手指から始まる膠原病診療-膠原病全般と強皮症-このページを印刷する - 手指から始まる膠原病診療-膠原病全般と強皮症-

はじめに

今回は2022年11月5日にハートピア京都にて行われました、膠原病友の会京都支部の医療講演会をもとにお話しさせていただきます。同会の機関紙「明日への道」のブロック版2023.2 No.158に掲載していただいた講演記事の内容も踏まえております。当院のホームページへの掲載を快くご了承くださいました同会の関係者の皆様方に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

広い内容の話にという要望であったので、できる限りどのような膠原病の方でも興味を持っていただける話にしてありますが、強皮症についての説明を重視しています。

本日の話の内容は、大きく3つに分かれます。

  1. 膠原病とはどのような病気か、どのように考えて、治療手段を選択しているのか
    膠原病はいくつもの臓器に病変が及ぶことがある複雑な疾患です。しかし、複雑な病態だからといって、漫然と治療しているわけではありません。病態を形作っている機序(自己免疫→炎症→線維化・血管の異常)について、お話しします。これらの機序のいずれを抑えていくかを念頭に置いて、治療薬を選択・併用します。
  2. 膠原病の診療における「手の指」の重要性
    手指を見ると、膠原病の病態について、かなりのことが分かります。炎症が起きているか、線維化が起きているか、または血管の異常が起きているか、という3つの「病態形成機序」をとらえるために、手指の所見は非常に重要です。手指の所見をどのようにして診断や治療に結び付けていくかについてお話しします。
  3. 強皮症の病態と早期診断・早期治療の重要性
    炎症・線維化・血管の異常が問題となる典型的な膠原病として、強皮症をとりあげます。始めに、線維化・血管の異常による病態として、皮膚硬化・間質性肺病変・肺高血圧症をとりあげます。そのうえで、早期の治療介入についてお話をします。特に、炎症を抑制することによって線維化や血管の異常の抑制をねらう治療として、リツキサン®とアクテムラ®という薬剤に注目します。今回のお話は、少し長くなってしまいましたので、強皮症だけに興味のおありの方は、この部分を優先して見ていただいてもよいかもしれません。しかし、前の部分も見ていただいたほうが、理解は深まると思われます。

今回の話では3つのキーワード、「炎症」「線維化」「血管の異常」をしつこく繰り返しますが、これがまとまって現れているのが、強皮症です。いずれの膠原病の病態でもそうですが、「早期の診断」「早期の治療介入」が重要であることのお話もしようと思います。では、始めていきましょう。

1.膠原病とはどのような病気か、どのように考えて、治療手段を選択しているのか

1-1.膠原病の病態と、病態を形成する機序

ここでのキーワードは、「自己免疫」、「炎症」、「線維化」、「血管の異常」です。

大きくは、自己免疫→炎症→線維化・血管の異常→臓器の障害、という流れになります。

膠原病の病態は、「自己免疫」から始まります。本来は、自己を守る免疫のシステムは、自分ではなく外から来たばい菌などに対してだけに反応するものです。しかし、その免疫の反応が自分の体の成分に対して起こってしまう場合のことを、自己免疫といいます。

自己免疫の反応が起こりますと、白血球などの細胞が活性化し、「炎症」という反応を誘発します。炎症の反応は、「痛み」「発赤」「腫れ」「発熱」という症状を呈します。

この炎症の反応は、①直接的に腎炎、肺炎などの臓器の障害を起こします。あるいは、②線維化(臓器が線維成分に置き換わり、その臓器が硬くなって本来の機能が果たせなくなってしまう病態)を誘発して臓器を障害することもあります。

また、炎症によって、③血管の異常が誘発されることもあります。血管の異常があると、酸素やいろいろな物質を運ぶ血液が十分に流れなくなって、組織が壊れてしまうという形での臓器障害につながっていきます。炎症から血管の異常へと進むのとは逆に、血管の異常によって、酸素不足になり、その結果として炎症の反応が強化されてしまい、悪循環に陥っていくこともあります。

自己免疫の反応が起こって、そこから炎症が誘発され、炎症が直接的に、あるいは線維化や血管異常を誘発して臓器を壊していく(臓器障害)、これが膠原病の基本的な病態です。

一口に治療といっても、自己免疫、炎症、線維化、血管の異常のどのポイントを主に狙うか、はケースバイケースです。医療機関を受診する時点では、これらの病態形成機序はすでに出そろっていることが多いと考えられます。治療の副作用をできるだけ少なくすることを考慮しながら、できるだけ多くのポイントを狙って治療していくのが、基本的な考え方です。

①まずは、病気全体の活動性を抑えることを優先し、②その後、活動性を抑えられるという目途が、ある程度たちましたら、治療薬による副作用、臓器の障害をできるかぎり少なくするように、治療を調整・中止していくのが、最近の膠原病の治療のトレンドです。

1-2.自己免疫と膠原病の病態-自己抗体の意義-

繰り返しになりますが、自己免疫とは、自分に対して免疫の反応が起きてしまうことです。免疫は自分ではないものを攻撃するシステムですから、自分と自分でないものを区別する必要があります。「抗体」とは、免疫のシステムが「自分でないものに付けるレッテル」のようなものです。「抗体」が付いているものは攻撃して壊してしまってもよい、ということになります。

本来はあっては困る、自分の成分に対する抗体を、「自己抗体」といいます。本来、抗体は「攻撃してもよいものに付けるレッテル」でありますので、自分の成分に対する免疫の反応を起こして壊さないために、自己抗体は作られないのです。

しかし、膠原病の患者さんでは、発症する前から、病態形成機序の第一ステップとして、免疫の異常である自己免疫反応が起こっています。そのために、自己抗体が作られ、発症するとさらに多く作られるようになり、大多数の患者さんで自己抗体がみられるようになります。その自己抗体の代表的なものが細胞の核(卵でいうと黄身にあたります)の成分に対する抗体、抗核抗体といわれるものです。

