アクテムラ点滴静注用このページを印刷する - アクテムラ点滴静注用

現在、関節リウマチの治療は大きな変革期にあります。
より効果の高い「生物学的製剤」の出現により、痛みの抑制だけでなく、関節破壊の防止、さらには生命予後の改善が期待できる状況となってきています。

関節リウマチ患者さんの関節の中では、さまざまの細胞が活性化しています。この、活性化によって、関節が破壊されていきます。

従来から、これらの細胞の活性化を抑える療法が検討されてきました。
その代表的なものが、ステロイド・抗リウマチ薬・免疫抑制剤です。しかし、これらの薬剤では十分に効果の得られない患者さんも多く、治療法の進歩が期待されてきました。

そこに登場してきたのが「生物学的製剤」といわれる薬剤です。特定の物質を標的として、強力に関節リウマチを抑え込むのが特徴です。
わが国で最初に市販された「生物学的製剤」はレミケード(一般名:インフリキシマブ)で、2005年3月にエンブレル(一般名:エタネルセプト)がこれに続きました。この二つの薬剤の導入は、関節リウマチ治療に大きな変貌をもたらしました。その効果を実感している患者さんが多数いらっしゃいます。国内のリウマチ患者さんの約10%がいずれかの薬剤を使用されていると考えられています。

レミケードとエンブレルは、TNFαという物質を阻害することにより治療効果を発揮します。TNFαという物質は、関節リウマチの病像形成に大きな比重を占めています。しかし、この他にも、重要な物質はたくさんあります。その代表的なものがインターロイキン6(IL-6)です。

「アクテムラ(一般名:トシリズマブ)」はこのIL-6を阻害して関節リウマチを抑える、全く新しい作用の「生物学的製剤」です。
作用機序が異なるということは、より効果が高い、あるいは、従来の生物学的製剤では効果不十分もしくは副作用で使用困難であった患者さんにも有効である可能性があります。

「アクテムラ」は、大阪大学のグループにより開発された「日本発」の生物学的製剤です。すでにキャッスルマン病という疾患では2005年4月にわが国で市販承認がおりています。関節リウマチに関しては、これまでに国内外でいくつもの治験が積み重ねられてきました。そして2008年4月、世界に先駆けて日本で関節リウマチ治療に市販承認され、一般の患者さんが利用できるようになりました。

基本的には安全な薬剤ですが、場合によっては、重症の副作用をおこすこともあります。
本稿では「アクテムラ」を安全に使用する上で注意すべき点についてご説明していきます。

効能・効果

関節リウマチならびに若年性関節リウマチの患者さんで、従来の治療で効果が不十分な場合に限られます(本稿では、関節リウマチの場合を中心に説明させていただきます)。

国内での治験の結果

従来の抗リウマチ薬の中で最も強力な薬剤はメトトレキサート(MTX)です。
このMTXを使っても効果が不十分な患者さんに、アクテムラを使用したところ、24週間後には、49.2%もの方が、リウマチの活動性が半分以下になりました。
さらに43.1%もの方が、DAS28という活動性の指標で「寛解:活動性最小-痛みや腫れがほとんどない状態」になりました(国内第III相試験)。

関節が破壊されるのを防止する効果も確認されています。
これは、従来の治療薬(MTX以外も含む)との比較です。シャープスコアという指標でみています(Ann Rheum Dis 2007;66: 1162-7)。
52週が経過した時点で、従来治療群では平均6.1スコア進行しましたが、「アクテムラ」を使用した群では2.3スコアにまで抑えられました。

注意

この薬剤は、原則としては、すでに破壊されてしまった関節組織(軟骨・骨など)を再生するものではありません。
また、あくまで進行を遅らせるための薬剤であって、完治させるものではありません。

