ヒュミラ皮下注このページを印刷する - ヒュミラ皮下注

はじめに

関節リウマチの治療が、現在大きな変革期にあることを疑う人はいらっしゃらないでしょう。
「寛解導入(リウマチの活動性が最小の状態で維持すること)」や「治癒」といった、これまで考えられなかったような概念が、それほど非現実的にではなく、語られるようになってきています。

このような変革をもたらした「生物学的製剤」は、わが国で4種類が使用できるようになりました。
最初に市販された「生物学的製剤」はレミケード(一般名:インフリキシマブ)で、2005年3月にエンブレル(一般名:エタネルセプト)がこれに続きました。さらには、2008年4月にはアクテムラ(一般名:トシリズマブ)が市販されました。 そして、2008年6月、ヒュミラが市販されました。

生物学的製剤は、リウマチの病像形成の原因となる物質を特異的に阻害して、リウマチを強力に抑えこむ薬剤です。
ヒュミラは、TNFαという物質を阻害します。これは、レミケードやエンブレルと共通です。レミケードやエンブレルと同様に効果が期待される薬剤です。

ヒュミラの効果については、2001年、米国で承認されてからも、さまざまのStudyが行われてきました。ヒュミラのStudyは、日常生活や就労生活能力など、生活の質を評価するものが多いことが特徴です。そこでは、ヒュミラの、生活の質を維持する効果が示されています。一つ例を挙げますと、1年間のヒュミラ投与により、仕事を行う能力(PCI)が、ほぼ正常レベルにまで回復するという報告があります(J Rheumatol 2008;35:206-15)。

基本的には安全な薬剤ですが、場合によっては、重症の副作用をおこすこともあります。
本稿では「ヒュミラ」を安全に使用する上で注意すべき点についてご説明していきます。

効能・効果

関節リウマチの患者さんで、従来の治療を少なくとも1剤行なった後で、効果が不十分な場合、となります。

国内での治験の結果(M02-575試験)

従来の抗リウマチ薬で効果が不十分な患者さんに、ヒュミラを使用した場合と、使用しなかった場合を比べています。使用しなかった場合は、半年で何らかの改善が認められた患者さんは13.8%にとどまりましたが、ヒュミラを使用した場合には、44%の患者さんに改善が認められました。

海外での治験の結果

ヒュミラとMTX(メトトレキサート)を併用した試験(DE019)の結果をご紹介します。

MTX単独では、1年で何らかの改善が認められた患者さんは24%にとどまりましたが、ヒュミラを併用した場合は、58.9%の患者さんに改善が認められました(Arthritis Rheum 2004;50:1400-11)。
関節が破壊されるのを防止する効果も同じ試験で確認されています。シャープスコアというスコアで評価しています。
1年が経過した時点で、MTX単独治療群では平均2.7スコア進行しましたが、「ヒュミラ」を使用した群では0.1スコアにまで抑えられました。

同様の試験は、発症早期の患者さんでも行われていますが、その改善度はいっそうすばらしく、ヒュミラとMTXを併用した患者さんの約半数が活動性4分の1以下(ACR70)となり、4人に1人が活動性10分の1以下(ACR90)となっています。関節破壊はMTX単独で2年で10.4スコア進行しましたが、ヒュミラ併用では1.9スコアに抑えられています(Arthritis Rheum 2006;54:26-37)。

ヒュミラとMTXを併用すると、ヒュミラが体内にとどまる時間が延長することが知られています。このために効果が増強するのではないかと考えられています。感染症のリスクは、併用によってやや増加するとされていますが、これについては、国内での調査の結果を待つ必要があります。

注意

この薬剤は、原則としては、すでに破壊されてしまった関節組織(軟骨・骨など)を再生するものではありません。
また、あくまで進行を遅らせるための薬剤であって、完治させるものではありません。

用法・用量

  • 2週間に1回、皮下注射で使用します。自己注射も可能です。
    1回に注射する量は、40mgです(体重による調整はありません)。
    注射器の中に、すでに溶解された薬液が40mg分、充填されています。薬剤を溶解する必要はありません。
    効果不十分の場合は、1回に注射する量を、80mgにふやすことが可能です。この場合、2本分、注射することになります。(効果不十分かどうかの判定は、開始後12週の時点での改善の程度に従って行うことが推奨されています)
  • ヒュミラは、1回の注射する量が40mgの場合はメトトレキサート(MTX:商品名リウマトレックス、メソトレキセートなど)などの抗リウマチ薬を併用可能です。
    1回に80mg注射する場合は単独で使用することとなっており、メトトレキサートなどの抗リウマチ薬の併用は認められていません。

自己負担額

2008年6月現在では、標準使用量の40mgの場合、1回の注射で約2万1千円(3割負担)の自己負担が発生します。2週間に1回ですから、1ヶ月で約4万2千円、1年間で約50万円となります。
この金額は、他の生物学的製剤とほぼ同等です。
(各種制度の適用がある場合には、これよりも自己負担が軽減することがあります)

