もの忘れ外来このページを印刷する - もの忘れ外来



 

もの忘れ外来の受診を希望される方へ

国立病院機構宇多野病院 関西脳神経筋センターでは、もの忘れ専門外来を開設しています。
もの忘れ(物忘れ)の症状は誰でも経験のあることですが、この中には加齢や機能的なものからアルツハイマー認知症などの病気のために出現するものまであります。
検査方法も以前に比べると進歩してきており、下記のような症状がある方はぜひ一度受診し専門医による診察や検査を受けていただくことをおすすめします。

もの忘れの症状

もの忘れの症状
  • 同じことを何度も尋ねるようになった。
  • 会話中にとっさに物や人の名前が出てこなくなり、あれ、それ、あの人と言うことが以前より多くなった。
  • ものをどこに置いたか忘れることが多くなった。
  • 昨日の夕食の内容を思い出せない。
  • 財布がなくなった、誰かが盗ったのではないかということがあった。

受診の予約について

もの忘れ外来の性質上、初診はゆっくりとお話を伺い、簡単なスクリーニングテスト、検査の予約などを行いますので通常の診察よりかなり時間がかかります。そのため、完全予約制にさせていただいておりますことをご了承ください。当日の予約は受け付けておりません。

受診の予約(平日9:00~17:00)は、当院地域医療連携室で行っています。

予約電話番号:075-461-5121または075-461-8309

※診察日は、火・水曜日 午前中 (完全予約制)になります。
 
  • この数週間で症状が急に悪化してきた場合や、暴れるようになった、うとうとして呼びかけても反応が悪い場合などの病状がみられるときは、脳梗塞、硬膜下血腫、代謝性脳症など急いで治療しなければならない病状である可能性がありますので、かかりつけの医療機関や救急病院にご相談いただくか、当院脳神経内科、脳外科外来を直接受診してください。当院脳神経内科、脳外科の初診は平日午前中は毎日診療をしております。
  • 診療前に質問及び、看護師の問診がありますので、なるべく予約時間より15分程早めにお越しください。この際、ご家族の方からの情報も診断に大切ですので、もし可能であればご家族の方もいっしょにお越しください。

担当医プロフィール

須藤 慎治 (脳神経内科医長)

<主な略歴>

国立長寿医療研究センター痴呆疾患研究部
米国ハーバード大学マサチューセッツ総合病院神経内科部門
京都府立医科大学脳・血管系老化研究センター神経内科学内講師などを経て
2006年4月より現職

<学会資格等>

日本内科学会総合内科専門医・認定内科医
日本神経学会認定神経内科専門医・指導医
日本認知症学会認定専門医・指導医
日本認知症予防学会専門医・評議員・認知症予防専門士指導者
日本医師会認定産業医
認知症サポート医

このほかに数名の神経内科専門医が担当しています。

もの忘れ外来の流れ

  1. 初診時に問診、神経学的診察、スクリーニングの検査を行い、その結果に応じて必要な検査の予約を行います。ビタミン、葉酸、甲状腺ホルモンなど認知機能と関連する項目について採血で測定し不足がないかも含めて評価します。
  2. 記憶など認知機能の状態を調べるため臨床心理士が神経心理学的検査を行います。
  3. 画像検査(MRI、脳血流シンチグラフィーなど)を行います。
  4. 以上の検査結果に基づいて、今後の生活上の注意点(脳のトレーニングや食生活など)、薬物療法の適否、介護が必要な場合には介護者へのアドバイスなどをもの忘れ外来専門の医師が時間をかけて行います。

もの忘れについて

もの忘れを心配されて受診される方が増えています。大事な予定をよく忘れる、仕事の能率が悪くなった、ミスが増えてきたなどご心配な方は受診をおすすめします。加齢による生理的なもの忘れのこともありますが、軽度認知障害や認知症などの病態が含まれている場合もあります。

