続編:関節の具合はどうですか?―関節の痛みが続くとき、どのような病気を考えるか?最近の治療の動向は?このページを印刷する - 続編:関節の具合はどうですか?―関節の痛みが続くとき、どのような病気を考えるか?最近の治療の動向は?

関節に関する最新情報は市民公開講座にてお伝えしますので、
多数ご参加お待ちしております。

第65回市民公開講座のお知らせ
(開催日:令和6年3月9日(土)10:00~)

講演テーマ 関節の具合はどうですか?[2024年アップデート版]

講演者 統括診療部長 柳田 英寿(リウマチ科)

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はじめに

みなさん、こんにちは。今回は、2020年1月25日に当院の市民公開講座として行われました講演の内容をご紹介したいと思います。関節の病気の話です。

市民公開講座では、このところ関節リウマチの話ばかりしていた感じでした。今回は、もちろん関節リウマチの話もありますが、他の病気も含めて、「炎症」によって関節が痛くなる病気について、広くお話ししようと思います。とくに、乾癬性関節炎や掌蹠膿疱症整骨関節炎などの脊椎関節炎や、全身性エリテマトーデスについては、少し掘り下げてお話しようと思います。当日の講演の内容に、大幅に加筆したものとなっています。

初めて私の話を聴かれる方のために作りましたので、これまでに聴いていただいたことのある方には、すでにご存じの部分もあると思います。その部分は飛ばしていただいて結構ですが、全体に新しい概念をかなり盛り込んだものとなっています。また、思いのほか長いものになってしまいましたので、興味のあるところだけみていただいても結構です。

当日に提示した図表については、版権の問題がありますので割愛しておりますが、図表無しでも理解できるようにしてあります。
それでは、さっそく始めていきましょう。

1.関節の痛みが続くとき、どのような病気を考えるか?

1-1.「炎症」と「炎症以外」

関節の痛みがある場合、とくにその痛みが1回きりのものではなく、繰り返して出現する場合や、ずっと続く場合には、当然のこととして適切な対応が必要です。すなわち、原因となる病気が何であるかを診断し、その診断に基づいて適切な治療を選んでいく必要があります。

関節の痛みがある場合には、その原因を大きく二つに分けて考えていきます。その二つとは、①「炎症」による痛み、②「炎症以外」による痛み、です。

「炎症」によって関節が痛むときには、痛みだけでなく、程度の差はありますが、腫れ、熱、発赤がみられます。血液検査では、例外はありますが、CRPや血沈の値が上昇しています。このように、関節に「炎症」を起こしている状態を、「関節炎」といいます。

炎症ではなく、「炎症以外」の原因で関節が痛む場合には、腫れ、熱、発赤は認められません。血液検査でも、CRPや血沈の値は上昇しません。原因としては、いろいろありますが、神経痛、筋肉痛、軟骨などの結合組織の減耗(後でお話しする変形性関節症など)、が代表的なものでしょう。

重要なのは、「炎症」で関節の痛みが続くときには、関節が壊れていくリスクがあるので、早く対応する必要がある、ということです。これに対して、「炎症以外」の原因で関節が痛むときには、関節が壊れていくことはありません。あったとしても、壊れていくスピードはゆっくりであることが一般的です。

本日は、「炎症」によって関節の痛みが続く、「関節炎」を起こす病気について説明させていただきます。

1-2.炎症以外の関節の痛み

線維筋痛症

その前に、「炎症以外」で関節の痛みが続く病気として、二つの病気に触れておきましょう。

まずは、線維筋痛症です。線維筋痛症は、軽症のかたも含めると、かなり多い病気(全人口の数%)と考えられています。

線維筋痛症の症状としては、全身の痛み(針で刺すような)、筋肉のこわばりが代表的です。血液検査では、CRP、血沈を含めて異常を認めません。全身の強い痛みのために、日常生活も困難となります。痛みの他に、多彩な自律神経失調症状(動悸、呼吸困難感、下痢・便秘、手足のしびれなど)を呈することも珍しくありません。発症に関与する要因として、精神的・肉体的なストレスが関与することが多いと考えられています。膠原病に合併することもあり、その場合、症状のあらわれや治療が複雑なものになります。

治療には、痛みの処理に関わる部分を調整する薬剤、リリカ、タリージェや、SNRI(サインバルタなど)、SSRI(パキシルなど)などが使用されます。ストレスが病気の発症・悪化に関わっていることがありますので、精神神経科的な治療が優先されることもあります。
 

変形性関節症

「炎症以外」で関節が痛む病気として、もう一つ大事なのは、変形性関節症です。関節の軟骨が減り、クッションとしての効果が無くなるために、骨と骨とが当たり、痛みを感じるようになる病気です。病気と言いましたが、軟骨が年齢とともに減ることは、大なり小なり全ての人にみられる変化ですので、加齢に伴う現象の一つなのかもしれません。膝に起こるのが有名ですが、手の指、股関節、背骨など、様々の関節で起こることがあります。手の指の場合は、指先のいわゆる第一関節(正式にはDIP)に起こることが多く、第一関節が節くれだってきます。

なぜ、軟骨が減るのか、その原因は不明です。加齢によるもの、力学的な負担がかかることによるもの、ホルモンの分泌の変化、さらには、一部には炎症も関与している可能性もいわれています。軟骨が変化していくだけではなく、その下の骨も変化していきますので、単純に軟骨成分を補充すればよい、というような病気ではありません。

軟骨が減っていくペースはゆっくりしたものなので、たいていの場合、治療は不要です。

軟骨の減少に対して、現在ある抗炎症治療はすべて無効です。対症療法として、関節内へヒアルロン酸を注入し、軟骨を保護することが行われます。痛みに対しては、各種の鎮痛薬が使用されます。関節への負担を減らすために、周辺の筋肉を強化するリハビリも行われます。不幸にして軟骨の減少が高度になった場合には、人工関節を入れる場合もあります。変形性関節症の治療薬の開発は、現在のホットスポットです。近い将来には新たな治療薬が登場するものと思われます。

1-3.関節リウマチ(炎症による関節の痛みの代表)

「炎症」による関節の痛みの代表的な病気が「関節リウマチ」です。関節リウマチでは、全身の関節に炎症が起こり、関節が破壊されていきます。不思議なことに、関節リウマチは、首の骨(頸椎)には炎症を起こしますが、その他の背骨(胸椎、腰椎、仙椎)の関節には、ほとんど炎症を起こしません。これが、後でお話しする「脊椎関節炎」との大きな違いです。

「関節が破壊されていきます」と申し上げましたが、「炎症」はどのように関節を破壊するのでしょうか。関節リウマチを例にみてみましょう。

関節にはいろいろな種類がありますが、代表的なものは、二つの骨と骨をつなぐ関節です。それぞれの骨の先端は、軟骨という柔らかいクッションで覆われ、二つの骨が当たり合う衝撃を和らげています。関節リウマチでは、この軟骨と骨が壊されていきます。

まずは、軟骨を壊していくメカニズムです。
関節を包み込んでいる「関節包」の内側は、滑膜細胞という白血球系統の細胞で覆われています。炎症が起こると、滑膜細胞は、大量のMMP(蛋白質を分解する酵素)を作ります。この分解酵素であるMMPが、軟骨を分解していきます。MMPは20種類以上ありますが、代表的なものがMMP-3で、これは日常の血液検査でも測定され、関節リウマチの炎症の程度を評価するマーカーとなっています。名前を聞かれたことのあるかたも多いと思われます。

次は、骨を壊していくメカニズムです。
先ほど申し上げた滑膜細胞は、炎症が起こると増殖し、体の他の場所から集まってきた細胞とともに、パンヌスという白血球系統の細胞の集団を形成します。このパンヌスが骨に食い入るように侵入していき、骨を壊していきます。細胞の集団の最前線、骨に接する部分には、破骨細胞という、文字通りの働きを持つ細胞が、骨を破壊している様子が認められます。

この二つの働きがあいまって関節が壊れていくと、肉眼的にも関節の変形が認められるようになります。伸びない、曲がらない、ずれてしまう(脱臼・偏位)など、通常の状態とは異なるようになると、関節を十分に使うことができなくなります。つまり、関節の機能が障害されていきます。

関節の機能が障害されると、生活への影響が生じてきます。これは1999年、まだ生物学的製剤やJAK阻害薬が導入される前の、フィンランドからの報告です(J Rheumatol 1999;26:1681)。これを見ますと、関節リウマチを発症した時には働いていた人が、1年後には5人に1人、3年後には3人に1人が失業しています。関節の機能の障害は、家庭生活・社会生活の障害につながっていくのです。

1-4.関節リウマチ以外の、炎症によって関節が痛む病気

このような障害をふせぐためには、関節リウマチであることを早期に診断し、早期に治療することが重要であることはいうまでもありません。診断が違っていたら、治療はうまくいきません。他の病気でも事情は同じです。
それでは、関節リウマチを代表とする「炎症」による「関節炎」を起こす病気にはどのようなものがあるのでしょうか。

この図は、日本リウマチ学会のホームページからとってきたものです。関節リウマチと似た関節症状を起こす病気のリストですが、多くは、「炎症」による病気です。ごらんのように、数多くの病気がありますので、全部をお話しするのは不可能です。代表的なものだけピックアップしてお話ししていきましょう。

1-5.痛む関節が1か所の場合の病気

化膿性関節炎

手がかりとして、痛む関節の「数」でわけていきましょう。
痛む関節が1か所の場合の病気としては、化膿性関節炎が代表的です。

化膿性関節炎は、細菌などの病原菌が、皮膚表面の傷などから関節の内部に侵入することによって起こります。関節の痛みや腫れ、発赤が強いことが特徴です。関節に針を挿し、溜まっている関節液を採取し、菌がいるかを調べることで診断を行います。当然のこととして抗菌剤で治療を行います。

人工関節を入れている関節に菌が侵入すると、人工関節の入れ替えをしなければならなくなることもあります。人工関節を入れているところの皮膚には、傷をつくらないために、衣類などで保護するように心がけましょう。

