強皮症の治療-皮膚科学会の2016年の診療ガイドラインを参考に-このページを印刷する - 強皮症の治療-皮膚科学会の2016年の診療ガイドラインを参考に-

はじめに

強皮症(正式には全身性強皮症といいます)は、全身の臓器において線維組織が増えてしまい、機能を障害してしまう病気です。免疫の異常が関与していると考えられ、自分の組織の成分に対する抗体、自己抗体が各種認められます。病気の本体はまだ不明ですが、「過剰な線維化」と「血管の変化による血流の障害」が主であると考えられています。
代表として、皮膚をとりあげてみましょう。強皮症の患者さんの皮膚の断面を顕微鏡でみると、そこにはいくつもの変化が認められます。
皮膚の下にはコラーゲンからなる線維組織がありますが、それが通常よりもずっと増えています。汗を出す乾癬は、増殖した線維組織に囲まれて委縮してしまっています。毛根も同じように委縮してしまっています。毛細血管はある部分ではつぶれていて、ある部分はうっ血して曲がりくねりながら拡がっています。
線維成分が過剰に増えてしまっているために、さまざまの器官が影響を受けて、正常に機能しなくなっている様子がみてとれます。
他の場所でもこれに類した変化をみることができます。
強皮症は膠原病といわれるグループに属する疾患ですが、一般に他の膠原病が「炎症」を主とするのに比べて、「線維化」や「血管の変化」の比重が大きく、治療にも特有の問題があります。

典型的な経過としては、寒さなどに誘発されて、たとえば、手袋なしで自転車を走らせたときや、冷たい水に手をつけたときに、手の指先がろうそくのように真っ白になること(レイノー現象)から始まります。単に白っぽくなるのではなく、本当にろうそくのような白さです。これは血流が一時的に悪化することによって起こる症状です。
典型的なレイノー現象では、そのあと血流が部分的に回復して紫色になり、さらに血管が拡がった時に赤い色になる、3相性の色の変化が認められます。レイノー現象は、痛みや力が入りにくくなるなどの症状を伴い、生活に影響を与えます。
レイノー現象に続いて、手指の皮膚が硬くなってきます。後述する限局型とびまん型とで、レイノー現象単独のままでとどまる期間の長さは異なります。限局型はレイノー現象単独の期間が長く、びまん型はレイノー現象がでてまもなく皮膚硬化がでてくる傾向があります。そのうちに手指が腫れぼったくなって動かしにくくなり、さらに手指の皮膚が先の方から硬くなってきてさらに動かしにくくなっていきます。顔の皮膚が硬くなって口が開けにくくなって、歯をみがきにくくなることもあるでしょう。
並行して、手指の冷感が強くなって、指先が荒れて潰瘍になって、強い痛みを感じるようになることもあります。
指だけだった皮膚の硬化も、だんだんと手背や手首のほうへと進んでいきます。
さらには、皮膚の症状だけではなく、咳や息切れ、動悸といった、心臓や肺の症状も出てくる場合があります。

強皮症では、症状の経過がゆっくりしていることも多く、医療機関に受診した時には、かなり進んでしまっていることもあります。思春期より前からのレイノー現象は膠原病と結びつくことはあまりありませんが、思春期を越えてから新たにでてきたレイノー現象については、一度医療機関を受診してみることをお勧めします。
レイノー現象は、膠原病以外の疾患にともなって起きることもありますし、膠原病にともなうものであっても、強皮症以外に、シェーグレン症候群や全身性エリテマトーデス、混合性結合組織病、筋炎などでも起きることがあります。

強皮症の診断

診断をするのは、あくまで経験のある医師の仕事です。普通のかたが、この記載をみて自分が強皮症であるかどうかを診断することはまちがいのもとですが、参考までに基準をあげておきましょう。

厚生労働省研究班 2010年

<主要項目>
  1. 大基準
    手指あるいは足指を超える皮膚硬化
  2. 小基準
    a.手指あるいは足指に限局する皮膚硬化
    b.手指尖端の陥凹性瘢痕、あるいは手指の委縮
    c.両側性肺基底部の線維症
    d.抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体または抗セントロメア抗体または抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性
    大基準、あるいは小基準のaかつb~dのうち1項目以上をみたすものを全身性強皮症と診断する

このほかに、厚生労働省研究班「強皮症の早期診断基準案」2013年、アメリカリウマチ学会、ヨーロッパリウマチ協会合同2013年の分類基準が、より早期で強皮症と判断するために提唱されています。これらは、一般のかたにはややわかりにくいものなので、ここでは紹介いたしません。

このような特徴を呈する強皮症に対して、どのように治療をおこなっていくかについて、世界の各国でガイドラインが出されています。ここで、日本人として誇らしいことは、わが国では諸外国に比べて、強皮症に使える薬が(とくに血流改善剤に関して)数多くあり、また多くの場合、公費補助でそれらを使用できるということです。
そこで、わが国でのガイドラインを基本として、強皮症の治療のやりかたをご紹介していこうと思います。

2016年の10月に皮膚科学会の全身性強皮症の診療ガイドラインが改訂されました。ガイドラインとは、もちろん科学的な根拠に基づいて作成されるものです。一般にガイドラインでは、診療上重要であるけれども科学的根拠があまりない問題については、記載せずに逃げてしまいます。
ところが、この皮膚科学会のガイドラインは、文献報告が少なくて多くのガイドラインが逃げてしまっている問題点に関してもあまり逃げずに、OBAT(オーバットとよみます)方式でカバーしているように見えるのが興味を惹かれるところです。ちなみにOBATというのは、Old Boys Around the Tableということです。つまり、辛酸を舐めたベテランがテーブルを囲んであれこれ議論して共通の結論に至る、ということを意味しています(ここの部分に関しては、ガイドラインを作成された先生方に怒られることを覚悟して記載しています)。
今回は、このガイドラインの治療に関わる部分を中心に、皆様にご紹介していきたいと思います。「推奨文」は、もともとのガイドラインの表現にできる限り沿ったものとしていますが、わかりやすくするために、一部表現を変えているところがあることをご了解ください。推奨文以外については、ガイドラインの解説文に私の個人的な見解を交えて述べさせていただいております。
また、ここであげられている薬剤はほとんどが保険適応外であり、実際の使用には高いハードルがあることについてもご了解をお願いします。将来的には保険適応になる可能性もありますので、あくまで参考として取り上げさせていただいています。

いつものように、話し言葉で記載していきます。これも私の記事ではいつものことですが、著作権の関係のために論文の掲載図そのものをのせられないことをお許しください。もちろん、内容は図表なしでも理解可能なものになっています。

本ガイドラインは、さまざまの「問題点」を設定し、その問題に対する「推奨文」をつけています。また、「推奨文」の信頼性を明確にするために、「推奨度」を設定しています。
推奨度は、グレード1:強く推奨する、グレード2:提案する、グレードなし:決められない、の3段階になっています。
さらに、推奨度は根拠となるデータのレベルに応じて4つに分けられます。
レベルA:効果の推定値に強く確信がある、レベルB:効果の推定値に中等度の確信がある、レベルC:効果の推定値に対する確信は限定的である、レベルD:効果の推定値がほとんど確信できない
推奨度はグレードとレベルを組み合わせて設定され、その治療を行うかどうかについては、グレードの方が優先されます。
たとえば、その治療が強く推奨され、その根拠も十分な場合は1Aとなりますし、その治療が日常的に行われていて効果は十分にあると思われるものの、きちんとした試験報告はない場合は1Cとなります。あるいは、その治療が有効な場合もあるかもしれないという程度の場合は2Dとなります。

ガイドラインは以下の7部構成になっています。

  1. 皮膚硬化
  2. 間質性肺疾患
  3. 消化管病変
  4. 腎病変
  5. 心臓病変
  6. 肺高血圧症
  7. 血管病変

前置きがずいぶん長くなってしまいました。早速、始めていきましょう。

診療ガイドライン 皮膚硬化

<典型的な経過はどのようなものか>

強皮症では、皮膚硬化は手足の末端から始まり、体の中央部に向けて進行していきます。
皮膚硬化は、おおよそ3つの時期に分けられます。初めは「浮腫期」です。朝などに指がこわばったり、程度の差はありますが、指が腫れて太くなります。そのうちに(数週間から数か月で)、指の皮膚は厚みを増し、硬くなっていきます。「硬化期」です。硬化した皮膚はだんだんと(数年で)薄くなっていきます。「委縮期(瘢痕期)」です。

皮膚硬化の及ぶ範囲によって、強皮症は「限局型」と「びまん型」に分けられます。
「限局型」は、硬化の範囲が末端から、肘・膝までにとどまります。これとは別に、顔の皮膚も硬化することがあります。皮膚硬化が軽度で、診断に難渋することもあります。血液検査では、抗セントロメア抗体が陽性のことがあります。
「びまん型」は硬化の範囲が「限局型」より広範囲で、肘や膝を越えてひろがり、体幹(胸やお腹)にも及びます。皮膚の厚みも、限局型よりも厚いことが多いようです。血液検査では、抗Scl-70抗体や抗RNAポリメラーゼIII抗体が陽性のことがあります。

限局型の強皮症は、一般に長期間(数年から数十年)のレイノー現象単独で経過した後に、緩徐に皮膚硬化が進行していきます。このため、なかなか診断がつかないこともあります。もちろん、限局型でも急速に硬化が進む場合もあります。

びまん型の強皮症では、発症6年以内に皮膚硬化が進行することが多く、この進行時期に一致して肺、消化管、腎臓、心臓などの臓器病変や関節の屈曲拘縮(曲がったままで伸びなくなること)が進行する傾向があることが知られています(全員がそうだというわけではありません)。

「どのような時期や程度の皮膚硬化を、治療の適応とみるべきか?」

推奨文:「(1)皮膚硬化出現6年以内のびまん型強皮症、(2)急速な皮膚硬化の進行(数か月から1年以内に皮膚硬化の範囲、程度が進行)が認められる、(3)触診にて浮腫性硬化が主体である、のうち2項目以上を満たす場合を対象とすべきと提案する。強皮症特異抗核抗体も参考にする」

推奨度:2D
びまん型は、最初の6年以内に皮膚硬化が進行することが多く、その後には進行は緩徐になります。ですから、治療介入するなら、初めの6年以内が適切ということになります。前に述べましたように、硬化期のあとの委縮期(瘢痕期)に入ると、自然経過で皮膚は委縮し、薄くなっていきます。
限局型は、皮膚硬化の進行が緩徐であることが多いのが特徴ですが、例外もありますので、(2)、(3)の項目をみたすときは治療対象になります。
抗Scl-70抗体や抗RNAトポイソメラーゼ抗体陽性の場合は、びまん型が多いので治療対象になりやすく、抗セントロメア抗体陽性の場合は、限局型が多いので治療対象になりにくい傾向があります。

「副腎皮質ステロイドは、皮膚硬化の治療に有用か?」

推奨文:「副腎皮質ステロイド内服は、発症早期で進行している場合においては有用であり、投与することを提案する」

推奨度:2C
これは、かなり思い切った提案なのです。
ステロイド剤は副作用の少ない治療薬ではありません。ステロイドによる治療を行うかどうかは、いろいろと議論のあるところです。
本ガイドラインでは、「ステロイドの有効性を示す十分な科学的データには欠けるが、ステロイドは、発症早期で現在皮膚硬化が進行している場合に限っては経験的に有効であり、当ガイドライン作成委員会のコンセンサスを得て推奨度を2Dとした」となっています。
使い方のめやすは、プレドニゾロン20~30mg/日を初期量の目安として投与、2~4週続けて、皮膚硬化の改善の程度をみながら、2週~数か月ごとに約10%ずつゆっくり減量し、5mg/日程度を当面の維持量とします。皮膚硬化の進展が長期にわたって止まっている、あるいは萎縮期に入ったら中止します。

私は、本ガイドラインに近い立場です。
ここで、問題になるのは、何のために治療を行うのか?ということです。いろいろな意見はありますが、(1)生命の危険を回避する、(2)後遺障害を回避する、(3)生活上の不利を回避する、というのが一般的なところでしょう。
皮膚科学会の推奨文に合致するような患者さんは、多くは指の可動域制限(曲げ伸ばしが制限されること)を伴っています。
単純に考えて、皮膚だけが少し硬くなる程度では、指の可動域制限は軽度のものにとどまるでしょう。また、皮膚硬化の程度を判断する方法は、「皮膚を両拇指ではさみ、皮膚の厚さと下床の可動性を評価する」となっており、皮膚と皮下の組織との病変の連続性が意識されたものになっています。
強皮症で、四肢の皮膚硬化が進行している時期に並行して、あるいはそれに先行して起こっている病変として、皮膚の直下に位置している腱(筋肉と骨をつないでいる組織)の炎症があります。報告によって異なりますが、1~3割くらいの患者さんに腱の炎症があると考えられています。関節リウマチのような関節炎もみられることがあります。
腱やその関連の組織に炎症が起こると、手指は腫れ、痛み、握りにくくなって、生活上に支障をきたします。
このような炎症が継続すると、指の可動域制限(曲げ伸ばしが制限されること)が将来にわたって残ってしまうことが考えられます。
この腱などの炎症については、軽症であれば一般的な抗炎症剤も意味がありますが、少量のステロイドが有効です。

まったくの個人的な意見ですが、皮膚とその直下の病変を標的として、「皮膚科学会の推奨条件に加えて、生活に支障をきたす手指の急性の運動障害がある場合」に、私は少量ステロイド(プレドニゾロン換算10~15mg)を使っています。そして、ステロイドが減量困難の場合に、メトトレキサートの併用を考慮します。このステロイド量は推奨よりもやや少なめですが、次に紹介する質問を考慮したものです。