認知症

いったん正常に発達した知的機能が後天的に低下し、日常生活や社会生活をひとりでは営めなくなっている状態をいいます。認知症の原因にはさまざまな病気が含まれており、ビタミンB12欠乏症や正常圧水頭症のように治療によって改善する可能性のある認知症もありますが、最も多いのはアルツハイマー病による認知症(アルツハイマー型認知症)です。

<認知症の原因となる主な病気>
 
  1. アルツハイマー病:認知症の原因になる病気の中で最多で、中年期以降に発症し加齢とともに増加します。アルツハイマー病では脳に老人斑というしみが認められますが、この老人斑の主成分はアミロイドベータ蛋白という物質です。アミロイド仮説によれば、アミロイドベータ蛋白が徐々に脳に溜まってきて神経細胞を障害し、タウ蛋白の異常蓄積や神経細胞の働きが低下し、最終的には神経細胞が死滅して記憶障害などの認知機能低下が認められるようになると考えられています。 最初にみられる症状はもの忘れであることが多く、近時記憶という少し前の記憶(たとえば昨日の夕食が思い出せないなど)の低下がみられます。また日付がわからなくなるなどの見当識障害もよくみられる変化です。進行すると洋服の着替えができない、家へ帰る道順がわからなくなるなどの症状がみられることもあります。
  2. 血管性認知症:脳梗塞や脳出血など脳の血管障害によっても認知機能低下をきたすことが多いため認知症の原因となります。意欲低下や感情の起伏が大きくなったり、手足の麻痺、嚥下障害、歩行障害など身体的な症状も伴いやすいことが特徴とされています。高血圧、糖尿病、脂質異常症などが危険因子です。
  3. レビー小体型認知症: 脳の神経細胞にレビー小体という封入物がみられるもので、初期の段階から実在しない人や虫がみえるなどの幻視がみられます。頭がはっきりしているときとぼーっとしているときがあるなど認知症状の動揺も特徴の一つです。また動作がおそくなったり、手足のこわばり(筋強剛)、小刻み歩行などのパーキンソン症状もみられることも診断の手がかりとなります。

軽度認知障害

正常と認知症の境界に位置づけられ、将来認知症(とくにアルツハイマー型認知症)に移行する割合が健常者より高いことから認知症予備群と呼ばれることもあります。 次のような症候にあてはまる方が該当します。
 
  • 本人にもの忘れの自覚がある、家族からもの忘れを指摘される。
  • 年齢や教育歴などを考慮しても記憶などの認知機能が客観的に低下している。
  • 日常生活は概ね問題なく行うことができる(自立している)。
  • 認知症ではない。
軽度認知障害(認知症予備群)の方は全国に400万人で、認知症の方462万人とほぼ同数いることが最近の調査で明らかになりました。軽度認知障害の方は認知症になる危険性が高く、約半数の方が5年以内に認知症へ移行するとの研究結果があります(一方で認知症にならない方も半数近くいます)。軽度認知障害からアルツハイマー型認知症に移行した人の大半は、軽度認知障害の段階ですでに脳にアミロイドベータ蛋白がかなりたまっていたことがPETという検査を用いた研究でわかってきました。このように認知症になる前には長い「水面下」の期間があり、通常はアミロイドベータ蛋白がたまり始めてから認知症になるまでに10年以上の時間的なずれがあると考えられています。したがって、もの忘れがまだ軽い段階から早く気づくことによって進行を抑える取り組みが重要です。日常生活においては散歩などの運動習慣、積極的に社会活動に参加すること、読書や計算などの知的活動を毎日行うことを心がけることが良いといわれています。さらにアミロイドベータ蛋白が脳にたまるのをできるだけ抑えて病態が進行しないようにする治療薬が現在開発中です。

検査について

形態画像検査

頭部MRI

形態的に脳の評価を行う検査です。脳梗塞や正常圧水頭症などの鑑別も含めてMRI画像から評価します。

頭部MRA

MRIを撮影する際に脳血管系の変化についても評価します。血管に狭いところがないか、動脈のこぶ(動脈瘤)がないかなど評価します。

脳の萎縮の検査(VSRAD)