痛風

痛む関節が1か所の病気としてもう一つ大事なのが、痛風です。痛風は、尿酸の結晶が関節内に貯まり、炎症を誘発することによって起こります。足の親指の付け根の関節に起こることが多く、痛みは強烈です。近くを他人が通るだけでも痛くなるというくらいです。赤く腫れている関節に針を挿し、関節液を採取し、その中に尿酸の結晶を認めれば、診断は確定です。最近は、超音波エコーでも診断できるようになりました。突然に起こる強い痛みは、数日で改善することが多いのですが、何しろ痛みが強いので、コルヒチンや消炎鎮痛剤などで対応します。原因である尿酸の結晶を無くすためには、尿酸降下薬を使って、6㎎/dl以下の濃度の状態を数年間維持することが必要になります。「のどもと過ぎれば熱さ忘れる」で、この数年間の維持ができない人が多いのは、残念なことです。

1-6.脊椎関節炎

痛む関節の数がもう少し多く、数か所までの病気の代表としては、「脊椎関節炎」が挙げられます。脊椎関節炎は、首からお尻のかけての背骨(頸椎・胸椎・腰椎・仙椎・仙腸関節)や胸の骨(胸骨・鎖骨・胸鎖関節・胸肋関節)、股関節など、「体軸」といわれる部分が痛む関節炎です。さらに、手足の関節にも関節炎が起こることがあります。手足の関節炎が主体の場合は、「末梢性の脊椎関節炎」と呼ばれます。

脊椎関節炎は、生活スタイルの欧米化のためか、近年、我が国で増加傾向の関節炎です。肥満、糖尿病などの生活習慣病を合併することもよくあり、これによる障害が関節の問題を上回ることもあります。

脊椎関節炎は、以下の7つに分けられます。このうちの、乾癬性関節炎と、掌蹠膿疱症性骨関節炎に、本日はスポットを当てようと思います。

①強直性脊椎炎

②乾癬性関節炎

③急性前部ブドウ膜炎(眼の炎症です)にともなう脊椎関節炎

④反応性関節炎

⑤炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)にともなう関節炎

⑥小児の脊椎関節炎

⑦分類不能関節炎(掌蹠膿疱症性骨関節炎、SAPHO症候群が代表的)

乾癬性関節炎

わが国で最も多い脊椎関節炎が、「乾癬性関節炎」です。乾癬性関節炎でよくみられる症状は以下の通りです。

①乾癬:皮膚の病気です。乾癬といっても、いろいろな皮膚病変のパターンがありますが、代表的な尋常性乾癬は、皮膚のかゆみと角化(ささくれだち)を伴う赤い発疹です。診断は、皮膚科の先生が発疹部分の組織を採取し、顕微鏡で調べることで確定します。

②爪の変化:爪の水虫である爪白癬と間違いやすい変化を認めます。爪の変化も、いろいろなパターンがありますので、皮膚科の先生に診断していただきます。

③脊椎炎:背骨、とくに首から胸の部分の炎症です。進行すると、背中が曲がらなくなっていきます。

④仙腸関節炎:お尻の部分の痛みとして現れます。

⑤指炎:手足(足のほうが多い)の指全体が腫れてきます。

⑥付着部炎:アキレス腱の付着部が代表的ですが、体中の至る所に付着部はあります。

付着部炎は、乾癬性関節炎の本体ともいえる症状ですので、少し詳しく説明しましょう。付着部炎とは、「筋肉が腱に移行していき、骨に付着している部分」、いわゆる「付着部」に炎症が起こり、痛み、腫れ、熱感、発赤などを認めることをいいます。当然のこととして、全身の至る所に「付着部」は存在します。とくに重要な付着部は、肘の外側、膝の内側、かかとのアキレス腱の付着部の3か所です。

指にも、細かな運動を可能とするために、腱の付着部が数多くあります。実を言いますと、さきほど挙げました⑤の「指炎」も、指の付着部の炎症による付着部炎です。さらには、②の爪の変化も付着部炎との関連をいわれていますが、この説明は省きましょう。

乾癬性関節炎では、爪のすぐ近くにある関節(いわゆる第一関節、正式にはDIPといいます)の炎症が多いのも重要な特徴です。爪の変化がある場合には、無い場合よりも第一関節の変形が起こりやすいことも報告されています(J Rheumatol 2019;46:1097)。同じように第一関節に症状がでることの多い病気として、先ほどお話ししました、変形性関節症があります。このために、乾癬性関節炎は、変形性関節症と間違えられることもあります。

付着部は腱で引っ張られますので、負担がかかる場所です。この負担がかかることが、炎症を起こす原因として重要であることが、動物実験などからわかっています。

付着部炎が起こると、その部分の骨が増殖し、肉眼的には硬く盛り上がってきます。付着部のすぐ近くには関節がありますから、炎症は関節内に波及していきます。そうしますと、関節リウマチの場合と同じように、軟骨が壊され、骨も壊されていきます。

乾癬性関節炎の手指のレントゲンをとりますと、関節の周辺の骨が増えており、関節の軟骨は減っていて、関節の直近の骨も減っている、という特徴をみることができます。

皮膚病変である乾癬や、爪の変化がわかりやすい場合は、乾癬性関節炎を診断することは、それほど難しいことではありません。しかし、乾癬性関節炎の患者さんの5人に1人は、関節炎のほうが先行して、後になって皮膚病変がでてきます。関節の病変と皮膚の病変が同時に出てくる人も、6人に1人程度いるといわれます。このような場合は、皮膚病変がないので、あるいは皮膚病変に気づきにくいので、どうしても診断が遅れてしまいがちです。

さらには、皮膚病変の乾癬が先行している場合でも、必ずしも常に病変がでているとは限りません。冬にだけでてくる人などもいらっしゃいます。足の裏やお尻、髪の毛の生え際など、通常の診察では観察しにくい場所にでることも多く、診断には、専門家である皮膚科の先生の協力が不可欠です。

治療については、後半の治療編で説明します。

掌蹠膿疱症性骨関節炎

皮膚病変が大事な脊椎関節炎として、もう一つ、わが国において重要な病気があります。
それは「掌蹠膿疱症性骨関節炎」です。

掌蹠膿疱症とは、手のひらや足の裏に小さな膿疱が数多く出てくる、皮膚の病気のことをいいます。それぞれの皮疹は、最初は透明な液体が溜まった小さな水疱ですが、次第に大きくなり、中央部から黄色い膿が溜まってきて、いわゆる膿疱になります。痛みやかゆみを伴います。改善したり悪くなったりを繰り返しながら、慢性の経過をとります。

この掌蹠膿疱症に骨や関節の炎症を伴うことがあります。それを掌蹠膿疱症性骨関節炎といいます。この病気では、胸のところ、胸骨と鎖骨をつなぐ胸鎖関節に炎症を起こすことが多く、その場所では、痛みを感じるだけでなく、骨が盛り上がってきます。それだけでなく、背骨や仙腸関節(お尻のところ)にも炎症を起こすことがあります。このため、掌蹠膿疱症性骨関節炎は、「脊椎関節炎」のグループに含まれます。

理由はわかりませんが、掌蹠膿疱症は、体のほかの場所の慢性の感染症を合併することがしばしばあります。扁桃腺炎、副鼻腔炎(蓄膿)、歯根部膿瘍(歯槽膿漏)が代表的です。これも理由はわかりませんが、これらの感染症を治療する、たとえば扁桃腺を摘出すると、掌蹠膿疱症、そして骨関節炎が、改善もしくは治癒することがあります。

掌蹠膿疱症性骨関節炎と診断し、炎症を起こしている場所を把握するために有用な検査が、骨シンチグラムです。炎症を起こしている場所に取り込まれる物質(放射性同位元素を標識として付けています)を注射し、6時間後に撮影します。そうしますと、先ほど申し上げました胸鎖関節や仙腸関節が、他の場所よりも黒く映り、これらのところに炎症を起こしているとわかります。

もう一つ有用な検査はMRIです。一般的に行われるのは、STIRという条件での撮影です。この条件では炎症があると、たとえば仙腸関節の炎症であれば、骨と骨の中が白く光ってみえます。

このような画像検査を活用し、診断や治療の評価を行っていきます。治療については、後半の治療編でご説明します。

1-7.膠原病の関節炎

痛む関節の数が数か所以上に及ぶ関節炎として代表的なのは、関節リウマチです。しかし、関節リウマチ以外の膠原病、または、高齢者に多い血管炎、あるいは、先ほどとりあげました末梢性の脊椎関節炎の代表である乾癬性関節炎、でも数多くの場所の関節が痛むことがあります。膠原病の関節炎について、ざっと触れておきましょう

全身性エリテマトーデス

まずは、膠原病の代表格というべき、全身性エリテマトーデスです。皮膚病変や腎臓病変が注目されがちな全身性エリテマトーデスですが、実は関節炎を起こすことも多い病気です。最初の発症時で5割、経過を通じては9割の患者さんが関節の炎症を経験されるといわれます。

関節リウマチと違って、全身性エリテマトーデスの関節炎の場合は、関節の中の滑膜細胞の関与は少なく、骨自体はあまり壊れていきません。むしろ、骨と骨をつないでいる靭帯や、骨と筋肉をつないでいる腱が壊れていくことが目立ちます。そのために、関節が緩んだようになり、手の指が小指側に曲がっていく変形の仕方になります。こういう変形のことを、Jaccoud(ジャクー)変形といいます。

シェーグレン症候群

涙を作る涙腺、唾液を作る唾液腺で炎症を起こすのが特徴的な膠原病です。涙が出にくくなるために、眼が乾燥して異物感を感じたり、痛くなったりします。あるいは唾液が出にくくなるために、口が乾燥してしゃべりにくくなったり、ものを食べにくくなったりします。涙腺・唾液腺以外にも、炎症は全身に起こりえます。その代表的な場所として関節があります。