今後の見通しですが、従来は、手指が腫れて曲げにくいなどの症状がでたときに、どこに病変があるか評価するのは非常に困難なことでした。しかし、これからは超音波エコーの普及によって、病変を把握しやすくなる(現状では感度に問題がありそうですが)と思われます。そうすれば、より自信を持って治療するかどうかの判断ができるでしょう。

強皮症特有のステロイドのリスクについても触れられています。

「副腎皮質ステロイドは、腎クリーゼを誘発するリスクがあるか?」

推奨文:「副腎皮質ステロイド投与は、腎クリーゼを誘発するリスク因子となるので、血圧および腎機能を慎重にモニターすることを提案する」

推奨度:1C
ステロイドは皮膚硬化に有用と考えられる反面、腎クリーゼ(あとで説明しますが、強皮症特有の腎臓病変です。一般的に急激な血圧上昇と腎機能低下をおこします)を誘発するリスクが以前より指摘されています。ただし、腎クリーゼは皮膚硬化が急速に進行する場合に多く、皮膚硬化が急速に進行する場合にステロイドは多く使用されますので、病態としての関連である可能性も高く、どこまでステロイドが直接の原因なのかは微妙です。Hamaguchiらの2015年の報告ではステロイド量は関係ないという結果でした。
一般に、プレドニゾロンで15mg/日以上で腎クリーゼのリスクが高まるとされています。
また、腎クリーゼは抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性の場合にリスクが高いとされています。幸いなことに、わが国の強皮症の患者さんでこの抗体が陽性の人は、欧米に比べてごく少数にとどまっています。
本ガイドラインでは、ステロイド投与にあたっては血圧および腎機能を慎重にモニターする、特に抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性の場合は注意が必要、とされています。

皮膚硬化に対して、ステロイド以外の薬剤の有用性はどうなのでしょうか。ガイドラインを見ていきましょう。しつこいくらいに注意させていただきますが、以下にあげる薬剤には保険適応はありません。

「シクロフォスファミド(エンドキサン®)は、皮膚硬化の治療に有効か?」

推奨文: 「シクロフォスファミドは、皮膚硬化の治療の選択肢の一つとして考慮することを提案する」

推奨度:2A
シクロフォスファミドを12か月間内服すると、内服しなかったグループと比べて、皮膚硬化の有意な改善が見られました。しかし、ここでシクロフォスファミドを中止すると、この差は中止後12か月後の時点では認められなくなっていました。内服している間は有効ですが、止めると効果は1年もたないようです。
シクロフォスファミドは感染リスクなど、決して使いやすい薬剤ではありません。長期の使用についてはなおさらです。このことを考えると、多くの場合はこの薬剤で治療を行うのはためらわれる状況でしょう。

「メトトレキサートは、皮膚硬化の治療に有用か?」

推奨文: 「メトトレキサートは、皮膚硬化を改善させる傾向は認められているが、その有用性は確立していない」

推奨度:2D
メトトレキサートは、最近発表されたEULAR(ヨーロッパリウマチ協会)のガイドラインでは、初期の強皮症の皮膚病変などに対する治療に関して、推奨度A~DのうちのAとなっており、積極的に推奨される薬剤とされています。英国BSRのガイドラインは他の免疫抑制剤を含めて、初期のびまん型強皮症に対して「should be」という推奨になっています。病型は関係なく皮膚硬化だけであれば、「may be」となっています。これらのガイドラインが準拠した報告文献も、解説記事の表現も皮膚科学会のガイドラインと類似していますが、評価が異なる理由は不明です。
その理由を憶測しますと、(1)日本人は、一般的に欧米人よりもメトトレキサートで副作用を起こしやすい、(2)メトトレキサートは副作用として間質性肺炎・肺線維症をおこすことがある。間質性肺炎・肺線維症は強皮症でも起こることの多い病態であり、リスクが懸念される、などの安全性に注目されたのでしょうか。
私は、メトトレキサートに関してはEULARに近い立場です。先に述べましたように、ステロイドの補助として、ステロイドの減量が困難なときなどに使用しています。

「他の免疫抑制薬で、皮膚硬化の治療に有用なものがあるか?」

推奨文: 「シクロスポリン、タクロリムス、ミコフェノレート酸モフェチル(MMF)を皮膚硬化に対する治療の選択肢の一つとして提案する」

推奨度:シクロスポリン:2C、タクロリムス:2C、MMF:2C、アザチオプリン2D
シクロスポリン(ネオーラル®)、タクロリムス(プログラフ®)
この2つの薬剤は、作用機序の点から、カルシニューリン阻害薬といわれます。
カルシニューリン阻害薬の皮膚硬化への効果は、十分な報告がありません。また、腎クリーゼを誘発するリスクがあるのではないかという懸念から、実際にはあまり使われません。

ミコフェノレート酸モフェチル(セルセプト®)

治療対象となった患者さんの背景が異なるので、比較は困難ですが、シクロフォスファミドと同等くらいの効果はありそうです。副作用のリスクを考えると、ミコフェノレート酸モフェチルも気軽に使える薬剤ではありませんが、長期の安全性はシクロフォスファミドよりも良好と考えられます。まずはシクロフォスファミドで治療をしておいて、ミコフェノレート酸モフェチルで維持するというようなやり方も、あるのかもしれません(両方とも保険適応外の薬です。念のため)。

アザチオプリン(イムラン®、アザニン®)

シクロフォスファミドとの比較で、皮膚硬化の改善効果が劣るとの報告があり、アザチオプリンはあまり使われません。

こんなふうにお話ししていると、「2Cとか2Dといわれてもよくわからない」という声が聞こえてきそうです。
そこで、ヨーロッパの実地調査の結果を紹介してみます(Ann Rheum Dis-2016-210503)。皮膚硬化の程度をスコア化し、1年間の治療後のスコアの変化を調べています。その結果は、メトトレキサートでマイナス4.0、ミコフェノレート酸モフェチルでマイナス4.1、シクロフォスファミドでマイナス3.3、免疫抑制剤なしでマイナス2.2というものでした。
効果がないわけではありませんが、推奨度のグレードが1ではなく2であるということがおわかりいただけると思います。

D-ペニシラミン(メタルカプターゼ®)は強皮症の皮膚硬化の治療には使わないように提案されています。私には少し思い入れがある薬剤ですが、現在では私も新規導入で使うことはありません。

次は生物学的製剤です。

「リツキシマブ(リツキサン®)は、皮膚硬化の治療に有用か?」

推奨文:「皮膚硬化に対する有効性が示されているが、安全性の観点から、適応となる症例を慎重に選択しながら投与することを提案する」

推奨度:2B
シクロフォスファミド、ミコフェノレート酸モフェチルと並んで、皮膚硬化に対する有効性が示されている薬剤です。しかし、この薬剤も感染症などのリスクがかなりある薬剤です。リツキシマブのわが国における保険適応は、悪性リンパ腫と治療抵抗性のANCA関連血管炎のみです。

「他の生物学的製剤で、皮膚硬化の治療に有用なものがあるか?」

推奨文: 「TNF阻害薬、IL-6阻害薬トシリズマブ(アクテムラ®)、γグロブリン大量療法の有用性は明らかでない」

推奨度:なし
TNF阻害薬については、強皮症の皮膚硬化に有効でなかったという報告があります。私の患者さんでの経験でも、関節リウマチと強皮症を合併している場合にTNF阻害薬を使用しますと、関節炎には有効ですが、皮膚硬化については有効とはいえません。

IL-6阻害薬アクテムラについては、皮膚硬化に有効であるという報告が散見され、現在評価が進められているところです。さきほどのTNF阻害薬のときと同じように関節リウマチと強皮症を合併している患者さんの場合での、私のアクテムラの経験では、皮膚硬化は改善しませんでした。しかし、私が経験した患者さんたちは、いずれも皮膚硬化が始まってからすでに長期間が経過している人たちでした。前にステロイドによる治療のところでも述べましたように、皮膚硬化が始まってまだ時間の経過していない時点でないと有効性は期待しにくいのではないかと思われます。また、腱などの炎症をともなう病型なのかどうかによっても効果は変わってくるように思われます。

γグロブリン大量療法も皮膚硬化に有効であるという報告が散見されていますが、わが国で行われた試験では、プラセボ(偽薬)による治療との間に差はなく、有効性は否定されています。しかし、この試験では、γグロブリンの投与は1クールのみであり、回数を重ねたら有効なのかもしれないという可能性は残ります。海外では、治験が募集中です。

「その他の薬剤で、皮膚硬化の治療に有用なものがあるか?」

推奨文: 「ミノサイクリン(ミノマイシン®)は皮膚硬化の治療として投与しないことを推奨する」
「トラニラスト(リザベン®)、ボセンタン(トラクリア®)、シルデナフィル(レバチオ®)の皮膚硬化に対する有用性は明らかでない」

推奨度:ミノサイクリン:1A、トラニラスト、ボセンタン、シルデナフィル:なし
この中で、ボセンタンとシルデナフィルは、皮膚硬化の治療に有用な可能性がありますが、明確なものではありません。後で述べますが、これらの薬剤は肺高血圧症や手指潰瘍に使用されています。肺高血圧症に使用される薬剤としては、リオシグアト(アデムパス®)が皮膚硬化に対して治験中です。

「造血幹細胞移植は、皮膚硬化の治療に有用か?」

推奨文: 「皮膚硬化に対する有効性が示されているが、安全性の観点から、適応となる症例を慎重に選択して行うことを提案する」

推奨度:2A
移植に関連した死亡が約10%ある状況で、皮膚硬化単独の場合にこの治療を選択することはまずないと思われます。海外のガイドラインでも、造血幹細胞移植は重篤な臓器病変を合併している場合に限られると記載されています。

「光線療法(紫外線照射)は、皮膚硬化の治療に有用か?」

推奨文: 「長波紫外線療法は皮膚硬化の改善に有用である場合があり、行うことを提案する」

推奨度:2C
まだ大規模な試験はなく、やや推奨文は強めのようにも思われます。基本的に副作用の少ない治療ですが、免疫抑制剤服用中の場合は、皮膚がんのリスクも注意する必要があるかもしれません。私はこれまで在籍した複数の施設において、強皮症の皮膚硬化に対して光線療法を施行しているのをまだ経験していないので、コメントできません。

皮膚硬化の治療に関する記載は以上です。
なかなか、安全かつ有効性の高い治療がなく、それぞれの医師がケースバイケースで対応しているのが実情であることがおわかりいただけるのではないかと思います。

生活上の注意を追加しておきたいと思います。強皮症の患者さんの皮膚、とくに委縮期の皮膚は、ちょっとした刺激でも傷を作りやすくなっています。しかも、いったん傷を作ってしまうと、血液の流れが悪いので、治るのに時間がかかります。衣服などで皮膚をまもるように心がけてください。

診療ガイドライン 間質性肺炎

われわれは、空気中の酸素を肺から取り入れて、赤血球にのせて血液の流れとともに全身に送って、エネルギーを生み出しています。酸素がなければ、われわれの身体は活動を続けることができません。 酸素は鼻から取り込まれたあと、気管、気管支という管を通って、肺胞という小部屋にたどりつきます。この小部屋の壁には、血管などの器官が入っていて、壁を通じて酸素は肺胞から血液へと受け渡しされます。この壁を「間質」といいます。

この壁に炎症がおきて、壁が線維成分で置き換えられると、酸素が壁を通り抜けて血液の方へいくことができなくなります。すると、酸素不足になり、息切れや呼吸困難といった症状がでてきます。
壁に炎症がおきることを間質性肺炎といい、壁が線維成分で置き換えられること(線維化)を肺線維症といいます。

いったん線維成分で置き換えられてしまうと、酸素を通すことのできる、もとのような正常の壁には残念ながらもどりません。ただし、早い時期で炎症を抑えていけば、線維化が起こることを最小限におさえられる可能性があります。早期の治療介入がもとめられます。
早期の治療介入のためには、まずは、間質性肺病変を合併しているのか、ということを調べなければなりません。ガイドラインの本文に入っていきましょう。

「強皮症診断時に、間質性肺病変のスクリーニング(あるかないか調べること)をするべきか?」

推奨文: 「すべての場合で、高解像度CT(HRCT)による間質性肺病変のスクリーニングを行うことを推奨する」

推奨度: 1C
強皮症に伴う間質性肺病変を見つけられる確率は、HRCTが最も高く、50~60%の検出率といわれます。
それに対して、自覚症状での息切れ、聴診所見、胸部レントゲン、呼吸機能検査での努力肺活量80%未満、ということから間質性肺病変をみつけられる確率は半分程度といわれます。早期の時点での検出率からすると、もっと成績はよくないでしょう。
HRCTが最も優れた検出手段ですが、実際の臨床では、ここで挙げられているものすべてを利用して、できるだけ早期の時点で間質性肺病変をみつけるように努めます。

「末期肺病変への進展を予測する有用な指標は?」

(いいかえれば、どのような場合に治療を行うかということにもなります)

推奨文: 「高分解能CT(HR-CT)における線維化所見と病変あるいは病変全体の広がり、肺機能検査による努力肺活量予測値により末期肺病変への進行リスクを予測し、治療適応を判断することを推奨する」

推奨度: 1C
強皮症に伴う間質性肺病変の経過はさまざまです。初診時から全く進行しない場合から数年の経過を経て呼吸不全に陥る場合まであります。努力肺活量が半分以下になるまで進行してしまう確率は13%にすぎないという報告もあります。
また、間質性肺病変の進行する時期は、発症から4年以内のことが多く、これ以降の時期では放置していてもあまり進行しないこともけっこうあります。
それでは、こういう場合は進行しそうだ、という予測は可能なのでしょうか。
結論から申し上げると、あまりはっきりした予測方法はありません。