禁忌

以下の条件にあてはまる方には、ヒュミラは使用できません。

  1. 重症の感染症に現在かかっている方(病状が悪化する可能性があります)
  2. 活動性の結核に現在かかっている方(病状が悪化する可能性があります)
  3. 以前にヒュミラを使用して、アレルギーが出たことがある方
  4. 多発性硬化症などの脱髄疾患に現在かかっている方、以前かかったことのある方(病状が悪化、もしくは再燃する可能性があります)
  5. うっ血性心不全のある方(病状が悪化する可能性があります)

慎重投与

以下の条件にあてはまる方には、ヒュミラの使用に当たっては、リスクを慎重に評価する必要があります。

  1. 重度ではないが感染症を合併している方、または感染症が疑われる方(病状が悪化します)
  2. 以前に結核にかかったことがある方(結核が再燃する危険性があります)
    TNFを阻害する薬剤に共通の作用として、結核菌を排除する細胞の働きを抑える可能性がありますので、予防的に抗結核薬のイソニアジド(イスコチン)を使用するなどの注意が必要です。
  3. 多発性硬化症などの脱髄疾患の疑いのある方
    これもTNFを阻害する薬剤の共通のものです。そもそも日本人では欧米人よりずっと多発性硬化症の頻度は少なく、レミケードやエンブレルでも国内で脱髄疾患が発症したという報告はありません。発症した場合は、ヒュミラを中止します。
  4. 重篤な血液疾患(白血球、赤血球、血小板の数が減少する病気)
    TNF阻害薬で、まれに血球が減少することがあるので、もともとそのような病気の方には適応を慎重に考える必要があります。
  5. 高齢者(感染症にかかりやすい方)
    レミケードやエンブレルの経験からは、(1)高齢(65歳以上)、(2)もともと肺の病気のある方、(3)糖尿病の方、(4)ステロイド剤を併用している方、(5)腎臓の機能の悪い方などが感染症にかかりやすいということが知られています。ヒュミラに関しても同様です。

使用にあたっての注意

「禁忌」「慎重投与」のところでご説明した項目については省略させていただきます。

  1. 悪性腫瘍について
    このホームページの他の項(関節リウマチ治療の新しいスタンダード)のところでもご紹介していますが、TNF阻害薬と悪性腫瘍発症については、はっきりとした結論がでていません。私は、関節リウマチ、かつ重症の関節リウマチであること自体が、悪性リンパ腫のリスクを高めるというデータを信頼しています(Arthritis Rheum 2007;56:2886-95など)。
  2. B型肝炎ウイルスキャリアの方の場合
    TNF阻害薬に共通して、肝炎ウイルスが増加して、発症・重症化する可能性があります。定期的なウイルス量のチェックや、ウイルスの増殖を防ぐ薬剤を併用するなどの対策が必要です。
  3. 生ワクチンについて
    生ワクチンを接種した場合、その感染症を発症してしまう可能性があるので、接種を控えてください(よく行われるインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンは、生ワクチンではありません。これらのワクチンを接種することは、感染症予防のためにも推奨されます)。
  4. アレルギー反応について
    使用中に、息が苦しくなったり、血圧が下がったりする(アナフィラキシーといいます)重症のアレルギーは、ヒュミラではきわめて少なく、わが国での臨床治験では1例も発生していません。ただし海外で報告されているため、注意が喚起されています。
    上記の反応が発生したときには、アクテムラの点滴を中止し、速やかにボスミンという薬や、ステロイド剤などを使用して、改善をはかります。
    注射部位の発赤、皮疹、かゆみ、腫脹などの軽いアレルギー症状が起こることがあります。
  5. 全身性エリテマトーデス類似の症状
    これについてもTNF阻害薬共通です。血液検査、症状面で、このような徴候が現れたときには、ヒュミラを中止します。臨床治験中の発症例では、ヒュミラ中止によりもとにもどっています。
  6. ヒュミラに対する抗体(ヒュミラと結合して、ヒュミラの効果を妨げる可能性のある抗体)の出現について
    レミケード(頻度は低いもののおそらくはエンブレルでも)でもありますが、ヒュミラでも抗体ができて、効果が弱まる可能性があります。MTXを併用すると、レミケードの場合と同様に、この抗体の出現率は減少します。この点からもMTX併用により作用が増強することが裏付けられます。
  7. TSE(いわゆる狂牛病)について
    ヒュミラを製造するために使用する細胞の保存用培養液の中にウシの血清を使用しています。このウシはTSE回避のためのEU基準をみたしたものであり、その後の製造工程を考えても、現実的にはTSEのリスクは考えられません。実際に、ヒュミラ投与によりTSEを発症したという報告はありません。

使用前の診察

結核のチェック

問診

療養所に長期間入院し、化学療法を受けたことはありませんか?
家族に結核を患った人はいらっしゃいませんか?
以前におこなったツベルクリン検査の結果はいかがでしたか?
BCGを接種したことはありますか?
10~20歳で肺炎が長引いた、もしくは咳・痰が治らなかった経験はありませんか?
過去に熱が出たことがあり、薬ですぐに治らなかったことはありませんか?
肺浸潤と診断されたことはありませんか?