シェーグレン症候群単独の場合の関節炎であれば、一時的なものでおさまることも多いのですが、シェーグレン症候群は、関節リウマチを合併することが多い病気です。前にお示ししたように、関節リウマチでは関節が壊れていきますので、十分な治療が必要です。シェーグレン症候群で関節の炎症が続くときは、単独なのか、関節リウマチとの合併なのか迷うことは珍しくありません。わかったときにはすでに関節が壊れていたというのでは困りますので、関節リウマチと同様に、十分な薬物治療が行われることが多いと思われます。

多発性筋炎・皮膚筋炎

多発性筋炎は筋肉と肺、皮膚筋炎は皮膚と筋肉と肺、の炎症を主とする膠原病です。これの病気でも、やはり関節にも炎症が起こることがあります。筋肉に炎症があっても、それは自覚症状として感じられないことが多いので、関節炎だけだと間違われ、関節リウマチとして治療されていることがあります。

とくに抗ARS抗体が陽性の場合に、関節炎がよく起こるようです。この抗体が陽性の場合の筋炎を、「抗ARS抗体症候群」として独立して扱うようにもなっています。

多発性筋炎・皮膚筋炎で関節炎が起きているときには、筋肉や肺の炎症も起こっているのが一般的です。筋肉や肺の炎症に対しては、ステロイド剤の中等量以上や免疫抑制剤を組みあわせた強力な治療を行います。これによって関節の炎症も抑えられますので、関節への単独の治療が行われることは通常はありません。

強皮症

次は強皮症です。血管の障害と線維化を主とする膠原病です。血管の障害としては、寒いときに指先がろうそくのように真っ白になる、レイノー現象が有名です。線維化としては、手指の皮膚が固くなる、皮膚硬化が代表的です。しかし、皮膚が固くなる前に、炎症が起きる時期があります。この時期には、手指全体がむくんだようになり、手指が曲げ伸ばししにくくなります。あまり多くはありませんが、手指の曲げ伸ばしの時に、腱がこすれる音が聞こえることもあります。

この状態が継続すると、手指は曲がったまま伸びなくなりますので、腱や腱を覆っている鞘である腱鞘の炎症に対して、関節リウマチに準じた治療を行います。しかし、現在の治療での効果は不十分なこともしばしばあり、これからの進歩が必要な領域です。私の個人的な意見としては、IL-6阻害薬が有用と思われますが、保険適応はありません。

ベーチェット病

ベーチェット病は、血管に炎症が起こる病気、「血管炎」の一種です。動脈にも静脈にも、細い血管にも太い血管にも、血管の炎症が起こりえます。口の潰瘍、皮膚の発疹、眼の網膜の炎症による視力の低下、陰部の潰瘍が代表的な症状です。口の潰瘍は全身性エリテマトーデスでも起こりますが、ベーチェット病の場合は、舌の横や下部に出来て、かつ痛みが強いのが特徴です。

ベーチェット病の患者さんの約半数で関節炎が認められます。膝、手、足などの大きな関節に多いとされます。自然におさまることもあり、関節が壊れていくことは少ないので、非ステロイド性消炎鎮痛剤で対症的に対応されることが一般的です。症状が続くときには、関節リウマチに準じた治療が行われます。ベーチェット病の皮膚症状などに対して使われる、コルヒチンという薬は、関節炎の発生を予防する効果があるとも言われます(Arthritis Rheum 2001;44:2686)。

ベーチェット病には、承認されたオテズラや、まだ承認されていないIL-23阻害薬など、有望な新規治療薬がいろいろあります。これらの薬剤の関節炎への効果が、今後検証されていくでしょう。

その他の血管炎につきましては、当ホームページの血管炎の記事をご参照ください。

1-8.炎症の起きる場所による、関節炎の分類

関節炎は、関節の「内部」の炎症を主とする関節炎と、関節の「周辺」の炎症を主とする関節炎とに分けられます。この両者は、それぞれ単独で起きることもあり、「内部」から「周辺」へ、あるいは「周辺」から「内部」へと波及していくこともあります。

この場所の違いによって、当然のことではありますが、診断も違ってきますし、治療のやり方も違ってきます。

関節の「内部」が中心である関節炎の代表は、関節リウマチです。その炎症のパターンについては冒頭でも説明しましたので、ここでは省きましょう。関節リウマチでは、関節の中の「滑膜」の細胞の炎症によって、関節の中の軟骨や骨が破壊されていきます。炎症が強い場合には、関節の「内部」から「周辺」に炎症が及び、腱鞘炎などを起こすこともあります。

RS3PE症候群

関節の「周辺」の炎症として、まず「腱」に着目してみます。「腱」とは、「筋肉」と「骨」をつなぐ構造物です。あるいは、筋肉の端が「腱」となり、骨に付着している、といったほうが理解しやすいかもしれません。「腱」は「腱鞘」といわれる鞘に覆われていますが、「腱鞘」にも「滑膜」が存在します。この「腱鞘滑膜」に炎症を起こすのが、「RS3PE症候群」です。

「腱鞘」は全身に分布していますが、「RS3PE症候群」では、とくに手首から手の甲にかけて、それから足首から足の甲にかけての腱鞘に炎症を起こします。手首から手の甲、足首から足の甲が痛くなり、腫れあがって、手の指や手首、足首が動かしにくくなります。

関節リウマチと違って、リウマトイド因子や抗CCP抗体は陰性です。また、メトトレキサートの効果は不十分で、ステロイド剤が治療の中心となります。

ただし、RS3PE症候群は関節リウマチと合併することもあり、また、お互いに移行していくこともあるので、注意が必要です。その場合は、そのときの状況にしたがって、治療内容を調整していきます。

リウマチ性多発筋痛症

次は、関節の周辺で、筋肉と骨がこすれ合うのを防いでいる「滑液包」の炎症です。ここに炎症を起こすのは、「リウマチ性多発筋痛症」という病気です。

「リウマチ性多発筋痛症」では、とくに、肩や、足の付け根の部分の「滑液包」の炎症を起こします。発症は急激です。高齢の方が、突然、首や肩、上腕、ふとももの痛みを訴えた時には、この病気を疑う必要があります。

血液検査で、CRPや血沈が高度に上昇し、リウマトイド因子や抗CCP抗体は陰性となります。リウマチ性多発筋痛症も、メトトレキサートの効果は限定的で、治療の中心はステロイドになります。

リウマチ性多発筋痛症も、関節リウマチと合併することもあり、また、お互いに移行していくこともあるので、注意が必要です。その場合は、そのときの状況にしたがって、治療内容を調整していくのも、RS3PE症候群の場合と同様です。

付着部炎としての脊椎関節炎

RS3PE症候群では、「腱」を覆っている「腱鞘」の滑膜が炎症を起こしますが、「腱」に関わる炎症はそれだけではありません。「腱」が骨に付着している場所に炎症を起こすことがあります。それが、「付着部炎」です。

容易に想像されるように、筋肉と骨をつなぐ腱が、骨に付着する部位には力がかかりますので、それが炎症を誘発する原因の一つではないかと考えられています。

付着部炎を起こす病気の代表は、「脊椎関節炎」です。脊椎関節炎の中で、わが国で重要な病気である「乾癬性関節炎」、「掌蹠膿疱症性骨関節炎」については、前にも触れました。脊椎関節炎は、付着部という、関節の「周辺」から、「内部」へと炎症が波及していく関節炎を起こす病気の代表格です。

腱の付着部は、当然のこととして全身に分布していますが、とくに重要なのは3か所です。肘の外側と、膝の内側と、かかとのアキレス腱です。「脊椎関節炎」では、これらの部分が痛むことがあります。

関節リウマチでも、このような部位の痛みを感じることがありますが、このような部位の痛みが継続する場合は、やはり、「脊椎関節炎」の可能性を考える必要があります。両者は、治療のやり方が違いますので、しっかり区別する必要があります。脊椎関節炎の治療については、後半の治療編で説明させていただきます。

1-9.前半のまとめ

すでに、だいぶ長くなってしまいましたが、ここまでが、前半の「関節の痛みが続くとき、どのような病気を考えるか?」の話です。前半を終えるにあたって、簡単に注意点をまとめておきましょう。

①関節の痛みは、炎症によるものかどうか、を区別することが大事です。

②関節の炎症は、関節の破壊、関節の機能低下に結びつき、生活の上での障害になります。

③関節の痛む関節の数が多いほど、リウマチ膠原病内科の対応する病気が多くなります。

④最近増えているのが脊椎関節炎で、乾癬性関節炎が代表的です。脊椎関節炎の治療は、関節リウマチとは異なります(後述)。

⑤関節の病気は最初のうちは病像が典型的でないことも多く、治療が思わしくない場合は、診断を見直す必要があるかもしれません。とくに、膠原病に伴う関節炎や脊椎関節炎では、バリエーションが多く、注意が必要です。

2.最近の治療の動向は?

