全身性エリテマトーデスの治療薬「プラケニルR錠200mg」についてこのページを印刷する - 全身性エリテマトーデスの治療薬「プラケニルR錠200mg」について

はじめに

今回は、全身性エリテマトーデスの治療薬「プラケニル®錠」が普及してきたことを機に、同剤の説明を、全身性エリテマトーデスの治療の基本的な枠組みを踏まえながら、させていただこうと思います。
基本的には、サノフィ株式会社の患者さん向けのリーフレット「プラケニル®錠を服用される患者さんへ」を中心に話をさせていただきますが、ちょくちょく脱線することはいつもの通りです。

全身性エリテマトーデスとは

全身性エリテマトーデスとは、全身倦怠感、発熱、食欲不振、体重減少などの全身症状と、関節、皮膚、内臓(腎臓、肺、心臓、中枢神経)などのいわゆる臓器症状が一度に、あるいは時間の経過とともに起こってくる病気です。
皮膚だけに症状が出る場合は、皮膚エリテマトーデスといわれます。
プラケニル®がよく使われるのは、主に全身症状と関節症状、皮膚症状ですが、それにとどまるものではありません。全身性エリテマトーデスにともなう腎炎、抗リン脂質抗体症候群やその他の血液学病態、全身性エリテマトーデス関連の妊娠合併症などでも有用性が示されています。そのことについては、後で詳しく述べさせていただきます。
全身性エリテマトーデスの原因は、今のところわかっていませんが、自分の体の成分を自分の免疫系のシステムが攻撃してしまう、自己免疫反応という免疫の異常が炎症反応(発赤、腫れ、発熱、痛み)を誘発し、病気の成り立ちに重要な役割を果たしているといわれています。

全身性エリテマトーデスの皮膚症状は

  • 最も特徴的なのは、頬にできる蝶型紅斑です。鼻から両側に向けて、ちょうど蝶が羽をひろげたような形をしている、紅い皮疹です。
  • 表面にかさかさする、白くて薄いかさぶたのような鱗屑をともなう円板状の紅斑も、全身性エリテマトーデスに特徴的で、顔面、耳、首のまわりなどでよく認められます。
  • 日光があたった部分に紅斑、水疱を起こします。発熱をともなうこともあります。
  • 寒冷刺激によって手指がろうそくのように白くなり、冷たくなるレイノー現象や、凍瘡(しもやけ)様の皮疹がでることがあります。

プラケニル®はこんなお薬です

プラケニル®は、マラリアの薬のグループに属します。
第二次世界大戦のとき、地球上のさまざまの地域で戦闘が行われた際に、米軍はマラリアの流行地にも派遣されました。マラリアの発症を予防するために、プラケニル®の先祖ともいうべき、「キナクリン」というマラリアの薬が400万人の米国軍人に投与されました。このときに、キナクリンを服用した軍人では、関節炎や皮膚の炎症が改善することがわかりました。
「キナクリン」は「クロロキン」に改良され、さらに「ヒドロキシクロロキン(プラケニル®)」に改良されています。「ヒドロキシクロロキン」は、「クロロキン」よりも効果は劣りますが、のちほど触れます眼の網膜症の副作用が少ないという点で有用性の高い薬剤です。
このようにして、マラリアの薬「ヒドロキシクロロキン(プラケニル®)」が、全身性エリテマトーデス、皮膚エリテマトーデス、関節リウマチなどの治療薬として用いられるようになったのです(わが国では関節リウマチの保険適応はありません)。

  • プラケニル®は全身性エリテマトーデス、皮膚エリテマトーデスの治療薬として、世界で広く使われているお薬です(70か国以上で承認)。
  • エリテマトーデスの患者さんの皮膚症状の程度や進行、患者さんのQOL(生活の質)の改善が期待されます。
  • 全身性エリテマトーデスの患者さんの全身症状および筋骨格系症状(日常生活活動度、筋肉または関節の痛み)や倦怠感の改善が期待されます。その他の全身性エリテマトーデスの症状の改善も期待されます。

