全身性エリテマトーデスの治療のタイミングこのページを印刷する - 全身性エリテマトーデスの治療のタイミング

はじめに

どんな病気でも、患者さんは不安になることが多いと思われます。ましてや、それまでに、あまり聞いたことのない病気の場合は、いっそう不安に感じるでしょう。全身性エリテマトーデス(以下SLEと略して説明)も、そのような病気だと思われます。

患者さんに、「この病気はどういう症状が出るのですか?本をみたら、たくさんのことが書いてあって、こわくなりました。」と、いわれることがあります。たしかに、SLEではさまざまの症状や、検査の異常が出ます。しかし、それらのうちには、特に治療はせずにそのまま様子を見ているだけでもかまわないものが、数多くあります。

では、どのような場合に治療を行い、どのような場合は様子を見るだけにするのでしょうか。これについては、医師の間でも完全に統一されているわけではありません。しかし、統一・標準化への努力は、以前からなされてきました。その努力のひとつとして、SLEの活動性を客観的に評価するためのスコアリングシステムが、いくつか提唱されています。それらのうちには、その評価に基づいて、治療の強さを決定することができるようになっているものがあります(残念ながら、わが国の、特に外来診療では、このスコアを計算するだけのゆとりがないのが現状です)。

ここでは、そのなかでも、
(1)SLEの活動性を敏感に反映すること
(2)医師の治療方針決定に役立てること
を主要な目的としていること、などで評価の高いBILAGスコアリングシステムと、その改訂版であるBLIPSをもとに、どんな症状・検査の異常のときに治療を強化するのかを、ご説明していきます。 BILAGスコアは、かなり項目数が多く、その中には医療関係者でないと理解しにくいものもあるので、一般の方に理解しやすいように、ここでは改変・簡略化しています。それでも、量はかなり多いので、最初から最後まで通読するのは大変と思われます。

総論1と総論2をみていただいた後は、各論についてはご自分の状況と関係がありそうなところから見ていただければ、と思います。

また、ここにあげる治療方針が絶対に正しいというものではありません。あくまで、ひとつの方針であることをお忘れないようにお願いします。実際の治療は、メリットとデメリットを比較しながら、患者さん個々の状況にしたがって調整されます。

総論1:治療の強さをカテゴリー別に決定する

BILAGでは、治療の必要性に基づいて、症状・検査の異常を5つのカテゴリーに分けます。

下に述べますように、カテゴリーAは、強い免疫抑制・抗炎症治療が必要な状況、カテゴリーBは、軽い免疫抑制・抗炎症治療が必要な状況、カテゴリーC・D・Eは、免疫抑制・抗炎症治療をせずともよい状況となっています。

カテゴリーA(強い治療)

ステロイド中等量(プレドニン、プレドニゾロンで20mgを越える量)から大量、または免疫抑制剤が必要な状況です。

免疫抑制剤とは、薬剤名で「エンドキサン」、「イムラン」、「ネオーラル」、「メソトレキセート」、「ブレディニン」、「セルセプト」、「プログラフ」などをさします。

また、近年、生物学的製剤の「リツキサン」が、SLEに有効であることが、米国を中心に確認されていますが、わが国での保険適応は、悪性リンパ腫のみとなっています。

カテゴリーB(軽い治療)

軽い免疫調整剤、非ステロイド性消炎鎮痛剤(いわゆる痛み止め・熱さまし)、ステロイド少量(プレドニン、プレドニゾロンで20mgを下回る量)などの治療で十分な状況です。免疫調整剤とは、抗マラリア薬「クロロキン」のことをさします。わが国では、眼などへの副作用のこともあり、認可されていない薬剤です。

カテゴリーC(対症療法)

特にステロイドや免疫抑制剤、免疫調整剤による治療を必要としない状況です。ただし、症状を和らげるための、対症的な治療を行うことがあります。

カテゴリーD(機能補助)

昔の病変で、ダメージが残っているが、現在は落ち着いている状況です。ダメージにより、低下した内蔵の機能を補助するための治療を行うことがあります。

カテゴリーE(無治療) 

なにもダメージを受けていない状況です。

ここで、再度注意させていただきます。
ここにあげる治療方針は絶対に正しいというものではありません。
実際の治療は、メリットとデメリットを比較しながら、患者さん個々の状況にしたがって調整されます。

総論2:SLEの病状を8種類に区分けする

BILAGでは、症状・検査の異常を8種類(全身症状と7種類の臓器別の症状)に分けます。この8種類のそれぞれのなかで、上記のカテゴリーをあてはめて、治療の強さを決定します。