ですから、過去を振り返って、この数か月の間に呼吸状態が悪化していて、なおかつその原因は間質性肺病変以外には考えにくい時などが、実際上の治療対象となります。
呼吸器症状があまり強くないときは、HR-CT画像や呼吸機能検査で異常を認めても、3か月ないし半年後に再度検査を行って、実際に進行が認められるかを確認したうえで治療に入ることもあります。

「KL-6値の意義」

肺病変が進行しつつあるかについての補助診断として、血液検査でのKL-6の値が増加傾向にあるかをみることがあります。
KL-6はもともと肺胞で作られる物質で、肺の間質が病変で壊されると、血液の中に漏れ出てきます。壊されている範囲が広ければ広いほど、血液の中に漏れ出てくるKL-6は増えていきます。
ただし、肺病変の勢いが鎮静化して肺胞の修復が行われているときは、KL-6がより多く作られますので、血液検査でのKL-6の値が上昇することがあります。
典型的には、間質性肺病変が悪化している時期にKL-6値は上昇し、治療がうまくいくと、KL-6値は低下し、その後、肺の修復が進むと、一時的に増加するという経過をとります。
この他に、血液検査で参考にするのは、LDH値、CRP値です。いずれも間質性病変の活動期に増加することがあります。

間質性肺病変の治療薬は、いずれも感染症などのリスクが少なからずある薬剤です。肺を守ろうとして治療を行っているときに、肺の感染症が起きてしまい、かえって組織の破壊が進み、呼吸機能が低下してしまうというリスクもあります。現在の我々の力では、このリスクをゼロにすることはできません。治療介入せずにそのまま様子をみていたほうが患者さんの状態はよかったという報告もあるくらいです。ですから、上記のように慎重に治療の適応を評価するわけです。
それでは、実際にどのような薬剤で間質性肺病変を治療するのか、みていきましょう。

「シクロフォスファミド(エンドキサン®)は有用か?」

推奨文: 「進行が予測される強皮症に伴う間質性肺病変に対してシクロフォスファミドの使用を推奨する」

推奨度: 1A
第一選択薬として、シクロフォスファミドが使用されます。ヨーロッパリウマチ協会でも「よく知られているようにリスクはあるが(それでも)シクロフォスファミドを使うべき」となっています。
よく使われる薬剤なので、少し詳しくお話しします。シクロフォスファミドは、内服による治療と、1~3か月ごとの点滴による治療がありますが、副作用が少ないことから、近年では点滴による治療が主です。本ガイドラインでは、長期安全性に関する懸念から1年以内の期間限定もしくは総投与量36g以内(点滴なら1回の使用量は0.7~1gくらいです)で使用し、その後は維持療法としてアザチオプリンなどの安全性の高い他の免疫抑制薬にスイッチする、となっています。
シクロフォスファミドの代表的な副作用は、ばい菌に対する抵抗力が低下することと、卵巣機能障害のリスク、出血性膀胱炎のリスクです。
シクロフォスファミド使用前には、肝炎ウイルス、結核などの抗酸菌、真菌(カビ)のチェックを行います。使用中は、感染予防として、うがい・手洗いの励行や、人混みを避ける、マスクを着用するなどの対策が必要です。ST合剤(バクタ®)の服用も勧められます。また、風邪症状が出た時は、早めに医療機関を受診することが勧められます。さらには、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの接種も有用です。肺病変のある強皮症の患者さんは、シクロフォスファミドを使用していなくても、ワクチン接種が望ましいでしょう。
卵巣機能障害は、将来妊娠を希望する患者さんにとって重要な問題です。20歳代ならおおよそ20%、30歳代では30%、40歳代なら40%の確率で、卵巣機能障害がおこるという報告もあります。間質性肺病変では、シクロフォスファミド以外の治療効果がはっきりしないので、難しい判断を迫られることもあります。
出血性膀胱炎とは、膀胱の粘膜が傷んで、そこから出血するもので、排尿に支障をきたすこともあります。内服よりも点滴で使用するほうがリスクは少ないといわれています。点滴の場合、施行日は水分を十分に(点滴終了後、就寝までに食事以外に1~1.5Lの水分摂取が勧められます)とって膀胱を守ることが必要です。また、ウロミテキサン(メスナ®)という薬が予防的に使われることがあります。

「アザチオプリン(イムラン®、アザニン®)は有用か?」

推奨文: 「強皮症性間質性肺炎に対してシクロフォスファミド使用後の維持療法として使用することを推奨するが、ファーストライン(第一選択)として単独で使用しないことを提案する」

推奨度: さきほどのように、第一選択はシクロフォスファミドです。シクロフォスファミドで間質性肺病変の勢いを鎮めたあとの維持療法として、アザチオプリンが使用されます。

「ミコフェノレート酸モフェチル(セルセプト®)は有用か?」

推奨文: 「強皮症に伴う間質性肺病変に対してミコフェノレート酸モフェチルをシクロフォスファミドの代替療法として使用することを提案する」

推奨度: 2C
まだ、検証すべき点は残っていますが、第一選択薬であるシクロフォスファミドに匹敵する効果が期待されています。ただし、日本人において、シクロフォスファミドとミコフェノレート酸モフェチルとではどちらがより安全に使用できるか、という点ではまだ議論があるところだと思います。しかし、副作用プロファイルが違うことと、ミコフェノレート酸モフェチルのほうが長期投与に向いていることから、今後、保険適応が取得されれば、広く使われるようになるかもしれません。

「カルシニューリン阻害薬は有用か?」

推奨文: 「強皮症に伴う間質性肺病変に対して、タクロリムス(プログラフ®)、シクロスポリン(ネオーラル®)をファーストラインの治療薬として使用しないことを提案する」

推奨度: 2D
これまでの報告で間質性肺病変に有用であったという報告はあまりありません。また、皮膚硬化の項で述べましたように、カルシニューリン阻害薬は強皮症の腎クリーゼを誘発する懸念もありますので、使われることは多くはありません。他の手段がなく、やむを得ず試みる、という場合がほとんどです。

「副腎皮質ステロイドは有用か?」

推奨文: 「強皮症に伴う間質性肺病変に対してシクロフォスファミドやミコフェノレート酸モフェチルなどの免疫抑制薬に中等量以下を併用することを提案するが、パルス療法を含むステロイド投与を単独で実施しないことを提案する」

推奨度: 2D
強皮症の肺病変でも、混合性結合組織病に近いような場合には、ステロイドの単独療法が有効なことはありますが、純粋な強皮症の場合には、パルス療法(大量のステロイドを数日間連続して点滴静注する治療法)を含めて、ステロイド剤単独療法の効果はあまり期待できないようです。
推奨文で示されている、シクロフォスファミドとの併用による上乗せ効果についても、あまり明確な根拠のあるものではありません。
実際の治療で、ステロイドが使われるのは、血液検査でCRP値が上昇していて炎症が関与していることが確認でき、かつ感染症が否定されるときなどくらいでしょうか。こういう場合も、大量が使われるのではなく、プレドニゾロン換算で30mgくらい(本ガイドラインで皮膚硬化に使われる最大量)まででしょう。

「エンドセリン受容体拮抗薬は有用か?」

推奨文: 「強皮症に伴う間質性肺病変に対する治療としてボセンタン(トラクリア®)、マシテンタン(オプスミット®)、アンブリセンタン(ヴォリブリス®)を使用しないことを提案する」

推奨度: 2B
これらの薬剤は肺高血圧症の治療薬として導入されたものです。一時は間質性肺病変の治療薬としてもかなり期待されたのですが、大規模な試験の結果は有効性を否定するものでした。アンブリセンタンに関しては、因果関係は確定できないものの、一部の患者さんで間質性肺病変が悪化したことがありました。
その後にでてきた肺高血圧症の治療薬、リオシグアト(アデムパス®)も理論的には有効である可能性がありますが、まだ検証されていません。

「生物学的製剤(TNF阻害薬、アバタセプト、トシリズマブ)は有用か?」

推奨文: 「強皮症に伴う間質性肺病変に対してTNF阻害薬、アバタセプト、トシリズマブの有用性は明らかでない」

推奨度: なし
TNF阻害薬については、改善効果はまずなさそうです。
アバタセプト(オレンシア®)とトシリズマブ(アクテムラ®)に関しては、有効例もあるように報告されていますが、まだ治療を推奨するほどの根拠にはなりえていません。今後のデータの集積が期待されます。

「リツキシマブ(リツキサン®)は有用か?」

推奨文: 「シクロフォスファミド不応(効果がない)もしくは忍容性(副作用の懸念)から投与できない、強皮症に伴う間質性肺病変に対して、リツキシマブを投与することを提案する」

推奨度: 2C
強皮症に伴う間質性肺病変の進行を抑制する効果が期待できそうです。第一選択薬であるシクロフォスファミドで効果不十分であっても、有効である場合があると報告されています。推奨文のような条件のもとで試してみる価値は十分にある薬剤だと思われます。
しかし、前述したように、リツキシマブは強皮症に保険適応はありません。

「ピルフェナドン(ピレスパ®)は有用か?」

推奨文: 「シクロフォスファミド不応(効果がない)もしくは忍容性(副作用の懸念)から投与できない、強皮症に伴う間質性肺病変に対して、ピルフェナドンを用いることを提案する」

推奨度: 2D
ピルフェナドンは、特発性肺線維症という間質性肺病変の治療薬です。
強皮症に伴う間質性肺病変でピルフェナドンを使用した報告はきわめて少ないのですが、その報告では有効であったとされています。現在、北米で治験が進行中で、その結果が待たれます。ピルフェナドンも、強皮症に保険適応はありません。

「自己末梢血造血幹細胞移植は有用か?」

推奨文: 「シクロフォスファミド抵抗性(効かない)の強皮症に伴う間質性肺病変に対する選択肢の一つとして、自己末梢血造血幹細胞移植を提案するが、移植関連死が起こりうるため慎重に適応を選択する必要がある」

推奨度: 2A
シクロフォスファミドでの治療と比較した試験では、シクロフォスファミドのグループで努力肺活量が平均2.8%低下したのに比べて、移植のグループでは6.3%改善しました。移植に関連した死亡率は10%でした。強皮症自体での死亡率は、シクロフォスファミドのグループが25%に対して、移植のグループでは11%でした(移植関連の死亡との合計で21%)。
「慎重に適応を選択する」という推奨文の通りの結果だと思われます。

「プロトンポンプ阻害薬は有用か?」

推奨文: 「強皮症に伴う間質性肺病変では、プロトンポンプ阻害薬の使用を提案する」

推奨度: 2D
プロトンポンプ阻害薬は、胃酸の分泌を抑える薬剤で、胃液の逆流によって胃酸が食道を傷害してしまう、逆流性食道炎などの病態を緩和する目的で使用されます。パリエット®、ネキシウム®、タケプロン®などの製剤があります。
以前から、間質性肺病変を有する患者さんでは、食道の拡張や胃食道逆流症(GERD)の頻度が高く、食道上部までの胃液の逆流が高頻度にみられることが知られています。
また、間質性肺病変の肺組織の生検(組織を採取してきて顕微鏡で調べること)で、胃液の成分と考えられる塩基性物質の沈着が高率に検出されることから、胃内容物の誤嚥が肺の組織を傷害し、間質性肺病変の促進因子となる可能性が指摘されています。
強皮症では、初期の段階から高率に食道病変を併発しますので、胃酸による間質性肺病変の増悪を防ぐ目的でプロトンポンプ阻害薬を使用してもよいのでは、と考えられます。

間質性肺病変の治療に関する記載は以上です。
シクロフォスファミドという有効性が期待できる薬剤がある点で、治療に期待ができる領域です。しかし、シクロフォスファミドが有効でない、あるいは副作用で使えないとなると、それぞれの医師がケースバイケースで対応する状況であることがおわかりいただけるのではないかと思います。

ただし、不幸にして線維化が進んでしまい、酸素が十分に体内に入らなくなったとしても、酸素吸入によって身体の活動性を維持することができます。在宅酸素療法といい、ご自宅に酸素の濃縮装置を設置してしただく方法です。ポータブルの小さな酸素ボンベもあり、屋外での活動も可能です。

現在、チロシンキナーゼ阻害薬nintedanibの治験が進行中で、その結果が待たれます。

診療ガイドライン 消化管病変

強皮症では、上部消化管(食道、胃、十二指腸)、下部消化管(小腸、大腸)ともに、病変が起こることがあります。
強皮症の患者さんには、胸やけや、食べたものが胸に引っかかっている感じがする、ひどい時には、うまくのみ込めなくて吐いてしまう、といった症状がでてくる方がいらっしゃいます。
食道というのは、口と胃をつないでいる管をさします。正常の食道は、口から入ってきた食べ物を受けて、リズミカルに動いて、食べ物を効率よく胃の方に送り込みます。
ところが、強皮症の場合は、食道を動かす筋肉や神経に線維成分が過剰に沈着して、動きが悪くなってしまいます。
こうなると、食べ物、とくに固形物や脂肪の多いものが、食道に停滞するようになってしまいます。
また、食道と胃の連結部では、通常は、胃のほうから胃酸が食道に入って(逆流)こないように、筋肉で閉めています。ところが、強皮症の場合は、この筋肉が弱ってしまい、胃酸が逆流してくるのを防げないようになります。
すると、食道の粘膜が傷ついてしまい、痛みとして感じられます。逆流の程度がひどくなると、のどの痛みや、咳といった症状がでてくることもあります。これが逆流性食道炎です。
食道通過障害・逆流性食道炎の治療薬には大きく2つの種類があります。一つは食道の動きを刺激する薬、消化管機能調整薬です。もう一つは、胃酸の分泌を抑えてしまう方法です。これがプロトンポンプ阻害薬です。
食道と同じように、下部消化管(小腸、大腸)の動きも悪くなることがあります。この場合、おなかが張ったり、便秘を起こしたりします。