VSRAD
アルツハイマー型認知症では記憶と関連の深い海馬・海馬傍回の萎縮が早期にみられることが知られています。初期には変化が軽度なために年齢による変化との鑑別が読影医師の視覚によるものだけでは困難なことも多くあります。そこで脳画像をコンピューター処理して解析して容積を定量化し、健常者と比較し客観的に萎縮の割合を算出する方法が最近開発されました(早期アルツハイマー型認知症支援システム;VSRAD Voxel-Based Specific Regional Analysis System for Alzheimer’s Disease、埼玉医科大学病院 核医学診療科 松田博史教授総監修)。当院でも診断に役立てています。

機能画像検査

脳血流シンチグラフィー

脳血流シンチグラフィー
SPECT (Single Photon Emission  Computed Tomography;単光子放射線コンピュータ断層撮影)によって脳の血流をみる検査ですが、脳の働きを反映すると考えられています。アルツハイマー型認知症では早期に後部帯状回などに血流低下域がみられることが多く早期診断の参考となります。微量の放射線を放出する薬剤を静脈注射し、ガンマカメラにより検出した薬剤の濃度分布を、コンピュータ処理により画像化するものです。検査に伴う被爆量はX線撮影とほぼ同等で、被曝量は人体にほとんど影響のないごく微量なものです。

MIBG心筋シンチグラフィー

心臓に分布する自律神経(交感神経節後線維)の働きをみる検査で、認知症を伴うパーキンソン病、レビー小体型認知症では低下する場合が多く、診断の際の参考になります。

神経心理学的検査

神経心理学的検査
記憶や失認、失行などの高次機能障害の評価のため、口頭での質問や字や図を書く検査です。静かな環境の心理検査室で臨床心理士が行います。

ミニメンタルステート検査 Mini-Mental State Examination (MMSE)

欧米で広く行われている認知機能評価の簡易検査で、見当識、記憶、計算、注意力、言語機能、構成能力などを10分程度でスクリーニングします。満点は30点です。

アルツハイマー病評価スケール認知機能下位検査日本版

Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive component-Japanese version  (ADAS-Jcog)
国際的に行われている評価法で認知機能検査として、単語再生、口頭言語、言語の聴覚的理解、自発語の換語困難、物品呼称、構成行為、観念運動、見当識、単語再認など11項目の尺度によって認知機能を評価します。検査時間は30-60分程度です。

ウェクスラー成人知能検査第3版 Wechsler Adult Intelligence Scale (WAIS-III)

国際的に最も広く用いられている知能検査で、言語性、動作性に関しての知能指数(IQ)に加えて言語理解、知覚統合、作働記憶(ワーキングメモリー)、処理速度の各群の群指数も評価可能です。年代別の正常対照と比較して知能指数(IQ)を判定します。IQの平均は100で約3分の2の成人はIQ 85-115に含まれます。

ウエクスラー記憶検査 Wechsler Memory Scale-Revised(WMS-R)

健忘型軽度認知障害(amnestic mild cognitive impairment; amnestic MCI)などを評価するためにはMMSEのスクリーニング検査のみでは不十分であるため、詳しい記憶に関する検査を行って評価します。本検査は国際的に最もよく使用され、言語を使った問題と図形を使った問題で構成され、記憶について言語性記憶、視覚性記憶などさままざま点から評価します。検査時間は60分程度です。

前頭葉機能検査 Frontal Assessment Battery (FAB)

MMSEが正常範囲であっても進行性核上性麻痺などの神経変性疾患伴った認知症や正常圧水頭症など病気によっては前頭葉機能が最初に低下することがあるため、認知機能を多角的に評価するために前頭葉のスクリーニング検査もあわせて実施しています。検査時間は10分程度です。

その他、標準注意検査法(CAT)、 高次視知覚検査(VPTA)、遂行機能障害症候群の行動評価(BADS)などの検査を症状によって適時組み合わせて認知機能に関しての総合的評価を行います。