抗核抗体では抗体ごとの染色パターンがあり、端が染まっているか、全体に染まっているか、あるいはそれ以外のパターンで染まっているかによって、どのような種類の自己抗体が作られているかを推測することができます。抗核抗体の染色パターンによってその人がどの膠原病かをある程度予測することができます。免疫の異常は病態形成機序の最初のステップですので、そこでのパターンの違いが、その後の、疾患や病態の違いにまでつながることがある、ということになります。

関節リウマチは患者さんの数が多いので、膠原病とは独立して扱われることがありますが、基本的には膠原病の一種です。関節リウマチでも、発症する前から自己抗体(リウマトイド因子、抗CCP抗体)が作られています。最初に免疫異常があって自己抗体が作られ、そこから炎症が誘発され、炎症を起こした関節に痛みを感じるようになった時点で、発症となるわけです。

ANCA関連血管炎でも同様です。この疾患では、核ではなく細胞質の成分に対して、自己抗体が作られます。細胞質の部分に対する抗体を、抗細胞質抗体といいます。卵でいうと抗核抗体は黄身の部分に対しての抗体であり、ANCA関連血管炎でみられる抗細胞質抗体は、白身の部分に対しての抗体となります。血管炎においても、炎症の反応が起こって、実際に発症する(発熱や痛み)前から自己抗体が認められます。その他、多くの膠原病において、発症前から自己抗体が作られていることがわかっています。
(この後も疾患名が次々と出てきますが、興味がおありの方は、ホームページの他の記事をご参照ください)

1-3.炎症とは

まずは自己免疫反応が疾患の最初の引き金を引き、その次に炎症が起きてきます。痛くて、赤くなり、腫れて、熱が出る、この4つの特徴を持った現象のことを、炎症と言います。
患者さんの体に起こっている炎症を、医師はどのようにして把握しているのでしょうか。

炎症のことを考える場合には、まず、大きく、①全身の炎症と②局所の炎症に分けます。

①全身の炎症として、分かりやすいのは「発熱」です。
体全体に炎症を起こすと、体温が上昇し、一般的に37.5℃以上になりますと、「発熱」といいます。

②局所の炎症として、分かりやすいのは「関節炎」です。
関節とその周辺の組織の痛みや腫れ、それから「皮膚の発疹」です。膠原病に直接関係している発疹は、炎症によるものです。細い血管が炎症を起こしている状態を肉眼でみますと、皮膚の発疹としてとらえられます。局所の炎症の代表は、「関節炎」と「皮疹」ということになります。

1-4.発熱-全身の炎症をあらわす症候-

熱が出ていて原因が分からない病気のうち、その4分の1が膠原病である、という我が国からの報告があります(Jpn J Infect Dis 2016;69:378)。それほど、膠原病は全身の炎症である、発熱を起こしやすい病気と言えます。特に高い熱を出すことが一番多い膠原病は、成人発症スティル病です。それに続くのは全身性エリテマトーデス、それからシェーグレン症候群、この3つが膠原病の中でも特に高熱を出しやすい疾患となります。

発熱している患者さんを前にした場合には、まず、その熱の原因を特定しなければなりません。これは言うほど簡単なことではありません。症状や検査結果を組み合わせて、その原因を特定するわけですが、ごく一部だけお話しします。

一つは血液検査です。血液検査の結果を組み合わせることによって、ある程度、原因の見当を付けることができます。代表的な項目は、プロカルシトニン、フェリチンです。プロカルシトニンは膠原病による発熱ではあまり上昇せず、ばい菌などの感染症による発熱の時に上昇します。感染症による発熱の時は、プロカルシトニンは上昇しますが、フェリチンはあまり上昇しません。悪性腫瘍(癌)で熱がでている時には、プロカルシトニンは上がらず、フェリチンが上昇する傾向があります。注意すべきは、フェリチンの上昇だけで癌だと特定できるわけではなく、逆に、フェリチンが正常だからといって、癌ではないというわけではありません。

フェリチンが非常に高くなる膠原病として、成人スティル病があります。ここで、成人スティル病の経過として典型的な例をお示しします。まず首などのリンパ節が腫れる、のどが痛い、いわば風邪をこじらせたような症状が出現します。それから高い熱がでてきます。高い熱が出ているときに、サーモンピンク色の皮疹がでてきます。不思議なことに、この皮疹は熱がおさまっている時間帯には薄くなったり消えたりします。手足の関節が痛くなることもしばしばあります。これらの症状がありますと、リンパ節が腫れているために、まずは悪性リンパ腫という癌を疑うことになります。癌であるかどうかは組織を採取して顕微鏡で調べないとわかりませんので、多くの場合は、腫れているリンパ節を採って調べることになります。癌が否定されたうえで、成人スティル病と診断され、ステロイドや免疫抑制薬の治療を開始することになります。血液検査では、白血球数が1万以上、CRPが上昇し、プロカルシトニンは正常か軽度の上昇、フェリチンは正常の上限値の10~100倍以上というくらいにフェリチンが桁違いに跳ね上がるのが成人発症スティル病の特徴です。成人スティル病の炎症を抑制する薬として、生物学的製剤、アクテムラ®が保険承認されています。

もう一つ、自覚症状の観点から、熱が出たときに、膠原病によるものか、感染症によるものか、それ以外の原因かを判断するための、簡単な手がかりをご紹介したいと思います。もちろん、おおざっぱなものであり、発熱がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。

①感染症によって熱が出ている場合
熱が高いときにしんどいのは当然ですが、一時的に熱が下がったときであっても、ぐったりしていて、身体がしんどいというパターンであることが多いでしょう。

②薬などによるアレルギーのために熱が出ている場合
この場合は、熱が高いときはしんどいけれども、熱が下がっているときは比較的元気です。これが感染症とアレルギーの熱のパターンの違いです。

③膠原病によって熱が出ている場合
この中間のパターンです。どちらかというとアレルギーに近くて、熱が高いときは結構しんどいのですが、熱が下がると比較的元気というパターンです。

