間の治療観察期間の最終段階である、36週時点と48週時点の両方で、寛解の状態を維持できていた患者さんの割合をみてみましょう。①ヌーカラで治療されていたグループでは32%であったのに対して、②ヌーカラを使っていなかったグループでは3%にとどまりました。 さらに、ステロイド剤を中止できた患者さんの割合をみてみます。
①ヌーカラで治療されていたグループでは18%でステロイド剤を中止できたのに対して、ヌーカラを使っていなかったグループでは3%でした。
総合的な評価で、ヌーカラが有効であるオッズ比は5.91となっています。
やはり、治療開始時点の血液検査で好酸球が多い患者さんのほうが、ヌーカラの効果は高いようです。治療観察期間52週のうち、24週間以上寛解状態を維持できていた患者さんの割合で比べてみます。
①好酸球数150未満の患者さんでのヌーカラの有効率は21%であったのに対して、②好酸球数150以上の患者さんでの有効率は33%でした。
ヌーカラで治療したことによって、とくに安全性で問題になるようなことは起こりませんでした。主な副作用は、注射したところの皮膚のアレルギー反応でしたが、これはヌーカラの入っていない注射をしたグループと同様の比率であり、ヌーカラの成分によるものではないと考えられます。

「好酸球に対する治療:今後の展望」

ヌーカラの治療成績についてはやや不満足な点も残りました。たとえば、52週の治療観察期間の中で、寛解までには至らなかった(改善はしていても)患者さんが47%であったことがあげられます。
しかし、ヌーカラが有効な治療薬であることは間違いありません。
好酸球を標的とした新たな薬剤は、現在、気管支喘息の治療の領域で先行して導入されてきています。
今後、これらの薬剤が、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の治療に登場してくることが予想されます。

「その他の、ANCA関連血管炎の治療薬」

ヌーカラは保険で使えるようになりましたが、ANCA関連血管炎に関しては、これまでに、他のモノクロナール抗体の薬剤が保険適応外で使われてきました。それは関節リウマチの治療に使われているTNF阻害薬です。レミケード®、エンブレル®、ヒュミラ®、シンポニー®、シムジア®とかいろいろあります。
保険適応は、製剤によって厳密には異なりますが、関節リウマチとベーチェット病、炎症性腸疾患(安部首相の病気ですね)、それから、乾癬といわれるような皮膚病、これは関節炎も伴いますけれども、そういう病気などです。 これらの薬剤は保険適応のないANCA関連血管炎でも有効な場合があることが報告されています。
ここで紹介しますように、血管炎の患者さん6人のうち5人が寛解状態に至っているなど、結構高い割合で寛解に至ったという報告もあります(Mod Rheumatol 2012;22:319)。 もうひとつ、TNF阻害薬のほかに関節リウマチの治療薬アクテムラも、血管炎に有効であったという報告があります(Mod Rheumatol 2015;25:138)。これはANCA関連血管炎でアクテムラが有効であった一例ですが、このANCA関連血管炎よりも、もっとアクテムラの治療効果が期待されている血管炎があります。

5.大型血管炎:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎

それが大型血管炎です。ANCA関連血管炎は小さい血管に炎症が起こる血管炎ですけれども、アクテムラが有望なのはもっと太い、大型の血管炎です。
大型血管炎を復習しますと、高安動脈炎と巨細胞性動脈炎の2種類があります。
 

「高安動脈炎とは」

高安動脈炎は、心臓から出る大動脈という最も太い血管と、それから枝分かれする血管、および肺動脈に炎症を起こす血管炎です。その結果として、血管の中が狭くなったり、閉塞したり、拡張を起こします。
血管の中が狭くなったり、閉塞をおこした血管が血流を送っているところの虚血症状、あるいは血管の拡張による動脈瘤が、病態の中心です。
典型的には、若い女性がなんとなくだるい、なんとなく熱があるという症状で始まり、そのうちに、心臓から出てくる太い血管が炎症を起こしてだんだん狭くなり、疲れやすくなったりとか、ふらつきが起きたり、失神してしまったりするなどの症状が起こってきます。
高安動脈炎は中高年でも発症することがありますので、注意が必要です。
高安動脈炎の症状としては、以下のものがあげられます。