用法・用量

  • 4週間に1回、点滴静注で使用します。
    点滴する量は、Kg体重あたり8mgです(体重50kgの人なら400mgになります)。
    点滴に要する時間は約1時間、さらに1時間以上の観察が推奨されています。
  • アクテムラは、基本的には単独で使用することが推奨されています。
    メトトレキサート(MTX:商品名リウマトレックス、メソトレキセートなど)などの抗リウマチ薬を服用していなくても、使用できます。
  • 注意:
    炎症を抑制する効果の面からしますと、アクテムラを単独で使用するよりも、MTXと併用したほうが、効果が高いことが示されています(Arthritis Rheum 2006;54: 2817-29)。
    ただし、併用した場合に肝臓への影響が増加することがあります。
    このStudyでは、MTXとアクテムラを併用した151人のうちで、肝臓の検査項目GPT値が100を超えたためにStudyを中止した方が5人いました。アクテムラ単独の159人のうちでは、中止した方はいませんでした。(実際の診療では、併用で肝臓の検査値が悪化したら、併用薬を中止、GPT値の改善を確認して、アクテムラ投与ということになるでしょう)
  • 現在服用している薬を継続するかについては、個々のケースで異なりますが、上記のように、肝臓の値の推移には、十分注意する必要があります。
    また、免疫抑制剤を服用している場合には、減量・中止をする場合があります。これは、感染症のリスクを軽減するためです。

自己負担額

体重によって使用量が異なりますので、費用も変わってきます。
2008年4月現在では、3割負担の方で、注射1回あたりの費用は以下のようになります。

50Kg以下  約36,000円 (年間約432,000円)
50~75Kg  約54,000円 (年間約644,000円)
75kg以上  約72,000円 (年間約862,000円)

(各種制度の適用がある場合には、これよりも自己負担が軽減することがあります)

禁忌

次の条件にあてはまる人には、アクテムラは使用できません。

  1. 重症の感染症にかかっている人(病状が悪化します。)
  2. 以前にアクテムラを使用したときに、強いアレルギー反応を起こしたことのある方

慎重投与

以下の条件にあてはまる方には、アクテムラの使用に当たっては、リスクを慎重に評価する必要があります。

  1. 重度ではないが感染症を合併している方、または感染症が疑われる方(病状が悪化します)
  2. 以前に結核にかかったことがある方(結核が再燃する危険性があります)
    確言できませんが、結核に関してはTNFを阻害する薬剤よりはリスクは少ないかもしれません。しかし、現時点では注意が必要です。
  3. 感染症にかかりやすい方
    レミケードやエンブレルの経験からは、
    (1)高齢(65歳以上)、
    (2)もともと肺の病気のある方、
    (3)糖尿病の方、
    (4)ステロイド剤を併用している方、
    (5)腎臓の機能の悪い方
    などが感染症にかかりやすいということが知られています。アクテムラに関しても同様と思われますが、まだ確言できません。
  4. 腸に憩室という病変のある方
    憩室とは腸の壁が落ち込んでポケット状になったものをいいます。こういうところで感染症がおきますと、流れていきにくいので、憩室炎という炎症を起こすことがあります。
    現在までに国内外4900人中6人(0.12%、国内では1人)に、憩室の炎症の重症化によって腸に穴があき腹膜炎をおこすという事例がありました。
    いままでに憩室の炎症があった方や、憩室のあることがわかっている方の場合には、腹痛などの症状に注意しながら使用する必要があります。
    憩室は、腸のバリウムの検査でわかりますので、ご希望の方には検査を行います。