  1. 全身症状
  2. 皮膚や口の粘膜の病変
  3. 脳や神経の病変
  4. 筋肉や骨、関節の病変
  5. 心臓・肺の病変
  6. 血管系の炎症による病変
  7. 腎臓の病変
  8. 白血球、赤血球、血小板に関する病変
ここでも大事な注意点があります。
当然のことですが、治療の強さを決定するにあたっては、症状・検査の異常が、
(1)SLE自体によるものか、それとも、
(2)併発する他の病気や治療の副作用によるものなのかを、しっかり区別しなければなりません。

もしも、(2)の併発する他の病気や治療の副作用による症状・検査の異常なのであれば、免疫抑制・抗炎症治療は、意味がないどころか、かえって悪化を招きかねません。 これから、いろいろな症状・検査の異常について項目をあげ、それらがどのカテゴリーにあてはまるかを、ご説明していきますが、以下の項目は、それが、(1)のSLE自体によって引き起こされているという前提の下で、記載されています。

各論

それでは、1~8の病変の順番に、カテゴリー、すなわち治療の強さ、の決め方について、ご説明していきます。

今回は、必要な治療の強さを決定するための説明ですので、カテゴリーD・Eは割愛して、カテゴリーA・B・Cについてのみ、ご説明いたします。

また、7の後で、特別編として、補体、抗DNA抗体、免疫複合体の意義についてご説明いたします。はじめに述べましたように、量が多いので、ご自分の病状と関係のありそうなところから、みていただければ、と思います。

1.全身症状

皆さんが最も感じることの多い症状だと思われます。本当にSLEが原因なのか?それとも、SLE以外の原因によるのか?どのくらいの症状のときに、どのくらい免疫抑制・抗炎症療法をかけるべきか、医師としても悩むことの多い症状です。

症状・検査異常項目

  1. 発熱(37.5度以上)
  2. 体重減少(1ヶ月で5%以上)
  3. リンパ節の腫れ
  4. 疲労・全身倦怠感
  5. 食欲不振・吐き気・嘔吐それぞれの項目については、特にご説明の必要はないでしょう。

治療の強度は、

以下のとおりです。 カテゴリーA(強い治療):発熱に加えて他の2項目を認める
カテゴリーB(軽い治療):発熱、あるいは他の2項目を認める
カテゴリーC(対症療法):A、Bにあてはまらないもの

2.皮膚や口の粘膜の病変

目立つ場所にできることが多く、悩まされる症状です。以下の項目に示す、それぞれの病変については、実際に見ていただかないとおわかりにならないかもしれません。

カテゴリーA(強い治療):以下の、いずれかを認める場合です。

  1. ひどい紅斑、ディスコイド疹、水疱
    紅斑は、皮膚の赤い発疹で、少し厚みのある場合もあります。かゆみはあまりありません。

    ディスコイド疹は、かさかさして、ささくれだった感じの赤い発疹です。正常部分との境界は明瞭です。顔から頚、全身にでます。
    SLEによる水疱は、それほど多いものではありません。むしろ、SLEで水疱が出た場合は、ヘルペスであることのほうが圧倒的に多いでしょう。

    ひどい、というのは、どんどん広がっている場合、顔や、体の9分の2以上に広がっている場合、やけどのように皮膚がめくれている場合、生活のうえで障害となる場合などをさします。
  2. 血管性浮腫といわれる、唇からのどにかけての浮腫(むくみ)
    呼吸困難になることがあるので、強い治療の対象になります。
  3. ひどい口内炎、胃・腸から肛門にかけての粘膜の傷害
    口から肛門にかけて、表面を保護している薄皮(粘膜)がはがれて、痛みを感じる状態です。食事もとれなくなるような状態をさします。

カテゴリーB(軽い治療):以下の、いずれかを認める場合です。

  1. 蝶型紅斑
    SLEに特徴的な、鼻と両頬に広がる紅斑(前述)です。蝶が羽根を広げたように見えることからこの名前がつけられています。
  2. 軽度の紅斑
  3. 皮膚の下の脂肪組織の炎症
    かなり大きく、痛みをともなう結節(触ると抵抗のある固まり)として認められます。
  4. 範囲は広くないものの、大きくなりつつあるディスコイド疹(前述)
  5. ひどい脱毛
    広い範囲での脱毛です。多くの場合、頭皮には、赤くなるなど炎症を起こしている所見が認められます。
  6. 皮膚の下の結節
  7. しもやけのような手足の発疹
    寒さにさらされると、出現する、しもやけのような赤い発疹です。ひどくなるとディスコイド疹のようになることがあります。