①頭の虚血症状:めまい、頭痛、失神、片側の手足が動きにくい(片麻痺)
②上肢(腕)の虚血症状:脈拍が触れない、腕が疲れやすい・痛い、指がしびれる、手が冷たい
③心臓の症状:息切れ、動悸、胸の圧迫感、狭心症のような胸の痛み発作、脈の乱れ
④呼吸器(肺)の症状:呼吸困難、血痰
⑤血圧の上昇
⑥眼の症状:一過性または継続する視力の異常、失明
⑦下肢(足)の症状:間欠性跛行(足への血流が悪いために、歩いているうちに足が痛くなってくること)、脱力、足の疲れやすさ
⑧疼痛:首の痛み、背中の痛み、腰の痛み
⑨全身症状:発熱、全身の倦怠感、疲れやすさ、首のリンパ節腫脹
⑩皮膚症状:結節性紅斑(赤く、硬さのある皮膚の発疹)
 

「巨細胞性動脈炎とは」

一方で、巨細胞性動脈炎の病像は、どちらかというとお年寄りに多い血管炎です。大動脈と、そこから枝分かれしていく中~大型の動脈に起こる血管炎です。高安動脈炎よりも、頭の血管に病変が起こりやすく、頭蓋骨の外の動脈、とくに、こめかみのところを走る浅側頭動脈に炎症がおこることがしばしばです。眼への血流を障害して、失明に至ることもあるので、注意が必要な病気です。
50歳以上の人で、片方の頭がずきずきと痛くなる、視力が犯される、ものが二重に見える、ものを噛んでいると顎が疲れやすい・痛くなるなどの症状がでてきます。
典型的には、こめかみの血管(浅側頭動脈)が、マンガで怒っている人を描いているみたいにはっきりと血管の筋がでて、そこを圧さえると痛いとか、血液検査を見るとCRPが高く、血沈も高いという病態になります。
リウマチ性多発筋痛症といって、首、肩、腰、股関節のこわばりや痛み、発熱、体重減少をきたす病態を示すこともあります。
この病態は、関節リウマチと間違えられることもしばしばです。
 

「高安動脈炎と巨細胞性動脈炎は似たところがある」

今お話ししたように、片方は若い女性、片方はお年寄りに多い病気になります。
高安動脈炎と巨細胞性動脈炎とは、それらの間の違いのほうが、今まではクローズアップされていましたが、最近では共通した部分の多い病気ではないかと、特に欧米人から言われるようになっています。
侵されている部分の血管の組織を採ってきて顕微鏡で調べると、この2つは非常に似ています。
区別がつきにくいくらい似ています。
それから、共通した領域の血管が犯されます。
眼とか太い動脈、大動脈とか、首の動脈、鎖骨、首の下の部分の動脈ですね、これらが両方とも侵される、それから視力障害も両方ともおこります。
もちろんいろいろ違いもあります。
たとえば年齢ですとか、地域、高安動脈炎はアジアで多くて、巨細胞性動脈炎は欧米で多いとかの違いはありますが、最近は、共通の性質をもった病気ではないかと言われてきています。
実際に、治療の面からみましても共通したところがあり、これから述べるアクテムラ®は両者に共通して有効です。