「上部消化管病変の症状(胸やけ、げっぷ、胸部違和感、上腹部膨満感、胃もたれなど)に対して生活習慣の改善は有用か?」

推奨文: 「上部消化管病変の症状に対して生活習慣の改善を行うことを提案する」

推奨度: 1C ポイントは以下の3つです。

  1. 脂肪分の多い食事やチョコレート等の甘いもの、香辛料の入った料理、アルコール、喫煙を避け、低残渣食を摂る
  2. 少量を頻回に摂取する食事形態とする
  3. 就寝前の食事を避け、食後数時間は横にならない

脂肪分の多い食事やチョコレートは、胃から食道への逆流を起こしやすくさせます。
また、脂肪や繊維分の多い食事は、胃の動きを低下させます。

「上部消化管蠕動(消化管の運動のことを蠕動といいます)低下に対して消化管機能調整薬は有用か?」

推奨文: 「嚥下障害、逆流性食道炎、腹部膨満、偽性腸閉塞などの消化管病蠕動運動低下症状に対して胃腸機能調整薬にて治療を行うことを推奨する」

推奨度: ドンペリドン(ナウゼリン®)とモサプリド(ガスモチン®)、エリスロマイシン(エリスロシン®):1B、メトクロプラミド(プリンペラン®):2B、イトプリド(ガナトン®)、アコチアミド(アコファイド®)、トリメブチン(セレキノン®):2C
個々の薬剤については詳説しませんが、症状軽減効果があります。それぞれ単独での効果では不十分なこともあり、次にあげられるプロトンポンプ阻害薬と併用されることもよくあります。
偽性腸閉塞とは、腸の動きが非常に悪くなって、まるで腸が閉じてしまったかのような状態になることをさします。入院で、絶食、点滴による水分補充を行いながら、治療を行っていきます。

「胃食道逆流症にプロトンポンプ阻害薬(PPI)は有用か?」

推奨文: 「胃食道逆流症に対してPPI投与を行うことを強く推奨する」

推奨度: 1A
PPIには、パリエット®、ネキシウム®、タケプロン®などの製剤があります。通常の胃食道逆流症にPPIが有用であるとする十分な証拠があるので、強皮症の場合でも胃逆流症に有用であることが推測できます。
長期にわたって治療を継続している間に、再び症状が悪化してくることも認められます。
実際の治療に際しては、可能な限り高用量でプロトンポンプ阻害薬を治療に使用することが推奨されますが、保険の制約があって、減量を強いられるのが実情です。
また、広義のPPIであるカリウムイオン競合型アシッドブロッカーの(タケキャブ®)も強皮症の胃食道逆流症に有効と考えられます。私は、他のPPIで効果不十分な場合でも有効なことをしばしば経験しています。

「六君子湯は上部消化管の症状に有用か?」

推奨文: 「上部消化管蠕動運動以上の症状に対して六君子湯での治療を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
胃壁の運動を促進して、胸やけ、膨満感、吐き気などの症状を改善します。かなり効果のある印象があります。

「上部消化管の胃食道逆流症に手術療法は有用か?」

推奨文: 「上部消化管病変の胃食道逆流症に対して、限られた症例においてのみ、適切な術式での手術療法を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
食道から胃への入り口である噴門の形成術や、食道切除術、胃バイパス術、胃から十二指腸への出口である幽門の切除術などがありますが、有効性は明確でなく、かえって別の消化管症状がでてしまうこともあります。

「上部消化管の通過障害にバルーン拡張術は有用か?」

推奨文: 「上部消化管の通過障害に対して、バルーン拡張術を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
食道が非常に狭くなって、食物が通過しにくくなったときには、バルーン拡張術は考慮してよいと思われます。
ただし、強皮症で狭くなっているような食道は線維化・硬化が強いので、無理な拡張は穿孔のリスクがあります。また、再び狭くなってしまい、何度も拡張術を繰り返さなければならないこともあります。

「上部消化管の通過障害に経管栄養は有用か?」

推奨文: 「上部消化管の蠕動低下や狭窄などによる通過障害に対して、空腸以降の蠕動が良好で通過障害が無い場合に、胃蠕動運動低下例に対して空腸栄養チューブを用いた経管栄養を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
鼻から細いチューブを入れて、十二指腸のさらに先の空腸にまで届かせます。このチューブから、腸への負担の少ない低残渣の成分栄養剤を注入して、栄養状態の改善をはかる方法です。

「腸内細菌叢異常増殖に抗菌剤は有用か?」

推奨文: 「腸内細菌叢異常増殖に対して、細菌の異常増殖による吸収不良がある場合には、抗菌薬を順次変更しながら投与することを推奨する」

推奨度: 1D
われわれの腸の中にはたくさんの細菌(腸内細菌)が住み着いています。腸内細菌は、われわれでは作れないビタミンを合成するなど、体にとって欠くことのできない重要な存在です。最近では、われわれの免疫系を適正に保つためにも腸内細菌が重要であることがわかってきています。
しかし、腸の動きが悪くなると、腸内細菌が必要以上に増えて、栄養の吸収が悪くなってしまう(吸収不良)ことがあります。下痢、脂肪便、慢性腹痛、腹部膨満、体重減少、ビタミンB12欠乏などの症状も現れることがあります。
異常に増えてしまった腸内細菌を減らして、このような症状を緩和するために、メトロニダゾール(フラジール®)、ニューキノロン系のノルフロキサシン(バクシダール®)、シプロフロキサシン(シプロキサン®)、レボフロキサシン(クラビット®)、アミノグリコシド系のゲンタマイシン、ST合剤(バクタ®)の有効性が報告されています。テトラサイクリンやネオマイシンの単独治療は有効性がやや低いとされています。
これらの薬剤を間欠的に(たとえば、2週間服用して2週間お休みするなど)、あるいは、適宜変更しながら使っていきます。しっかりと定められたやり方はなく、個々の医師の判断で調整されます。

「腸の蠕動運動低下の症状に対して食事療法は有用か?」

推奨文: 「腸の蠕動運動低下に対して消化管機能調整薬での治療を提案する」

推奨度: 1D
便秘に対しては積極的な水分摂取を行います。
線維成分の多い、腸に負担をかける食品は避けることが望ましいでしょう。
また、吸収不良の場合は、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の補充、残渣の少ない食事、成分栄養剤、中鎖脂肪などの栄養補充が必要になります。

「腸の蠕動運動低下に消化管機能調整薬は有用か?」

推奨文: 「腸の蠕動低下に対して消化管機能調整薬での治療を推奨する」

推奨度: 1D
ドンペリドン(ナウゼリン®)は偽性腸閉塞(腸の動きが悪いために、実際には閉塞してしまっているわけではないのに内容物が通過していかない状態)に有用です。
メトクロプラミド(プリンペラン®)は小腸と大腸の両方の蠕動運動改善作用があります。
モサプリド(ガスモチン®)は、上部消化管だけでなく、腸管にも有効と報告されています。
ジノプロスト(プロスタルモン®)が有効であったとの報告もあります。

「腸の蠕動運動低下にオクトレオチド(サンドスタチン®)は有用か?」

推奨文: 「腸の蠕動運動低下に対して、消化管機能改善薬が無効の症例において、オクトレオチドでの治療を提案する」

推奨度: 2B
胃腸機能調整薬が無効であった場合に、オクトレオチドを使用して、小腸の動きが改善したとの報告があります。
オクトレオチドは注射で用いられる薬剤です。強皮症に保険適応はありません。

「腸の蠕動運動低下に大建中湯は有用か?」

推奨文: 「腸の蠕動運動低下に対して、大建中湯での治療を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
強皮症での報告は少ないのですが、実際の診療ではよく用いられ、効果があるとの印象があります。

「腸の蠕動運動低下にパントテン酸(パントシン®)は有用か?」

推奨文: 「腸の蠕動運動低下に対して、パントテン酸での治療を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
強皮症の報告はあまりありません。単独ではなく、他剤と併用で用いられることが多いようです。

これらの提言、みますと、EULARのガイドラインのいうように「消化管の運動を調整する薬剤は、すべて強皮症の消化管病変にも利用できる。ただし、個々の場合で利益とリスクを考量する必要がある」ということにまとめられるかと思われます。

「腸の蠕動運動低下に対して酸素療法は有用か?」

推奨文: 「腸の蠕動運動低下に対して、酸素療法での治療を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
腹部の手術後で腸の運動が悪い時などに、酸素療法は用いられます。
私は強皮症の腸の運動低下で酸素療法を経験したことはありませんが、強皮症の血流障害のことを考えると、十分に酸素化を行うことは、腸の機能改善に有用のようにも思われます。

「腸管嚢腫世気腫症に高圧酸素療法は有用か?」

推奨文: 「腸管嚢腫世気腫症に対して、酸素療法での治療を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
腸の壁の中に腸内細菌が侵入して、気体が貯まってしまう病態です。酸素療法以外では、腸の運動の改善や、腸内細菌の異常増殖を低減させる抗菌剤による治療が試みられます。

「腸の蠕動運動低下に副交感神経作用薬は有用か?」

推奨文: 「腸の蠕動運動低下に対して、ネオスチグミン(ワゴスチグミン®)、塩酸ベタネコール(べサコリン®)の副交感神経作用薬での治療を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
ネオスチグミンは種々の原因による偽性腸閉塞に有効であるという報告があります。
塩酸ベタネコールも種々の原因による腸蠕動運動低下に有効とされています。
両者とも、強皮症での報告はありませんが、実際の診療では使用されています。

「重篤な下部消化管病変に対して手術療法は有用か?」

推奨文: 「重篤な下部消化管病変による通過障害に対して、限られた場合を除き、手術療法を行わないことを推奨する」

推奨度: 2D
もともと、腸管の運動能力が低下しているので手術による改善は期待しにくいものがあります。また、線維化が強く、血流も悪いので、手術創の回復も不良で創がなかなか治らず、手術後に難渋することもよくあります。薬剤による治療で対応できないという時に、手術療法の適応となります。

「重篤な下部消化管病変に対して在宅中心静脈栄養は有用か?」

推奨文: 「重篤な下部消化管病変である蠕動運動低下による偽性イレウスや吸収障害に対して、在宅中心静脈栄養法を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
絶食や点滴治療によって消化管を安静にしても、腹部症状が改善しない時には、継続的な点滴で栄養を補充するしかありません。これが、上胸部の深い静脈に点滴ルートを設置する、在宅中心静脈栄養です。
問題点の第一は、点滴ルート(カテーテル)を通じて感染症を起こしてしまうことです。

本ガイドラインでは、下部消化管症状(腹部膨満、便秘)に対する生活指導の記載がありませんが、十分な水分摂取、適度な運動など、通常の便秘の場合と同様の注意が必要です。

消化管病変の記載は以上です。
他の領域に比べて、様々な治療手段があるのは心強いことと思われます。
今後の課題としては、消化管蠕動運動の低下自体が起こらないようにすること、つまり線維化や血管病変の進行を抑制することですが、これには、まだ研究の積み重ねが必要です。

診療ガイドライン 腎病変

腎臓の血管の変化が進行すると、高血圧になったり、腎臓の働きが悪くなったりすることがあります。貧血(血液中の赤血球の数が減ること)や、血小板の数が減ることもあります。
幸いなことに、欧米人に比べて日本人では、腎病変の頻度は少ないものになっています。アンギオテンシン変換酵素阻害薬が使用されるようになってから、危険性は低下しているものの、発症すると重篤になることも多いので、注意は必要です。発症リスクは、主に発病初期で、急速に皮膚硬化が進む「びまん型」、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性、となります。

「強皮症の腎障害は、強皮症腎クリーゼの以外の病態も存在するか?」

推奨文: 「強皮症の腎障害は、強皮症腎クリーゼ意外にもあり、薬剤性腎障害、抗好中球細胞質抗体を伴う糸球体腎炎との鑑別をすることを推奨する」

推奨度: 1C この部分は、医師の領域の問題ですね。それぞれ、治療方法が異なるので、しっかりと区別することが必要です。

「正常血圧性腎クリーゼは、どのように診断するか?」

推奨文: 「強皮症腎クリーゼの数パーセントには、高血圧症を伴わない病態が存在する。血漿レニン活性高値などの所見を参考にして診断することを推奨する」

推奨度: 1C
強皮症の腎クリーゼは、急性に腎機能障害が進行し、血漿中レニン(血管を収縮させ、血圧を上げる物質)活性が上昇し、高血圧症を合併します。
血管を構成する内皮細胞や平滑筋細胞、線維芽細胞が増えて、血管の中が狭くなってしまうのが病気の本体です。
このように、本来腎クリーゼでは血圧が上がります(90%前後の人が悪性の高血圧症で発症するといわれます)ので、強皮症の患者さんで血圧が正常なのに腎機能が急速に悪化していく場合は、前項で示されているように、他の病変の可能性もあります。このような場合は、可能であれば腎生検を行い、診断を明確にすることが勧められます。

「強皮症腎クリーゼを予測する因子あるいは臨床症状は何か?」

推奨文: 「強皮症腎クリーゼの発症を予測する因子として、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性を考慮することを推奨する」
「#発症4年以内のびまん型皮膚硬化、#急速に皮膚硬化が進行、#新規の貧血、#新規の心嚢液貯留、#うっ血性心不全、#高用量(プレドニゾロン換算で15mg/日以上を6か月間以上継続)のステロイド使用を考慮することを提案する」