カテゴリーC(対症療法):以下の、いずれかを認める場合です。

  1. 爪のまわりの紅斑
  2. 指の腫れ
    関節だけでなく、指全体が、むくんだように腫れることがあります。
  3. 指の皮膚の硬化
    皮膚をつまんでみて、しわがよらないことで判断します。
  4. 皮膚の下のカルシウムの沈着
    皮膚の下に石のように固いものを触れます。一般に痛みなどはありません。
  5. 毛細血管の拡張
    ごく細い血管の拡張で、点状から線状(たいていは数mm以下です)に赤く見えます。
  6. 軽度の脱毛
  7. 軽度の口などの粘膜の傷害

3.脳や神経の病変

この部分の病変については、治療手段を決定するのが困難な場合が多々あります。その理由は、以下の項目にあげる症状が、本当にSLE自体によるものか、それとも、併発する他の病気や、薬の副作用によるものなのかを区別しにくい場合が多いためです。

そのため、カテゴリーAや、カテゴリーBに当てはまる場合でも、対症療法でしばらく様子をみることが、しばしばあります。

カテゴリーA(強い治療):以下の、いずれかが、新たに発症したか、悪くなった場合です。

  1. 意識レベルの低下
    ぼんやりとして、話しかけてもはっきりとした返事が返ってこないような状態をさします。
  2. 精神状態の変化、興奮状態、混乱した状態
    現実と合わないような、妄想、幻覚、支離滅裂な言動、非論理的な考え方、奇妙で融通のきかないふるまいをさします。
  3. けいれん発作(てんかん発作)
    免疫抑制・抗炎症治療に加えて、発作自体に対しては、抗けいれん剤で対処します。
  4. 脳卒中
    SLEによる血管の炎症で、血管が詰まり、脳卒中になった場合をさします。動脈硬化や血栓(血の固まり)などの一般的な原因によるものの場合は、血流改善などの治療を行い、免疫抑制・抗炎症療法はおこないません。

    SLE自体によっておきたのか、動脈硬化などの一般的な原因で起きたのかをはっきりと区別するのは難しいことがしばしばです。
    SLEでは、動脈硬化が、一般の人より起こりやすいといわれています。 また、これもSLEで一般の人より多いのですが、抗リン脂質抗体症候群という病気を合併している人の場合は、血栓(血の固まり)ができやすいので、脳卒中のリスクが高く、抗血小板剤などで治療・予防します。
  5. 無菌性(ばい菌が原因でない)髄膜炎
    脳をおおっている膜(髄膜)の炎症により、強い頭痛、吐き気、嘔吐、高熱などの症状が出ます。SLEによるものでなく、ウイルスによるものもあります。発症にいたる経過や脳脊髄液の検査などで区別していきます。

    また、免疫抑制療法をおこなっているときなどは、ばい菌による髄膜炎も起こります。症状は同様です。
  6. 多発単神経炎(末梢神経の炎症)
    手足のしびれ、痛み、運動障害としてあらわれます。
  7. 上行性脊髄炎・横断性脊髄炎(脊髄の傷害)
    脊髄は、脳と体のほかの部分の神経をつなぐ大事な組織です。ここに炎症が起きて、傷害を受けると、手足が動かなくなり、感覚もおかしくなるなど、重大な障害をひきおこします。
  8. 末梢神経や脳神経(三叉神経や顔面神経など)の傷害
    これについては、さまざまの症状が出ますので、詳細は割愛します。
  9. 舞踏病
    意図せずに、けいれんのような体の動きが起こることをさします。
  10. 小脳の傷害
    めまいや、体のバランスがとれなくなる、細かな作業ができなくなるなどの症状が出ます。項目4と同じく、動脈硬化などの一般的な原因でおきることのほうが頻度は多い病変です。

カテゴリーB(軽い治療):以下の(1)または(2)の場合です。

(1)1から4が、新たに発症したか、悪くなった場合
(2)5から7が、改善するか、同じ程度の状態が続いている場合(新たに発症した時の場合には、カテゴリーAになります)

  1. 頭痛(頭痛薬を使ってもよくならないもの)
    カテゴリーAの項目の病変や、SLE以外の病気によるものを、しっかりと除外する必要があります。
  2. うつ病(心身症的な体の症状をともない、抗うつ薬を使ってもよくならないもの)
    治療をするか、しないかは微妙な判断が必要と思われます。
  3. 良性頭蓋内圧亢進症などの慢性の脳病変
    頭蓋内圧亢進というのは、ひどい頭痛などの症状で現れます。
  4. 眼の奥の網膜の病変
    視力が低下するという症状であらわれます。眼科で、眼底の検査をすることで診断できます。SLEでは、治療の副作用として、白内障や緑内障で視力が低下することがあります。
    病変の種類により、カテゴリーAレベルの治療をすることもあります。
  5. 意識レベルの低下
  6. 精神状態の変化、興奮状態、混乱した状態
  7. けいれん発作(てんかん発作)

