ナースのストーリー06このページを印刷する - ナースのストーリー06

宇多野の看護の魅力

看護師

看護師
私は一生を通して資格を持って働きたいという思いが強く、母の勧めもあったので、看護師を目指すようになりました。この病院を初めて知ったのは、看護学生となり、実習に来た時です。普段の自分の実習病院ではあまり関わることのなかった神経難病の患者さんと出会い、その看護にやりがいを感じ、宇多野病院に就職しようと思いました。
宇多野病院に就職して25年になりますが、病院の周辺は自然に囲まれ、外に出ればお散歩コースもあり、患者さんの療養環境としてはとてもいい所だな・・・と感じています。その中で働く私たち看護師も、患者さんの思いや自分たちの看護の思いに対してきちんと向き合いながら、丁寧な看護を提供したいと努力しています。

患者さんの思いに応えるということ

私が看護師として働いてきたこれまでの人生の中で、忘れられないAさんとの出会いがあります。Aさんは男性のALSの患者さんで、病状は末期の状態にまで進行し、気管切開され人工呼吸器を装着していました。全身の筋力は低下し、周囲とのコミュニケーションもわずかな'まばたき'でしかできない状態になっていました。病室には毎日、奥さんが付き添われ、二人の娘さんは時間を作っては面会に来られていました。この頃、Aさんは「最後までポータブルトイレで排泄をしたい」という強い思いを訴えておられました。
Aさんの状態から考えると、ベッド上での排泄が選択される時期でした。まだ新人だった私には、なぜAさんがそこまでポータブルでの排泄にこだわるのか、Aさんの気持がよく分からず、安全な方法を受け入れて欲しいという思いがありました。しかし、それでもポータブルトイレでの排泄に強くこだわるAさんの姿から、Aさんの本当の訴えに気づきました。Aさんは、ベッドから移動してトイレに行くという行為を通して奥さんや二人の娘さんにメッセージを伝えておられたのです。気管切開し人工呼吸器を装着すること、
ポータブルトイレでの排泄を行うことなど、それら全ての行為を通して、最後まで病気と闘う姿や自分自身の生きざま、生きていた証を家族に示し、「父親としての最期の役割」を果たそうとしておられたのです。それまでは、安全面を優先してポータブルトイレでの排泄は危険ではないのかと考えていましたが、Aさんの思いに気付いたことで、できる範囲内でその思いを支えようと援助していきました。その頃の私は新人だったので、その場面に具体的にどのような介入が行えたのかといえば何もできていなかったのかも知れません。しかし、Aさんの生きざまは今でも強く心に残っており、Aさんの看護を通して得た経験はかけがえのない財産です。
私達は、入院されている患者さんの人生の一場面に関わらせていただいていますが、それぞれにその人の人生があって、ご家族がおられ、元気だったころの生活があります。私達が見ている入院中の患者さんの姿だけでは計り知れない、それぞれの人生を感じることがあります。それらのすべてを理解することはできませんが、私達は、患者さんがこれまでどのように生きてこられたのか、これからの人生に何を望み、どのようなゴールを望んでおられるのかをできるだけ把握し、可能な限り支援していくことが大切なのではないかと思っています。そして、私たち看護師の役割は、その患者さんや家族の思いにできる限り応えていくことだと思います。それが、宇多野病院の看護理念でもある、"患者さんと「共に」歩む看護"につながっていくのではないでしょうか。

学び続ける姿勢を持ち続けたい

患者さんの思いに応えて行くためには、看護師として、人としての感性を大切にすることに加え、正しい知識と技術も身につけていなくてはいけません。医療をとりまく環境は常に変化しています。自分の今までの経験や知識だけで満足するのではなく、理論や根拠を学習し、常に看護実践力を向上させる努力を続けることが大切だと思っています。そして、そこに自分自身の培った経験値も合わせることで、より幅のある看護ができれば・・・と考えています。そんな思いから数年前に「呼吸療法認定士」の資格を取得し、現在の急性期の病棟で、患者さんの早期回復と少しでも安楽に過ごせるような看護を心がけています。これからも患者さんの出会いから常に学んでいく姿勢を持ち続け、根拠のある正しい知識・技術をもって、患者さんの思いに寄り添う看護を提供していきたいです。
また、現在は教育担当として後輩育成・学生指導にも関わっています。やはり自分が働いて色々なことができるようになってくると、できなかった頃のことを忘れてしまいます。しかし、誰でも初めてのことはできないし、緊張もすると思います。自分も同じように初めて経験した時の思いを忘れることなく、後輩や学生の気持ちを考えて、一人一人の個別性に応じた関わり方をしていかなければならないと思います。できないことをできないと指摘するばかりではなく、どうやったら自信をもってできるようになるのかということを一緒に考えていけるような指導者でありたいと思っています。