6.大型血管炎の治療薬「アクテムラ」

「大型血管炎の治療」

大型血管炎の治療の基本も、やはりステロイド剤です。プレドニゾロン換算で、0.5~1.0㎎/㎏体重の量が、寛解導入に用いられます。
いったん、寛解の状態が得られましたら、再燃を起こさないように、ゆっくりとステロイドを減量していきます。
とくに高安動脈炎は、巨細胞性動脈炎よりも、ステロイド減量によって再燃を起こしやすいことが知られています。
高安動脈炎の場合は、プレドニゾロンが20㎎を下回ったら、1か月あたりの減量幅が1.2㎎を超えないように、とくにゆっくりと減量していきます。
再燃を起こしてしまった場合は、メトトレキサートや、アザニン、エンドキサン、TNF阻害薬(巨細胞性動脈炎では有効性なし)、タクロリムス、ネオーラルなどが用いられています。
しかし、これらの薬剤の効果は不十分であることが多く、より効果の高い薬剤が求められていました。そこで登場したのが、アクテムラです。
アクテムラは大型血管炎の治療薬として、2017年6月から保険で使用できるようになりました。効能は、「高安動脈炎および巨細胞性動脈炎では、原則として、副腎皮質ステロイド薬による適切な治療を行っても疾患活動性を有する場合、副腎皮質ステロイド薬による治療の継続が困難な場合に投与」となっています。
治療効果が不十分な患者さんという、効果の点だけを考えているのではなくて、ステロイドによる副作用が懸念される患者さん(たとえば、糖尿病や骨粗しょう症の患者さん、感染症のリスクが高い患者さんなど)といった治療の安全性の確保にも留意した、適応の設定となっています。

「大型血管炎に対しての、アクテムラによる治療の効果」

治験でのアクテムラの治療成績を見ていきましょう。

(1)高安動脈炎

「対象となった患者さん」

高安動脈炎では、「プレドニゾロン換算で0.2㎎/㎏体重以上のステロイド剤を使っていても再燃を起こしてしまった患者さん」が対象になっています。
再発の定義は、以下の5項目のうちの2つ以上をみたす場合とされています。

①全身症状(客観的評価):発熱、体重減少、関節炎など

②全身症状(主観的評価):倦怠感、筋肉痛、頭痛、めまいなど

③血液検査での炎症マーカーの上昇:CRP、血沈、血清アミロイドA

④血管病変:血管の雑音、脈拍の消失、血圧の左右差など

⑤臓器病変を伴う虚血症状:間欠性跛行(足への血流が悪いために、歩いているうちに足が痛くなってくること)、心筋梗塞など

 

「治験のやり方、アクテムラの効果」

治験のデザインは以下のようなものでした。

①以上のように、再発を起こした患者さんに、まずは標準治療であるステロイド剤を増量し、寛解状態に導入しました。この治験では、プレドニゾロンで中央値30㎎を使いますと、寛解状態に導入することができています。

②その上で、通常の診療の場合よりも速いペースでステロイド剤を減量していきます。
つまり、再発を起こしやすい状態を再現するわけです。

③ステロイド剤の減量開始と同時に、アクテムラの投与を開始して、アクテムラを使っていない場合と比較して、再発が防止できたかを評価していきます。
再発を起こした患者さんの数が、治験に参加している患者さんの半数を超えた時点で、全員がアクテムラを使用できるようになっています。


結果はどうだったでしょうか。
アクテムラを使っていた患者さんでは、55.6%の人で、再発を防止できました。それに対して、使っていなかった患者さんでは、再発の防止率は38.9%にとどまりました。アクテムラの相対リスク減少率は59%となっています。
ステロイド剤の減量効果をみましても、アクテムラを使っていた患者さんは、61.1%の人がプレドニゾロン10㎎以下にステロイド剤を減量できていました(開始時の中央値30㎎)。 これらの結果を受けまして、わが国のJCSのガイドライン2017年改訂版では、アクテムラは推奨度クラスⅠであり、ステロイドが効果不十分または副作用の場合に第一に選択される薬剤となっています。

(2)巨細胞性動脈炎

「対象となった患者さん」

これに対して、巨細胞性動脈炎では、初回治療の患者さんも対象になっています。
もちろん、ステロイド剤による治療歴があって、再燃を起こしてしまった患者さんも対象です。高安動脈炎よりも広範囲の患者さんが対象になっているわけですね。
再燃の定義は、以下の7つの症状や徴候のうちの1つ以上あると医師が判断した場合、または血液検査の炎症マーカーである血沈が1時間値で30㎜以上であった場合となっています。

①初熱(38度以上)