リーフレットを越えて、もう少し詳しくみてみましょう。Nature Review Rheumatologyという雑誌に2012年9月に掲載されたWallace先生たちの総説を参考にします。
そこでは、プラケニル®の作用を、(1)TLRという、細胞内に情報を伝達する分子を介する作用と、(2)TLRを介さない作用とに分けています。

(1)としては、炎症を抑制する作用、とくに全身性エリテマトーデスで起こる炎症に重要な、インターフェロンαの働きを抑制する作用がとりあげられています。
(2)としては、以下の7つの作用がとりあげられています

  1. 紫外線から体を守る
    紫外線がエリテマトーデスを悪化させるのはみなさんご存じのとおりです。
  2. 高コレステロール血症を是正する
  3. 血管が新しくできるのを抑制する
    血管ができるのは結構なことではないかと思われるかもしれませんが、血管の増加は炎症反応を悪化させます。
  4. 血栓ができるのを予防する
    全身性エリテマトーデスの患者さんは、血栓ができやすくなる「抗リン脂質抗体症候群」という病気を合併することがあります。血栓のために、若くして脳梗塞になってしまったりするなど、重篤な病態を呈することがあります。
    この抗リン脂質抗体症候群では、プラケニル®を服用していない患者さんでは血栓症の再発が1.71%みられたのが、プラケニル®を服用していると、1.16%に減少したとの報告があります。
    とくに動脈(血管には動脈と静脈があります)の血栓症では、プラケニル®を服用していないと1.14%であったのに対して、プラケニル®を服用していると0%であったという良好な結果でした(Immunol Res Published online: 13 July 2016)。
  5. 結合組織(関節の組織など)の破壊の進行を抑制する
  6. 炎症反応を抑制する
  7. 全身性エリテマトーデスの病態形成の中心と考えられるBリンパ球の働きを抑制する

実際の臨床の場から、プラケニル®の有用性を示す報告がいくつもでています。
1991年の報告では、プラケニル®を中止してしまうと、全身性エリテマトーデスの再燃のリスクが半年間で2.5倍に上昇することが示されています。なかでも、重篤な再燃のリスクは6.1倍に増加したとされています(N Engl J Med 1991;324:150)。
LUMINAというコホートからは、プラケニル®を服用していると、全身性エリテマトーデスによる新たなダメージを減らすことができると報告されています。もともとのダメージの少ない人ほど、この恩恵が大きいようなので、この論文の筆者らは、プラケニル®を早期から開始したほうがよいのではと考察しています(Arthritis Rheum 2005;52:1473)。
プラケニル®を服用していない人と服用している人とを比較すると、全身性エリテマトーデスの患者さんの死亡率が17%と5%という違いにもなったという報告もあります(Ann Rheum Dis 2007;66:1168)。
GLADELというコホートからは、プラケニル®の服用期間が長い患者さんほど、生存率がよかったという報告が出ています(Arthritis Rheum 2010;62:855)。

さらに、全身性エリテマトーデスの個々の症候へのプラケニル®の影響を、さきほどまでの記述とも重なりますが、あげてみます。

  • 血栓症のリスクを減少させます
  • コレステロールの値が上昇するのを抑制します
  • 血糖の値が上昇するのを抑制します
  • 腎障害を予防します
  • 感染症のリスクを減らします