このように、熱が下がると比較的元気というときは、服用している薬のアレルギーか、膠原病による熱ではないかと、疑っていくわけです。一般的には、37度以上になると発熱と表現することが多いようですが、医者が考える発熱は37.5度以上で、それ以下の場合は「体温の上昇」と表現します。37度の前半までは、炎症でなくても、脳による温度調節の異常によっても起こります。特に他の症状がなくて、37度台前半が続く場合は、ストレスが原因であることが多くなります。

ストレスによる37度台前半の体温上昇が最も多くみられる疾患は、「線維筋痛症」です。炎症性の疾患ではないので血液検査では異常がでませんが、あちこちが痛くて動けなくなってしまう病気です。全身の筋肉のこわばり、全身の強い痛みで生活も困難、多彩な自律神経失調症状を伴います。線維筋痛症の場合、治療としては、ステロイドや免疫抑制薬のような炎症や免疫の反応を抑える薬ではなく、神経の過剰な緊張を抑える薬を使います。

線維筋痛症は、膠原病に合併することもあります。膠原病の中で線維筋痛症を一番合併しやすいのは、シェーグレン症候群です。

2.膠原病の診療における「手の指」の重要性-局所の炎症から、線維化・血管の異常まで-

次は、局所の炎症をどのように見つけるか、についてお話しします。

局所の炎症で、分かりやすいものは「関節炎」と「皮疹」です。特に手の指は露出しているため、本人も医師もパッと見たら所見が分かるという特徴があります。

炎症をあらわす所見だけではなく、線維化、血管の異常を含めて、手の指は重要です。手の指の所見が、体全体の病的な変化の手掛かりとなることが、しばしばあります。ですから、日頃の診療において、手の指の所見を見落とさないようにすることが重要となります。

膠原病の患者さんでは、手の指にいろいろな変化がでてきます。ここで紹介するのは、そのうちのほんの一部にすぎません。

爪自体の炎症による変化を起こす膠原病としては、乾癬性関節炎(乾癬という皮膚病を伴うことの多い関節炎)が挙げられます。

爪の周辺であれば、血管の異常の所見として、爪の生え際のところの皮膚の出血点が、強皮症でよくみられます。炎症の所見としては、全身性エリテマトーデスなどで、爪の周囲が赤くなったり(毛細血管の炎症)します。

寒冷や精神的緊張に誘発されて、手指の先端がろうそくのように真っ白になるレイノー現象は、血管の異常の代表的な所見ですが、どの膠原病でも起こりえます。

手指の先端の皮膚の潰瘍は、血流の異常によるものとしては、特に強皮症・混合性結合組織病にみられますし、病態形成機序は異なりますが、血管炎症候群でもみられます。

手指の腫れは、炎症によるものとしては、乾癬性関節炎が代表的でしょう。炎症と血管の異常による血流のうっ滞によるものとしては、強皮症・混合性結合組織病に多いでしょう。

線維化が起こっていることを表す、手指の皮膚硬化や、血管の異常を表す、毛細血管拡張による1、2ミリ程度の発赤点は、強皮症や混合性結合組織病でみられます。

手の指の紅斑は、局所の細い血管の炎症を表す所見ですが、皮膚筋炎、全身性エリテマトーデスなどでみられます。

あるいは、手の指がしもやけのようになり、冬になると悪化する凍瘡様ループスは、全身性エリテマトーデスでみられます。

ここで挙げました疾患から、手指の所見から診断に結びつきやすい例として、3つの疾患について簡単に触れます。

(1)乾癬性関節炎
乾癬性関節炎の患者さんの手指は、関節周辺の靱帯や腱、皮下組織に炎症が起こることによって、紡錘状に、やや硬めに腫れることがあります。これを指趾炎といいます。さらに炎症が進むと、関節周辺の骨が増殖し、節くれだったような指になります。
乾癬性関節炎に伴うことの多い、乾癬という皮膚疾患では、水虫と間違えるような爪の変化が起こることがあります。こういう爪や指の所見から、乾癬に伴う関節炎かもしれない、と疑い、診断に結びつくことがあります。

(2)混合性結合組織病
乾癬性関節炎の手指の腫れと、見た目で似ているのは、混合性結合組織病の手指の腫れです。混合性結合組織では、炎症だけではなく、血流が悪いために手指が腫れてきますので、先ほどの乾癬性関節炎より柔らかい感じで、手指が腫れてきます。夏場は比較的にほっそりした指であるのに、冬になって血流が悪くなってくるとむくんでくる、というように、乾癬性関節炎よりも血管異常、血流の悪化が多く関与しているのが、混合性結合組織病の手指の腫れの特徴です。混合性結合組織病の手指は、最初は炎症と血管の異常によって腫れていますが、後には線維化を起こして皮膚が硬くなっていきます。

混合性結合組織病(MCTD)は、主な所見として、レイノー現象、指ないし手背の腫れ、抗U1RNP抗体という自己抗体が認められる疾患です。その他に混合所見といって、全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎の症状がみられます。これら3つの膠原病の性質を併せ持ったような膠原病であることから、混合性結合組織病と呼ばれているわけです。

これらの膠原病は、時間の経過とともに、お互いに移行し合うことも稀ではありません。最初は全身性エリテマトーデスと思っていたけれども、途中から混合性結合組織病のほうが近い、あるいは逆に混合性結合組織病と思っていたけれども、途中から全身性エリテマトーデスに近くなる、というような具合です。

混合性結合組織病と全身性エリテマトーデスを区別する手掛かりとしても、手指は重要です。手指の腫れ、手の腫れ、頻回のレイノー現象といった所見がある方は、全身性エリテマトーデスよりも混合性結合組織病の要素が強いと考えられます。この2つの疾患の区別にこだわる1つの理由として、混合性結合組織病のほうが肺高血圧症(後でご紹介します)になりやすい、ということがあります。混合性結合組織病は基本的にはかなりコントロールできる疾患ですが、肺高血圧症は注意する必要があるので、2つの疾患を区別するやり方を紹介しました。混合性結合組織病の分類・診断基準は、近年改定されています。肺高血圧症という病態が重要であることから、改定後は、特徴的な臓器病変として、①肺高血圧症、②無菌性髄膜炎、③三叉神経病変(ピリピリ痛い、ビリっと電気が走ったように顔や頭の脇が痛くなる)、が入れられています。

