ナースのストーリー07このページを印刷する - ナースのストーリー07

患者さんの生活を整え、人生を支える看護

副看護師長

副看護師長
私は、小学生の頃の入院体験から、将来は病院で勤めたいと漠然と思っていました。そして、高校生になって進路を決める時に"病院で一生働ける職業って何かな?"と真剣に考え、入院中に出会った看護師さんの姿を思い出しました。当時の看護師さん達は、私が「もっと入院していたい。」と思うくらいに優しく接してくれて、私もそんな看護師になりたいと思い、看護の道に進みました。
それから、宇多野病院附属看護学校に入学し看護を学びましたが、宇多野病院に就職したのは、ある一人の看護師長さんに実習で出会ったことがきっかけです。私のイメージしていた「看護師長」とは、「管理職であり、デスクワークが中心で患者さんと関わることは少ない人」いう印象でした。しかし、その看護師長さんは、毎日必ず患者さんのベッドサイドに行き、患者さんの傍らでじっくり話に耳を傾け、不安や悩みが解決できるよう対応されていました。患者さん達も看護師長さんがベッドサイドに来てくれるのを心待ちにされているようにも感じました。そんなすばらしい看護をされている看護師長さんの姿を見て、私も同じように宇多野病院で患者さんと信頼関係を築き、同じ時間を歩みたいと感じ就職をしました。
私がまだ新人だった頃、「看護師=生命と安全を守る」というイメージを強く持っていました。しかし、経験を重ねるうちに、その人の生活を整え、人生を支えることも大切な役割であると考えるようになりました。患者さんの生命や安全だけでなく、患者さんの生活背景を踏まえた個別性を見出し、その人らしい生活を守っていくことも看護師にとっては大切なことだと働いて気づかされました。
また、働いてみて宇多野病院の良さに気づいたことがあります。それは病院の中がアットホームで職場の人間関係がとても良いところです。スタッフ同士が顔なじみですし、どこの病棟にも一緒に働いていた仲間がいます。ある時などは、私がしんどそうに廊下を歩いていると、10mもしないうちに「どうしたん?」と、呼び止められたこともあります。このようなスタッフ同士のホットな関係性があることで、患者さんとの関係もより近くなっていくのではないかと感じています。

患者さんの心の声を聴く

私が看護師になってから一番印象に残っているのは、パーキンソン病のAさん(女性)との看護の出会いです。家族は夫と息子さんの三人暮らしであったことから、自宅で療養生活を送るには介護が困難ということもあり、長期入院となっていました。また、Aさん自身もご家族も退院は無理だろうと考えておられました。しかし、ある時、看護師がAさんの傍で話を聞いていると、「私はどうしても、もう一度家に帰りたいの・・・。」と訴えられたのです。私は、初めてAさんの本心に触れ、今までの関わりを振り返りました。Aさんの本当の望みを聴くこともなく、みんなが在宅で過ごすことは無理だと諦めてしまっていたことに気づきました。それからはご家族との話し合いやカンファレンスを繰り返し、具体的に何が無理なのか、Aさんや家族はどのような不安を感じているのかを話し合い、ひとつひとつ問題を解決していきました。また、訪問看護や種々のサービスの情報を提供し、「ご家族だけがすべて介護を負担するのではなく、
各種のサービスを活用しながら自宅でより良い生活をもう一度してみませんか?」というスタンスで、Aさんやご家族と話し合いを何度も何度も重ねていきました。その結果、ご家族からも「じゃあ、一回帰ろうか。」という思いになって下さいました。その後も、看護師とご家族で自宅に帰ることを目標に綿密な計画を立てていきました。そして、サービスを調整し、試験外泊を繰り返し、ようやく在宅での療養が可能となった時には、患者さん、ご家族の思いと看護チームが一体となった実感がありました。Aさんは「本当に帰っていいのか・・・」という気持ちもありましたが、「実現できて嬉しい!」という気持ちの方が勝っていたようでした。退院の日は、長年入院されていてお互いが家族のような関係になっていたので、涙、涙、涙・・・そして笑顔のお別れでした。Aさんがご自宅に帰られた後、当院の訪問看護師から「お家に帰られてすごく喜んでいらっしゃった。サービスを受けてご家族も負担なく生活できている」と聞き、安心しました。その後、外来受診時にはAさんやご家族から「家に帰ることができて本当に良かった。」との声を聴くことができ、
Aさんは現在も在宅でご家族に見守られながら療養生活を続けていらっしゃいます。
この経験から、もっと患者さんの声を聴きたいと思うようになりました。今は「患者さんの想いやその人の人生に寄り添った看護をしたい」と強く思っています。患者さんの「心の声」を聴き、その想いを尊重できるように、ご家族やサービスを巻き込んで、患者さんの生活を守ることが看護師の重要な役割だと考えています。その想いが実現した時の患者さんの笑顔や言葉を見たり聞いたりすると、頑張ってよかったと思いますし、また頑張ろうという原動力にもなります。

専門性を深め、伝えていく

看護師としては、神経難病看護の専門性を追求していきたいと考えています。神経難病の患者さんは摂食・嚥下機能に障害のある方や、転倒を繰り返される方などいろいろな方がおられます。私自身が看護の専門性を高め、個々の患者さんを理解していくことで、神経難病の患者さんがその人らしくより良い生活が送れるよう支えていきたいと思います。
また、副看護師長としては、自分の持つ専門性を後輩に伝えていくことが使命だと考えています。教科書などから学ぶことも多くありますが、現場で患者さんと接してわかることや患者さんから教えられることもたくさんあります。患者さんの声はもちろん、話すことのできない患者さんは何らかのサインを出しておられて、そういったところへの「気づき」の大切さも伝えていきたいです。日々の業務に流されるのではなく、患者さんの些細な変化を見逃すことなくキャッチできる看護師になれるよう共に成長していきたいと思います。