②リウマチ性多発筋痛症の症状:肩や腰まわりの、朝のこわばりや痛み (リウマチ性多発筋痛症は、巨細胞性動脈炎と合併することも、単独で発症することもある病態です)

③限局的な(頭全体ではない)頭痛、側頭動脈の痛み、頭皮を圧さえると痛い

④動脈炎性前方虚血視神経症による、急性または亜急性の失明(血流が悪くなって、視力が急激に悪化する状態です)、一過性の視界不良(一般的には片方の眼で起こりますが、一度起こると反対側の眼にも病変が起こることがありますので、もう片方の眼にも注意する必要があります)のような視覚に関する症状や徴候

⑤顎や口の痛み

⑥手足の間欠性跛行(手足への血流が悪いために、使っているうちに手足が痛くなってくること)が新たに出現、もしくは悪化

⑦再発であると医師が判断した症状の出現

 

「治験のやり方、アクテムラの効果」

①巨細胞性動脈炎を新たに発症した、もしくは再発した患者さんを対象に、ステロイド剤の投与量がプレドニゾロン換算で20~60㎎で、治療を開始しています。
②高安動脈炎の時と同じように、通常の診療の場合よりも速いペースでステロイド剤を減量します。
③ステロイド減量とともに、アクテムラを1週間ごとにうつグループ(これが現在の保険承認用量です)、アクテムラを2週間ごとにうつグループ、アクテムラをうたないグループにわけて、寛解の状態をどのくらい達成もしくは維持できるかをみています。


結果はどうだったでしょうか。
アクテムラ投与開始後26週の時点で、アクテムラを投与していたグループの寛解維持率は1週間ごとの投与のグループで56.0%でした。2週間ごとの少ない量の投与のグループでも53.1%の患者さんで寛解を維持していました。これに対して、アクテムラを使っていなかったグループの寛解維持率は14%にとどまりました。統計学的にも有意な、圧倒的なアクテムラの効果を支持する結果となりました。
ステロイドの使用量も、アクテムラを使っていないグループでは、26週間の累積の使用量が3296.0㎎、52週間では3817.5㎎必要であったのに対して、アクテムラを投与されていたグループでは、1週間ごとの投与の標準治療のグループも、2週間ごとの投与の低用量治療のグループも、同じく52週間で1862㎎と、半分以下のステロイド使用量ですんでいます。
高安動脈炎の場合よりも巨細胞動脈炎のほうが、アクテムラの有効性がよりはっきりしているような印象も受けます。
この結果を受けまして、わが国のJCSのガイドライン2017年改訂版では、アクテムラは推奨度クラスⅠであり、エビデンスレベルAであって、「ステロイドが効果不十分である場合、または副作用で十分量を使用できないの場合に、第一に選択される薬剤」となっています。
 