使用にあたっての注意

  1. アクテムラを使用中に、重症のアレルギー反応が起きることがあります。
    使用中に、息が苦しくなったり、血圧が下がったりする(アナフィラキシーといいます)可能性があります。この反応の発生率は、783例中3例(0.4%)という低いものでしたが、薬のアレルギーを起こしやすい人などでは注意が必要です。
    上記の反応が発生したときには、アクテムラの点滴を中止し、速やかにボスミンという薬や、ステロイド剤などを使用して、改善をはかります。
  2. 1)のように重症ではありませんが、発疹、発熱、吐き気などのアレルギー反応が、使用中・使用当日に起きることがあります
    国内外の治験では3.5~10%の頻度で報告されています。症状に応じて対応をとります。
  3. 感染症にかかっている患者さんに使用すると、感染症が悪化することがあります。
    アクテムラが阻害するIL-6は、感染症に対する防御の面でも重要な役割を持っています。そのため、アクテムラを使用すると、感染症への防御が弱くなる可能性があります。
    特に、肺炎などを確認するために、定期的にレントゲンの評価を行うことが推奨されています。さらに、次の項目で述べるように、感染症にかかっていても検査でわかりにくくなることがあるので、いつもと違った症状のあるときには、躊躇なく主治医に伝え、患者と医師とが協力しあって感染症の早期発見に努めることが必要です。
    感染症が確認されたら、治るまではアクテムラの使用を延期します。
    また、感染防御に重要であるリンパ球が少ない方(500/μL以下)には使用を控えます。
  4. 感染症にかかっていても、血液検査などでの変化が現れにくく、診断が困難なことがあります。
    血液検査の各種項目(白血球数の変動が重要です)や症状、レントゲン・CTなどの画像所見を総合的に判断して、感染症の有無を評価していく必要があります。
  5. 結核にかかったことのある方の場合、結核が再燃する可能性があります。
    アクテムラが阻害するIL-6は、結核に対する防御の点では、TNFほど重要な物質ではありません。したがって、結核に関してはTNFを阻害するレミケードやエンブレルよりはリスクは少ないかもしれません。しかし、現時点ではこれらの薬剤と同等の注意をはらっていくことが推奨されています。
  6. アクテムラ使用中は、生ワクチン接種は行いません。
    よく行われるインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンは、生ワクチンではありません。これらのワクチンを接種することは、感染症予防のためにも推奨されます。
  7. 胸膜炎(肺の表面を覆う膜の炎症で、胸に水が貯まってきます)が起きることがあります(0.6%)。
    胸膜炎は、感染症、関節リウマチそのもの、薬剤などで起きることがあります。したがって、この胸膜炎がアクテムラにどこまで関連したものなのかは不明です。胸膜炎はレントゲンを撮れば、わかります。
  8. コレステロール値、中性脂肪値、LDLコレステロール値(下品な語感の言葉ですが、いわゆる悪玉コレステロール)などの脂質の検査値増加が起きることがあります。
    アクテムラ開始後3ヶ月くらいで増加傾向は頭打ちとなることが知られています。
    血液検査で評価し、必要な場合には、コレステロール値を下げる薬剤を使用します。
  9. 肝臓に障害を起こす可能性のある薬と併用したり、もともと肝臓の病気のある方に使用した場合には、肝臓の障害が起こる可能性があります。
    定期的に肝臓の血液検査を行い、経過によっては、併用薬やアクテムラを中止する必要があります。
  10. 心臓に障害が起こる可能性があります。
    601人中5人(0.8%:急性心筋梗塞、狭心症、動悸、心室性不整脈、急性冠症候群各1例)に心臓の障害が報告されています。もともと、心臓の病気のある方の場合には、アクテムラ使用前に評価を行い、使用する場合には、定期的に心電図などの検査を行うことが推奨されています。

使用前の診察

結核のチェック

問診

療養所に長期間入院し、化学療法を受けたことはありませんか?
家族に結核を患った人はいらっしゃいませんか?
結核を患った人との接触はありませんか?
以前におこなったツベルクリン検査の結果はいかがでしたか?
BCGを接種したことはありますか?
10~20歳で肺炎が長引いた、もしくは咳・痰が治らなかった経験はありませんか?
過去に熱が出たことがあり、薬ですぐに治らなかったことはありませんか?
肺浸潤と診断されたことはありませんか?

画像検査とその他

胸部レントゲン検査
胸部CT検査
ツベルクリン反応
クオンティフェロン(ツベルクリン反応を補完する目的で、必要に応じて行います)