カテゴリーC(対症療法):以下の(1)から(3)の場合です。

(1)ときどき起こる偏頭痛のような頭痛
(2)カテゴリーAの4から10が、改善するか、同じ程度の状態が続いている場合
(3)カテゴリーBの1から4が、改善するか、同じ程度の状態が続いている場合

4.筋肉や骨、関節の病変

関節症状はよくみられる症状です。筋肉の炎症は、一般的には軽症のことが多い病変です。

カテゴリーA(強い治療):以下の1項目もしくはそれ以上を認める場合です。

  1. 筋肉の炎症
    血液検査でCPK・CKという項目が上昇することで、判断します。ひどい場合は、階段の上りにくさなどで、筋肉の力が落ちていることを自覚できることもあります。

    CPK・CKの軽度の上昇は、普通の運動などでもおこりますので、あまり神経質になる必要はありません。

    ここでいう筋肉の炎症とは、以下の条件を満たす場合をさします。
    (1)体の3ヶ所以上で、筋肉の力の低下を認める
    (2)筋肉の一部を切り取ってきて、顕微鏡で調べる検査で、炎症の所見を認める
    (3)筋電図という検査で、筋肉の破壊されているパターンが認められる

    冒頭に述べましたように、SLEに合併する筋肉の炎症は、一般的には軽度なものが多いので、ここにあげたような基準を満たす場合は、「多発性筋炎」という他の膠原病とのオーバーラップ(重複)と考えたほうがよいかもしれません。
  2. ひどい関節炎で、動作も不自由になっているもの
    ひどい、というのは、カテゴリーBレベルの治療でよくならないものをさします。

カテゴリーB(軽い治療):以下の、1項目以上を認める場合です。

  1. 関節炎(痛みだけでなく、腫れを認めるもの)
  2. 腱の炎症
    腱とは筋肉と骨をつなぐ紐状の構造物です。炎症が続くと、腱は切れてしまうことがあり、その場合、その部分は動かなくなってしまいます。

カテゴリーC(対症療法):以下の、いずれかを認める場合です。

  1. 関節痛(明らかな腫れを認めない場合)
  2. 筋肉痛
  3. 腱のすべりが悪くなった状態、変形
  4. 骨の壊死
    足のつけ根の部分の大腿骨が傷んでしまうことがあります。とくに、体重をかけたときに、痛みが強くなります。このような症状が出たときには、MRI検査で評価します。
  5. 慢性的な軽度の筋肉の炎症
    軽度とはどのくらいかは難しいところですが、CPK・CKでいえば、正常値の上限の2~3倍程度までが目安と思われます。

5.心臓・肺の病変

心臓の病変は、治療が必要になることは、あまり多くありません。肺の病変も、それほど頻度は多くありませんが、中には重症化するものもあるので注意が必要です。

カテゴリーA(強い治療):以下の(1)または(2)の場合です。

(1)心不全(心臓の血液をまわすポンプとしての役割が十分に果たせなくなった状態)、あるいは心のう水貯留(心臓のまわりに炎症が起きて水がたまった状態で、ここでいうのは心臓が動きにくくなるくらいの大量がたまった場合)、に加えて、以下の2項目の所見を認める

(2)以下のうちの4項目の所見を認める

  1. 肺を覆う胸膜や、心臓を覆う心膜の炎症による痛み
    胸膜の炎症は痛み、とくに息を吸ったり吐いたりするのにともなう痛みとして感じられます。胸のレントゲンをとると、肺の下のほうに水がたまっていることでわかります。水の量が多いときは、寝るときにたまっている側を下にして寝ないと苦しくなるという症状で、気づかれることもあります。

    心膜の炎症も、痛みとして感じられます。胸のレントゲンで、心臓の影が大きくなっていることなどを手がかりに、心臓の超音波エコー検査で診断していきます。
  2. 息切れ
    心臓や肺の働きが悪くなると、体を動かしたあとに息切れがおきるようになります。さらに働きが悪くなると、安静にしているときでも息切れがおこるようになります
  3. 聴診器で心臓が心膜と擦れる音が聴こえる場合
    上で申し上げた、心膜の炎症の初期の段階で認められる所見です。
  4. 胸のレントゲンで、肺の部分の影が広がっていく場合
    SLEで肺のレントゲンの変化が起こる主な原因としては、以下のものがあります。

    (1)間質性肺炎
    肺の壁(肺と血管との間で酸素の受け渡しをする場所)に炎症が起きて、酸素が体内に入らなくなる肺炎です。痰の出ない咳や、酸素不足のための息切れといった症状が出ます。