脱線になりますが、ここで、無菌性髄膜炎の典型的な経過をお示しします。

混合性結合組織病の患者さんですので、最初にレイノー現象が起きています。それから混合性結合組織病によると考えられる、比較的柔らかな手の指の腫れがでてきています。ここで、発熱を起こし(38度台)、風邪と考えられ、近所の病院で処方された抗生剤を服用しています。一旦は発熱が改善しますが、また熱が上がってきます。頭痛・吐き気も出てきて、非ステロイド性消炎鎮痛剤のロキソニンを服用しますが、さらに発熱・頭痛・吐き気が強くなっていきます。頭が痛くて首も曲げられないということから、脳を覆っている髄膜の炎症を疑い、脳の脊髄液を調べます。髄液の圧が上がっていて、髄液の中身としては、白血球が増えていますが、ばい菌は認められませんでした。非ステロイド性消炎鎮痛剤を使っているということもあわせて、無菌性髄膜炎と診断されました。髄膜炎とは、脳を覆っている髄膜に炎症を起こし、炎症の結果として髄液が増えていくので、頭の中の圧が上がって、頭痛・吐き気・発熱の3つの症状を起こす病気です。

混合性結合組織病の患者さんは、ロキソニンなどの非ステロイド性消炎鎮痛剤を服用すると、無菌性髄膜炎を誘発する場合があります。めったに起こることではないので、使って痛みなどを緩和するメリットのほうが多く、私も非ステロイド性消炎鎮痛剤を処方することはありますが、注意は必要です。

(3)皮膚筋炎などの炎症性筋疾患手の指に話をもどしましょう。
局所の炎症を表す、手の指の赤い皮疹が診断に結びつくのが、皮膚筋炎という疾患です。皮膚筋炎の皮疹は、見ただけで診断がつくというくらい特徴的です。指の関節の曲げるほうではなく、伸ばすほうに出てくるのが、皮膚筋炎の皮疹の特徴です。

抗ARS抗体(抗Jo-1抗体)が陽性の筋炎の場合も、手指に特徴的な所見を呈することがあります。油の抜けたようなカサカサした手の指を見ただけで、この人は抗ARS抗体症候群(皮膚筋炎)かも知れないと疑うことが可能です。そのくらい、手の指というのは膠原病において特徴的な病変パターンを呈していて、手の指を見るだけでいろいろな情報を得ることができるのです。

3.強皮症の病態と早期診断・早期治療の重要性

3-1.強皮症の手指の腫脹・硬化と、炎症・線維化・血管の異常

3-1-1.強皮症の分類基準と、炎症・線維化・血管の異常

これまで発熱、関節炎、皮疹という内容で「炎症」の説明を中心にしてきましたが、次のステップとして、「線維化」と「血管の異常」の説明に移っていきます。

炎症・血管の異常・線維化、この3つが典型的にでている膠原病として、強皮症が挙げられます。強皮症においては、以下のような所見が認められます。

①炎症を表す所見:手指の腱などの炎症で腫れる、手指の腫脹が代表です。
②血管の異常を表す所見:レイノー現象が代表です。
③線維化を表す所見:手指などの皮膚が硬くなる皮膚硬化、あるいは、肺の組織が硬くなる間質性肺病変(肺線維症・間質性肺炎)が代表です。

強皮症の分類基準は、以上の3つの所見をまとめたようなものとなっています。

大基準:
皮膚の硬化(線維化)
小基準:
①手の指に限局する皮膚の硬化(線維化)、
②血管の異常による指先の萎縮(血流不足で組織が維持できない)、
③線維化を表す肺の所見
④自己抗体の存在

自己免疫反応が起こり、そこから炎症の反応が起こる。それから、血管の異常と線維化が起こって、強皮症の病像になっていくことを、分類基準は表しています。

線維化と血管の異常でも、手指の所見が重要であることは、これまでにお話ししました。線維化については、手指の次にわかりやすいのは肺で、胸部レントゲンやCT(とくにHR-CT)で評価することが可能です。血管の異常については、手指の次にわかりやすいのは眼の奥の眼底で、眼底鏡の検査で評価することが可能です。

線維化と血管の異常について、強皮症を例に、手指と肺に分けてお話しします。

3-1-2.強皮症の病態-線維化-

線維化は手指で分かると申し上げましたが、強皮症の患者さんの手指は、先ほどの混合性結合組織病と似ていますが、少し硬さが増している感じです。混合性結合組織病の場合は炎症や血管の異常が主因となって腫れてくるので、結構柔らかいのですが、強皮症は線維化が強いのでやや硬い感じになります。

強皮症でも初期は炎症が主体でプクプクと柔らかく、このときは炎症を抑える薬剤のアクテムラ®などが有効であることが多いという印象があります。炎症の段階から線維化の段階へと移行し、さらに線維化が進行して皮膚が硬くなってしまうと効きにくくなる印象がありますので、アクテムラ®などの炎症を抑制する治療薬を使用するのであれば、線維化が進行して硬くなってしまうまでが強皮症の治療介入の好機と思われます。

また、同じ線維化といっても、皮膚と肺とでは、炎症を抑える薬剤に対する反応、あるいは、線維化を抑える薬剤に対する反応、が違ってくるようです。

強皮症の肺の線維化を抑える薬剤としては、オフェブ®という抗線維化薬が保険承認されています。オフェブ®は、手の線維化よりも肺の線維化を抑える効果のほうが優れているようです。オフェブ®には炎症を抑制する効果はなく、あくまで線維化を主とする病態の時に使われる薬剤です。強皮症の間質性肺病変においても、炎症が主と考えられる場合は、炎症を抑える免疫抑制剤などを、オフェブ®よりも優先して使用します。この肺病変が炎症によるものか、線維化によるものかの見極めは、HR-CTの画像パターンなどから判断するのですが、強皮症の診療の中でも困難な問題の一つです。いったん線維化してしまった部分の肺は、もと通りの線維の少ない組織にもどることはできませんので、オフェブ®による治療も、タイミングを逸しないようにすることが重要です。