全身性エリテマトーデスの主要な治療薬は、免疫を抑制するために感染症のリスクを増やしてしまいますが、プラケニル®は嬉しいことにリスクを減らしてくれます。

この他に、証拠としては弱いのですが、以下の効果がいわれています。

  • 消耗による体重の減少を抑制します
  • 動脈硬化の進展を予防します
  • 発癌を抑制します
  • 血小板減少にも有用なことがあるようです

エリテマトーデスの皮膚病変に対する効果にも触れないといけません。
わが国では、皮膚病変の場合は外用剤(塗り薬)が主でした。ステロイド剤が第一選択で、効果は少し落ちますが、副作用が少ないことから、免疫抑制剤タクロリムス(プロトピック®軟膏)が第2選択として用いられています。しかし、これらの外用薬では効果が不十分なことが多く、内服のステロイド剤を使わなければならない場合がしばしばです。
世界では、プラケニル®が、エリテマトーデスの皮膚病変に対する第一選択薬として用いられています。
そして、半数以上の患者さんがプラケニル®によって皮膚病変が改善するともいわれます(Br J Dermatol 1992;127:513)。効果が出てくる時期は、プラケニル®の開始後、4から8週程度といわれていますが、それ以上かかる場合もあります。長い眼でみたほうがよさそうです。

全身性エリテマトーデスの治療の特徴は

全身性エリテマトーデスに関して、T2T(どのように治療目標を設定して治療を行うか)のガイドラインが2014年にヨーロッパリウマチ協会から出されています。まずは、簡単にこのガイドラインをご紹介しましょう。あくまで私の個人的な訳で、正式なものではありません。

基本的な概念は以下の4つです。

  1. 「全身性エリテマトーデスの診療は、患者と医療関係者との合意のもとで行われなければならない」
  2. 「全身性エリテマトーデスの治療は、長期的な生存、臓器障害の予防、健康面において最大限に良好な生活、を目指すものでなければならない。このためには、病気の勢いをコントロールし、障害を最小限のものに食い止め、薬の副作用も最小限のものにとどめる必要がある」
  3. 「全身性エリテマトーデスの診療は、病気のいろいろな側面、症候を考慮することが必要であり、このためには様々な部門の協力が必要なことがある」
  4. 「全身性エリテマトーデスの患者さんは、定期的な診察を受ける必要があり、長期間にわたって状態の把握、治療の調整をしていく必要がある」

さらに推奨文としては以下の11項目があります。
  1. 「全身性エリテマトーデスの治療目標は、全身症状と臓器病変を寛解の状態にすることにある。それが困難な場合は、疾患活動性スコアあるいは臓器障害スコアを最小限のものとすることを目標とする」
  2. 「再燃を防ぐ、とくに重篤な再燃を防ぐことは、全身性エリテマトーデスの診療では現実的に希求すべき目標であり、治療目標として設定しなければならない」
  3. 「症候として安定しているのであれば、免疫学的検査で異常値がでていたとしても、それだけで治療を強化することは推奨しない」
  4. 「ひとたび障害が生じると、それは更なる障害や生命の危険につながるので、障害が生じないようにすることが、全身性エリテマトーデスの治療目標として重要である」
  5. 「病気の活動性をコントロールし、障害が生じないようにするだけではなく、健康面での生活の質に影響する因子、たとえば疲労、痛み、抑うつにも対処すべきである」
  6. 「腎臓の病変に早く気づき、早く治療することが、全身性エリテマトーデスの患者さんには強く推奨される」
  7. 「全身性エリテマトーデスによる腎炎は、寛解導入のための初期治療に続いて、少なくとも3年間にわたって免疫抑制剤による治療を行うことを、将来の状態を最善化するために推奨する」
  8. 「安定期の治療としては、病気の勢いをコントロールするために必要なステロイド剤を最小限にすることが推奨される。可能であれば、ステロイド剤を中止することが望ましい」
  9. 「抗リン脂質抗体症候群に関連した合併症の予防と治療をすることも、全身性エリテマトーデスの治療目標となる。抗リン脂質抗体症候群の治療に関する指針は、原発性の(全身性エリテマトーデスを合併していない)場合と同様である」
  10. 「他の治療手段を使用していても、いなくても、抗マラリア薬を使用することを真剣に考慮すべきである」
  11. 「治療に際しては、免疫抑制療法だけではなく、臓器などの障害に応じた治療手段もあわせて導入すべきである」