「アクテムラの用法・用量」

どちらの血管炎に対しても、1週間に1回、162㎎のシリンジもしくはオートインジェクターを、皮下注射で用います。
 

「アクテムラ投与前のチェック、安全性の確保」

関節リウマチなどで用いられるときと同じように、安全性を中心としたチェックを行います。
アクテムラは、胎児に対する影響が明確ではありません。妊娠中、あるいは使用中に妊娠の可能性があるときは、治療上の有益性と危険性を考慮して、ケースバイケースで、投与するべきかどうかを決定することになっています。
アクテムラ投与によって、感染症を起こしやすくなる場合もありますので、投与前に、結核、一般的な感染症、B型肝炎ウイルスのチェックを行います。
アクテムラ投与中に、発熱や、倦怠感、咳、下痢、皮膚の発赤、膀胱刺激症状(何度もトイレに行きたくなる)などの感染症を疑わせる徴候が生じた場合には、速やかに医療機関に連絡をとることが大切です。また、このような徴候があるときは、医師などの許可を得るまでは、アクテムラをうつことを控えてください。
アクテムラ投与開始後も、定期的に胸部のレントゲン、CTなどの画像検査を行うことが必要です。何といっても、外部からの病原微生物が一番侵入してきやすいのが肺ですから。 憩室炎の合併を指摘されたことがあるかもチェックします。
憩室炎がありますと、アクテムラ投与中に、消化管出血・消化管穿孔のリスクが増加します。
しかし、関節リウマチでの経験からしますと、憩室炎がありますと、ステロイド剤によっても消化管出血・消化管穿孔のリスクが増加しますので、ステロイド剤を減量できるアクテムラを導入することの適否は、難しい判断を強いられることもあるでしょう。
心臓の機能、肺の機能などもチェックします。
アクテムラ使用中は、白血球や血小板の数が減少することがあります。
白血球の数が減るといっても、一般的には体内での白血球の分布が変わるだけなので、感染症のリスクは増えません。しかし、あまりに少なくなったときは(ルールはありませんが、関節リウマチなどで使う場合、私の個人的な慣習では、白血球のなかの好中球が1000を下回ったときでしょうか)、アクテムラの減量・中止を考えます。
血小板の減少の場合も、アクテムラの減量・中止を考えます。
減量・中止により、白血球や血小板の数は回復します。
ただし、関節リウマチと違って、大型血管炎では、アクテムラを減量した場合でも治療上の有効性はあるのかということは検証されていません。

7.治療の安全性を確保する

「血管炎の治療において、効果と安全性は、うらはらな関係にあることが多い」

治療の進歩をお話ししてきましたけれども、やはり治療効果を求めれば副作用のリスクもでてきます。
例えばこの表は2つの治療方法を比較したものですが、左側はマイルドな治療方法、右側が普通の治療方法になります。
青の部分が副作用です。副作用のエリアが、マイルドな治療の方が面積は小さくなっています。
やはりマイルドにすると副作用は減るということですね。一方でこの茶色の部分は、治療中に悪くなった、再燃してしまったことをあらわしていますが、やはり、再燃してしまった面積は、マイルドな治療の方が大きくなっています。
マイルドな治療をすると副作用は減るけれども、病気が再燃するリスクは増えてしまう、というわけです(Arthritis Rheum 2015;67:1117)。
これをどのように克服するかということですが、1つのやり方として考えられるのは、治療がうまくいきやすい人と、うまくいかなくて再燃しやすい人の特徴を最初から把握して、その特徴を備えた人は少しリスクを冒してもしっかり治療するというやり方です。
 

「強力な治療が必要であるかどうかを予測する」

再燃しやすいことを予測するリスク因子はいろいろあります。
ここに示しました報告では、①腎臓が血管炎で傷んでいる人、②血沈が高くて炎症が強い人、それから、③神経の病変がある人、④筋肉の痛みがある人、が再燃しやすいとなっています(Arthritis Rheumatol 2014;66:1920)。
こういう特徴をもった患者さんの場合は少し治療が効きにくいかもしれないので、しっかり治療しましょう、これらがなければマイルドな治療でもいいかもしれません、というように考えていきます。
治療の強さを決定する方法は、これ以外にもさまざまのものがあり、ケースバイケースで考えていきます。
 

「感染症のリスクを管理する」

血管の炎症を起こしている主役は白血球です。白血球は、病原体による感染症に対抗する、防御システムの主役を担っている細胞です。ですから、血管の炎症を抑えるということは白血球の働きを抑えることになりますので、感染症のリスクが高くなることが多くなり、治療を行うにあたって、一番の問題となります。
ガイドラインなどでは、注意すべき病原体として、以下のようなものが挙げられています。

①ニューモシスチス肺炎:これはST合剤のバクタ®でほぼ100%予防できます

②真菌(カビ):抗真菌薬の予防投与をすることもありますが、一般的ではありません

③ブドウ球菌、MRSA(黄色ブドウ球菌の一種です)

④結核菌:T-スポットやクォンティフェロンという血液検査(以前のツベルクリン反応の代わりとなる検査です)や、画像検査を行い、潜在的な感染があると考えられるときには、抗結核薬の予防投与を9か月間行います
結核以外の抗酸菌感染にも注意が必要です。この感染症は胸部のCT検査で評価します。