3-1-3.強皮症の病態-血管の異常-

次は血管の異常です。強皮症で、血管の異常として手の指でみられる代表的な所見は、レイノー現象です。他にも、爪の根元のところの皮膚の血管の流れが滞って、ごく小さな、1ミリもないような出血点がみられることが結構あります。

レイノー現象は、寒冷期などに冷たい空気や冷たい水に触れたときに、指先がろうそくのように真っ白になる症状です。レイノー現象は単独で起こることもありますので、レイノー現象があるからといって、その人が膠原病であるとは限りません。

レイノー現象があっても、強皮症になる人とならずにすむ人の違いが調べられています。一つは、自己抗体が陽性であると、7割の人が強皮症になっていきます。また、手指の腫れが認められると、7割の人が強皮症になっていきます。一般の方には、手の指が腫れているということと、熱や痛みでとらえられることの多い「炎症」とは、結びつかないかも知れません。しかし、実は指が腫れるということは炎症があることを意味する場合があり、その場合は、これまで述べたように、膠原病の発症につながっていくということになります。

自己抗体が陽性であることも、自己免疫から始まる強皮症の特徴となります。

強皮症では、自己抗体の代表である抗核抗体としては、セントロメア型、Speckled型、Nucleolar型というタイプが多く認められます。可能であれば、強皮症に限らず他の膠原病の方も、どの自己抗体が自分は陽性なのか、主治医の先生にお聞きしてみたら良いかと思います。どの自己抗体が陽性であるかによって、自分がどのような症状に注意しなければいけないか、ある程度予測できる場合があります。

つまり、自己免疫から臓器障害へと続いていく流れの中で、どの自己抗体が陽性であるかによって、臓器病変のパターンが異なる場合があるわけです。例えば、抗セントロメア抗体が陽性ですと、皮膚の壊疽(手の指の皮膚潰瘍による壊疽)、肺高血圧症が比較的に起こりやすい傾向があります。抗RNAポリメラーゼⅢ抗体ですと、皮膚硬化の進行が速く、悪性腫瘍の合併が多く、腎病変を起こしやすい傾向があるとか、いろいろなパターンがあります。ですから、自分が自己抗体のうちのどれが陽性かによって、どういう点に注意したら良いかが分かる場合があるわけです。

強皮症の臓器病変はさまざまです。肺にも起こりますし、腎臓にも起こりますし、お腹がもたれたり、便秘になったり、あるいは胸焼け、心臓の病気といったいろんな病変がありますが、命に関わるものとして何が大事かと考えると、胸にある肺や心臓の病変となるかと思われます。

3-2.強皮症の肺症状と、線維化・血管の異常

肺の組織が線維化して硬くなる病変のことを、「間質性肺病変(肺線維症、間質性肺炎)」といいます。肺において、線維化が進行していきますと、胸のレントゲンでは白く写るようになります。肺の中でも空気や空気の多い部分は黒く写り、線維化が進行して硬くなればなるほどレントゲンやCTで、白っぽく写るようになります。線維化が進行して、線維の塊のような状態になりますと、肺の組織は壊れて、空洞が広がり、レントゲンやCTで見ますと、蜂の巣のように(蜂巣様)見えるようになります。この蜂の巣の中では正常な肺の組織は壊れており、酸素の受け渡しができない状況になっています。つまり、CT画像で白く写る、線維化が進行して硬くなってしまったところでは、血液が流れていても、正常な組織のように酸素の受け渡しができない、低酸素血症になっているわけです。さらに進行すると、体全体が酸素不足になって、体が弱ってしまう、呼吸不全になります。

強皮症の患者さんがお亡くなりになる原因を調べますと、肺線維症(間質性肺病変)が最も多く、その次がPAH:肺動脈性肺高血圧症(PH:肺高血圧症)、それから、がん、心臓病が続きます(Ann Rheum Dis 2017;76:1897)。まとめますと、肺線維症、肺高血圧症、心臓病のいずれにしても、強皮症の方は胸にある臓器に病変がないか、注意していく必要があるということになります。

強皮症は、皮膚の硬化の範囲によって、つまり、手指から硬化して、肘を越えて硬化していくかどうかによって、限局型(肘を越えない)とびまん型(肘を越える)に分けられます。一般的に、抗セントロメア抗体が陽性の場合は、手の指や手背や顔が硬くなるくらいであまり皮膚硬化が広がっていかない限局型のタイプとなり、抗Scl-70抗体が陽性の場合や抗RNAポリメラーゼⅢ抗体陽性の場合は、びまん型となります。

限局型は、各種の臓器病変がそれほど進行しないと考えられて、あまり治療介入をされないことも多いのですが、実際にどのくらい命に関わっているかをみてみますと、10年、15年という期間では、命に関わる率は、びまん型とほぼ同じです(Arth Res Ther 2021;23:295)。皮膚が硬くなっている範囲が狭い人でも、定期的な診療を受けて、進行を徴候が認められたならば、適切に対応をしていくことが必要です。

3-3.炎症・線維化・血管の異常への治療介入-強皮症の肺高血圧症を例として-

3-3-1.強皮症の肺高血圧症の病態

炎症から線維化・血管の異常、そして臓器の障害に至る膠原病の代表が強皮症であると繰り返し申し上げていますが、この強皮症に関して、命に関わる理由の二番目は、肺高血圧症です。この、肺高血圧症の病態についてお話ししましょう。