    (2)肺出血
    肺の壁の血管が炎症を起こして壊れてしまい、肺の壁から出血する病態です。たいていは血の混じった痰がでるために、それと気づかれます。出血した部分では、酸素の受け渡しができなくなってしまいます。
  5. 胸のレントゲンで、心臓の影が大きくなっていく場合
    SLEで心臓の影が大きくなっていくのは、前述しました心膜の炎症のために、心のう水が貯留している場合がほとんどです。

    そのほかには、心臓の逆流を防ぐ弁(大動脈弁など)の異常で、心臓の働きが悪くなり、心臓の影が広がっていくことがあります。
  6. 心電図で、心膜や心臓の筋肉の炎症のパターンを認めた場合
    SLEで心臓の筋肉の炎症を認めることは少なく、10%以下と考えられています。
  7. 脈拍数が100以上になる不整脈
    脈拍が100以上になることは、心臓に異常がなくても起こることがあります。ここでは脈の乱れや心電図での異常をともなって、100以上になることをさします。
  8. 呼吸機能検査で20%以上の悪化
    特に総肺容量(TLC)や、肺拡散能検査(DLco)の項目での悪化をさします。
  9. 肺の組織の一部を切り取って調べる検査で、肺の組織の炎症を認めた場合

カテゴリーB(軽い治療):カテゴリーAの項目のうちで、2項目の所見を認める場合です。


カテゴリーC(対症療法):以下の(1)または(2)を認める場合です。

(1)時々、軽度の胸の痛みを感じる
(2)カテゴリーAの項目のうちで、1項目の所見を認める

6.血管系の炎症による病変

症状の出方はさまざまです。診断が困難なことの多い病態ですが、その一方で、目で見てわかる皮膚表面の病変も多いことに、気づかれると思います。診察のときに、主治医に伝えていただけると、早期の発見につながります。

カテゴリーA(強い治療):以下の、いずれかを認める場合です。

  1. 壊死、潰瘍をおこすような、皮膚のひどい血管炎
    壊死とは、皮膚と皮下の組織が血液不足のために壊れてしまっている状態で、肉眼的には、その部分が炭のように黒く変化してしまっている状態です。
    潰瘍とは、皮膚が、血液不足のために壊れて崩れてしまい、皮下の組織が露出している状態のことをさします。
  2. 血管炎によるお腹の内臓(腸が代表的)の傷害
    たとえば、腸に酸素や栄養分を送っている血管が詰まった場合には、腸が傷ついて、お腹の痛み、下痢、血便などで、発症します。
  3. 血栓(血の固まり)が、血管を詰まらせ、内臓に血が流れなくなって、内臓が傷害される病変が、繰り返して起こる(ただし、脳卒中の場合は除きます)
    症状は、詰まった血管が、どの内臓に酸素や栄養を送っているかによって異なります。

カテゴリーB(軽い治療):以下の、いずれかを認める場合です。

  1. 皮膚の軽い血管炎
    爪の周りの皮膚の血管が拡張して、赤い発疹が出たり、皮膚の血管が切れて紫斑(紫色から茶色の発疹)がでることをさします。
    また、指の血管に炎症を起こして赤く腫れたり、蕁麻疹のときのような赤い発疹が出ることもあります。
  2. 皮膚の表面の、静脈という血管が詰まる病態(表在性静脈炎)
    血管に沿って、紫色から赤紫色に腫れて熱を持った状態をさします。
  3. 血栓(血の固まり)が、血管を詰まらせ、内臓に血が流れなくなって、内臓が傷害される病変が、今回はじめて起こった(ただし、脳卒中の場合は除きます)
    カテゴリーAで、述べましたように、症状はさまざまです。カテゴリーAレベルの治療がなされる場合もあると思われます。

カテゴリーC(対症療法):以下の、いずれかを認める場合です。

  1. レイノー現象
    寒さや、精神的な緊張が引き金となって、指先の血流が悪くなり起こる変化です。血流が悪くなった指先は、まず白色に、ついで紫色になります。典型的な例では、紫色になったあと、赤色になります。
  2. 皮膚の血管が拡張して太くなり、赤紫色の網目状に見える状態(網状皮斑)

7.腎臓の病変

腎臓の病変は、SLEのさまざまな病変の中でも、重要なものです。
BILAGシステムでは、尿の中の蛋白の量(簡易検査法として、試験紙法があります)、血圧、腎臓の機能(血液のクレアチニン値、クレアチニンクリアランス)、尿検査などで、腎臓の病変を評価していきます。
実際には、特に腎臓の病変が新たに発症してきたときには、カテゴリーAの項目5にある、腎生検による腎炎所見が、重視されます。