それでは、これらの指針に簡単な解説をくわえていきます。あわせて、「プラケニル®による治療は、全身性エリテマトーデスの治療全体にとってどのような意義があるのか」を見ていきましょう。

基本的な概念からいきます。

  1. 「全身性エリテマトーデスの診療は、患者と医療関係者との合意のもとで行われなければならない」
    効果を最大化し、リスクを最小化するうえでも、われわれは診察時間などの制約を乗り越えて、これを実現するように努力していかなければなりません。 プラケニル®による治療も、その効果と安全性を十分に患者さんが理解したうえで開始されます。そもそも、患者さんの理解に役立てるという、この概念に沿う目的のために、このホームページを作成しています。
  2. 「全身性エリテマトーデスの治療は、長期的な生存、臓器障害の予防、健康面において最大限に良好な生活を目指すものでなければならない。このためには、病気の勢いをコントロールし、障害を最小限のものに食い止め、薬の副作用も最小限のものにとどめる必要がある」
    これを実現するためには、知識と経験の習得と、優先度とリスクベネフィットバランスを最適化する臨床判断の実行が必要です。100点満点の解答はない領域です。
  3. 「全身性エリテマトーデスの診療は、病気のいろいろな側面、症候を考慮することが必要であり、このためには様々な部門の協力が必要なことがある」
    全身性エリテマトーデスの複雑な病態は、膠原病内科の医師だけでなく、関係各科の医師、さらにはそれらをとりまく医療関係者を全部含めても、それだけで対応できるとは限りません。さまざまな領域の関係者の協力が必要です。
  4. 「全身性エリテマトーデスの患者さんは、定期的な診察を受ける必要があり、長期間にわたって状態の把握、治療の調整をしていく必要がある」
    大胆に言ってしまうと「悪くなったときに対応するのはもちろんのことだが、悪くならないようにしていくことが必要だ」ということです。我々の知識は未だ半ばのところではありますが、これを目指していることは確かです。

推奨文11項目の解説に移っていきましょう。

  1. 「全身性エリテマトーデスの治療目標は、全身症状と臓器病変を寛解状態にすることにある。それが困難な場合は、疾患活動性スコアあるいは臓器障害スコアを最小限のものとすることを目標とする」
    全身性エリテマトーデスでの「寛解」というのはどういうことでしょうか。これが関節リウマチであれば比較的明解です。「現在と将来の生活に影響しないレベル以下に、関節の炎症が抑えられていること」となります。全身性エリテマトーデスはもっと複雑です。
    さらに脱線しますが、ここで全身性エリテマトーデスの寛解についてご説明します。
    DORISというタスクフォースがまとめた寛解の基準には4種類があります(Ann Rheum Dis 2017;76:547)。

    (1)臨床的寛解
    疾患活動性スコア(cSLEDAI)が0、医師の評価で最悪の状態の5%未満、ステロイド剤投与無し、免疫抑制剤投与なし、抗DNA抗体や補体値の異常はあってもよい
    (2)完全寛解
    疾患活動性スコア(cSLEDAI)が0、医師の評価で最悪の状態の5%未満、ステロイド剤投与無し、免疫抑制剤投与なし、抗DNA抗体や補体値の異常なし
    (3)治療ありの臨床的寛解
    疾患活動性スコア(cSLEDAI)が0、医師の評価で最悪の状態の5%未満、ステロイド剤投与がプレドニゾロン換算で5mg以下、免疫抑制剤投与はあってもよい、抗DNA抗体や補体値の異常はあってもよい
    (4)治療ありの完全寛解
    疾患活動性スコア(cSLEDAI)が0、医師の評価で最悪の状態の5%未満、ステロイド剤投与がプレドニゾロン換算で5mg以下、免疫抑制剤投与はあってもよい、抗DNA抗体や補体値の異常なし