どの病態においてもそうですが、肺高血圧症においては、特に早期発見と早期の治療が非常に大事です。

肺高血圧症とは、肺動脈の血圧が上昇することを意味します。全身の血液は心臓に帰ってきます。帰ってきた血液は、肺動脈を通って、肺に行き、そこで酸素を受け取ります。酸素を受け取るとまた心臓に戻っていき、再び心臓から全身に送り出されて、全身の酸素の需要を充たします。肺や肺動脈の異常(当然のこととして、炎症、線維化、血管の異常の3つが関わります)が起こりますと、血液が流れにくくなります。血液が流れにくくなると、心臓は、無理をして、より強い力で血液を肺動脈へと送り込むことになります。この結果、肺動脈の血圧が上がります。つまり、肺動脈の圧が上がっているということは、肺動脈での血液の流れが悪くなり、肺で酸素を受け取ることができる血液の量が減ってしまうことになります。当然のこととして、肺から心臓にもどる血液の量も減りますので、心臓から全身へと、酸素を含んだ血液を十分に送り出すことができなくなります。流れの悪い肺動脈に無理をして血液を送り込まなければならないので、心臓が疲れてしまい、心不全になってしまいます。心不全になって体全体へと血液を送り出す力が衰えていきますと、体全体で酸素の豊富な血液が受け取れなくなっていき、結果として、生命を維持することが難しくなっていきます。肺高血圧症は、昔は余命3年といわれていたほど、予後の悪い病態でした。

残念ながら一般の肺高血圧症に比べて、膠原病に合併する肺高血圧症では、命に関わる危険性が高い、という傾向があります。2012年、約10年前の時点での海外からの報告をみますと、膠原病に合併する肺高血圧症の場合は一般的な肺高血圧症よりも生存率が低い(一般の6割程度)、ということが報告されています(Chest 2012;142:448)。

我が国において、膠原病の患者さんに肺高血圧症がどのくらいの頻度で合併するかといいますと、強皮症の患者さんの11%、全身性エリテマトーデスでは9%、混合性結合組織では16%、筋炎(炎症性筋疾患)では1.5%という報告があります。特に混合性結合組織病と強皮症で、肺高血圧症は重要な病態となるわけです(リウマチ 1991;31:150)。

幸いなことに、現在では膠原病に合併する肺高血圧症と、一般の肺高血圧症の生命の危険の差は、だいぶ縮まってきています。2021年時点での報告をみてみます(Arth Rheumatol 2021;73:837)。発症して1年目、2年目、3年目の時点の生存率を比較していますが、差は10%もありません。この報告では、診断や治療の進歩によって膠原病に合併する肺高血圧症の生存率が改善しているかどうか、時代別の推移を調べています。2009年までの時期、2010年、2010年以降の時期の3つの時代で比較していますが、時代とともに、だんだん生存率は上がってきており、診断・治療が進歩してきていることが分かります。しかしながら、全身性エリテマトーデスに合併している肺高血圧症と、強皮症に合併している肺高血圧症とを比べますと、2010年以降の時期でも、強皮症の場合には、2年目、3年目の生存率が10~20%ほど低いことが分かります。それだけ強皮症では注意が必要だということになります。

3-3-2.肺高血圧症-早期の診断の重要性-

肺高血圧症の診断の流れを簡単にご紹介します。最初に肺高血圧症が疑われる症状としては、体を動かしたときの息切れがあげられます。動いた後に息切れするようになってきましたら、超音波検査(心エコー)で肺動脈や心臓の状態を調べます。そのうえで、心臓カテーテル検査を行い、肺高血圧症の診断を確定します。

診断の手掛かりとして重要な「動いたときの息切れ」は、4つの段階に分けられます。

第1段階:何をしても息切れがない
第2段階:屋外の活動のみに息切れがする(外にでて坂を上ったり、階段を上ったりすると息切れがするということです)
第3段階:屋内活動、家の中でも何かすると息切れがする
第4段階:何をしても息切れがする

この中の第2段階、家では大丈夫だが、屋外活動で息切れがすることがある、という段階で発見して治療すると、生命の危険が少ないことがわかっています。ですから、この第2段階のうちに見つけることが非常に大事です。

しかしながら、強皮症の患者さんは、他のいろいろな理由から、もともと活動が低下してしまっている人がめずらしくありません。強皮症の関節病変による運動不足や、消化器病変による栄養不良でも、息切れは起こります。

その息切れが肺高血圧症によるものかどうか、を見極めることが難しいので、強皮症の方の場合には、息切れのあるなしに関係なく、心エコーの検査を年に1回、施行することが推奨されています。症状のあるなしに関係なく心エコーを施行して、肺高血圧症のスクリーニングを行った人の生存率と、症状がでてから心エコーを施行した人の生存率を比較すると、倍以上の違いがあるとの報告もあります(Arth Rheum 2011;63:3522)。症状がなくても定期的に心エコーでチェックした人の生存率のほうが、症状がでてからチェックした人よりもずっと良いわけです。このことから、できれば年1回心エコーによる評価を行うことが勧められています。

先ほど申し上げたように、息切れが第3段階までいってしまうと、命を失ってしまう率が高くなります。第2段階の、家の中では大丈夫だが、家の外での活動で息切れがするという段階で気づいて診断をすれば、生命予後は良好です。

3-3-3.肺高血圧症-早期の治療の重要性-

肺高血圧症の治療のポイントとしては、これまでの説明の繰り返しになりますが、①炎症を抑える治療、それから②線維化を抑える治療、③血管の異常を抑える治療、の3つが可能性として考えられます。現在よく行われているのは炎症を抑える治療と、血管の異常を是正する治療の2つです。

肺高血圧症はいろいろな膠原病に合併しますので、膠原病の種類によって治療の重点は異なります。全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、混合性結合組織病に合併した肺高血圧症の場合は、病態形成の順番からしても。まずは①の炎症を抑える治療を行います。炎症を抑えるためによく使われる薬剤は、エンドキサン®の点滴とステロイド剤です。①の炎症を抑える治療を行なったうえで、不十分である場合に、③の血管の異常に対応する血管拡張剤を使用するのが一般的です。病態が重篤な場合は、炎症と血管の異常に対する治療を同時に始めることもあります。