⑤ヘルペスウイルス:近い将来、安全に使用できるワクチンが導入されます

⑥肺炎球菌:これはワクチンで予防するように書かれていますが、投与のタイミング・現行の2種類のワクチンの使い方など、いくつかの問題があります

⑦インフルエンザウイルス:これもワクチンで予防します

⑧C型肝炎ウイルス:次にあげるB型肝炎ウイルスに比べるとリスクは低いものですが、抗体が陽性である場合は、専門医にコンサルトしたうえで治療を開始することになっています

⑨B型肝炎ウイルス、そのなかでもDe novo肝炎に注意が必要です


このB型肝炎、De novo肝炎に関してはあまりお聞きになったことがないと思いますし、私自身も、外来の限られた時間の中では、検査はさせていただいていますが、十分に説明できていません。せっかくの機会ですので少し詳しくお話しようと思います。
 

「De novo肝炎:B型肝炎ウイルスの再活性化」

B型肝炎というウイルスは、いろんな訴訟問題とかで聞かれたことがあるかもしれないですけれども、詳しいことはご存じないかと思います。
B型肝炎ウイルスはどうやって我々の体の中に入ってくるかといいますと、1つは出産のときに垂直感染といいますが、分娩のときにお母さんと子供さんの血液が混じりますので、そのときにお母さんから子供へとうつっていく感染形式です。水平感染は、性行為、輸血とか、臓器移植、針刺し事故など、患者さんの血液からB型肝炎ウイルスがその人の血液に入っていく、感染形式です。血液から作った薬剤によってうつったため訴訟になった話は聞かれたことがあるかもしれません。
 

「B型肝炎ウイルスに侵入されると、キャリアか、潜伏感染になる」

B型肝炎のウイルスに入りこまれるとどうなるか、基本的に2つのパターンをとります。
急性期に肝炎を起こすかは別として、長期的にはキャリアになるか、潜伏感染になるかの2つのパターンになります。
このキャリアというのは、症状はないが、実はB型肝炎ウイルスに感染している状況が続いていることをいいます。
血液検査をすると、HBs抗原というB型肝炎ウイルスの体の一部が陽性になります。
持続感染をおこしていますから、ウイルスの体の一部が患者さんの血液の中にあるわけですね。
キャリアの方のうち、1割強の方がB型肝炎を発症します。
 

「一般的な検査ではわからない、B型肝炎ウイルス潜伏感染」

一方でB型肝炎ウイルス潜伏感染というのは、自覚症状のあるなしに関わらず、B型肝炎ウイルスに感染したのですが、うまく免疫システムの方でウイルスを処理してくれていた場合のことをいいます。
この方は、現在、自覚症状はありませんし、ウイルスの断片が血液の中にないのですね。従来の普通の検査ではHBs抗原しかチェックしませんので、潜伏感染者はわかりませんでした。 これらの人は、B型肝炎ウイルスの断片は血液の中にないのですが、B型肝炎ウイルスに対する抗体を持っています。
抗体があるというのはB型肝炎ウイルスに対して昔戦ったことがあることをあらわしています。
ですから、自分がキャリアかそれとも潜伏感染か、持続感染であるキャリアであればHBs抗原が陽性、戦って勝ったんだけれどもB型肝炎ウイルスがまだ体の中に残っているかもしれない潜伏感染者は、HBs抗原は陰性ですが、抗体のいずれかが陽性ということになります。
 

「B型肝炎潜伏感染と、免疫抑制療法」

この既感染者を含めて、免疫抑制療法をするときに問題になることがあります。

①治療前は、キャリアの方も既感染の方も、肝炎ウイルスの量は少なく、生活に支障はありません。自覚症状もありません。

②強力な免疫抑制療法を行って、免疫機能がかなり低下した場合、肝臓の中に抑え込まれていたウイルスの量が増えてしまうことがあります。

③免疫抑制の治療が終わって、免疫の働きが回復します。

④そうしたら、それまでは免疫抑制剤で力を抑えられていたために、免疫細胞は、増えていたウイルスをやっつけることができなかったわけですが、免疫抑制剤の治療が終わっていますので、免疫細胞の働きは回復しています。
つまり、ウイルスをやっつけることができるようになっているわけです。