2-1.治療戦略の進歩と治療手段の進歩

治療の進歩には、以下の二つの側面があります。

①治療の考え方(治療戦略)の進歩

②治療手段(薬剤)の進歩

①の治療の考え方(治療戦略)の進歩については、主に二つのお話をさせていただきます。

一つは、T2Tの実践です。T2T(ティー・ツー・ティーとよみます)とは、Treat to Target、日本語で言いますと、「あらかじめ設定された治療目標を、できるだけ速やかに達成するように、治療を調整する、治療戦略」となります。

もう一つは、PROの重視です。PROとは、Patient Reported Outcome、適当な表現がないのですが、日本語では、「患者さん自身が評価する、現在の状態」となるでしょうか。病気の勢いの評価、治療効果や副作用の評価、病気による障害の程度の評価など、診療全般にわたって、患者さん自身の評価を活用していくという考え方です。

②の治療手段(薬剤)の進歩については、いろいろな病気に触れながら、その中で適宜ご紹介していきます。では、さっそく始めましょう。

2-2.関節リウマチの治療

2-2-1.T2Tとは何か

先ほどもお話ししたように、あらかじめ治療目標を設定しておき、それをできるだけ早く達成するように治療を調整する、治療戦略です。

従来は、関節リウマチの治療だけに適用される戦略でしたが、近年では、乾癬性関節炎(脊椎関節炎)や、全身性エリテマトーデスにも、T2Tの概念が導入されつつあります。

これまでこの市民公開講座に参加していただいた方には、復習になりますが、まずは関節リウマチのT2Tについて説明させていただきます。

関節リウマチの治療は、たとえれば、4階建ての家の火事を消すようなものです。

1階で関節の炎症という火が出ました。この火は、2階の関節の破壊につながり、さらに延焼して3階に至ると、関節の機能が障害されます。さらに火は、4階に至り、現在の生活を困難にし、働ける能力が障害され、ひいては他の臓器にも影響して寿命が短くなるという結果につながってしまいます。

このような結果を招かないためには、1階の関節炎症の時点で、しっかりと火を消す、つまり、炎症を抑え込むことが必要です。

それでは、どの程度まで、関節の炎症を抑え込めば、1階で火を消し止め、2階より上の階を守ることができるのでしょうか。この問題に答える前に、そもそも、関節の炎症の強さ(活動性)をどのような方法で評価すればよいのか、という問題を解決しなければいけないでしょう。
 

2-2-2.関節の炎症の程度(活動性)を評価する

関節の炎症の強さを評価する方法にはいくつかありますが、DAS28とSDAI、CDAIという総合的な指標が代表的です。これらの指標は以下の4つの項目をもとに計算され、数値化されます。

①圧痛関節痛:おさえると痛みを感じる関節の数

②腫脹関節数:腫れている関節の数

③血液検査の炎症マーカー:CRP、血沈(日常臨床では、この他にMMP-3も使用されます)

④患者さんの自己評価:最大を10もしくは100とした場合、現在の状況はいくつくらいか

これを見ればおわかりのように、関節に実際に触れて、関節の状態をチェックすることが重要です。

活動性は、低い順に、「寛解」、「低活動性」、「中等度活動性」、「高活動性」に分けられます。
 

2-2-3.関節リウマチの治療目標:寛解

1階の関節の炎症を、2階の関節の破壊につなげないようにするためには、「寛解」の状態まで炎症を抑制することが望ましいことがわかっています。

寛解の基準にもいろいろありますが、代表的なものを以下にお示しします。

①圧痛関節数が1か所以下

②腫脹関節数が1か所以下

③CRPの値が正常範囲

④患者さん自身の病状の全般評価が、最悪を10とした場合の1以下

これらの条件を達成できるように、治療を調整していきます。ただし、関節リウマチになってからすでに長い期間が経過している方では、これらの条件を充たすのは困難な場合がありますので、その場合は、「低活動性以下」が目標となり、ここに挙げた①、②、④の「1」という数字は、「3」くらいまで許容されます。「3」くらいでも、関節破壊の進行は少ないからです。

寛解という目標をめざす治療戦略、T2Tの実際をお示しします。

治療開始時点では、中等度から高活動性の方が多いでしょう。この時期には1か月ごとに活動性を評価し、3か月ごとに治療手段(薬剤)を見直します。そして、めやすとして、6か月以内くらいまでに、寛解という目標を達成することを目指します。 いったん、目標を達成したら、今度は再燃(ふたたびの活動性の上昇)を防ぐために、3から6か月ごとに活動性を評価し、活動性が再燃して目標を外れているようであれば、治療の見直しを行います。
 

2-2-4.関節リウマチの治療薬

分類
このようなT2Tが現実に行われるようになったのも、強力な治療手段(薬剤)があってのことです。そうでなければ、T2Tは絵にかいた餅になってしまいます。

関節リウマチの治療薬、抗リウマチ薬は4つの種類に分けられます。

①従来型合成抗リウマチ薬:原則として内服薬の、これまでも使われてきた薬剤です。
メトトレキサート(リウマトレックスなど)、アザルフィジンEN、リマチル、ケアラム、プログラフ、アラバ、シオゾール

②標的型合成抗リウマチ薬:内服の薬剤で、生物学的製剤に勝るとも劣らぬ効果を発揮します。現状では、いずれもJAK阻害薬という薬剤です
ゼルヤンツ、オルミエント、スマイラフ、リンヴォック

③生物学的製剤(先行品):関節リウマチの治療に革命をもたらした、強力な注射剤です
レミケード、エンブレル、ヒュミラ、シンポニー、シムジア、アクテムラ、ケブザラ、オレンシア

④生物学的製剤(後続品):先行品の有効性・安全性はそのままに、価格を低減させた注射剤です
インフリキシマブBS、エタネルセプトBS
 

2-2-5.最初の治療はMTXで

関節リウマチの初期治療の中心は、MTX:メトトレキサート(商品名はリウマトレックス、メトレートなど)です。世界中のガイドラインで、関節リウマチと診断されたら、MTXが使えない状況でない限りは、MTXを開始することになっています。

ここでの注意点が、二つあります。一つは、MTXを十分な量で使うことです。MTXの十分量とは、通常の体重、通常の腎機能の人であれば、1週間で10~12㎎ということになります。1週間に4~6㎎といった少量では、十分な効果は、あまり期待できません。

また、さきほどのT2Tのところで述べたように、治療を開始して6か月くらいまでに寛解を達成できそうになかったら、MTXによる治療を見直す必要があります。漫然と、MTXだけで治療を引っ張るのはよいことではありません。
 

2-2-6.MTXで効果不十分の時は、生物学的製剤かJAK阻害薬を追加併用

では、MTXを十分量使っても、6か月時点で寛解が達成できそうにないときは、どうすることが求められているのでしょうか。

この場合も、世界中のガイドラインの意見は一致していて、生物学的製剤、もしくは標的型抗リウマチ薬(JAK阻害薬)を、MTXに追加することになっています。

関節リウマチで使用される生物学的製剤は、3つのグループに分けられます。先行品も後続品も含めてお示しします。

①TNF阻害薬:レミケード、エンブレル、ヒュミラ、シンポニー、シムジア、インフリキシマブBS、エタネルセプトBS

②IL-6阻害薬:アクテムラ、ケブザラ

③T細胞共刺激阻害薬:オレンシア

生物学的製剤は、実は先ほどの4階建てのたとえでいう、1階の炎症を抑制する効果が高いだけでなく、2階の関節破壊も直接的に抑え込む作用を持っています。

たとえば、TNF阻害薬ヒュミラのOPTIMAという試験の結果をみてみましょう。MTXだけの治療では、平均として、患者さんの関節破壊の指数は増えていってしまいますが、この6か月の時点でヒュミラを追加しますと、そこからは関節破壊の指数が増えずに横ばいになっていることが見てとれます。

最初からMTXとヒュミラを併用した場合には、最初から関節破壊の抑制効果があるわけですから、6か月時点での関節破壊の指数は、さらに低いものになります。

このような試験の結果を受けて、活動性が高く、治療目標を達成することが困難であると予想される場合などでは、最初からMTXとヒュミラ、もしくはMTXとシムジアによる治療を行うことが認められています。
 

2-2-7.MTXを使えないときの生物学的製剤は

MTXを十分量で併用した場合の生物学的製剤の効果は、TNF阻害薬でも、IL-6阻害薬でも、T細胞共刺激阻害薬であっても、いずれも同等です。

では、MTXが併用できない場合(腎臓の機能や、肝臓の機能が悪い場合、MTXを試したらアレルギーが出てしまった場合など)には、どうでしょうか。生物学的製剤の効果はどれも同じでしょうか。

実は、MTXが使えない、単独使用の場合は、IL-6阻害薬は、TNF阻害薬よりも効果が高い場合が多いことが知られています。

IL-6阻害薬アクテムラとTNF阻害薬ヒュミラを比較してみましょう。有名なADACTA試験の結果です。これを見ますと、平均として、アクテムラのほうが、寛解や低活動性を達成した患者さんが多かったことがわかります。

もう一つのIL-6阻害薬であるケブザラでは、どうでしょうか。MONARCH試験の結果をご紹介します。ここでも、比較の対象となるのは、TNF阻害薬ヒュミラです。先ほどの結果と同様に、平均として、ケブザラのほうが、寛解や低活動性を達成した患者さんが多かったことがわかります。

こうなると、MTXが使えない、単独使用の場合、アクテムラとケブザラのどちらが優れているか、という疑問がでてくると思われます。この答えを実証する試験結果はありません。私の個人的な意見(妄想のようなものです)としては、アクテムラ皮下注2週間ごとの場合では、ケブザラのほうが有利な場合が多く、アクテムラ皮下注1週間ごとの場合には、アクテムラのほうが優れているのではないか、と考えています。お値段も、ちょうどこの関係、アクテムラ皮下注2週間ごと<ケブザラ<アクテムラ皮下注1週間ごと、となっています。
 

2-2-8.DT-RA(治療困難な関節リウマチ)という概念

このように、強力な治療手段である生物学的製剤を使えるようになった現在でも、治療がうまくいかない場合は、少なからず存在します。このような場合を、DT-RA(Difficult-to-treat RA):治療困難な関節リウマチ、といいます。明確に定義された概念ではありませんが、主に4つのパターンがあるようです。

①関節の炎症が十分に抑えられない

②合併症などのために思うように治療できず、関節の炎症が十分に抑えられない

③医療者側は十分に関節炎症を抑えていると思っているが、患者さんは不満足 (不満の原因は、関節リウマチによるもの)

④医療者側は十分に関節炎症を抑えていると思っているが、患者さんは不満足 (不満の原因は、関節リウマチ以外のことによるもの)