残念ながら、炎症を抑える治療は、強皮症の方にはほとんど効かないことが分かっていますので、どこの施設でもあまり抗炎症・免疫抑制療法はしていません。強皮症の肺高血圧症の場合には、免疫抑制療法が効きにくいので、③の血管の異常に対する治療を中心に行っていきます。血管の異常に対応する、いわゆる血管拡張薬には、3つのグループがあり(エンドセリン系、一酸化炭素系、プロスタサイクリン系)、グループのそれぞれに、数種類の治療薬があります。この3つのグループから治療薬を選んで、それらを組み合わせて、強皮症の血管の異常に対応していきます。この3つのグループのうちの1つのグループからの薬だけを使って治療した場合よりも、2種類を組み合わせて治療した場合のほうが、肺高血圧症が悪化することが少ない、という報告があります(Ann Rheum Dis 2017;76:1219)。肺高血圧症を合併している膠原病の患者さん全体でもそうですし、強皮症に合併している場合だけでも、併用療法の有効性は示されています。この試験の結果を受け、現在では、可能なかぎりで、早くから3つのグループの血管異常に対応する薬剤を組み合わせて使う治療法が推奨されています。

但し、組み合わせれば、より生存率が増すといっても、やはり早期の時点で見つけて治療を開始することが大事であることはいうまでもありません(Respiratory Res 2019;20:208)。この報告では、症状の第2段階の、屋外では息切れがあるけれども、屋内では息切れがないという早期の時点から、2種類の薬剤を併用して治療した場合には、肺高血圧症が悪化することはほとんどありません。しかし、第3段階の屋内でも息切れが起こってしまうような、病変がすでに進行している時点で薬剤を2種類併用して治療しても、半年後の時点で、3分の1の患者さんが悪化してしまっていました。いかに早く、屋内での息切れなどの症状がない時点で、心エコーによる評価を行うなどして、できるだけ早期に発見し、治療を開始することが大事であることが分かります。

3-4.炎症・線維化・血管の異常に対する早期の治療介入の可能性-強皮症とリツキサン®・アクテムラ®-

3-4-1.血管の異常に対する早期治療

これは強皮症の患者さん(海外)の足の壊疽の写真です。血管の異常のために、足の指へ十分な血液が行かなくなり、このように壊疽になってしまったわけです。海外に比べますと、我が国では血流を改善する薬剤の種類が多いので、ここまでひどい人は珍しいと思います。

血管の異常に対しては、ここまでの状況となる前に、レイノー現象や、指の潰瘍が発症してきた段階で、血流改善剤などの治療介入を行うという方法があります。たとえば、ボセンタン(トラクリア®)という薬を使うと、使わなかったときに比べてレイノー現象が減ります。

レイノー現象を予防して指の潰瘍が悪くならないようにする薬ですが、そういう薬を使っていると、肺高血圧症はあまり起こらなくなるようです。肺高血圧症の症状が出る前、何らかの血管の異常が出てきた段階で、血管の異常に対応する薬剤を導入すれば、肺高血圧症があまり起こらなくなってくるようです(J Int Med Res 2014;44:85)。肺動脈の圧も、トラクリア®を使わなかった人は上がっていきますが、トラクリア®を使っている人は下がってきています。トラクリア®を使っている患者さんでは、使っていない患者さんに比べて、肺高血圧症のリスクは約4分の1にとどまる、という報告もあります(PLoS ONE 15:e0243651)。

このようなことからも、血管の異常という症状が出てきた早期の時点で、症状を是正する薬を使って、重大な血管の異常が起こらないようにする、より早期の治療介入が、より有効であろうと考えられます。

3-4-2.炎症を抑制することによる、線維化の進行抑制-リツキサン®-

炎症への治療に関しても、同様の、より早期の治療介入の有効性が考えられています。病態の形成機序から考えますと、炎症を抑制すれば、その先の線維化や血管の異常も抑制できるかもしれません。

早い段階で、炎症を抑える薬、免疫抑制剤を使っていく。そうしますと、使わなかった人に比べて、生存率が高いことが報告されています(Ann Rheum Dis 2017;76:1207)。この報告で使用されていた免疫抑制剤はメトトレキセート®、セルセプト®、エンドキサン®であり、エンドキサン®以外は、我が国での保険適応はありません。

これらの薬剤の問題点として、メトトレキセート®は、日本人が許容できる量では効果があまり感じられない印象があり、エンドキサン®は、効果はありますが、長期にわたって継続する場合、安全性に問題があり、かといって中止すると、強皮症は再び進行してしまう、ということがあります。セルセプト®は、メトトレキセート®より効果がありそうですが、全身性エリテマトーデスでの経験からしますと、エンドキサン®より安全性は高いのですが、長期にわたって継続する場合には、減量するなどの工夫が必要で、そうなると効果がどうかはわからない、という問題点があります。これらのことを考えますと、エンドキサン®やセルセプトは、まだ炎症の程度が軽い早期の時点では、そう気楽には使いにくいと考えられます。

それでは、さらに新しい治療手段、特に生物学的製剤といわれるグループの薬剤は、強皮症での有効性はどうでしょうか。生物学的製剤は、関節リウマチなどでも使用されていますので、我々にとっても、ある程度「使い慣れた」薬剤でもあります。私の個人的な意見ばかりではいけませんので、まずは、Nature Review Rheumatology 2023;19:212の記事をご紹介しようと思います。炎症を抑制する免疫抑制剤によって、線維化の進行を抑制できるかという観点から、皮膚硬化のスコアの改善に注目して、ご紹介します。

この記事でまとめられている複数の試験に参加している患者さんは、強皮症の中でも、びまん型(肘を越えて皮膚硬化がある)の強皮症の患者さんです。皮膚硬化のスコアも高めであり、本当の早期と言えるか、という点では微妙かもしれません。この点を考慮に入れてお聞きください。

それぞれの薬剤の試験に参加した患者さんの状態(皮膚硬化のスコアなど)は、当然のこととして、試験ごとに異なります。治療開始前での皮膚硬化のスコアの平均が、試験ごとにばらばらであるため、スコアの改善量で、それぞれの薬剤の効果を比較することはできないわけです。しかし、ここでは、イメージをつかんでいただくために、乱暴なやり方ではありますが、患者さんの状態の違いを無視して、皮膚硬化のスコアの改善量をお示しします。そうしますと、スコアの改善量が少ない(効果が少ない)ほうから、アクテムラ®、エンドキサン®内服、セルセプト®、メトトレキセート®、リツキサン®、エンドキサン®点滴、ということになります。