    DORISでは、プラケニル®を免疫抑制剤とはみなしていません。「プラケニル®を使っていても治療無しとみなしてよい」としています。先述しましたように、プラケニル®を中止すると再燃のリスクが高まります。つまり、より理想に近づこうと、プラケニル®を中止してしまうことで、せっかくの寛解状態が維持できなくなってしまうのを懸念しての対応です。
    それだけプラケニル®は重視されているのです。
  2. 「再燃を防ぐ、とくに重篤な再燃を防ぐことは、全身性エリテマトーデスの診療では現実的な目標であり、治療目標として設定しなければならない」
    全身性エリテマトーデスの長期的な経過には、安定期もあれば再燃期もあるなど、非常な個人差があります。64から74%の患者さんが、いったん病勢が落ち着いてからも、何らかのレベルの再燃をきたしてしまうとされています。
    ひとたび再燃をきたすと、長期的にも影響し、患者さんの将来の状態を悪化させてしまうという報告が多数みられます。
    したがって、再燃を予防することが、全身性エリテマトーデスの治療では非常に重要です。
    プラケニル®に再燃予防効果があることについては、これまでに何度も触れましたので、ここでは省略します。
  3. 「症候として安定しているのであれば、免疫学的検査で異常値がでていたとしても、それだけで治療を強化することは推奨しない」
    実際に症候として異常が現れる前に、抗DNA抗体価の上昇や補体値の低下など、血液検査での免疫学的な異常が先行することがあります。このようなときは、慎重なフォローが必要ですが、すぐに治療を強化するのは一般的には過剰な対応だと考えられます。
    ちなみに、プラケニル®は抗DNA抗体価や補体価の改善効果は限定的であるようです。
  4. 「ひとたび障害が生じると、それは更なる障害や生命の危険につながるので、障害が生じないようにすることが、全身性エリテマトーデスの治療目標として重要である」
    ここでいう障害とは、全身性エリテマトーデスの病態そのものからおこる障害、併発症からおこる障害、治療薬の副作用によっておきる障害、いずれのものも意味します。全身を良い状態に保つためには、医療者の努力が重要であることはいうまでもありませんが、患者さんにも病気と治療について十分に理解していただくことが必要です。
    プラケニル®は、全身性エリテマトーデスによる障害を予防し、低減させる効果があります。感染症などの併発症の低減効果もいわれています。プラケニル®はエリテマトーデスの治療薬の中では副作用の少ない薬剤ですが、眼の網膜の障害を起こさないようにするために、定期的な眼科検査が重要です。眼科検査については後で詳しく触れます。
  5. 「病気の活動性をコントロールし、障害が生じないようにするだけではなく、健康面での生活の質に影響する因子、たとえば疲労、痛み、抑うつにも対処すべきである」
    もっともな記述ですが、本ガイドラインでは、具体的にどうするかというところまで踏み込めていません。臨床の現場では、いわゆる対症療法で対応しているのが実際ですが、あまり効果が出ていない場合も多いのではないかと思われます。我々が、疲労や痛み、抑うつの発生メカニズムをよく知らないために、このような状況となっていると考えられます。今後の知見の集積が求められる分野です。また、プラケニル®に期待している分野でもあります。
    プラケニル®には倦怠感を改善させる効果があり、わが国での治験でも確認されています。
  6. 「腎臓の病変に早く気づき、早く治療することが、全身性エリテマトーデスの患者さんには強く推奨される」