この中で、とくに③の場合、つまり、医療者の評価と、患者さん自身の評価との間に、ギャップがあるということが、とくに注目されます。
 

2-2-9.医療者と患者の病状評価のギャップ

医療者による評価と患者さんによる評価にギャップがあることは、以前から知られていました。

たとえば、このArthritis Rheum 2012;64:2814の報告によりますと、関節の炎症を評価するときに、どのような点を重視するかということについて、医師と患者のギャップは明らかです。医師は、関節の腫れの重視する場合が70%近くになっています。これに対して、患者さんは、痛みを重視する場合が80%近くになっています。

痛みの問題だけではなく、関節リウマチの患者さんのアンメットニーズ(充たされていない要望)が変化していることが、近年、クローズアップされてきています。

たしかに、腫脹関節数、圧痛関節数、CRPの値は、昔の治療に比べて、改善されています。

しかし、痛み、疲労・倦怠感、抑うつ・気分障害などの精神的問題などは、まだ十分には解決されていないアンメットニーズとして、残されています。
 

2-2-10.PRO(Patient Reported Outcome):「患者自身が評価する、現在の状態」

痛みや疲労など、患者さんにしかわからない状態を評価しよう、そしてそれを診療に活用しようとする動きが、進んできています。その動きが、PROの重視です。先にもあげましたが、PROとは、Patient Reported Outcome、うまく表現できませんが、日本語では、「患者さん自身が評価する、現在の状態」となるでしょうか。

PROの意義はさらに広いものであり、病気の勢いの評価、治療効果や副作用の評価、病気による障害の程度の評価など、診療全般にわたって、患者さん自身の評価を活用していくことが可能です。

PROによる評価の具体例をみていきましょう。

まずは、痛みや疲労などのPROの改善度をどう評価するか、ということに関して、MCIDとPASSという考え方を紹介します。
 
MCID:Minimal clinically important differenceとは、最低でもこのくらいの程度よくなったら、効果があったなと患者さんが実感できる、最低限の差ということになります。

PASS:Patient acceptable symptom stateとは、このくらいの程度の状態であれば我慢できるよ、と患者さんが納得できる、最低限の状態ということになります。

たとえば、痛みの場合は、最悪を100とした場合のMCIDは-11.8ですから、11.8以上改善した場合に、痛みが和らいだと実感できるということになります。PASSは34.0ですから、最悪100とした場合で34以下の程度であれば、痛みは我慢できるレベルである、ということになります(Rheumatology Int 2016;36:685)。

ちなみに、疲労度は、最悪を100とした場合で、MCID:-10.0、PASS:50.0ですので、10以上改善したら、疲れがましになったと実感できるいうことになりますし、50以下、つまり最悪の半分以下の疲れだったら、我慢できるということになります。

それでは、現在使われている生物学的製剤による治療で、PRO:「患者さん自身が評価する、現在の状態」は、いかがでしょうか。さきほども引用しましたRheumatology Intの報告です。この結果を見ますと、生物学的製剤による治療でも、痛みに関して、MCIDもPASSも達成は不十分です。PROという指標を用いると、現在の治療はまだ不十分な場合があることが、明らかになりました。
 

2-2-11.JAK阻害薬

概要
このような状況を踏まえたうえで、JAK阻害薬という関節リウマチの治療薬の説明に移ろうと思います。

JAK阻害薬は、炎症の活動性を抑え込む効果においても、関節の破壊を防止する効果においても、生物学的製剤に勝るとも劣らぬ効果をもつ、強力な治療手段です。さらに、JAK阻害薬は内服薬ですので、注射剤である生物学的製剤に比べて、簡便に使用できるという特徴があります。

また、JAK阻害薬は、PRO(患者自身が評価する、現在の状態)の改善効果が優れています。

JAK阻害薬に属する薬剤は、ゼルヤンツ、オルミエント、スマイラフ、リンヴォックです。

JAK阻害薬は、関節の炎症に関わる、JAKという経路を邪魔して、炎症を抑え込む薬剤です。
JAK阻害薬は、JAK経路を活性化するATPという物質と似た構造になっています。このために、ATPと競争するようにして、JAK経路の活性化を邪魔し、炎症を起こすために重要な、サイトカインなどの働きを抑制し、炎症を抑え込むことになります。

生物学的製剤は、1種類の炎症の経路を、継続的にブロックする、のが特徴です。これに対して、JAK阻害薬は、複数の炎症の経路を抑制しますが、継続してブロックするのではなく、1日の内、何時間かの間だけブロックする、という特徴があります。それぞれに一長一短があります。

JAKには4種類、JAK1、JAK2、JAK3、TYK2があります。ゼルヤンツ、オルミエント、スマイラフ、リンヴォックはそれぞれ、この4種類のJAKの働きを阻害する作用の強さは異なっています。しかし、これまでの私の使用経験では、どの薬剤でも、効果も、安全性も、あまり差がないような印象があります。リンヴォックに対する評価はこれからですが、どうでしょうか。

JAK阻害薬の安全性は、基本的に生物学的製剤と同様ですが、帯状疱疹などのヘルペスウイルス感染症については、JAK阻害薬のほうが多いことが報告されています。

JAK阻害薬のPRO改善効果
さて、JAK阻害薬のPRO(患者自身が評価する、現在の状態)の改善効果はどうでしょうか。先ほどご紹介しました、MCIDとPASSの評価を中心にお話ししましょう。復習します。

MCID:Minimal clinically important differenceとは、最低でもこのくらいの程度よくなったら、効果があったなと患者さんが実感できる、最低限の差ということです。

痛みの場合は、最悪を100とした場合のMCIDは-11.8ですから、11.8以上改善した場合に、痛みが和らいだと実感できるということになります。

PASS:Patient acceptable symptom stateとは、このくらいの程度の状態であれば我慢できるよ、と患者さんが納得できる、最低限の状態ということになります。

痛みの場合、PASSは34.0ですから、最悪100とした場合で34以下の程度であれば、痛みは我慢できるレベルである、ということになります

JAK阻害薬のオルミエントのRA-BEAM試験の結果をご紹介します。この試験では、治療効果の参照となる薬剤として、生物学的製剤のヒュミラが用いられています。どうも、ヒュミラばかりが他の治療薬に目の敵にされているようですが、なんといっても世界で一番売れている薬剤ですから、仕方ありません。

患者さんによる関節の痛みの評価です。オルミエントは2週間で、平均でMCID-11.8をクリアしています。そして4週間で、平均でPASS34程度になっています。言い換えますと、オルミエントで治療を開始して、2週間後には痛みがましになったと感じられるようになり、4週間後には、痛みは我慢できるレベルまで抑えられた、ということになります。詳細は述べませんが、ヒュミラより良好な結果でした。

ほかのPROも改善しています。生活に必要な機能を表す、HAQ-DIという指標も、1週間に平均でMCID0.2をクリアし、8週間後にはPASS1.0をクリアできています。この場合も、ヒュミラより良好な結果でした。

さらに、疲労の改善度もみてみましょう。疲労はFACIT-FというPRO指標で評価されています。残念なことに、FACIT-FのMCIDの報告は見つかったのですが、PASSについての報告を見つけることができませんでした。オルミエントで治療したグループは、4週間で、平均してMCID3.56をクリアできています。4週間で、疲労感が軽くなったと実感できたことになります。この場合も、ヒュミラより良好な結果でした。

JAK阻害薬が、PRO(患者自身が評価する、現在の状態)の改善効果に優れていることが、おわかりいただけたかと思います。PRO改善効果に優れていること以外にも、JAK阻害薬の特長があります。

それは、効果の継続性の面で優れている、つまり、いったん効いたら効果が鈍ってくることは少なそうだ、ということです。オルミエントの長期継続試験の結果を紹介します(J Rheumatol doi:10.3899/jrheum.161161 )。ここでは、オルミエントが有効であった82人の患者さんのさらにその後1年間の追跡調査を行っています。その1年間で3人の患者さんがオルミエントを中止しました。中止した人が3人にとどまったことも良好な結果といえると思いますが、さらに、中止した3人のうちに効果不十分のために中止した人がいなかった、というのが素晴らしいと思われます(ちなみに中止理由は、副作用が1人、詳細は不明ですが、その他が2人でした)。

JAK阻害薬の使い分け
それでは、JAK阻害薬4剤、すでに私が使用経験のある3剤をどのように使い分けているか、ということに、簡単に触れてみます。

腎臓の機能の影響を受けにくいという点では、スマイラフが最も使いやすく、次に減量の必要なゼルヤンツ、そして、腎臓の機能の指標であるeGFRが30以下の時には使えないオルミエントということになります。

治療目標を達成したあとで、減量が可能であるという試験結果がきっちり出ているという点では、オルミエントが有利です。減量できれば、安全性もさることながら、経済的負担の面で、大きなメリットがあります。
 

2-2-12.治療にかかるコストをどうするか

深刻な経済的負担
経済的負担の話がでてきましたが、関節リウマチの場合、治療にかかるコストの問題をどうするか、というのは非常に重要な問題です。最も重要な問題であるといってもいいかもしれません。

ここに、主な生物学的製剤と標的型合成抗リウマチ薬(JAK阻害薬)の患者さんの月額負担をお示しします。3割の自己負担で、体重54㎏の方を想定しています。ごらんのように、概ね3万円から4万円以上の負担になります。これは、家計に深刻な影響を与える金額です。

治療コストを下げる方法
生物学的製剤・JAK阻害薬の経済的負担を減らす方法としては以下のようなものがあります。

①高額療養費制度などの公的制度の利用
適用されるのは、一部の患者さんに限られています。

②1回投与量の減量(細く長く)
エンブレル・エタネルセプトBSが代表的です。通常量の半分の週25㎎で使用されることがあります。

③投与間隔の延長(細く長く)
治療目標が達成された後であれば、標準投与間隔の1.5倍くらいまでの延長は、一般的に可能です。2倍まで試されますが、成功率は下がります。

④一定期間(半年~1年間)投与後の中止(太く短く)
TNF阻害薬の抗体製剤で、成功率が高いことがわかっています。ヒュミラが代表的です。TNF阻害薬・IL-6阻害薬では、発症して3か月以内くらいの超早期の患者で離脱率が高いことが報告されています。逆に言いますと、発症してから時間が経過している患者さんでは、このやり方はあまりうまくいかない、ということになります