結核に関する当院での方針

結核以外の感染症や、感染症以外の肺の合併症の評価の必要がありますので、アクテムラ使用前に、胸部単純レントゲンと胸部CTは、全員に行います。

  1. 年齢に関わらず、現在活動性の結核感染を示唆する所見のある場合アクテムラは使用しません。
  2. 年齢に関わらず、過去の結核感染を示唆するレントゲン・CT所見のある場合アクテムラを使用しないこともあります。
    アクテムラ使用に対するご本人の希望と全身状態を勘案して、抗結核剤の予防投与(イソニアジドをKg体重あたり5mg、1日最大300mg、9~12ヶ月)をしながら、アクテムラを使用します。
  3. 60歳以下、ツベルクリン反応陰性
    アクテムラを使用します。
  4. 60歳以下、ツベルクリン反応陽性
    結核発症のリスクがあることを十分に考えていただいた上で、アクテムラを使用します。
    抗結核剤の予防投与をおこないます。
  5. 60歳以上、ツベルクリン反応陰性
    アクテムラを使用します。
  6. 60歳以上、ツベルクリン反応陽性
    開始前のCTで問題がなくても、適宜CT検査をおこないます。
    結核発症のリスクが高いことを十分に考えていただいた上で、アクテムラを使用します。
    抗結核剤の予防投与をおこないます。
  7. 結核患者との接触があった場合
    アクテムラの中止、あるいは抗結核剤の予防投与をおこないます。

その他の感染症のチェック

リンパ球数
β-Dグルカン値(真菌=カビによる感染症を検出する項目です)
KL-6値(ニューモシスチスなどの一部の肺の感染症を検出する項目です)
B型肝炎の抗体価
C型肝炎の抗体価
検尿

心機能のチェック

問診:日常の動作で動悸・息切れ・胸の痛みがでることはありませんか?
心電図
心臓超音波検査(必要に応じて)

アレルギー症状のチェック

薬などで皮膚のかゆみや発疹がでたことはありませんか

副作用

一般的な副作用(国内臨床試験783例での結果)

鼻咽頭炎(風邪)(53.8%)、コレステロール値上昇(37.3%)、LDLコレステロール増加(18.9%)、中性脂肪増加(16.1%)、GPT(肝臓の血液検査)値上昇(15.2%)、血液検査での肝酵素値上昇(6.2%)(15.2%)など。

安全性に関してのイメージをつかんでいただくために、アクテムラの副作用による中止率を、いくつかお示ししようと思います。
Nishimotoらの試験での、1年間の副作用によるアクテムラ中止率は、10.8%(17/158)
(Ann Rheum Dis 2007;66: 1162-7)

Smolenらの試験での、半年間の副作用によるアクテムラ中止率は、6.0%(12/205) (Lancet 2008;371: 987-97)

これらの数字は、レミケードやエンブレルの場合と同等であり、アクテムラがそれほど危険な薬剤ではないことを示しています。

重大な副作用とその対策

  1. 重篤なアレルギー
    使用中に、息が苦しくなったり、血圧が下がったりする(アナフィラキシーといいます)可能性があります。
    対策については、使用にあたっての注意のところで述べました。
  2. 感染症
    肺炎(7.8%)、帯状疱疹(いわゆるヘルペス:6.4%)、感染性胃腸炎(3.4%)、蜂巣炎(皮下の炎症で、赤く腫れて痛みを伴います:3.3%)、感染性関節炎(0.9%)、敗血症(0.4%)、非結核性抗酸菌症(0.4%)、結核(0.3%)、ニューモシスチス肺炎(0.3%)など。
    対策については、使用にあたっての注意のところで述べました。
  3. 腸管穿孔(重度の炎症の結果、腸に穴が開くこと)
    国内外の4900人において、腸管穿孔が8人(国内で4人)、そのうち、憩室穿孔が6人(国内で1人)認めました。
    これについても、慎重投与のところで述べました。
    腹痛がある場合には、腹部レントゲン、腹部CTなどの検査を行うことが推奨されています。
  4. 好中球(白血球の一部)数の減少
    重度の減少はまれで、通常はアクテムラを中止する必要はありません。好中球が血管の中から組織へと移動するためと考えられています。
  5. 心不全
    これについての説明や対策についても、使用にあたっての注意のところで述べました。

使用中の注意

次のような症状が現れたときは、速やかに主治医に連絡をとってください。

発熱・悪寒・発汗
体のだるさ・疲労感
鼻水
のどの痛み
咳・痰
息切れ
腹痛・下痢
頻尿・残尿感
皮膚のかゆみ・発疹

※本稿作成にあたっては、中外製薬株式会社提供のインタビューフォーム、適正使用ガイド、新医薬品の「使用上の注意」の解説を参考にさせていただきました。