    あまり証拠となる臨床試験はないのですが、常識的にいって、早く見つけて早く治療したほうがよいのはおわかりいただけると思います。このためには、定期的な血液検査と尿検査が重要です。
    プラケニル®は腎炎にも効果的な薬剤です。2012年に出された、アメリカリウマチ学会のループス腎炎(全身性エリテマトーデスによる腎炎)のガイドラインをみてみます。
    そこでは、「禁忌(重度の腎障害などでプラケニル®が使えない状態)でないかぎりは、ループス腎炎の患者さんの全員にプラケニル®も投与すべきである」となっています。ステロイドや免疫抑制剤にあわせて、必ずプラケニル®を併用するように推奨しているわけです(プラケニル®単独での腎炎治療を推奨しているわけではないことにご注意ください)。
    プラケニル®は腎炎の再燃を予防する効果もあります。
  7. 「全身性エリテマトーデスによる腎炎は、寛解導入のための初期治療に続いて、少なくとも3年間にわたって免疫抑制剤による治療を行うことを、将来の状態を最善化するために推奨する」
    各種の臨床試験の結果がこの推奨文を根拠づけています。
    この分野において、プラケニル®は免疫抑制剤との併用が推奨されていることは、前の項で述べました。
  8. 「安定期の治療としては、病気の勢いをコントロールするために必要なステロイド剤を最小限にすることが推奨される。可能であれば、ステロイド剤を中止することが望ましい」
    ステロイド剤は、全身性エリテマトーデスの治療の根幹ともいうべき薬剤で、その意義は明らかです。しかしながら、一方では、筋力を落とす、骨を弱くする、心血管に動脈硬化などで悪影響を与える、白内障や緑内障、コレステロール値を増加させる、血圧を上昇させるなど、負の影響も明らかです。
    この推奨文はもっともな内容なのですが、個々の患者さんでどのようにして最小量を設定したらよいのかなど、具体的なところまでには踏み込めていません。
    プラケニル®を併用することは、ステロイドを減量できる可能性を高めます。わが国でのプラケニル®の治験の結果をみますと、1年間でプレドニゾロンの平均服用量が8.0mgから7.0mgに低下しています。
  9. 「抗リン脂質抗体症候群に関連した合併症の予防と治療をすることも、全身性エリテマトーデスの治療目標となる。抗リン脂質抗体症候群の治療に関する指針は、原発性の(全身性エリテマトーデスを合併していない)場合と同様である」
    抗リン脂質抗体症候群というのは、血栓といわれる血の固まりができやすい状態になる病気です。血管(動脈にも静脈にも)に血栓ができ、詰まると、臓器への血流がいかなくなりますので維持や機能の発揮に必要なエネルギーが確保できなくなりますので、梗塞という臓器の破壊が起きてしまいます。脳梗塞がその代表的なものです。
    また、抗リン脂質抗体症候群は流産のリスクが高まることでも知られています。
    全身性エリテマトーデスの患者さんの16%くらいに抗リン脂質抗体症候群が合併するといわれています。
    プラケニル®は血栓症のリスクを減少させます。実際に、抗リン脂質抗体症候群では、抗血小板薬とならんで、プラケニル®が治療に用いられます(わが国では保険適応外です)。
  10. 「他の治療手段を使用していても、いなくても、抗マラリア薬を使用することを真剣に考慮すべきである」
    プラケニル®による治療がいかに重視されているかが伝わってきます。
    このガイドラインが触れているプラケニル®の利点は以下の点です。