⑤バイオシミラーの利用
現時点でレミケードとエンブレルに、後続品(バイオシミラー:BSと略称されます)があります。すなわち、インフリキシマブBSとエタネルセプトBSです。

②から④についての詳細は、当ホームページの「薬を減量・中止できるか」の記事にあたっていただくことにします。ここでは、⑤のバイオシミラーについて、お話ししましょう。
 

2-2-13.バイオシミラー

先行品の生物学的製剤の、後続品であるバイオシミラーは、価格が先行品の6割以下に抑えられています。治療コストの問題に関して、有力な解決方法の一つであると言えるでしょう。

先行品、後続品といいますと、なぜ後発品と言わないのか、なぜジェネリック医薬品と言わないのか、という疑問が出てくるのではないかと思われます。

その疑問に対するお答えは、生物学的製剤のとてつもない複雑さの中にあります。

内服薬で、ジェネリック医薬品もある、頭痛薬アスピリンを例にとりましょう。アスピリンの大きさは、分子量という指標を用いますと、180という値になります。これに対して、生物学的製剤の大きさは、なんと15万という値で、3ケタの違いになります。

桁違いの複雑さのために、ジェネリック医薬品の製造を自転車の製造にたとえると、生物学的製剤のバイオシミラーの製造は、ジェット旅客機の製造にたとえられるほど、複雑な工程になります。

これだけ複雑な物質の完全なコピーを作るのは不可能です。それどころか、オリジナルの先行品であっても、製造ロットによって微妙な違いが生じているのが、生物学的製剤の世界です。そこで、微小な違いは容認して、臨床上の効果と安全性が同等であれば、バイオシミラーとして認める、ということになります。

この同等性の検証のために、まず、構造の類似性の評価、さらにはTNFの結合性などの物理化学的な試験、そして動物実験を行います。これらで十分な同等性が確認された上で、最終的には、患者さんに使ってみての臨床試験で同等性を確認することになります。先行品のオリジナルの生物学的製剤を使ったグループと、バイオシミラーを使ったグループで、効果と安全性が同等であるか、という試験です。同等性の範囲は、試験を行う前にあらかじめ設定しておきますので、あとからごまかすことはできません。

臨床試験の一例をお示しします。エンブレルで治療したグループと、エタネルセプトBSで治療したグループとで、活動性の推移を、時間を追ってみたものです。ごらんのように、二つのグループの活動性をしめす折れ線グラフは、ぴったり重なっています。このように、厳密な評価を得たうえで、バイオシミラーは市場に出てきます。先行品と同じように考えて差し支えありません。私もそのように同等と考えて、使わせていただいています。

関節リウマチの治療に関しての話はこのくらいにして、次は、脊椎関節炎の治療に移っていきましょう。

2-3.乾癬性関節炎の治療

2-3-1.乾癬性関節炎のT2Tの問題点

乾癬性関節炎が、わが国の脊椎関節炎では代表的な病気です。前にも述べましたが、乾癬性関節炎は、乾癬という皮膚症状のほかに、爪の変化、関節の炎症の関連でいえば、手指の第1関節(DIP)に代表される四肢の関節炎、アキレス腱などの付着部炎、脊椎(背骨)の炎症など、様々な症状を呈する病気です。

関節リウマチでは、四肢の関節炎のことを考えていれば、炎症の活動性のかなりの部分が把握できます。しかし、乾癬性関節炎では、そのようなわけにはいきません。

T2T、すなわち、あらかじめ治療目標を設定しておき、それをできるだけ早く達成するように治療を調整する治療戦略を行うために、どのように現在の活動性を評価するのか、どのように治療目標を設定するのか、乾癬性関節炎では、まだ統一見解がでていません。
 

2-3-2.乾癬性関節炎の治療目標:MDA

現在、臨床試験などで注目されている治療目標としては、MDA(Minimal Disease Activity):最低限まで抑えられた活動性、があります。これが一番簡便で、実地臨床の場でも利用されつつあります。私もこれを簡略化・変更したものを意識しながら、治療の見直しを行っています。具体的な項目をあげましょう。

① 圧痛関節数≦1

② 腫脹関節数≦1

③ 皮膚病変が手のひらの大きさの3倍以下

④ 患者の疼痛評価≦15(最大を100とする)

⑤ 患者の全般評価≦20(最大を100とする)

⑥ HAQ(機能評価の指標)≦0.5

⑦ 圧痛付着部数≦1

①、②、④、⑤については、関節リウマチと同様ですので、わかりやすいかと思います。しかし、MDAでは評価する関節の数が多く、私は、関節リウマチで評価する28関節+両手のDIP10関節で、評価を行っています。

③については、当然のこととして、関節だけでなく、乾癬がよくならなければならないわけです。これが出されました2010年では、体全体の皮膚病変を集めて、合計の面積が手のひらの大きさの3倍以下、となっていますが、現在の治療の進歩のことを考えますと、手のひらの大きさの1倍以下のほうがよいかもしれません。

⑦については、付着部炎について、13か所の評価をすることになっていますが、実地臨床では6か所行うのがせいぜいでしょう。

⑤については、異議が出されています。関節リウマチの4階の家の火事のたとえを思い出してください。1階の炎症の活動性が強いと、2階の破壊に至り、3階の機能の障害に至り、4階の生活上の障害に至る、という流れです。1階の活動性を決めるための指標の中に、HAQという3階の指標が入っているのは、少しおかしいでしょう。この項目があるために、発症してから期間が長く、すでに機能の低下している患者さんは、MDAを達成することが困難になります。実際にそのような報告があります(J Rheumatol 2016;43:5)

このMDAという治療目標を達成するように、乾癬性関節炎の患者さんに、T2T(初期では3か月ごとの治療見直し)を行った、TICOPAという有名な試験があります。

T2Tを行ったグループは、行わなかったグループと比べて、関節に関しても皮膚に関しても、約2倍の有効率でした。

それでは、このMDAという治療目標を達成すれば、十分なのでしょうか?つまり、1階の炎症の活動性を、MDAを達成するように抑え込めば、2階の破壊を起こさないようにできるのでしょうか?

この質問の答えは、まだ十分とはいえませんが、たとえば、Arth Care Res 2010;62:965の報告によると、MDAを達成したグループでは、関節破壊の指標であるシャープスコアが、平均として改善し、MDAを達成しなかったグループでは、平均として悪化した、となっています。MDA達成の意義はありそうです。

乾癬性関節炎では肥満の人が多いことが知られています。これに伴い、生活習慣病の合併も多いことがわかっています。MDAを達成したグループでは、生活習慣病の代表ともいえる心臓血管病変(心筋梗塞、脳梗塞)が少ないという報告があります(Arthritis Rheumatol 2019;71:271)。やや誤解を招く表現ですが、「炎症を抑え込むことにより、血管の破壊を抑制した」ということになるでしょうか。当面の治療目標として、MDAは有用と考えられます。
 

2-3-4.乾癬性関節炎の治療薬

治療目標の話が、ずいぶん長くなりました。乾癬性関節炎の治療手段(薬剤)の話に移りましょう。まもなく改訂されますが、ヨーロッパリウマチ協会の2015年の治療推奨を参考にさせていただきます。

乾癬性関節炎と診断された場合、症状がごく軽い場合は、非ステロイド性消炎鎮痛剤(痛み止め)で様子をみることもありますが、たいていは、MTX(メトトレキサート)が第1に投与されます。MTXから始めるのは、関節リウマチと同様です。

ただし、背骨の炎症(脊椎炎)に対しては、MTXは効果がないことがわかっていますので、脊椎炎がある場合は、生物学的製剤などのより強力な治療を初めから開始します。

脊椎炎がない場合、MTXによる治療を、十分な使用量で6か月行います。6か月の時点で、MDAなどの治療目標を達成できないようであれば、生物学的製剤などのより強力な治療を追加します。

「生物学的製剤などのより強力な治療」について、説明しましょう。乾癬性関節炎では、この数年間で驚くほどの数の新薬が出てきています。現在のラインナップを紹介します。

生物学的製剤
①TNF阻害薬:レミケード、ヒュミラ、シムジア、インフリキシマブBS 関節リウマチでもおなじみの薬です。関節病変、皮膚ともに有効ですが、皮膚に対しては関節リウマチの治療の時よりも、多めの量が必要な場合があります。

②IL-17阻害薬:コセンティクス、トルツ、ルミセフ 皮膚病変にとくに有効です。関節病変にも、TNF阻害薬と比べて、勝るとも劣らぬ効果です。
IL-17に直接に結合して阻害するのが、コセンティクスとルミセフです。IL-17の情報を伝達する受容体に結合して阻害するのが、ルミセフです。この作用機序の違いは、実地臨床の上でも違いとなっているようにも思われますが、直接に両者を比較した試験はまだありませんので、今後の検討が必要です。
IL-17阻害薬は、腸の炎症のある場合(潰瘍性大腸炎、クローン病)には、それが悪化する可能性がありますので、使用されません。
IL-17は、真菌(カビ)の防御に関係するサイトカインですので、IL-17阻害薬による治療をしているときは、カビの感染に注意する必要があります。皮膚の水虫、口の中

に白い苔状のものがつく口腔カンジダ、がカビの感染の代表的なものです。

③IL-23阻害薬:トレムフィア、スキリージ
皮膚病変への有効性が良好です。関節病変にも、IL-17阻害薬と比べて、勝るとも劣らぬ効果です。ただし、背骨の炎症(脊椎炎)には効果がないようですので、その場合は他の製剤を選んだほうがよいでしょう。IL-23阻害薬は、カビの感染のリスクが増えない点でも優れています。