画像検査とその他

胸部レントゲン検査
胸部CT検査
ツベルクリン反応
クオンティフェロン(ツベルクリン反応を補完する目的で、必要に応じて行います)

結核に関する当院での方針

結核以外の感染症や、感染症以外の肺の合併症の評価の必要がありますので、ヒュミラ使用前に、胸部単純レントゲンと胸部CTは、全員に行います。

  1. 年齢に関わらず、現在活動性の結核感染を示唆する所見のある場合ヒュミラは使用しません。
  2. ヒュミラ使用に対するご本人の希望と全身状態を勘案して、抗結核剤の予防投与(イソニアジドをKg体重あたり5mg、1日最大300mg、9~12ヶ月)をしながら、ヒュミラを使用します。
  3. 60歳以下、ツベルクリン反応陰性
    ヒュミラを使用します。
  4. 60歳以下、ツベルクリン反応陽性
    結核発症のリスクがあることを十分に考えていただいた上で、ヒュミラを使用します。
  5. 60歳以上、ツベルクリン反応陰性
    ヒュミラを使用します。
    抗結核剤の予防投与をおこないます。
  6. 60歳以上、ツベルクリン反応陽性
    開始前のCTで問題がなくても、適宜CT検査をおこないます。
    結核発症のリスクが高いことを十分に考えていただいた上で、ヒュミラを使用します。
    抗結核剤の予防投与をおこないます。
  7. 結核患者との接触があった場合
    ヒュミラの中止、あるいは抗結核剤の予防投与をおこないます。

その他の感染症のチェック

リンパ球数
β-Dグルカン値(真菌=カビによる感染症を検出する項目です)
KL-6値(ニューモシスチスなどの一部の肺の感染症を検出する項目です)
B型肝炎の抗体価
C型肝炎の抗体価
検尿

心機能のチェック

問診:日常の動作で動悸・息切れ・胸の痛みがでることはありませんか?
心電図
心臓超音波検査(必要に応じて)

アレルギー症状のチェック

薬などで皮膚のかゆみや発疹がでたことはありませんか

副作用

一般的な副作用(国内臨床試験382例での結果)

鼻咽頭炎(風邪)(38.2%)、気管支炎(10.2%)、注射部位紅斑(21.7%)、注射部位反応(12.0%)、発疹(16.0%)、かゆみ(11.3%)など、となっています。
この数字は、他の生物学的製剤の場合と同様のものです。

重大な副作用とその対策

  1. 感染症
    敗血症(0.5%)、肺炎(3.4%)、結核(0.5%)などです。 対策は以下のとおりです。
    (1)うがい、手洗いの励行といった、一般的な感染症予防(2)結核やニューモシスチス肺炎のリスクがある場合には予防的に薬を服用
    (3)基本的に全例にインフルエンザワクチンの接種、高齢者などリスクの高い患者さんには肺炎球菌ワクチンの接種
    (4)感染症を疑われる徴候が出現した場合は、速やかに医療機関に連絡する(下の「使用中の注意」の項を参考にしてください)
  2. アレルギー反応
    重症のアレルギー反応はまれですが、ヒュミラを中止します。
  3. 血球(白血球、赤血球、血小板)数の減少
    重度の減少はまれですが、ヒュミラを中止します。
  4. 間質性肺炎(0.8%)
    間質性肺炎は、肺の壁から炎症が起きて酸素が通りにくくなってしまうタイプの肺炎です。薬剤に対するアレルギー反応としても起こりますし、カビなどの病原体の侵入によって起きることもあります。
    症状としては、空咳、発熱のほかに、酸素のとおりが悪くなるので、息切れ(とくに体動時)が生じます。

    このような症状が出現したら、速やかに医療機関に連絡してください。
    レントゲン、CTなどの検査で、間質性肺炎であることが判明した場合には、ヒュミラを中止し、ステロイド大量療法で炎症を鎮めるとともに、カビ(とくにニューモシスチス・イロヴェッチ)などを殺す薬剤を開始します。このような治療と並行して、原因の検索を進めていきます。

使用中の注意

次のような症状が現れたときは、速やかに主治医に連絡をとってください。

発熱・悪寒・発汗
体のだるさ・疲労感
鼻水
のどの痛み
咳・痰
息切れ
腹痛・下痢
頻尿・残尿感
皮膚のかゆみ・発疹

※本稿作成にあたっては、エーザイ株式会社提供のインタビューフォーム、適正使用ガイド、新医薬品の「使用上の注意」の解説を参考にさせていただきました。