    • 再燃リスクを0.43倍に低下させる
    • 皮膚症状を改善させる
    • 臓器障害を0.55倍に予防する
    • 生命の危険性を0.14-0.62倍に低下させる

    ここで、他の治療手段を併用していない場合、いわゆるプラケニル®単独での治療適応に触れておきます。
    欧州リウマチ協会の2008年の推奨では、「重大な臓器障害を併発しない全身性エリテマトーデスの治療において、プラケニル®はステロイド、非ステロイド性消炎鎮痛剤とともに有用であり、使用されうる」とされています。Harrisonという米国の、いや世界の代表的な内科学の教科書でも、同様の記載がなされています。
    プラケニル®の単独治療は、重大な臓器障害を併発していない、皮膚や関節の症状などの患者さんが主となります(それでも、全身性エリテマトーデスの患者さんの約3分の1はこの状態であるという意見もあります)。重要な臓器の病変の場合は、他の免疫抑制剤などとの併用で使用されることを念押ししておきます。
  11. 「治療に際しては、免疫抑制療法だけではなく、臓器などの障害に応じた治療手段もあわせて導入すべきである」
    状況に応じて、血管を守るための降圧薬や高脂血症の薬、血栓症の予防/治療のための抗血小板薬/抗凝固薬、感染症のリスクを減らすための予防接種、骨を守るための薬などを使うことが推奨されています。あわせて、このガイドラインでは民間療法や代替療法を利用することは意味がないとされています。
    プラケニル®は、コレステロールの値を下げ、血糖値を下げ、血栓症のリスクを低減し、感染リスクも低減するなど、この領域においても有用な薬剤です。
    全身性エリテマトーデスの患者さんは、年齢が若くても動脈硬化による心血管イベント(脳梗塞や心筋梗塞など)が起こりやすいことが知られています。抗血小板薬とプラケニル®を併用していると、抗血小板薬単独、あるいはプラケニル®単独の場合よりも、心血管イベントが少なくなることが報告されています(J Rheumatol 2017;44:1032)

ずいぶんと脱線してしまいました。リーフレットにもどりましょう。ここから後は、安全性を確保するためのお話になります。

プラケニル®を服用する量は患者さんによって違います

プラケニル®の服用中に、まれではありますが、網膜症が起こる可能性があるので、指示された量を正しく服用することがとても大切です。
身長から推定する理想体重に従って用量が決まりますが、女性と男性では用量が異なります。
女性の場合は、身長が136cmから154cm未満までは1日1回1錠で、154cm以上173cm未満では1日1回1錠と2錠を1日おき、173cm以上では1日1回2錠となります。
男性の場合は、身長が134cmから151cm未満までは1日1回1錠で、151cm以上169cm未満では1日1回1錠と2錠を1日おき、169cm以上では1日1回2錠となります。
これはあくまで目安であって、腎臓や肝臓の働きなど、個々の患者さんの状態によって、プラケニル®の用量は調整されます。
プラケニル®は、腎臓から排泄される薬剤ですので、腎機能が低下している患者さんの場合は、推奨量より減量したり、あるいは、残念なことですが、使用をあきらめなければならないこともあります。
治療は何よりも安全に行なわれなくてはいけません。そのために、比較的少ない使用量が好まれることがあります。プラケニル®も例外ではありません。理想体重が比較的多い人でも、1日量200mgが用いられることも多いようです。
しかし、経験的にいいますと、1日量200mgで効果が全く認められなくても、推奨使用量に増量すると著効する場合があります。ある程度の量は必要なようです。
このことから、私は、最初の2~6週間は1日量200mgで開始し、副作用がないことを確認した上で、推奨使用量の200mg/400mg交互あるいは1日量400mgへ増量していくという投与方法をとっています。

プラケニル®服用中に注意していただきたいこと

網膜症

抗マラリア薬は、眼の網膜を傷害することがあるという欠点があります。この欠点を克服するために、プラケニル®の構造は改良されていますが、リスクがまったくなくなったわけではありません。
網膜症は、まれではあるものの、プラケニル®の服用中に起こることがあり、また長期の服用によってリスクが増大する恐れがあります。
網膜症が進行すると、標的黄斑症という障害が現れます。障害に気づかず、進行してしまうと、プラケニル®の服用を中止しても視力の障害が進行する可能性があります。ひいては、失明に至る危険性がありますので、定期的な眼科検査が必要です。
ガイドラインに従って、定期的な眼科検査を受けていれば、失明することはまずないとされています。眼科検査につきましては、別の項に記載させていただいています。

薬疹・皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)