推奨度: 発症4年以内のびまん型皮膚硬化・急速に皮膚硬化が進行・新規の貧血・新規の心嚢液貯留・うっ血性心不全・高用量のステロイド使用:2C
冒頭でも少し紹介しましたが、これらの因子が腎クリーゼの発症リスクになります。逆にいいますと、発症してからある程度の時間が経過された患者さんでは、あまり心配しなくてもよい、ということになるかもしれません。

「強皮症腎クリーゼの治療にはアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は有用か?」

推奨文: 「アンギオテンシン変換酵素阻害薬は腎クリーゼに有効であり、第一選択薬として推奨する」

推奨度: 1C
腎クリーゼと診断したら、速やかにACE阻害薬(カプトリル®など)での治療を開始します。カプトリルを少量から開始し、24時間で収縮期血圧を20mmHg、拡張期血圧を10mmHgずつ低下させます。3日以内には、収縮期血圧を140mmHg以下にするように慎重にコントロールします。エナラプリル(レニベース®)も同様に有効です。

「腎クリーゼの治療にはアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は第一選択薬として有用か?」

推奨文: 「アンギオテンシン受容体拮抗薬は、腎クリーゼの第一選択薬としては使用しないことを提案する」

推奨度: 2C
アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は、ACE阻害薬と同様にアンギオテンシンIIの作用を抑制します。しかし、腎クリーゼの高血圧や腎機能低下の治療には、効果が不十分とされています。
ただし、ACE阻害薬のみでは血圧の正常化が達成できない場合に、アンギオテンシン受容体拮抗薬を併用することは有効であると報告されています。

「アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬に治療抵抗性の、腎クリーゼの治療に有用な治療薬は何か?」

推奨文: 「アンギオテンシン変換酵素阻害薬にて治療を行なっても、正常の血圧を維持できない場合には、カルシウム拮抗薬の併用を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
カルシウム拮抗薬とは商品名で言えば、アダラート®やペルジピン®、アムロジン®などが当たります。通常の高血圧症の治療でもよく使用される薬剤です。
カルシウム拮抗薬以外では、エンドセリン受容体拮抗薬と直接レニン阻害薬に、有効であったという報告があります。

「腎クリーゼの予防に、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は有用か?」

推奨文: 「アンギオテンシン変換酵素阻害薬の予防効果の報告はなく、腎クリーゼ予防のために投薬しないことを推奨する」

推奨度: 1B
大規模試験で、予防効果は確認できませんでした。ACE阻害薬を服用している人が腎クリーゼを起こすと、腎クリーゼは重症になることが多いとの報告があります。ACE阻害薬が悪いことをしているのか、それとも、ACE阻害薬を服用していてもでてきた腎クリーゼはそれだけ悪いのか、この解釈は不明です。

「腎クリーゼにおける血液透析は有用か?」

推奨文: 「腎クリーゼは、急速に腎機能が悪化して腎不全に至る場合があり、そのような場合では血液透析での治療を推奨する」

推奨度: 1C
2000年代の研究では、ACE阻害薬を使っても、30~60%の人が血液透析の導入に至るとされています。このうち、その後に血液透析を離脱できた人は、20~50%となっています。
血液透析の意義は重要です。
ちなみに、AN69膜で透析をする場合は、ACE阻害薬を服用していると重症のアレルギー症状を起こすことがありますので、他の透析膜を利用するなど、注意が必要です。

「腎クリーゼの腎移植療法は有用か?」

推奨文: 「腎クリーゼによる透析治療中の患者に対して、腎移植療法を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2C
血液透析が長期化し、離脱困難となった場合には、移植を考慮します。
移植腎での腎機能低下の再発率は20%程度みられます。これが腎クリーゼの再燃によるものなのか、移植による血管障害なのかは不明です。

腎病変に関する記載は以上です。
腎病変の場合には、何よりも、透析と移植という手段があるので、対応方法が整備されている領域だと思われます。もちろん、発症した場合は決して楽観できるものではありませんが、生命のリスクを低減することが可能です。

診療ガイドライン 腎病変

腎臓の血管の変化が進行すると、高血圧になったり、腎臓の働きが悪くなったりすることがあります。貧血(血液中の赤血球の数が減ること)や、血小板の数が減ることもあります。
幸いなことに、欧米人に比べて日本人では、腎病変の頻度は少ないものになっています。アンギオテンシン変換酵素阻害薬が使用されるようになってから、危険性は低下しているものの、発症すると重篤になることも多いので、注意は必要です。発症リスクは、主に発病初期で、急速に皮膚硬化が進む「びまん型」、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性、となります。

「強皮症の腎障害は、強皮症腎クリーゼの以外の病態も存在するか?」

推奨文: 「強皮症の腎障害は、強皮症腎クリーゼ意外にもあり、薬剤性腎障害、抗好中球細胞質抗体を伴う糸球体腎炎との鑑別をすることを推奨する」

推奨度: 1C
この部分は、医師の領域の問題ですね。それぞれ、治療方法が異なるので、しっかりと区別することが必要です。

「正常血圧性腎クリーゼは、どのように診断するか?」

推奨文: 「強皮症腎クリーゼの数パーセントには、高血圧症を伴わない病態が存在する。血漿レニン活性高値などの所見を参考にして診断することを推奨する」

推奨度: 1C
強皮症の腎クリーゼは、急性に腎機能障害が進行し、血漿中レニン(血管を収縮させ、血圧を上げる物質)活性が上昇し、高血圧症を合併します。
血管を構成する内皮細胞や平滑筋細胞、線維芽細胞が増えて、血管の中が狭くなってしまうのが病気の本体です。
このように、本来腎クリーゼでは血圧が上がります(90%前後の人が悪性の高血圧症で発症するといわれます)ので、強皮症の患者さんで血圧が正常なのに腎機能が急速に悪化していく場合は、前項で示されているように、他の病変の可能性もあります。このような場合は、可能であれば腎生検を行い、診断を明確にすることが勧められます。

「強皮症腎クリーゼを予測する因子あるいは臨床症状は何か?」

推奨文: 「強皮症腎クリーゼの発症を予測する因子として、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性を考慮することを推奨する」
「#発症4年以内のびまん型皮膚硬化、#急速に皮膚硬化が進行、#新規の貧血、#新規の心嚢液貯留、#うっ血性心不全、#高用量(プレドニゾロン換算で15mg/日以上を6か月間以上継続)のステロイド使用を考慮することを提案する」

推奨度: 発症4年以内のびまん型皮膚硬化・急速に皮膚硬化が進行・新規の貧血・新規の心嚢液貯留・うっ血性心不全・高用量のステロイド使用:2C
冒頭でも少し紹介しましたが、これらの因子が腎クリーゼの発症リスクになります。逆にいいますと、発症してからある程度の時間が経過された患者さんでは、あまり心配しなくてもよい、ということになるかもしれません。

「強皮症腎クリーゼの治療にはアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は有用か?」

推奨文: 「アンギオテンシン変換酵素阻害薬は腎クリーゼに有効であり、第一選択薬として推奨する」

推奨度: 1C
腎クリーゼと診断したら、速やかにACE阻害薬(カプトリル®など)での治療を開始します。カプトリルを少量から開始し、24時間で収縮期血圧を20mmHg、拡張期血圧を10mmHgずつ低下させます。3日以内には、収縮期血圧を140mmHg以下にするように慎重にコントロールします。エナラプリル(レニベース®)も同様に有効です。

「腎クリーゼの治療にはアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は第一選択薬として有用か?」

推奨文: 「アンギオテンシン受容体拮抗薬は、腎クリーゼの第一選択薬としては使用しないことを提案する」

推奨度: 2C
アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は、ACE阻害薬と同様にアンギオテンシンIIの作用を抑制します。しかし、腎クリーゼの高血圧や腎機能低下の治療には、効果が不十分とされています。
ただし、ACE阻害薬のみでは血圧の正常化が達成できない場合に、アンギオテンシン受容体拮抗薬を併用することは有効であると報告されています。

「アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬に治療抵抗性の、腎クリーゼの治療に有用な治療薬は何か?」

推奨文: 「アンギオテンシン変換酵素阻害薬にて治療を行なっても、正常の血圧を維持できない場合には、カルシウム拮抗薬の併用を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
カルシウム拮抗薬とは商品名で言えば、アダラート®やペルジピン®、アムロジン®などが当たります。通常の高血圧症の治療でもよく使用される薬剤です。
カルシウム拮抗薬以外では、エンドセリン受容体拮抗薬と直接レニン阻害薬に、有効であったという報告があります。

「腎クリーゼの予防に、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は有用か?」

推奨文: 「アンギオテンシン変換酵素阻害薬の予防効果の報告はなく、腎クリーゼ予防のために投薬しないことを推奨する」

推奨度: 1B
大規模試験で、予防効果は確認できませんでした。ACE阻害薬を服用している人が腎クリーゼを起こすと、腎クリーゼは重症になることが多いとの報告があります。ACE阻害薬が悪いことをしているのか、それとも、ACE阻害薬を服用していてもでてきた腎クリーゼはそれだけ悪いのか、この解釈は不明です。

「腎クリーゼにおける血液透析は有用か?」

推奨文: 「腎クリーゼは、急速に腎機能が悪化して腎不全に至る場合があり、そのような場合では血液透析での治療を推奨する」

推奨度: 1C
2000年代の研究では、ACE阻害薬を使っても、30~60%の人が血液透析の導入に至るとされています。このうち、その後に血液透析を離脱できた人は、20~50%となっています。
血液透析の意義は重要です。
ちなみに、AN69膜で透析をする場合は、ACE阻害薬を服用していると重症のアレルギー症状を起こすことがありますので、他の透析膜を利用するなど、注意が必要です。

「腎クリーゼの腎移植療法は有用か?」

推奨文: 「腎クリーゼによる透析治療中の患者に対して、腎移植療法を選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2C
血液透析が長期化し、離脱困難となった場合には、移植を考慮します。
移植腎での腎機能低下の再発率は20%程度みられます。これが腎クリーゼの再燃によるものなのか、移植による血管障害なのかは不明です。

腎病変に関する記載は以上です。
腎病変の場合には、何よりも、透析と移植という手段があるので、対応方法が整備されている領域だと思われます。もちろん、発症した場合は決して楽観できるものではありませんが、生命のリスクを低減することが可能です。

「強皮症における心臓の拡張障害の頻度は?」

推奨文: 「拡張障害は、強皮症に合併する心臓病変として最も頻度が多く、約20%の強皮症患者に認めるため、スクリーニングを行うことを推奨する」

推奨度: 1C
心臓の超音波エコー検査を全員に行うことが推奨されています。

「その他に強皮症に伴う心臓病変にはどのようなものがあるか?」

推奨文: 「強皮症に合併する心臓病変には拡張障害の他、収縮障害、冠動脈疾患、伝導障害、心外膜炎、弁膜症(大動脈弁、僧房弁)などがあり、その検索を行うことを推奨する」

推奨度: 1C
これらの病変の多くは、あっても軽症で、治療対象になることはないのが一般です。しかし、定期的な検査は重要だと考えられます。
冠動脈とは、心臓自体に栄養を送る血管で、この血管の流れが悪くなると、狭心症や心筋梗塞を起こします。
心外膜炎は後述します。
弁膜というのは、逆流を防止する弁のことです。これが傷害されて逆流がおきたり、あるいは血液が通過しにくい状態になってしまうと、心臓の機能が低下したのと同じ状態になります。たとえば20%逆流してしまう状態では、全身に送られる血液の量が80%に低下してしまうことになります。また、このような状態では心臓自体にも負担がかかります。

「強皮症に伴う心臓病変の血清学的(血液検査でわかる)指標はあるか?」

推奨文: 「心筋障害のスクリーニングおよび重症度評価に際しては、血清学的マーカーのBNPまたはNT-proBNPの測定を提案する」

推奨度: 2C
推奨文のとおりです。これらのマーカーは、不整脈でも非常な高値をとることがあります。

「強皮症に伴う心臓病変を検出するための検査にはどのようなものがあるか?」

推奨文: 「強皮症に伴う心臓病変の検出には心臓MRI及び心筋シンチグラフィーを行うことを提案する」

推奨度: 2C
MRIは心臓の線維化の程度を評価します。心筋シンチグラフィーは心臓の血流障害の程度を評価します。
これらの検査が可能な施設は限られていますが、できれば施行することが提案されています。

「強皮症に伴う心臓病変にCa拮抗薬は有用か?」

推奨文: 「Ca拮抗薬は強皮症に伴う心臓病変に対する選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2C
腎クリーゼの項でもでてきましたCa拮抗薬(アダラート®やペルジピン®、アムロジン®など)は、強皮症患者の心臓の機能(左室駆出率:血液を全身に送り出す、左心室の機能がどれだけあるかを評価する指標でみています)を良好に保つ、あるいは改善させる効果が報告されています。

「強皮症に伴う心臓病変にACE阻害薬やARBは有用か?」

推奨文: 「ACE阻害薬やARBは強皮症に伴う心臓病変に対する選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2C
これらも腎クリーゼの項でもでてきた薬剤です。
強皮症患者の心臓の機能を良好に保つ効果が報告されています。しかし、ACE阻害薬は、これを服用している患者さんが腎クリーゼを発症すると重症化することが多いと報告されていますので、腎クリーゼのリスクを考えて適応を慎重に考慮すべきだと思われます。