この中で、我が国での保険適応があるのは、エンドキサン®、リツキサン®です。そうなりますと、リツキサン®という薬剤に興味を持たれるかと思います。

我が国で行われました、リツキサン®の開発試験の結果をご紹介しましょう(Lancet Rheumatol 2021;3:e489)。皮膚硬化のスコアは10以上という、中等度以上の皮膚硬化がある患者さんを対象としています。スコアの平均は14.4でした。患者さんの年齢は平均で49.1歳です。リツキサン®は高齢の方では感染症などの副作用のリスクが高まる、といわれているので、使用にあたっては、年齢は重要なポイントになります。さて、皮膚硬化のスコアは、半年間で、リツキサン®を使ったグループでは、平均で6.297改善したのに対して、使っていなかった群では、平均で2.140悪化しました。この結果によって、リツキサン®の皮膚硬化への有効性が明らかになりました。今回の私の話で、線維化をとらえやすいのは手指と肺であると申し上げましたが、興味深いことに、このリツキサン®の試験では、手指のように明確ではありませんが、肺の線維化の進行を抑制する可能性も示されています。安全性についても、懸念されていた重篤な感染症は、延長試験も含めて、48人中で、肺炎球菌性肺炎が1人となっており、従来の強皮症診療での安全性の枠の中におさまると考えられます。

リツキサン®の有効性が明らかであるのに、現在、普及が遅れている理由としては、新型コロナウイルス感染症に関する懸念があるからだと考えられます。リツキサン®を使っている患者さんでは、他の治療薬を使っている場合に比べて、新型コロナウイルスに感染した場合に、重症化しやすいとされています。しかし、これについても、ワクチンを3回以上接種すると重症化リスクが低下することが報告されていますし(Lancet Rheumatol 2023;5:e88)、5類に移行する現在(2023年5月)、生命の危険などのリスクは低下していますので、これからはより積極的に使われていく薬剤であると思われます。

3-4-3.炎症を抑制することによる、線維化の進行抑制-アクテムラ®-

その他の薬剤のうち、初期の炎症抑制のために、私が個人的に有望だと考えているのは、先ほどのNature Review Rheumatologyの記事からは意外と思われるかもしれませんが、アクテムラ®という薬剤です。多発性硬化症、成人発症スティル病、巨細胞性動脈炎、高安病といった血管炎など、様々な病態で使用されている薬剤ですが、まだ強皮症には保険適応がありません。強皮症の線維化の病態のうちで、肺の線維化(間質性肺炎・肺線維症)の進行を抑制する効果が認められて、米国では保険承認されています。

アクテムラ®の強皮症における効果を調べた試験の代表的なものとして、focuSSed試験とfaSScinate試験があります。残念ながら、いずれの試験においても、皮膚硬化のスコアの変化は、アクテムラ®を使用したグループのほうが改善度は高かったものの、使用しなかったグループに比べて統計学的に意味のある差は認められませんでした。

だからといって、アクテムラ®を使用する意味が否定されたわけではありません。皮膚硬化のスコアの平均は、focuSSed試験が20.3、faSScinate試験が26であり、リツキサン®の我が国での試験の14.4に比べて、高い値になっています。つまり、アクテムラ®の試験では、線維化がより進行した患者さんを対象として治療を行っていることになります。炎症から線維化へ移行する、より早期の時点でアクテムラ®を使用していたら、皮膚硬化の改善はより大きなものになっていたかもしれません。強皮症の患者さんでは、早期の時点で、IL-6(アクテムラ®が抑制する標的である物質です)が多く分泌されているという、我が国からの報告もあります(J Rheumatol 1998;25:308)。

アクテムラ®は、強皮症にともなう関節炎に対しても有効な印象があります。皮膚硬化による手指の関節の動かしにくさを改善する効果と合わせて、手指の機能を改善させるためには、アクテムラ®は有用かもしれません。

また、線維化のもう一つの病態、強皮症の間質性肺病変に対して、アクテムラ®の有効性が確認され、それが、前に述べましたように、米国での強皮症への適用承認という形で表れています。肺の線維化の抑制については、リツキサン®よりも優れているかもしれません(断定できないのは、試験に参加した患者さんの、治療前の肺の状態が、両薬剤の試験で異なっていることと、海外において、リツキサン®が強皮症の間質性肺病変に有効であることを示唆する報告があるからです)。

あくまで個人的な意見ではありますが、強皮症において、自己免疫の反応が起き、次に炎症の反応が出てきた早期の時点(アクテムラ®のfocuSSed試験では、CRPの値・血沈の値・血小板数によって炎症を評価して、試験へ参加する患者さんを選んでいますが、手指の腫れのパターンでも炎症を捉えられることを今回はお話ししました)で、アクテムラ®を使用することによって、それ以上の線維化、血管異常、臓器の障害の進行を抑える、あるいは、進行を遅らせるようにできる場合もあるのではないかと、私は考えています。

まとめとして

膠原病という病態において、臓器の障害を起こして生活に影響を及ぼす主要な原因となるのは、炎症です。炎症を誘発する原因となるのは、自己免疫(自己抗体が作られる)であって、膠原病は、自己抗体と炎症の両者の存在をもとにして、診断されます。炎症は直接に、あるいは線維化や血管の障害を通じて臓器を障害しますが、手の指はこれらの線維化や血管の障害の所見をとらえるために好適な部位となっています。炎症、線維化、血管の障害が病態を形成している典型的な膠原病が、強皮症です。強皮症の生命予後を決定する重要な病変が肺高血圧症です。この肺高血圧症だけではなく、臓器障害が進行する前、炎症の反応が出始めて間もない時点、線維化や血管の異常による様々な症状が進行していく前の段階で評価し、診断を確定して治療介入できるかが、いずれの病態においても重要となるのではないか、というお話をさせていただきました。長時間にわたって、ご静聴ありがとうございました。