わが国で、治験を受けた101人の患者さんのうち1人で、重篤な薬疹がでています。いつもと違った皮膚症状がでたときは、医療機関を受診してください。

プラケニル®の服用をうっかり忘れてしまった場合

2日分まとめて服用しないでください。翌日から、通常の量で服薬してください。
1錠と2錠を1日おきに服用されている患者さんが次に服用する際は、服用し忘れた日の分量を服用してください。

定期的な(少なくとも年に1回)眼科検査を

網膜症を早期発見し、障害を最小限にするために眼科検査が重要です。 初期の網膜症は自覚症状がないことが多いので、視力検査、細隙灯顕微鏡検査、眼圧検査、眼底検査、視野検査、色覚検査、光干渉断層計検査(OCT)などの眼科検査を定期的に(少なくとも年に1回)行うことが必要です。
異常がみつかったときは、ただちにプラケニル®を中止して、網膜症の進行を防ぎます。

以下の条件をみたす患者さんはさらに頻回に(半年に1回がめやすです)眼科検査を受けていただく場合があります。

  • 長期にプラケニル®を服用している患者さん
    何をもって「長期」とするかは議論がありますが、たとえば、1日200mgを服用している人であれば3年を超えたらとする意見もあります(日本眼科学会:ヒドロキシクロロキン適正使用のための手引き)。先行してプラケニル®を使用している米国の推奨はもっと緩やかで、「服用開始5年を超えてから年1回の眼科検査」を勧めています。このあたりは国民性の違いもありそうです。
  • 肝臓や腎臓の機能が低下している患者さん
  • 視力障害がある患者さん
  • 高齢の患者さん
  • その他、医師から頻回の検査が必要といわれた患者さん

その他、服用中に注意していただきたいこと

低血糖症状

低血糖とは血糖が低くなりすぎた状態です。
生あくび、吐き気、頭痛が起こり、ひどいときには意識がもうろうとして昏睡に至ることがあります。
このような場合は、糖分(ブドウ糖、角砂糖、シュガーレスでないアメ・ジュースなど)を服用してください。
糖分をとっても症状がおさまらない場合は、すぐに医療機関に連絡してください。

妊娠と授乳の問題

全身性エリテマトーデスは、妊娠適齢期の世代にも発症する病気です。
プラケニル®の添付文書をみますと、妊婦または妊娠している可能性のある婦人は「慎重投与」となっています。けっして「禁忌」ではありません。有用性があると考えられる場合は妊娠中も継続可能な薬剤です。
海外でも、催奇形性はとくにないということになっています(たとえば、Arthritis Rheum 2006;54:3640)。この報告では、むしろ、プラケニル®を中止した患者さんで、全身性エリテマトーデスの活動性が妊娠中に増悪したこと、とくに関節痛と倦怠感が多かったことが指摘されています。
また、プラケニル®は新生児のエリテマトーデス(心臓の伝導障害など)のリスクを下げるのではないかともいわれていますが、まだ検証が必要です。
この問題は重大な問題であり、100%ということはいえない領域ですので、個々の判断に従うべきです。ただし、一般的には継続されることが多いようです。
授乳に関しては、治療中の成人でkg体重あたり6.5mgという濃度であるのに対して、授乳中のお子さんではkg体重あたり0.06から0.20mgですので、不利な作用を起こすことはないと考えられます(Autoimmune Rev 2005;4:111)。ただし、わが国の添付文書からは授乳を避けたほうがよいかもしれません。これはあくまで司法上の考慮であって、医学的な考慮ではありませんが。

さらに拡がる可能性

プラケニル®の有用性は、全身性エリテマトーデスのみにとどまるものではありません。
全身性エリテマトーデスに近い疾患から挙げますと、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、さらには、少し離れて、関節リウマチについても、その有用性が期待されています。
医療者として、われわれは安全にこの薬を使用し、さらに多くの患者さんのウェルネスのために貢献できることを願っています。
国立病院機構宇多野病院  統括診療部長  柳田 英寿