「その他に強皮症に伴う心臓病変に有用な治療法はあるか?」

推奨文: 「強皮症に伴う心臓病変に特異的な治療薬はなく、原因疾患に応じた治療を行なうことを提案する」

推奨度: 2C
強皮症だからといって特別な治療を行うわけではなく、一般の循環器内科疾患と同様な対応を行うということです。
収縮不全に対しては、ACE阻害薬もしくはARB、およびβブロッカーが使用されます。
冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)に対しては、冠拡張薬、および必要に応じてカテーテル治療もしくは冠動脈バイパス術が行われます。
不整脈に対しては、抗不整脈薬、カテーテルアブレーションもしくはペースメーカーが設置されます。
弁膜症に対しては、弁形成術もしくは弁置換術を考慮します。
これらの病態は一定の対処方法がありますが、拡張障害については根拠のある治療薬は現時点では存在していません。拡張障害の発症メカニズムをさらに研究していく必要があります。

「強皮症に伴う心臓病変に免疫抑制療法は有用か?」

推奨文: 「強皮症に伴う心外膜炎(心臓を覆っている袋のような膜に炎症がおこり、水がたまってくること)に対してはステロイドの投与を提案する。強皮症に伴うその他の心臓病変に対する免疫抑制療法の有用性は明らかではない」

推奨度: 心外膜炎に対するステロイド投与=2D、その他の心臓病変に対する免疫抑制療法=なし
これについては、まだ結論がでていません。強皮症の心外膜炎によって心嚢水が増えても、少量の時には心臓の働きに影響しませんので、あまり治療はしません。しかし、たまった水に圧迫されて心臓の拡張が十分にできない恐れがあるときに、ステロイドを使うことは比較的あると思われます。このようなときのステロイドの効果は、私の経験上でも不定です。もう少し病態のメカニズムが明らかにならないと、この問題は解決しないでしょう。

同じような病態に胸膜炎(肺の外側と胸郭の内側を覆っている膜の炎症。ここに水がたまってくる)があります。このときもステロイドを使用しますが、効果は不定です。

心臓病変についての記載は以上です。
基本的には、強皮症の心臓病変の管理は、通常の心臓病変の管理と同様に行うというようにまとめられます。

診療ガイドライン 心臓病変

心臓でも、線維成分がふえてきたり、血管が変化してくることがあります。そうしますと、心臓の筋肉の働きが悪くなったり、心臓のリズムを調節する信号がうまく伝わらなくなってしまうことがあります。
筋肉の働きが悪くなる(拡張障害、収縮障害)と、全身に血液を送り出し、そして回収するという心臓の大事な働きが十分にできなくなります。その結果、動悸、息切れ、むくみといった症状がでてきます。
リズムを調節する信号がうまく伝わらない(伝導障害)と、心臓は血液を送り出すためのポンプ運動を適切な回数でおこなうことができず、十分な働きができなくなってしまいます。ただし、治療が必要なほど悪くなることはあまりありません。
最近では、次の項でご紹介する肺高血圧症のスクリーニング(あるかないかを調べること)目的で、定期的に心機能評価を行います。そのために心臓病変は意識されることが多くなってきましたが、以前は注目されることが少なかった領域です。

「強皮症における心臓の拡張障害の頻度は?」

推奨文: 「拡張障害は、強皮症に合併する心臓病変として最も頻度が多く、約20%の強皮症患者に認めるため、スクリーニングを行うことを推奨する」

推奨度: 1C 心臓の超音波エコー検査を全員に行うことが推奨されています。

「その他に強皮症に伴う心臓病変にはどのようなものがあるか?」

推奨文: 「強皮症に合併する心臓病変には拡張障害の他、収縮障害、冠動脈疾患、伝導障害、心外膜炎、弁膜症(大動脈弁、僧房弁)などがあり、その検索を行うことを推奨する」

推奨度: 1C
これらの病変の多くは、あっても軽症で、治療対象になることはないのが一般です。しかし、定期的な検査は重要だと考えられます。
冠動脈とは、心臓自体に栄養を送る血管で、この血管の流れが悪くなると、狭心症や心筋梗塞を起こします。
心外膜炎は後述します。
弁膜というのは、逆流を防止する弁のことです。これが傷害されて逆流がおきたり、あるいは血液が通過しにくい状態になってしまうと、心臓の機能が低下したのと同じ状態になります。たとえば20%逆流してしまう状態では、全身に送られる血液の量が80%に低下してしまうことになります。また、このような状態では心臓自体にも負担がかかります。

「強皮症に伴う心臓病変の血清学的(血液検査でわかる)指標はあるか?」

推奨文: 「心筋障害のスクリーニングおよび重症度評価に際しては、血清学的マーカーのBNPまたはNT-proBNPの測定を提案する」

推奨度: 2C
推奨文のとおりです。これらのマーカーは、不整脈でも非常な高値をとることがあります。

「強皮症に伴う心臓病変を検出するための検査にはどのようなものがあるか?」

推奨文: 「強皮症に伴う心臓病変の検出には心臓MRI及び心筋シンチグラフィーを行うことを提案する」

推奨度: 2C
MRIは心臓の線維化の程度を評価します。心筋シンチグラフィーは心臓の血流障害の程度を評価します。
これらの検査が可能な施設は限られていますが、できれば施行することが提案されています。

「強皮症に伴う心臓病変にCa拮抗薬は有用か?」

推奨文: 「Ca拮抗薬は強皮症に伴う心臓病変に対する選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2C
腎クリーゼの項でもでてきましたCa拮抗薬(アダラート®やペルジピン®、アムロジン®など)は、強皮症患者の心臓の機能(左室駆出率:血液を全身に送り出す、左心室の機能がどれだけあるかを評価する指標でみています)を良好に保つ、あるいは改善させる効果が報告されています。

「強皮症に伴う心臓病変にACE阻害薬やARBは有用か?」

推奨文: 「ACE阻害薬やARBは強皮症に伴う心臓病変に対する選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2C
これらも腎クリーゼの項でもでてきた薬剤です。
強皮症患者の心臓の機能を良好に保つ効果が報告されています。しかし、ACE阻害薬は、これを服用している患者さんが腎クリーゼを発症すると重症化することが多いと報告されていますので、腎クリーゼのリスクを考えて適応を慎重に考慮すべきだと思われます。

「その他に強皮症に伴う心臓病変に有用な治療法はあるか?」

推奨文: 「強皮症に伴う心臓病変に特異的な治療薬はなく、原因疾患に応じた治療を行なうことを提案する」

推奨度: 2C
強皮症だからといって特別な治療を行うわけではなく、一般の循環器内科疾患と同様な対応を行うということです。
収縮不全に対しては、ACE阻害薬もしくはARB、およびβブロッカーが使用されます。
冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)に対しては、冠拡張薬、および必要に応じてカテーテル治療もしくは冠動脈バイパス術が行われます。
不整脈に対しては、抗不整脈薬、カテーテルアブレーションもしくはペースメーカーが設置されます。
弁膜症に対しては、弁形成術もしくは弁置換術を考慮します。
これらの病態は一定の対処方法がありますが、拡張障害については根拠のある治療薬は現時点では存在していません。拡張障害の発症メカニズムをさらに研究していく必要があります。

「強皮症に伴う心臓病変に免疫抑制療法は有用か?」

推奨文: 「強皮症に伴う心外膜炎(心臓を覆っている袋のような膜に炎症がおこり、水がたまってくること)に対してはステロイドの投与を提案する。強皮症に伴うその他の心臓病変に対する免疫抑制療法の有用性は明らかではない」

推奨度: 心外膜炎に対するステロイド投与=2D、その他の心臓病変に対する免疫抑制療法=なし
これについては、まだ結論がでていません。強皮症の心外膜炎によって心嚢水が増えても、少量の時には心臓の働きに影響しませんので、あまり治療はしません。しかし、たまった水に圧迫されて心臓の拡張が十分にできない恐れがあるときに、ステロイドを使うことは比較的あると思われます。このようなときのステロイドの効果は、私の経験上でも不定です。もう少し病態のメカニズムが明らかにならないと、この問題は解決しないでしょう。

同じような病態に胸膜炎(肺の外側と胸郭の内側を覆っている膜の炎症。ここに水がたまってくる)があります。このときもステロイドを使用しますが、効果は不定です。

心臓病変についての記載は以上です。
基本的には、強皮症の心臓病変の管理は、通常の心臓病変の管理と同様に行うというようにまとめられます。

診療ガイドライン 肺高血圧症

血液の中の赤血球という細胞は、酸素を運ぶ大事な役割をしています。赤血球は身体の各所で、酸素を必要な場所に受け渡して、心臓にもどってきます。
そして、心臓の「右心室」から「肺動脈」という血管を通って、肺にいきます。ここで「壁」(間質)越しに、肺胞から酸素を受け取ります。
肺で酸素を受け取った赤血球は、「肺静脈」という血管を通って、また心臓にもどってきて、今度は心臓の「左心室」から全身に送り出されて、身体の各所にいき、酸素の受け渡しを行います。
心臓の「右心室」から「肺動脈」を経て肺にいき、「肺静脈」を経て、また「心臓」にもどるという一連の経路の中で、どこかが何らかの病変のために通りにくくなると、肺動脈の血圧が高くなります。これを「肺高血圧症」といいます。
肺高血圧症の状態では、血液が肺に行きにくくなりますので、血液中の赤血球は酸素を十分に受け取ることができなくなります。
その結果、身体の必要な部分に十分な酸素を供給することができなくなります。こうなりますと、動悸や息切れ、めまい、立ちくらみ、ひどいときには失神といった症状がでてくるようになります。
また、心臓は通りにくいところを無理をして、血液を肺に送らなければならないので、だんだんと疲れて弱っていきます。こうなりますと、足のむくみや、先ほどあげた諸症状がいっそうひどくなります。
強皮症では、「肺動脈」「肺」「肺静脈」「心臓」のいずれの病変の結果としても起こってきますし、これらが混合して原因となることもしばしばあります。治療の基本は血管を拡張させるなどして血液を通りやすくすることですが、原因に応じて、治療のやり方が変わってきます。血管拡張薬が、かえって病状を悪化させてしまうこともあります。私のような膠原病内科医だけではとうていカバーしきれるものではなく、循環器内科医が大いに活躍する領域です。 それでは、ガイドラインに入っていきましょう。

「強皮症における肺高血圧症(PH)の成因と頻度は?」

推奨文: 「強皮症に合併する肺高血圧症には肺動脈性肺高血圧症(PAH)、左心疾患による肺高血圧症(PVH)、間質性肺病変による肺高血圧症(ILD-PH)がある。PAHは強皮症患者の約10%に合併し、PVHの合併率も約10%、ILD-PHの合併率は2.5~3%である」

推奨度: なし
頻度は、どのような集団で調べるかによって異なります。患者さんの立場に立てば、いずれにしても年に1回は、心臓超音波エコーを中心とした評価を行うことが大事でしょう。
同じ肺高血圧症といっても、冒頭でも申し上げたように、成因によって治療法は異なります。PAHつまり「肺動脈」の因子が主であれば、肺動脈を拡張させるなど血流を改善させる治療が主となりますし、PVHつまり「心臓」の因子が主であれば、心臓の働きを改善させる治療が主となります。PVHが主なのにPAHの治療を主とすると、肺から心臓に流れ込む血液量が増えて心臓の負担が増えてしまい、かえって病状を悪化させてしまいかねません。
強皮症の患者さんでは、PAHの場合とPVHの場合が半々といわれています。さらに、間質性肺病変による肺高血圧症(ILD-PH)が8分の1くらいあるといわれています。
ILD-PHの場合は、ILD(間質性肺病変)の治療が優先となります。

「強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症(SSc-PAH)をきたすリスク因子は何か?」

推奨文: 「限局型強皮症、抗セントロメア抗体陽性、抗U1RNP抗体陽性がPAHのリスク因子となるが、すべての強皮症患者で年1回の定期的なスクリーニングを推奨する」

推奨度: 1C
肺高血圧症は可能な限り早期の治療介入が必要な病態ですので、さきほども述べたとおり、リスク因子の有無にかかわらず、全員が定期的評価を受けることが必要です。

「強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症のスクリーニングに有用な検査にはどのようなものがあるか?」

推奨文: 「身体所見(毛細血管拡張)、血清学的検査(血清BNPもしくはNT-proBNP高値、血清尿酸値高値)、心電図(右軸変異)、呼吸機能検査(%FVC/%DLco高値:1.6以上)、心エコーが有用であり、その施行を推奨する」

推奨度: 1C
この項目は医師向けですね。もし、医師がうっかり忘れているようなら、患者さんのほうから声をかけてください。治療は、患者さんと医師が協力しあって行うものです。これらの検査の中でも、とくに心エコーが重要です。

「右心カテーテルを施行する基準は?」

推奨文: 「心エコーにて三尖弁逆流速度(TRV)が3.4m/秒を超える、もしくは推定右室収縮期圧(RVSP)が50mmHgを超える場合には肺高血圧症である可能性が高いため、右心カテーテルを行うことを提案する。TRVが3.4m/秒以下もしくはRVSPが50mmHg以下の場合には、その他に肺高血圧症を疑わせる所見があれば右心カテーテルを行う」

推奨度: TRVが3.4m/秒を超える、もしくはRVSPが50mmHgを超える場合=2A、TRVが3.4m/秒以下もしくはRVSPが50mmHg以下の場合=2B 先ほどの諸検査の中で、心臓超音波エコーによる評価は比較的信頼できるものです。しかし、それだけでは様々な落とし穴があり、本当は肺高血圧症でない人を肺高血圧症としてしまったり、逆に治療すべき肺高血圧症を見落としてしまう可能性があります。
そのため、先ほどの検査で肺高血圧症を疑った場合は、原則としてカテーテル検査を行うことになります。カテーテル検査を行うと、PAH(肺動脈性)なのかPVH(心臓性)なのかの区別も明確になり、治療の選択の上でも有用です。