カテゴリーA(強い治療):以下の項目のうちで、2項目以上の所見を認める(ただし、項目1または4または5が含まれていることが必要です)場合です。

  1. 尿蛋白については以下の(1)から(4)のいずれかの場合です。
    (1)尿に下りる蛋白が、試験紙で2段階以上の増加(例:以前1+なら、現在は3+以上)
    (2)1日の尿蛋白量が、以前0.2g以下であったのが、1g以上に増加
    (3)1日の尿蛋白量が、以前1g以上であった場合では、2倍以上の量に増加した場合
    (4)以前は尿に蛋白は下りていなかったのに、1日の尿蛋白量が1g以上となった場合

    腎臓が傷害されていない正常の場合には、尿にはほとんど蛋白が下りることはありません(1日量で0.3g以下が目安です)。腎臓の傷害の程度に比例するように、尿中の蛋白量は増加します。 外来では、1日蛋白量を測定するのは困難なことが多く、尿中の蛋白の濃度とクレアチニン(後述)の濃度の比で、経過をみることもあります。
  2. 血圧が急に高くなってきている(1ヶ月で170/110mmHg以上に)
    腎臓、特に腎臓の血管や糸球体といわれる部分が傷害されると、血圧が高くなることがあります。
  3. 腎臓の働きについては、血液検査ではクレアチニン値、血液検査と尿検査を組み合わせた指標としてはクレアチニンクリアランスという指標で、測ります。
    以下の(1)から(3)のいずれかの場合です。
    (1)血液中のクレアチニン値が1.3mg/dl以上、かつ、以前に比べて1.3倍以上に上昇
    (2)クレアチニンクリアランスの値が、以前に比べて3分の2以下に低下
    (3)クレアチニンクリアランスが50ml/分を下回る

    クレアチニンという物質は、腎臓の糸球体といわれる部分から、尿に排出されます。腎臓が傷害されて、糸球体の機能が落ちると、クレアチニンは排出されずに、血液の中にたまってきます。つまり、血液検査でのクレアチニン値は上昇します。

    クレアチニンクリアランスとは、クレアチニンの尿への排出量をもとに、腎臓の糸球体の機能の状態を表す検査です。高齢になるとともに減少しますが、正常値は80~100ml/分です。
  4. 尿検査で、白血球の増加(顕微鏡の1視野の内で5個以上)、赤血球の増加(同じく5個以上)、赤血球が固まって円柱状になったものを認める。

    腎臓の糸球体が傷害されると、これらの細胞が尿にもれ出てきます。
    膀胱炎などでも同様の所見を認めることがありますので、注意が必要です。
  5. 腎臓の一部を切り取って、顕微鏡で調べる検査(腎生検)で、現在進行中の腎炎の所見を認める。

カテゴリーB(軽い治療):以下の、いずれかの所見を認める場合です。

  1. 1日の尿蛋白量が0.25gを越える
  2. 尿に蛋白が下りている(試験紙で1+以上)
  3. 血圧については、以下の(1)または(2)の場合です
(1)収縮期の血圧(高いほうの血圧のことです)が以前よりも、30以上上昇
(2)拡張期の血圧(低いほうの血圧のことです)が以前よりも、15以上上昇

特別編:補体、抗DNA抗体、免疫複合体

この、腎臓に関する部分でお気づきになったことはないでしょうか?

BILAGシステムでは、補体(C3、C4、CH50)値、抗DNA抗体値、免疫複合体(C1q、C3d)値の変動は、評価の対象となっていません。これらの検査項目は、SLEの活動性、特にSLEの腎臓病変の活動性を反映するものとして、日常的に測定されています。主治医の先生から、補体値が下がってきているから、あるいは、抗DNA抗体値が上がってきているから注意が必要です、といわれたことのある人もいると思います。

私も、日常的に測定しています。これらの項目を測定する意義については、全世界的に認められています。たとえば、他の代表的なSLEの活動性評価のシステム、SLEDAIやLAIでは、補体値と抗DNA抗体値の変動が、項目の中に含まれています。これは、これらの検査項目が、SLEの臓器傷害のメカニズムで、重要な役割を果たしていると考えられているからです。

その、メカニズム(あくまで仮説ですが)についてご説明します。

  1. 「免疫複合体」(=「異物など」+「抗体」)が、腎臓などの血管の壁に沈着する。
    人間の体の中では、異物などが侵入してくると、「抗体」がそれに結合して、異物の破壊が、よりスムーズに行われるようになっています。この、「抗体と異物などが結合したもの」を、「免疫複合体」とよびます。