④IL-12/23阻害薬:ステラーラ
皮膚病変には有効な効果がありますが、関節病変への効果は皮膚ほどではありません。リウマチ膠原病内科よりも、皮膚科で使用される生物学的製剤です。ただし、他の膠原病に有効であることが報告されていますので、将来、この文を訂正する必要がでてくる可能性があります。

ここまでが、乾癬性関節炎に用いられる生物学的製剤のラインナップです。乾癬性関節炎の治療では、生物学的製剤ではありませんが、もう一つ重要な薬があります。

それは、PDE4阻害薬である、オテズラです。注射ではなく、内服薬です。

皮膚病変、関節病変に対して、生物学的製剤よりは効果が劣りますが、その分、値段も安くなっています。皮膚病変では、外用薬と生物学的製剤の間を埋める薬剤として使用されます。関節に対しても、生物学的製剤を導入する前の段階、あるいは生物学的製剤が使えない場合の薬剤として使用されます。

下痢になることがありますので、開始時には少量から開始し、ゆっくりと量を増やしていきます。そのほかの副作用は少なく、安全性の高い薬剤といえるでしょう。

さらに、内服薬の薬剤としては、関節リウマチの治療薬であるJAK阻害薬が、乾癬性関節炎の治療薬として、今後使用されることになると思われます。効果も良好で、米国ではすでに承認されています。

2-4.掌蹠膿疱症性骨関節炎の治療

脊椎関節炎で、わが国では乾癬性関節炎に並んで重要なのが、掌蹠膿疱症性骨関節炎です。

次は、掌蹠膿疱症整骨関節炎の治療についてお話ししましょう。

この病気は、皮膚病変としては掌蹠膿疱症、骨関節病変としては、胸(胸鎖関節、胸肋関節)、手指、背骨(腰、お尻の仙腸関節)の炎症、を起こします。

皮膚と骨関節病変を統合した、治療のガイドラインはまだありません。当然のこととして、T2T、すなわち、あらかじめ治療目標を設定しておき、それをできるだけ早く達成するように治療を調整する治療戦略は行われていません。どのように現在の活動性を評価するのか、どのように治療目標を設定するのかも、皮膚以外の病変については、答えがありません。

それぞれの担当医が、皮膚病変、関節病変に対して、個々の判断で治療を調整している状況です。たとえば、治療効果判定のために、どのようにMRI、骨シンチグラムを使うかについても、統一された見解はありません。

掌蹠膿疱症整骨関節炎の治療は、どのようなものでしょうか。ガイドラインがないので、私の個人的なやり方をあげさせていただきます。他の先生方からのご批判は当然にあると思われますが、あくまで参考として述べさせていただきます。

①基礎療法
たばこの影響と、慢性の感染症が、病気の発症と悪化に関係していると考えられています。
そこで、まず禁煙をしていただきます。
さらに、咽頭扁桃炎(のどの腫れと痛み)、歯根膿瘍(歯の根元に膿がたまる、歯槽膿漏なども)、副鼻腔炎(蓄膿)などの病巣感染がありましたら、その治療を行います。これらの病巣感染は無症状のこともあり、それぞれの専門の先生に調べていただき、治療を行っていきます。

②末梢(手足)の関節炎
関節リウマチに準じて、従来型の合成抗リウマチ薬を使用します。MTX(メトトレキサート)、ケアラム、アザルフィジンENがよく使われます。ただし、これらの薬剤の保険適応はありません。

③体軸の骨関節炎
体軸とは、胸(胸鎖関節、胸肋関節)、背骨(腰、お尻の仙腸関節)のことを指します。
末梢の関節炎のように従来型合成抗リウマチ薬も使われますが、効果が不十分であることが多く、生物学的製剤が主となります。とくに胸鎖関節、胸肋関節の骨関節炎を十分に抑え込むことが難しい印象があります。
使用される生物学的製剤は、乾癬性関節炎と同様です。TNF阻害薬、IL-17阻害薬、IL-23阻害薬となります。このうちで、IL-23阻害薬トレムフィアだけに保険適応があります。

2-5.全身性エリテマトーデスの治療

2-5-1.全身性エリテマトーデスの関節炎

本日最後にとりあげるのは、全身性エリテマトーデスと、その関節炎です。T2Tの導入という治療戦略の変化と、プラケニルとベンリスタという薬剤のことを中心にお話しします。

全身性エリテマトーデスが、実は関節炎を起こすことも多い病気であることは、前のほうでも紹介しました。最初の発症時で5割、経過を通じては9割の患者さんが関節の炎症を経験されるといわれています。
 

2-5-2.全身性エリテマトーデスのT2Tの問題点

T2T、すなわち、あらかじめ治療目標を設定しておき、それをできるだけ早く達成するように治療を調整する治療戦略を導入する動きが、全身性エリテマトーデスにおいても出てきています。

T2Tの導入に当たって、全身性エリテマトーデスでは、どのように現在の活動性を評価し、どのように治療目標を設定するのでしょうか。これについては、まだ統一見解がでているとはいいにくい状況です。しかし、それに向けた流れは出てきています。

関節リウマチと比較して、末梢の関節以外に、皮膚や爪や、背骨、付着部などのさまざまの病変がある乾癬性関節炎では、治療目標の設定がより複雑になるということは、先ほどのMDAの説明で述べました。

全身性エリテマトーデスは、腎臓、精神神経、心臓、肺、血液、血管など、さらに多様な臓器病変がある病気です。いきおい、治療目標は複雑なものにならざるを得ません。

さらに、治療目標の設定において、全身性エリテマトーデスに特有の事情が関わってきます。それは、副作用が多いステロイド剤などの薬剤を、他の病気よりも、量的にも期間的にも多く使用せざるを得ない、ということです。臓器の破壊、機能の障害に関して、ステロイドなどの治療薬の影響も考慮しなければならない、ということです。

例の4階建ての家の火事に例えてみます。2階の破壊を引き起こす、1階の火事の要因としては、「炎症」だけでなく、「治療の副作用」も考えなければならない、ことになります。
 

2-5-3.全身性エリテマトーデスの治療目標:LLDAS

全身性エリテマトーデスの治療目標として代表的な、LLDASにも、このことが反映されています。以下に、LLDASの項目をあげます。

①疾患活動性スコア(SLEDAI)が4点以下で、主要な臓器の病変の活動性が認められない

②医師による評価が1未満(最悪を3とする)

③ステロイド剤の服用量が1日7.5㎎未満(プレドニゾロンで換算)

④免疫抑制剤の服用量が標準的な適正量

①のSLEDAIについては、わが国でも特定疾患の新規申請や年度の更新のときに、同様の評価をしていますので、それほど難しいものではありません。

②の医師の評価については、私は個人的にはこれが苦手で、うまく点数をつけられる自信がないのが、正直なところです。むしろ、私としては、何らかの形で、患者さん自身による評価、PROを治療目標に入れたいと思っています。PROの意義については、後で述べます。

注目すべきは、③と④です。4項目中2項目が「治療の副作用」による臓器の破壊、機能低下を考慮して設定されています。すぐれた着眼点の治療目標と思われます。

③の7.5㎎というのは、体重当たり0.1㎎ということと考えられますので、欧米人より体重の軽いわが国に適用する場合は、5㎎くらいが適当でしょう。
 

2-5-4.全身性エリテマトーデスのT2T:寛解導入期は効果重視、維持期はQOL重視

T2Tによる治療は、どの病気でも以下の2つのフェイズにわかれます。

①治療目標を達成するまでの時期(寛解導入期)

②目標達成後に、その状態を維持していく時期(維持期)

関節リウマチの場合は、①と②の違いは、1か月ごとに評価を行って治療を調整するか、3~6か月ごとに期間を延ばして評価を行って治療を調整するか、というものでした。治療の内容については大きな違いはありません。

しかし、全身性エリテマトーデスの場合は、治療の内容が異なります。
①の、治療目標を達成するまでの時期は、副作用のリスクがあるとしても、臓器や生命を守るために必要十分な強さの治療を行います。そして、目標を達成して、②の維持期に入った後では、治療を調整して、治療による副作用のリスクを可能な限り低減し、患者さんのQOLをできるだけ上げていく、ということになります。治療にあたって、①と②の時期とで、炎症抑制重視と、副作用リスク重視(QOL重視)との違いがあるわけです。

Nat Rev Rheumatol 2019;15:30では、治療目標を達成したら、以下の2ステップで治療の調整を行うことが提案されています。

①まず、ステロイド剤を最小限の量まで減量するか、可能であれば中止する

②その次に、免疫抑制剤を減量するか、中止する

さらに、同じ論文では、ステロイド剤を減量、または中止する方法として以下の2つの方法を提案しています。

①まだ投与されていなければ、プラケニルを追加する

②免疫抑制剤もしくは生物学的製剤を導入する(生物学的製剤とは、ベンリスタ・リツキサンを指します)

この提案を実地臨床に適用するには、まだハードルがないわけではありません。しかし、このようにできている患者さんも、いないわけではありません。

全身性エリテマトーデスの治療薬の開発は、これまでは、うまくいっているとはいえない状況が続いていました。しかし、近年、有望な治療薬の候補が、次々と出てきています。近い将来には、より効果があり、より安全性の高い治療薬の導入によって、この提案がより現実的なものになっていくことが期待されます。
 

2-5-5.全身性エリテマトーデスの治療におけるPROの意義:従来の診療ではとらえられないもの

関節リウマチの治療のところで、患者さんのアンメットニーズ(充たされていない要望)について述べました。腫脹関節数、圧痛関節数、CRPの値は、昔の治療に比べて、改善されているものの、痛み、疲労・倦怠感、抑うつ・気分障害などの精神的問題などは、まだ解決されていないアンメットニーズとして残されている、ということでした。

痛みや疲労など、患者さんにしかわからない状態を評価しよう、そしてそれを診療に活用しようとするための評価指標がPROです。復習ですが、PROとは、Patient Reported Outcome、日本語では、「患者さん自身が評価する、現在の状態」というような意味合いです。