「強皮症に伴う肺高血圧症の中で、肺静脈閉塞症(PVOD)様病変の合併頻度は?その鑑別法は?」

推奨文: 「重症の強皮症に伴う肺高血圧症には、約半数でPVOD様病変を合併している可能性がある。確定診断は組織学的検査によるが、胸部CTで小葉間隔壁の肥厚、小葉中心性のすりガラス影、縦隔リンパ節腫大を認める場合に疑うことを提案する」

推奨度: 2C
これも医師向きですね。PVOD様病変によって(「肺静脈」のところで血液が通過しにくくなっているために)肺高血圧症になっている場合は、不用意にPAH(肺動脈性の肺高血圧症)のように肺血管拡張薬を使うと、肺の組織に水がたまってしまい、かえって呼吸状態が悪化してしまうことがありますので注意が必要です。

「強皮症に伴うPAH(肺動脈性肺高血圧症)の予後(将来悪化するかどうか)を規定する因子は?」

推奨文: 「年齢及び心係数が強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症の予後規定因子であるため、これらの因子を考慮することを推奨する。性別(男性)、サブタイプ(限局皮膚硬化型)、WHO機能分類のグレードが高度、肺血管抵抗高値も予後を規定する可能性があるため、これらの因子も考慮することを提案する」

推奨度: 年齢、心係数=1C、性別、サブタイプ、WHO機能分類のグレード、肺血管抵抗=2C
ここで申し上げたいのは、WHO機能分類のグレードが低い段階、つまりあまり症状が出ていない段階で肺高血圧症をみつけて治療介入すれば予後がよい、つまり、悪くなることが少ないということです。とくに症状がなくても、年に1回の定期的なスクリーニングが重要であるということです。

「強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症に支持療法は必要か?」

推奨文: 「右心不全に対する利尿剤投与、動脈血酸素分圧60mmHgを維持するための酸素療法を行うことを提案する」

推奨度: 2C
酸素が欠乏すると肺の血管が収縮して抵抗が増すと考えられることから、酸素療法が広く行われています。
これら以外にもワーファリンが従来から使われていますが、効果が明確でないこと、他の治療薬との相互作用があることなどから、最近はあまり使用されていません。

「強皮症に伴う肺高血圧症に免疫抑制療法は有用か?」

推奨文: 「強皮症に伴う肺高血圧症に対して免疫抑制療法は行わないことを提案する」

推奨度: 2C
混合性結合組織病やシェーグレン症候群に近い病態の時は別として、典型的な強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症での免疫抑制療法は有効であったという報告はありません。

「肺動脈圧が境界域高値(21~24mmHg)、あるいはWHO機能分類I度の場合に薬剤介入するべきか?」

推奨文: 「肺動脈圧が境界域高値(21~24mmHg)、あるいはWHO機能分類I度の場合での薬剤介入の有用性は証明されていない」
早期に発見して早期に治療するというのが肺高血圧症の原則ではありますが、このレベルで治療介入すべきかについては、まだ結論がでていません。ちなみに、WHO機能分類I度とは、「ふつうの身体活動では過度の呼吸困難や疲労、胸痛、失神を生じない」という状態です。
しかし、この時点で肺血管拡張薬ボセンタン(トラクリア®)を使用すると、肺動脈圧が異常値に移行するのを防止できる可能性を示唆する報告があります。
実際の診療では、次の項で説明するような末梢循環障害を合併していれば、血管拡張薬を使用するというのが標準的なところでしょうか。トラクリア®以外の内服の血管拡張薬で肺動脈圧の上昇が予防できるかについては、まだ報告がありません。

「WHO機能分類II度の強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症の治療に用いる薬剤は?」

推奨文: 「エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)(ボセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン)、ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬(リオシグアト)を、WHO機能分類II度の強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症に対して使用することを推奨する。また、ベラプロストおよびその徐放剤を、WHO機能分類II度の強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症に対して使用することを提案する」

推奨度: ERA(トラクリア®、ヴォリブリス®、オプスミット®)、PDE5阻害薬(レバチオ®、アドシルカ®)、sGC刺激薬(アデムパス®)=1B、ベラプロスト徐放剤(ベラサスLA®、ケアロード®)=2C、ベラプロスト通常剤(プロサイリン®、ドルナー®)=2D
WHO機能分類II度というのは、「安静時には自覚症状がない。ふつうの身体活動で過度の呼吸困難や疲労、胸痛、失神が起こる」という状態です。
個々の治療薬については詳説しませんが、それぞれの推奨度は公平なものと思われます。
現在では、後述するWHO機能分類III度だけでなく、II度においても、これらの薬剤の初期併用(アップフロント・コンビネーション)療法の有用性が指摘されています。
また、本ガイドラインの発表後に、選択的プロスタサイクリン受容体(IP受容体)作動薬セレキシパグ(ウプトラビ®)が保険適応になっています。

「WHO機能分類III度の強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症の治療に用いる薬剤は?」

推奨文: 「エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)(ボセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン)、ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬(リオシグアト)、エポプロステノール静注、トレプロスティニル(トレプロスト®)皮下注、イロプロスト(ベンテイビス®)吸入を、WHO機能分類III度の強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症に対して使用することを推奨する。また、ベラプロスト(徐放剤)、トレプロスティニル静注を、WHO機能分類III度の強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症に対して使用することを提案する」
「また、これらの薬剤の初期併用療法を行うことも提案する」

推奨度: ERA、PDE5阻害薬、sGC刺激薬、エボプロステノール静注、トレプロスティニル皮下注、イロプロスト吸入=1B、ベラプロスト、トレプロスティニル静注=2B、初期併用療法=2A
WHO機能分類III度というとかなり重症です。「安静時には自覚症状がない。ふつうよりも軽度の身体活動で過度の呼吸困難や疲労、胸痛、失神が起こる」状態です。
ですから、内服薬1剤のみではとうてい十分なコントロールは期待できません。最初からの2剤・3剤併用療法が推奨されています。
先ほどと同様に、本ガイドラインの発表後に、選択的プロスタサイクリン受容体(IP受容体)作動薬セレキシパグが保険適応になっています。

「WHO機能分類IV度の強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症の治療に用いる薬剤は?」

推奨文: 「WHO機能分類IV度の強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症に対しては、エポプロステノール静注を推奨する。エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)(ボセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン)、ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬(リオシグアト)、トレプロスティニル皮下注および静注、イロプロスト吸入、これらの薬剤の初期併用療法を行うことも提案する」

推奨度: エポプロステノール静注=1A、初期併用療法=2A、ERA、PDE5阻害薬、sGC刺激薬(リオシグアト)、トレプロスティニル皮下注および静注、イロプロスト吸入=2C
WHO機能分類IV度は最重症の状態です。「これらの患者は右心不全の徴候を呈する。安静時にも呼吸困難および/または疲労がみられる。いかなる身体活動も自覚症状の増悪につながる」という状態です。
内服薬では力不足であり、持続静脈注射で用いられるエポプロステノール(フローラン®)が治療の主役となります。
ただし、強皮症の場合は、注入部位からの感染のリスクに特に留意する必要があります。

「間質性肺病変に伴う肺高血圧症の場合に、肺血管拡張薬を使用するべきか?」

推奨文: 「間質性肺病変に伴う肺高血圧症に対する、肺高血圧症治療薬の使用は慎重に行うことを提案する」

推奨度: 2C
間質性肺病変の起こっている場所では、間質(壁)が正常の状態ではないので、血液は酸素を十分に受け取ることができません。ですから、不用意に肺血管拡張薬を使って血液の循環量を増やすと、酸素を十分に受け取っていない血液が体中に回っていくことになり、低酸素の状態がさらに悪化してしまうことになります。
ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)は、肺病変のあるところの血管は拡張させにくく、低酸素血症を招くことは少ないとされていますが、リスクがないわけではありません。
間質性肺病変に伴う肺高血圧症の場合には、可能であれば間質性肺高血圧症に対する治療を優先します。その上で、肺血管拡張薬を使用するときには、ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)を中心に、低酸素血症に注意しながら行う、というところが現在の標準でしょうか。

強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症や、間質性肺病変に対して、肺移植は有用か?」

推奨文: 「難治性の強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症や、間質性肺病変に対しては、肺移植の適応を評価することを提案する」

推奨度: 2C
強皮症における肺移植の成績は、他の疾患での成績と同様です。3年後の生存率は46~73%となっています。肺移植レシピエント(移植を受ける人)登録が可能な年齢(両肺移植ならば55歳未満、片肺移植ならば60歳未満)の場合には、肺移植の適応を検討することが提案されています。

「強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症に対して、イマチニブ(グリベック®)は有用か?」

推奨文: 「イマチニブは難治性肺動脈性肺高血圧症に有用である場合があるが、安全性の観点から投与しないことを提案する」

推奨度: 2C
イマチニブは白血病に保険適応のある薬剤です。肺高血圧症の改善効果は限定的である上に、重篤な副作用で治療の中断を余儀なくされることがしばしばです。これらのことを受けて、この推奨文が書かれています。

「強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症に対して、リツキシマブ(リツキサン®)は有用か?」

推奨文: 「強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症に対するリツキシマブの有用性は、現在のところ明らかでない」

推奨度: なし
間質性肺病変に伴う肺高血圧症でリツキシマブが有効であったとの報告はありますが、強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧症にリツキシマブが有効であったという報告はありません。
現在、海外で試験が行われているところで、その結果が待たれます。

肺高血圧症に関する記載は以上です。
今後、さらに治療薬も治療理論も発展していくことが期待される、日進月歩の進歩がみられる領域です。

診療ガイドライン 血管病変

強皮症の末梢循環障害がおこる機序は4つあると考えられています。
(1)寒冷や精神的緊張などの刺激で、普通以上に強く血管が収縮してしまう、(2)血流が悪くなったときに、血管を拡張させて血流を確保するようなメカニズムが障害されている、(3)血管の中が狭くなる/血管が減る、(4)血管の中で血栓(血の固まり)ができやすい。
血管病変に対する治療は、この4つに対して行われます。
一過性の血流障害であるレイノー現象だけでも、しびれや痛み、力が入りにくいなどの症状に悩まされます。これが、さらに血管の変化が進行して慢性的に血流が悪化しますと、指先の細胞は生き続けることができなくなります。すると、指先の皮がむけたり、潰瘍ができたり、ひどいときには黒色化して壊疽といわれる状態になることがあります。
強皮症の経過の最初の時期から患者さんを悩ますのが、この領域です。ただし、わが国が世界に比べて最も優れているといってもよいのも、この領域です。わが国で使用できる、血流を改善させる薬剤は年々増えてきています。私のところでも、指の壊疽のために外科的な切除術を施行しなければならなくなった患者さんは、もう10年以上みないようになりました。
一つだけ注意しておきますと、レイノー現象の治療というのは、レイノー現象にともなうしびれや痛み、力が入りにくいなどの症状を緩和する目的で行われるものです。レイノー現象がまったく起こらないようにするためのものではありませんし、起こらないようにすることは現状では困難です。
では、どの程度になるまで治療すべきなのか?あるいは、どのような程度のときに治療すべきなのか?というのは、このガイドラインでは設定されていません。他のガイドラインでも事情は同じです。
私の現状のやり方は、(1)壊疽や潰瘍など皮膚の組織に明らかな傷があるときは、治療介入を行う、(2)皮膚の組織に傷がないときは、血流障害にともなう痛みや脱力のために生活に支障をきたしているときに治療介入を行う、というものです。
しかし、より積極的に血流障害に治療介入していった方が、手や足の指にとどまらず、全身の臓器を守ることができるのかもしれません。レイノー現象・指尖潰瘍の治療のためにボセンタンを服用していた患者さんでは、肺高血圧症の発症が少なかったという報告が、これを示唆しているようにも思えます。
それでは、ガイドラインを説明していきます。

「血管病変の出現を予測する因子はあるか?(どんな人に起こりやすいか)」

推奨文: 「指尖潰瘍のリスクファクターとして、若年発症、広範な皮膚硬化、抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl-70抗体)などを考慮することを提案する」

推奨度: 1C
一般的にはこうですが、どの患者さんにも起こりうることですので、寒冷期には、保温などの対策が必要です。血流が悪い酸素不足のときには、線維を作る線維芽細胞は活性化しやすいという報告もあります。しっかりと防寒対策をとりましょう。また、いくら暖かくしていても、じっとしていては十分な血流改善効果は得られませんので、適度な運動が必要です。
また、絶対的な温度も大事ですが、相対的な温度差(温かいところから、急に寒いところに移ること‐たとえば夏場のクーラーなど)が、症状を悪くするので注意が必要です。

「禁煙は血管病変の予防・改善に有用か?」

推奨文: 「喫煙は血管病変の危険因子であり、その予防・改善に禁煙を推奨する」

推奨度: 1C
常識のようでいて、意外に無視されがちなのが禁煙です。ニコチンは末梢の血管を収縮させ、血流障害を悪化させてしまいます。喫煙していると、重篤な血管病変のリスクは4倍になるという報告もあります。最近は禁煙外来もあり、昔よりは禁煙のハードルも下がっています。禁煙には、呼吸器の病変の悪化を防ぐ意義もあります。