    SLEでは、何らかの理由で、「免疫複合体」が増えやすくなっていると考えられています。この、「免疫複合体」は、腎臓など全身の血管の壁に沈着します。
  2. SLEでは「抗DNA抗体を含んだ免疫複合体」ができやすい。
    また、さきほど、異物などに対して「抗体」が結合するとご説明しましたが、SLEでは、異物ではない自分の成分-DNAなど-に対しても「抗体」が作られやすい状況にあります。その代表的なものが、「抗DNA抗体」です。SLEでは「抗DNA抗体を含んだ免疫複合体」ができやすくなっています。
  3. 「抗DNA抗体を含んだ免疫複合体」は、腎臓病変の発症に重要。「補体」の役割。
    腎臓などの血管の壁に沈着する「免疫複合体」の中で、SLEの腎臓病変の原因として特に重要なのは、「抗DNA抗体を含んだ免疫複合体」であると考えられています。
    これらの沈着した「免疫複合体」は、「補体」を活性化したり、他の細胞を活性化します。それらの、活性化により、「免疫複合体」は処分されますが、そのとき、血管の壁も傷ついてしまったり、周辺に線維成分がたまってしまったりなどで、腎臓や、その他の組織は傷害されてしまいます。

    「補体」は活性化すると、分解してしまうので、血液中での量は、減ってしまいます。
いままでのことをまとめると、SLEの病気の勢いが強いときは、これらの検査項目は、以下のように変動するはずです。

「免疫複合体」は、増加します。「抗DNA抗体」も増加します。「補体」は、分解して、減少します。実際に、SLEでは、とくに腎臓病変の場合に、上記のパターンで、検査値が変動することが多いと報告されています。

では、なぜ、BILAGでは、これらの検査項目が、含まれていないのでしょうか?

それは、BILAGが、治療の強さを決定することを目的に作成されているためだと思われます。
補体値、抗DNA抗体値、免疫複合体値は、確かに、病気の勢いを反映することがありますが、反映しないことも、かなりしばしばあります。

ある資料では、SLEが悪くなっている場合でも、補体値が低下するのは、約半数に過ぎないとされています。また、SLEが悪くなっていないのに、補体値が低下する場合が約25%あるとされています。抗DNA抗体値にしても、SLEの腎病変が悪くなっている場合でも、血管の壁への沈着量の増加がはなはだしいと、血液中の抗DNA抗体値が逆に減ってしまう場合もあります。

そのため、これらの検査値の変動だけを見て(たとえば、尿の蛋白量や腎臓の機能の指標はあまり変動していないのに)、治療を強くした場合、早期の治療という良い結果に結びつくこともありますが、不必要な過剰な治療で副作用ばかりがでるという悪い結果に結びつく可能性がかなりあると考えられます。

そのため、上記の諸項目のように、実際に臓器が傷害されているという証拠をつかんだ上で、治療の強さを決定する場合が大半です。(この、補体値・抗DNA抗体値・免疫複合体値の変動をどの程度重視するかについては、意見を異にする医師もいらっしゃると思われます。以前に腎臓の病変があった人の場合、抗DNA抗体値が上昇したときに、自動的にステロイドを増量したほうが、よい結果に結びつくとの報告もないわけではありません。私もまったく無視をしているわけではなく、たとえば、ステロイドを減量する過程で、補体値が連続して低下した場合は、減量を中止したり、ペースを緩やかにしています。また、しばらく安定している患者さんでも、補体値が連続して低下している場合には、特に注意して、診察・検査をおこなっています。)

各論8.白血球、赤血球、血小板に関する病変

これらの変化、特に白血球数の変化はよく見られますが、治療の必要なことは、あまり多くはありません。

以下の項目中にあげられた数字(白血球数など)はひとつの目安であり、個々の患者さんによって、判断は変わってきます。

カテゴリーA(強い治療):以下の、いずれかを認める場合です。

  1. 白血球数が1000以下
    白血球というのは、体に侵入してくる病原菌を排除する細胞です。白血球数が減ると、病原菌に対する抵抗力が落ちます。SLEでは白血球の数が減っても、他の場合に比べて病原菌に対する抵抗力は保たれるといわれていますが、やはり、一定数以下になれば、治療が必要です。
    薬の副作用で、低下することもありますので、原因を調べたうえで治療に入ります。
  2. 血小板数が25000以下
    血小板というのは、出血したときに血を止める役割を果たす細胞です。血小板数が減ると、血が止まりにくくなります。一応、10000から20000あれば、普通の生活で、危険な出血が起こることはないといわれています。