 

「ウイルスを処理しようとする免疫系の働きが、肝細胞を破壊してしまう」

この免疫細胞のウイルスのやっつけかたというのは、非常に乱暴です。というのは、肝臓の細胞もろともウイルスを破壊する、江戸の火消しの破壊消防みたいなやり方なのですね。
ですから、免疫が落ちた時に増えたウイルスを、免疫が回復して免疫細胞が攻撃したときに、非常に激しい肝炎、劇症肝炎を起こすことがあります。
これがDe novo肝炎です。
 

「De novo肝炎を起こさないようにするための対応:定期的なウイルス量のチェック」

(1)キャリアの人の場合

これを防ぐために、HBs抗原陽性、つまりウイルス量がある程度すでにある方の場合は、免疫抑制の治療前からウイルスが増えるのを抑える薬を開始しておきます。
治療中は、時々、血液検査でウイルスの量をチェックし、治療終了後も続けていくことになります。

(2)潜伏感染の人の場合

本人は気がつかなかったけれども昔知らないうちにかかっていたという、潜伏感染者の場合は、HBs抗原、つまりウイルスの断片は陰性です。
しかし、B型肝炎ウイルスと戦ったことがある証拠である、抗体が検出されます。
こういう抗体がある人の場合は、ウイルス量は大抵感度以下です。
感度以下であれば、前もってウイルスが増えるのを防ぐ薬を開始する必要はありません。ただ、強力な免疫抑制をすることでウイルス量が増えたら、さらに増えるのを防ぐため薬を開始する必要がでてきます。
ですから、薬の開始の必要がないかどうか、定期的にウイルス量をチェックし、治療が終わった後も、しばらくはウイルス量をチェックします。
このように対応すれば、劇症肝炎を防ぐことができます。

おわりに

血管炎の診療はずいぶんと進歩して、患者さんの状態は良くなってきています。
命を失うことは少なくなってきました。そのために、かえって特定疾患による医療費助成は厳しくなりました。外来通院では認定されなくなってしまい、入院しなくてすむような状態では、対症外になることになっています。
悩ましいところですね。
血管炎の診療の進歩は、以下のようにまとめられます。

(1)各種ガイドラインが整備されて、診療の標準化が進んできています

(2)大型血管炎に対するFDG-PETの保険承認など、検査の面でも進歩がみられています

(3)治療の面でも進歩がみられています。
本日はとくに以下の3点に触れました。

①ANCA関連血管炎、血管炎の中では一番多いものですが、リツキサンという治療薬が保険承認されています。

②好酸球性多発血管炎性肉芽腫症では、ヌーカラが新たに保険承認されました。

③大型血管炎の治療では、アクテムラが新たに保険承認されました。

(4)血管炎の治療で一番に注意すべきは感染症です。
さまざまな病原体に対する対応の面で進歩がみられています。
その中でも、B型肝炎ウイルスの再活性化が注目され、予防の対策がなされています。

以上です。ご清聴ありがとうございました。本日のお話が、血管炎に悩んでいる患者さんやご家族のかたのお役にたてることを願っております。
 
国立病院機構宇多野病院 リウマチ膠原病内科
統括診療部長 柳田英寿

この稿を作成するにあたっては、以下の文献を参考にしています。
・血管炎症候群の診療ガイドライン (JCS 2017年改訂版)
・ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 診断と治療社
・リツキサン注適正使用ガイド 「ヴェゲナ肉芽腫症・顕微鏡的多発血管炎」 中外製薬(株) 全薬工業(株) 2016年6月改訂
・ヌーカラ皮下注用100㎎ 医薬品インタビューフォーム グラクソ・スミスクライン(株) 改訂2018年5月
・アクテムラ皮下注162㎎シリンジ、オートインジェクター 適正使用ガイド 「高安動脈炎、巨細胞性動脈炎」編 中外製薬(株) 2017年8月