「カルシウム拮抗薬は血管病変に有用か?」

推奨文: 「カルシウム拮抗薬はレイノー現象に対して有用であり推奨する」

推奨度: 1A
これまでの項でもでてきたカルシウム拮抗薬です。欧米ではレイノー現象の軽減によく用いられます。あくまでレイノー現象の軽減であって、潰瘍や壊疽に対する有効性は報告がありません。
EULAR(ヨーロッパ)のガイドラインでは第一選択の薬ではありますが、本来、高血圧の薬ですので、レイノー現象に有効なだけの量を使うと、血圧が下がってめまいやふらつきを起こすこともあり、あまり使い勝手がいい薬とはいえません。わが国では他の薬を使う方が多いと思われます。
一般的に、血管拡張剤を服用しているときには、頭痛や動悸、立ちくらみなどの症状がでることがあります。これは、正常部分の血管が拡張しすぎていることを意味します。このような場合は、薬の量を減らしたり、よりマイルドな効果の薬に変更するなどして対処します。

「抗血小板薬あるいはベラプロストナトリウムは血管病変に有用か?」

推奨文: 「抗血小板薬あるいはベラプロストナトリウム(プロサイリン®、ドルナー®)は強皮症のレイノー現象に有用であり推奨する。塩酸サルポグレラート(アンプラーグ®)は皮膚潰瘍に対しても有用である」

推奨度: 1C
ベラプロストナトリウムは小規模ながら試験があり、指尖潰瘍の改善効果も示唆されています。私の第一選択の薬剤です。
塩酸サルポグレラートもレイノー現象と指尖潰瘍の改善効果が報告されています。ベラプロストナトリウムに比べると血管拡張作用は弱いのですが、抗血小板作用があります。ベラプロストナトリウムの血管拡張作用のために、頭痛やふらつきなどで使用しにくいときに、私は塩酸サルポグレラートを使っています。ベラプロストナトリウムと併用することもあります。
抗血小板薬シロスタゾール(プレタール®)も、レイノー現象の低減効果や指尖潰瘍の改善効果が報告されている薬剤です。

「プロスタグランディン製剤は血管病変に有用か?」

推奨文: 「アルプロスタディル(パルクス注®、リプル注®)はレイノー現象と指尖部潰瘍に対する治療として推奨する」

推奨度: 1C
5日間連続投与/週という方法で6週間継続した試験で、レイノー現象と指尖潰瘍の改善効果が確認されています。ただし、保険では原則14日間投与になっていますので、注意が必要です。内服の薬剤でコントロールできないときに使用されます。

「アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は血管病変に有用か?」

推奨文: 「アンギオテンシン変換酵素阻害薬およびアンギオテンシンII受容体拮抗薬の血管病変に対する有用性は明らかでなく、使用しないことを提案する」

推奨度: 2D
ACE阻害薬は海外で行われた試験でレイノー現象の改善効果は認められませんでした。
ARBについても、強皮症のレイノー現象を改善する傾向はみられましたが、意味のある効果というところまではいきませんでした。

「抗トロンビン薬(ノバスタンHI®)は血管病変に有用か?」

推奨文: 「抗トロンビン薬は皮膚潰瘍治療に有用であり推奨する」

推奨度: 1C
少数例での報告にとどまっていますが、皮膚潰瘍を縮小・治癒させる効果が認められています。私も、重症の皮膚潰瘍・壊疽で、プロスタグランディン製剤と併用して使うことがあります。

抗トロンビン薬は、「抗凝固薬」といわれるグループに属する薬剤です。このグループには、ワーファリンや、NOACといわれるさまざまの薬剤(プラザキサ®、イグザレルド®、リクシアナ®、エリキュース®など)があります。
これらの薬剤の皮膚潰瘍改善効果はどうなのでしょうか?残念ながら、まとまった報告はないようです。私の個人的な印象では、有効な場合もあると思われますが、確定的なことは申し上げられません。

「エンドセリン受容体拮抗薬は血管病変に有用か?」

推奨文: 「ボセンタン(トラクリア®)を指尖潰瘍新生を予防する治療として推奨する。症例によってはレイノー現象や、指尖潰瘍縮小、他の部位の潰瘍にも効果が期待できる。アンブリセンタン(ヴォリブリス®)も既存の指尖潰瘍に対する治療の選択肢の一つとして提案する」

推奨度: ボセンタンの指尖潰瘍新生予防:1A、その他は2C
ボセンタンは多施設共同試験で、皮膚潰瘍が新たにできるのを防ぐ効果が確認されています。個別の報告のレベルでは、皮膚潰瘍の縮小・治癒もいわれています。保険適応がある薬剤です。
アンブリセンタンにも同様の効果があると思われますが、こちらは保険適応になっていません。

「ホスホジエステラーゼ5(PDE-5)阻害薬は血管病変に有用か?」

推奨文: 「ホスホジエステラーゼ阻害薬のうち、シルデナフィル(レバチオ®)をレイノー現象の緩和のための治療として提案するが、適応を慎重に考慮する必要がある。症例によっては指尖潰瘍の治療にも効果が期待できる。タダラフィル(アドシルカ®)やバルデナフィル(レビトラ®)も症例によってはレイノー現象の治療の選択肢の一つとして提案する」

推奨度: シルデナフィルのレイノー現象に対する治療:2B、その他は2C
シルデナフィルは、レイノー現象の低減と、皮膚潰瘍の縮小効果の報告があります。
タダラフィルは、解析の方法によってはレイノー現象の低減効果が認められました。
バルデナフィルは勃起不全の薬ですが、レイノー現象の低減効果が認められています。
このように書きますと、3剤の間に効果に差があるようにみえますが、実際にはどれも効果があるのではないかと思われます。ただし、いずれも保険適応はありません。
EULARのガイドラインではレイノー現象と指尖潰瘍の治療について、「PDE-5阻害薬を考慮すべき」と各剤横並びの表現で、推奨度Aという強いものになっています。さらに、わが国ではボセンタンの保険承認が先行しているのとは異なり、使用の順番として、PDE-5阻害薬が先で、それで効果不十分の時にボセンタンとなっています。

もともと肺高血圧症の治療薬として開発された薬剤が、血管病変にも使用されつつある現状がおわかりいただけるかと思います。
EULARでは、このほか、レイノー現象の改善にイロプロスト静注が推奨度A、指尖潰瘍の改善にイロプロスト静注が推奨度Aになっています。

ここまで、薬剤による治療を述べてきましたが、実際にはこれらの薬剤は併用で用いられることが多いと思われます。ただし、個々の患者さんでどのような薬剤の組み合わせがよいのかは、まだ不明です。

「高圧酸素療法は血管病変に有用か?」

推奨文: 「高圧酸素療法は皮膚潰瘍治療に有用と考えられ、治療の選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
個別の報告で、皮膚潰瘍の改善を認めています。私は、まだ経験がありません。

「手術療法は皮膚潰瘍・壊疽に有用か?」

推奨文: 「皮膚潰瘍・壊疽に対して分層植皮術は有用であり推奨する」

推奨度: 1D

推奨文: 「皮膚潰瘍・壊疽に対し、安易な切断術は行わないことを推奨する」

推奨度: 1D
黒く、壊死になってしまった部分については、もうもとにはもどりません。さらに、こういうところにばい菌が感染しますと、白血球が到達できないので、なかなか治らず、場合によっては、ばい菌が体内に侵入し、血流にのって全身に回り、敗血症という重篤な状態になることもあります。
ただし、壊死部分が大きなものでなければ、境界部分に正常に近い皮膚ができてきて、だんだんと壊死が退縮し、ある日ぽろりと脱落して治癒することもあります。
壊死部の切断の手術をするか、保存的対応とするか、大きな問題です。
前半の分層植皮術については、内服や外用薬なども併用して条件を整えたうえで施行することになっています。
後半の安易な切断術をいましめる文言は非常に大事なことだと思います。血流が十分な状態でないと、切断部が壊疽に陥ってしまったり、そこまでいかなくてもなかなか切断したところの創が治らず、そこに感染を起こしてしまったりして、かえって悪化させてしまうことがあります。
壊疽を起こした場合は、その大きさにもよりますが、血流改善剤などの保存的治療で縮小させ、自然な脱落を待つほうがよいことが多いと思われます。
また、潰瘍・壊疽の部位に感染を起こしていると組織を修復するメカニズムがうまく働きません。そのため、まず感染症を治癒させることが大事です。指尖潰瘍が難治性の場合は、その下の組織である骨に感染性骨髄炎を起こしていることがあります。このような場合は粘り強い抗菌療法で治癒をはかっていきます。

「交感神経切除術は血管病変に有用か?」

推奨文: 「交感神経切除術の血管病変に対する有用性は示されておらず、手術後の合併症の問題もあり、行わないことを提案する」

推奨度: 2D
私には経験がないので、コメントは控えておきます。

「交感神経ブロックは血管病変に有用か?」

推奨文: 「交感神経ブロックを血管病変に対する治療の選択肢の一つとして提案する」

推奨度: 2D
これも、私には経験がありません。ガイドラインの解説文も、「選択肢の一つとして考慮してもよいと考えられる」という程度です。

「スタチン(高コレステロール血症の治療薬)は血管病変に有用か?」

推奨文: 「スタチンを血管病変に対する治療として提案するが、適応を慎重に考慮する必要がある」

推奨度: 2B
スタチンを内服しているグループと内服していないグループを比較した試験では、レイノー現象や指尖潰瘍の重症度が低減したと報告されています。
しかし、コレステロール値の高くない患者さんに投与した場合の安全性など、まだ不明の問題点があります。

「皮膚潰瘍・壊疽に有用な外用薬は?」

推奨文: 「トラフェルミン(フィブラスト・スプレー®)、プロスタグランディンE1軟膏(プロスタンディン®)、白糖・ポピドンヨード配合軟膏、プクラデシンナトリウム軟膏(アクトシン®)は皮膚潰瘍の改善に有用であり推奨する」

推奨度: 1D
トラフェルミンで、他の治療薬で効果のない皮膚潰瘍が治癒した報告があります。
プロスタグランディン軟膏は、有用と思われますが、あまりはっきりした報告はありません。
白糖・ポピドンヨード配合軟膏については、専門家の意見として紹介されてはいますが、有用性に関する報告はありません。
プクラデシンナトリウム軟膏は、多くの個別報告で使用されており、皮膚潰瘍を上皮化(潰瘍を閉じるように皮膚が増殖していく)させる作用が指摘されています。

「上記以外で血管病変に有用な治療法はあるか?」

推奨文: 「血管病変に対する効果が期待されている治療として、陰圧閉鎖療法、間欠的空気圧療法、濃厚血小板血漿、硝酸グリセリン貼付(狭心症の治療に用いるテープ剤です。各種あります)あるいは血管新生療法などが報告されており、難治例では治療の選択肢の一つとして提案するが、適応を慎重に考慮する必要がある」

推奨度: 硝酸グリセリンおよびボツリヌス毒素(ボトックス®)は2C、その他は2D
これらの治療は、私は行っていません。
ガイドラインの解説文も「報告数が少なくエビデンスレベルは低いが、副作用に注意しながら治療の選択肢の一つとして検討してもよいと考えられる」という表現にとどまっています。
その中でとりあげるべきものとしては、
硝酸グリセリン貼付は、多施設の試験でレイノー現象に対する有効性が示されています。
自己骨髄幹細胞移植による血管新生療法についても、難治性潰瘍に有効であったという報告があります。
ボツリヌス毒素は、痙攣や痙縮に使われている薬剤ですが、レイノー現象への有効性が示されています。

可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬の一つであるリオシグアト(アデムパス®)についても、レイノー現象に対する有用性が指摘されており、現在試験中となっています。

EULARのガイドラインではこの他にユニークな薬があげられています。
それは、抑うつなどで使われるSSRIというグループの薬剤のフルオキセチン(本邦未承認)です。これが、Cレベルではありますが、レイノー現象を低減させる治療として考慮してもよい、とされています。EULARの第一選択薬であるカルシウム拮抗薬のアダラートとの比較試験で、レイノー現象の低減効果に勝り、副作用は少なかったという結果がでています。
レイノー現象は、寒冷の他に精神的緊張によって誘発されますから、リラックスさせる薬剤に低減効果があるのはわかる気がします。ただし、消化管運動への影響や長期の安全性など、検討課題もあるでしょう。

ガイドラインではとりあげられていませんが、手指の血流の悪化が軽度のものであれば、ビタミンE(ユベラN®)、EPA(エパデール®)でも、痛みやしびれは緩和されることがあります。

血管病変に関する記載は以上です。
これまで中で最も、治療手段の多い領域であることがおわかりいただけたかと思います。また、地球の温暖化も、この領域に関しては良い影響を及ぼしていると言えるかもしれません。

ここで、一つ追加しておきたいことがあります。これらの治療は、指尖潰瘍に対するものですが、強皮症の患者さんの指では、そのほかにも潰瘍ができることがあります。
代表的なものに、手指のDIP(第一関節)、PIP(第二関節)を覆う皮膚が切れてくることがあります。これは、硬化によって皮膚の緊張が増して、曲げ伸ばしの際に傷ができやすくなっていることが主な原因で、血流障害の影響はあまりありません。
ですから、このような場合は、保湿剤などで柔軟性を保持するように対応します(たとえばウレパール®、ヒルドイド®など)。血流改善剤の効果はありません。

まとめとして

いかがでしたでしょうか。この皮膚科学会のガイドラインは世界に冠たるものともいうべきで、こんなに詳細にわたったガイドラインは他にはありません。
この紹介記事が皆様のお役に立つことができましたら、これほど嬉しいことはありません。皆様のよりよい生活を祈念して、稿を閉じさせていただきます。

文責:国立病院機構宇多野病院 統括診療部長  柳田 英寿