    薬の副作用や、血小板が消費されるような病態(抗リン脂質抗体症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、播種性汎血管内凝固症候群など)で低下することもあり、原因を調べたうえで、治療に入ります。
  3. ヘモグロビン(血色素)値が8以下
    血色素とは、赤血球の中に含まれ、体中に酸素を運んで、必要なエネルギーを生み出すための重要な物質です。これが減ると、体の機能全体が落ちてきてしまいます。

    SLEでは、赤血球の製造能力が低下することや、カテゴリーBの項目4に述べます「溶血」によって、血色素量が低下します。

    血色素値が7以下になると免疫抑制療法をしながら、輸血もおこなうことがあります。

    SLEでは、SLE自体による場合だけでなく、鉄・ビタミンの不足、出血、薬の副作用などさまざまな原因で、血色素が低下することがありますので、原因をしっかり調べてから、治療に入ります。

カテゴリーB(軽い治療):以下の、いずれかを認める場合です。

  1. 白血球数が2500以下
  2. 血小板数が100000以下
  3. ヘモグロビン(血色素)値が11以下
  4. 赤血球が異常に壊れている(溶血といいます)所見を認める場合
    血液中のビリルビンの値の上昇、ハプトグロビン値の低下、網状赤血球(まだ幼い赤血球で、壊れた分を補うために出現してきます)の増加、クームス直接試験の陽性などです。

    SLEで赤血球数・血色素値が低下するのは、赤血球が「抗体」によって壊されるためと考えられています。この抗体を検出するのが、クームス直接試験です。赤血球が壊れると、中味の鉄成分が処理されてビリルビンという物質になります。赤血球が多く壊れるほど、ビリルビンの値は上昇します。

カテゴリーC(治療不要):以下の、いずれかを認める場合です。

  1. 白血球数が4000以下
  2. リンパ球数が1500以下
  3. 血小板数が150000以下
  4. クームス直接試験が陽性だが、赤血球の異常な壊れはない。
    さきほど、SLEでは「抗体」によって、赤血球が壊されていると述べました。しかし、ややこしいことに、「抗体」がクームス直接試験で検出されても、赤血球が壊れていないこともあります。

    赤血球が壊れているかどうかは、先述しましたように、網状赤血球数やビリルビン、そして、ハプトグロビンの値で判断します。
  5. ループスアンチコアグラントが陽性。
    これについては、別の稿で詳しく述べないといけないと思いますが、この検査が陽性の人の一部では、血の固まり(血栓)ができやすく、血管を詰まらせて臓器を傷害することがあります。このような病態を抗リン脂質抗体症候群といいます。

    血栓ができないようにするために、抗血小板剤(バファリンなど)や抗凝固剤(ワーファリン)といわれる薬剤を使用しますが、これらの治療をするのは、すでに血栓が確認されている患者さんの場合であって、ループスアンチコアグラントが陽性というだけでは、これらの治療はおこないません。

    これに関連して、抗カルジオリピン抗体や抗カルジオリピンβ2GP1抗体という検査が陽性になることがあり、これらの抗体が多いときには、以前は免疫抑制療法がおこなわれましたが、副作用のリスクのわりに、血栓の予防効果ははっきりしませんでしたので、現在では、免疫抑制療法はおこなわれていません。

おわりに

SLEの病状を評価するのが、複雑であることがおわかりいただけたでしょうか。できるだけわかりやすく簡単にしようと努めましたが、力およばず、以上のようになってしまいました。

以上に述べた内容は、決して唯一の正しい見解といったものではなく、例外や現実にあわない場合もあります。患者さんの状態を一番よく把握している主治医の判断が、最も尊重されるべきです。それでも、医師がどのような症状や検査をみて診療をおこなっているのか、ということが少しはおわかりいただけたのではないでしょうか。

症状を訴えているのに無視されているという不満や、もらった検査伝票のコピーで異常値があるのに、なぜ、治療内容がかわらないのか、といった不安・不満についてもある程度の答えになっているのではないでしょうか。

本稿が、患者さんと医師とのよりよい関係を構築し、よりよい治療を実現するのにお役に立てれば、幸いに存じます。


※本稿作成に当たっては以下の文献を参考にさせていただきました。

Hay EM, et al. The BILAG index: a reliable and valid instrument for measuring clinical disease activity in systemic lupus erythematosus. QUARTERLY JOURNAL OF MEDICINE, 1993; 86:447-458

Isenberg DA, et al. From BILAG to BLIPS-disease activity assessment in lupus past, present and future. LUPUS, 2000; 9:651-654

Schiffenbauer J, et al. Biomarkers, Surrogate Markers, and Design of Clinical Trials of New Therapies for Systemic Lupus Erythematosus. ARTHRITIS & RHEUMATISM, 2004; 50:2415-2422