PROの意義はさらに広いものであり、病気の勢いの評価、治療効果や副作用の評価、病気による障害の程度の評価など、診療全般にわたって、患者さん自身の評価を活用していくことが可能です。

私が実地臨床で使用しているPROである、LIT:Lupus Impact Trackerについてお話しします。毎回の診察でLITをきちんと記入してくださっている患者さんのためにも、ここは少し詳しくお話ししようと思います。

LITは以下の10項目で成り立っています。

①「朝起きた時に疲れを感じた」

②「身体に痛みやうずきを感じた」

③「痛みまたは疲労感のために、長い時間普段の活動ができなかった」

④「身体への影響が理由で、家族としての責任を果たすことについて制限された」

⑤「SLEが活動やイベントのスケジュールを立てることにおいて影響した」

⑥「不安を感じた」

⑦「うつを感じた」

⑧「集中力の欠如を感じた」

⑨「自分の外見について人目を気にした」

⑩「全身性エリテマトーデスの薬による好ましくない副作用を経験した」

1か月に1回、それぞれの項目について、以下のように点数をつけていきます。スコアシートになっていますので、それに記入します。

0点:全く感じなかった
1点:たまに感じた
2点:時々感じた
3点:ほとんどの時感じた
4点:つねに感じた

患者さんの付けたスコアシートを見て、カルテに、たとえば以下のように記載します。

12月3110000220
01月2100000220

このように、それぞれの項目がどのように変化しているかを、容易に把握できるようにします。

現在、私が感じているLITのメリットは、以下のようなものです。

(1)病気の勢いの評価・治療効果の評価への寄与
全身性エリテマトーデスの病気の勢いは、実地臨床では、以下のような方法で評価します。

それは、問診、皮膚・関節などの身体所見、そして、C3、C4、CH50などの補体の値、抗DNA抗体の値、白血球、赤血球、血小板などの血球数、状況によってはCRPの値、尿検査での尿蛋白、尿の沈渣の所見などの検査所見、です。このほかにも、CT、MRI、髄液検査などがありますが、外来診療では簡単には使えません。

この評価方法に問題を感じている医師は少なくないと思われます。

「問診」の問題から始めましょう。「何かお変わりはありませんか」「どうでしたか」と聞かれても、特別なエピソードがないかぎり、前回からのそれぞれの症状の変化が、どの程度であったかを伝えることは難しいでしょう(変化の程度の評価ができない)。新たな症状や変化があったとしても、膠原病の医師に伝えるべきことなのか、患者さんには判断できないでしょう(網羅的な評価ができない)。医師にしても、全身に関して全般的にお尋ねすることはできませんし、カルテに記載されている以外のことは、前回の状態を覚えていて比較することはできません(網羅的な評価、変化の程度の評価ができない)。

「身体所見」「検査所見」を加えても、全身の状況の把握は困難です。たとえば、①③④の疲労や、⑥⑦⑧の精神神経への影響は、日常的に行われる身体診察や検査では、とらえられません。

疲労や精神神経症状だけでなく、PROの指標は、炎症全般の勢いと関連している可能性があります。LITではありませんが、PROと全身性エリテマトーデスの活動性とが相関しているという報告があります(Lupus 2019;28:1628)。この報告の中で、PROが全身症状(発熱、疲労感、体重減少など)や筋肉・骨関節病変と相関しているのは、そうだろうな、と予測できるものでしたが、PROが血球減少と相関していたのは予想外でした。炎症がどのように心身に影響しているのか、わかっていない部分が大きいことを感じさせられます。

(2)副作用の評価への寄与
たとえば、ステロイド剤を増量・減量していくにしたがって、①③④の疲労や、⑥⑦⑧の精神神経への影響、⑨の外見、⑩の副作用そのもの、が変化するかをみて、ステロイド剤の患者への影響の程度を把握することができます。

疲労などの原因を推測するのにも役立ちます。ステロイド剤の使用量が減少した時に、PROにおける疲労も改善したのであれが、その疲労はステロイドによるものでしょう。ステロイド剤の増減に伴い、PROにおける疲労などの症状が改善するかによって、疲労がステロイド剤によるものか、全身性エリテマトーデスの活動性によるものか、両者とは関係のないものかを、ある程度、判断することができます。

(3)病気による障害の程度の評価・生活の質の評価への寄与
もともとは、これがPROの主目的でした。これらに関する意義については、改めて説明する必要はないでしょうが、例として、腎臓病変と関節病変のことに触れておきます。

一般的な活動性指標であるSLEDAIで評価すると、「腎臓病変」は、「尿沈査の異常」で4点、「血尿」で4点、「蛋白尿」で4点、「膿尿(白血球の増加した尿)」で4点、さらに、補体価が低下し抗DNA抗体価が増加するのがほとんどなので、合計は最大20点となります。

一方で「関節病変」の場合は4点です。補体価や抗DNA抗体価が入ったとしても8点です。

最大20点対4~8点。この点数の違いは、医師としては納得のいくものです。しかし、患者さんの視点ではどうでしょうか。「就業・失業」の観点からみると、全く違った結果になります。J Rheumatol 2009;36:2470の報告では、関節病変があると、無い人に比べて、約3倍、失業の危険が増します。これに対して、腎臓病変があっても、失業の危険性は増加していません。腎臓病変の活動性などが考慮されておらず、単純な解釈はできませんが、患者さんの生活にとっては関節病変の方が腎臓病変よりも深刻な場合があるといえそうです。

PROのLITを使えば、③④⑤が改善しませんので、患者さんの状態が満足すべきものではなく、治療の見直しが必要であると気づくことができます。
 

2-5-6.全身性エリテマトーデスの関節炎の治療薬

T2Tの話から、ちょっと脱線してしまいました。治療手段(薬剤)に関する話に移っていきましょう。全身性エリテマトーデスの中でも、関節炎に対する治療薬にしぼって、お話しします。

日本リウマチ学会から昨年発表されましたガイドラインの内容をみてみましょう。商品名で表記するなど、私のほうで少し変更しています。

「関節炎のコントロールは、非ステロイド性消炎鎮痛薬、少量のステロイド、プラケニルで治療を行い、効果不十分の場合は、MTX(メトトレキサート)を用いることを推奨する(エビデンスレベルB)。さらに効果不十分の場合は、べリムマブ(エビデンスレベルB)、他の免疫抑制薬を提案する(エビデンスレベルD)」
 

2-5-7.プラケニル

このうち、プラケニルは、関節炎だけではなく、全身性エリテマトーデス治療の基本となる薬剤です。

ガイドラインでも以下のように書かれています(先ほどと同様に、私のほうで少し変更しています)。

「プラケニルは、病態や病変に関わらず、禁忌事項に注意しながら、全例で投与を考慮する。ただし、病変が皮膚だけの場合は、まず外用治療を行い、それで効果不十分の場合に投与を考慮する」

プラケニルについては、当ホームページに記事がありますので、詳細はそちらをご参照ください。

代表的な試験として、8年にわたっての患者さんの生存率を調べた報告があります。ごらんのように、プラケニルを服用しているグループの生存率は、服用していないグループに比べて、明らかに高いものになっています。プラケニルの有用性は明らかです。

プラケニルを服用するうえで重要なのは、頻度は少ないものの、視力に関係する眼の網膜に影響が出る可能性があることです。影響が出た場合は、すぐに中止とします。導入前と、導入後も半年から1年に1回、必ず眼科を受診していただき、網膜への影響が出ているようであれば、すぐにプラケニルを中止し、視力を守ります。
 

2-5-8.ベンリスタ

もう一つの全身性エリテマトーデスの治療薬は、ベンリスタです。ベンリスタについても、当ホームページに記事がありますので、詳しくはそちらをご参照ください。

ベンリスタは注射剤です。点滴でも使用できますし、便利な皮下注射の製剤もあります。皮下注射のオートインジェクターは、消毒した後、皮膚に押し当てるだけで注射が完了するという、便利なものになっています。

ベンリスタは、ガイドラインに書かれていたように、関節炎にも有効ですが、全身性エリテマトーデスの他の症状にも有効です。ステロイド剤の減量効果もあります。

ベンリスタの優れた点としてあげるべきは、安全性が高い、ということです。一般的に副作用のリスクを無視しがたい全身性エリテマトーデスの治療薬の中で、これは特筆すべきことです。

どのようなときにベンリスタを使うのか、という質問に対する私のお答えは、T2Tにのっとったものになります。その答えとは、「LLDASを達成できていないときには、ベンリスタを使って、治療目標LLDASの達成を目指そう」、というものです。

おわりに

本日の話のまとめです。

①治療の目標を設定し、それを達成するように治療を調整する、Treat to Target(T2T)が関節リウマチに適用されています。今後は、乾癬性関節炎、全身性エリテマトーデスにも適用されていくでしょう。

②患者自身が治療効果など、現在の状態を評価するPRO:Patient Reported Outcomeが関節リウマチの治療におけるJAK阻害薬の評価などに利用されるようになっています。今後は、他の病気においても、PROが診療に取り入れられていくでしょう。

③治療にかかるコストは深刻な問題です。医療費削減のために、生物学的製剤の投与間隔延長やバイオシミラーの導入などが行われています。

④最近増えている関節炎として、脊椎関節炎があります。代表的な脊椎関節炎である、乾癬性関節炎・掌蹠膿疱症性骨関節炎ではIL-17/23系の阻害薬、TNF阻害薬、PDE4阻害薬など治療手段の進歩が目覚ましいものがあります。

⑤全身性エリテマトーデスにおいても、T2Tの概念の導入や、プラケニル・ベンリスタなどの治療手段の進歩がみられています。

こうやってみますと、我々は、膠原病診療の大きな変革期にいることを、あらためて感じさせられます。我々を待ち受けている未来は、より明るいものになると思われます。
本日は、大変な長時間にわたってご清聴たまわりまして、ありがとうございました。
令和2年3月22日作成

国立病院機構 宇多野病院 統括診療部長
リウマチ膠原病内科 柳田 英寿