治療について

薬物療法

<アルツハイマー型認知症>
 
  1. 記憶低下など中核症状に対する治療:アルツハイマー型認知症では記憶と関連の深いアセチルコリン作動性神経の障害がみられます。そこで,アセチルコリンの分解酵素を阻害してアセチルコリンを相対的に増加させ、記憶の改善効果を期待する薬剤(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)が広く用いられています。現在,国内でアルツハイマー型認知症に対して承認されている薬剤は塩酸ドネペジル(アリセプト®)、ガランタミン(レミニール®)、リバスチグミン(リバスタッチ®;貼り薬)の3種類の薬剤です。
    また、神経伝達に関与するグルタミン酸の受容体の一つ(NMDA受容体)に結合することによってグルタミン酸の異常な流入を抑え学習・記憶を改善させるメマンチン(メマリー®)も2011年に承認され現在使用されています。
  2. 原因に対する治療の試み:アルツハイマー病の原因に関してはアミロイド仮説がこれまで最も広く受け入れられてきました。すなわちアミロイドベータ蛋白が加齢とともに徐々に脳に蓄積し,神経細胞を障害し、アセチルコリンなどの神経伝達物質や神経細胞死が生じて認知機能障害が起きるという説です。そこで病気が進行するのを防ぐためにアミロイドベータ蛋白の産生を抑えたり、除去する治療法が研究・開発されてきました。まだ承認に至った薬剤はありませんが臨床試験が進行中です。

1)ベータセクレターゼ(BACE)阻害薬
アミロイドベータ蛋白はその前駆体蛋白(アミロイド前駆体蛋白;APP)から酵素(セクレターゼ)によって切断されて産生されますが、BACE阻害薬は切断酵素であるセクレターゼの働きを抑えることによってアミロイドベータ蛋白の産生を抑える薬です。
2)抗アミロイドベータ抗体
アミロイドベータ蛋白は最初にモノマー(単量体)として産生され、これは無害ですが数個が会合してオリゴマーとなりさらに凝集して線維化(フィブリル)となり脳に蓄積すると考えられています。抗アミロイドベータ抗体はアミロイドベータ蛋白に結合し、アミロイドベータ蛋白を除去する効果が期待されています。アミロイド抗体によって結合できるアミロイドベータ蛋白の部位や分子種(モノマー、オリゴマー、フィブリルなど)の違いがありますが、中でもアミロイドフィブリルなどの凝集した分子種を認識する抗体ではすでに脳に沈着しているアミロイドベータ蛋白も除去する効果が期待されています。


<軽度認知障害>

まだ承認薬はありませんが、進行予防のための臨床試験(治験)が行われています。とくにアルツハイマー病による軽度認知障害(アミロイドが脳にたまっている場合)の場合はより早期に治療を開始した方が進行を抑制できる可能性が高いと推察され臨床試験が実施中です。
 

非薬物療法

初診後の検査結果によって、薬物治療以外に日常生活で認知症予防に役立つといわれている方法(認知リハビリテーション、運動療法、食事など)についても多角的な視点からアドバイスをいたします。
 

認知症のケア

わが国における認知症施策である新オレンジプランにおいても認知症の方が在宅で生活ができるように医療・介護が連携しながら発症予防から生活支援までの体制づくりを早期に築くことが盛り込まれています。認知症サポート医の視点から介護専門職との連携やケアについてのアドバイスをいたします。
 

治験について

現在わが国で認可されている認知症の治療薬は非常に少なく、新薬の開発へのニーズは高いものがあります。新しいくすりを国から認めてもらうために行われる臨床試験を「治験」といいます。
当院ではアルツハイマー病を対象とした新薬の臨床試験(治験)にも積極的に取り組んでいます。治験管理室が設置され専属スタッフが治験の概要の説明を行っています。治験に関するお問い合わせは 治験管理室までご連絡ください。