関節リウマチ・膠原病の治療薬メトトレキサートこのページを印刷する - 関節リウマチ・膠原病の治療薬メトトレキサート

はじめに

「リウマトレックス」と「メソトレキセート」は、どちらもメトトレキサートという薬剤の商品名です。ただし、含まれている薬剤の量と、保険適応となる疾患が異なります。

本稿では、メトトレキサートという呼び方でまとめて、ご説明をさせていただきます。

メトトレキサートは関節リウマチ治療のスタンダード

メトトレキサートは、現在、関節リウマチの治療の中心として位置付けられています。
米国では、関節リウマチと診断された場合に、第1選択として使用することが推奨されています。このように積極的にメトトレキサートが使用されるのは、理由があります。

  1. 関節の炎症(痛み・腫れ)を抑える効果が高い
  2. 関節が壊れていくのを、防ぐ効果がある
  3. 長期にわたって使用していても、効果が鈍くなってくることが、他の薬より少ない
  4. 効果が鈍くなった場合でも、量を増やせば、もとどおりの効果が得られることが多い
  5. 以上のような利点がある割には、重大な副作用が起こることが少ない数々の比較試験の結果をみても、メトトレキサートの効果をしのぐ薬剤は、既存の(生物学的製剤を除く)抗リウマチ薬のなかにはありません。メトトレキサートはリウマチ治療のスタンダードとなっています。新たなリウマチの治療は、メトトレキサートに比べてどうか、で評価されます。

生物学的製剤とメトトレキサート

生物学的製剤の登場後も、メトトレキサートの有用性は色あせていません(生物学的製剤とはレミケードなどを指します。レミケードについては、このホームページの他稿をご参照下さい)。

レミケードの場合は、その効果を維持し、かつ高めるためにメトトレキサートの併用が義務づけられています。また、その他の生物製剤でも、メトトレキサートと併用することで、よりよい効果が得られることが報告されています。

関節リウマチ以外の疾患での効果(これらの病気に対しては、保険適応外です)

メトトレキサートが効果を発揮するのは、関節リウマチだけではありません。多発性筋炎・皮膚筋炎、全身性エリテマトーデス(おもに皮膚・関節病変に対して)、リウマチ性多発筋痛症、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、若年性関節リウマチ、サルコイドーシス(肺病変にも、肺以外の病変にも)、などにも効果があります。

メトトレキサートを使用するに当たっての注意点

もちろん、いいことばかりではありません。

  1. 他の抗リウマチ薬より有効もしくは同等といっても、4割程度の患者さんには効果がない。
  2. 効果が出るのが、他のリウマチ薬より早いとはいっても、4週間程度はかかる(この間は他の手段で、痛みを和らげなければならない)。
  3. 副作用のうちで、骨髄抑制(血液中の白血球、赤血球、血小板が減ってしまうこと)や間質性肺炎(肺の壁の部分が線維成分で置き換わり、酸素が通らなくなる肺炎)は、重症化することがある。
  4. ご高齢の方や、腎臓の働きの弱っている人には使いにくい(副作用の危険性が高まる)。

メトトレキサート使用時の注意すべき徴候

副作用については、後ほど詳しくふれますが、次のような症状がでたときには、メトトレキサートの服用を中止して、速やかに主治医に連絡を取り、指示に従ってください。

  1. 発熱
  2. 咳(特に痰をともなわない咳)、息切れ、呼吸困難などの呼吸器症状
  3. 口内炎
  4. 体のだるさ、眠気

効能・効果

以下では、このメトトレキサートを安全に、かつ効果的に使用するための注意点につき、ご説明していきます。

関節リウマチに使用されます(保険適応はリウマトレックスのみ)。2番手以降の薬剤として使われることが多かったのですが、現在では、高い効果の期待できるメトトレキサートを最初から使って、早い段階で病気の勢いを止めよう、という治療方針が広まってきています。

それでも、治療効果が現れてくるのは、使用開始後4週間から8週間くらいになります。服用を開始したらすぐに効果が実感できるというものではありません。1年間の使用で、患者さんの約60%で、関節の腫れや痛みが和らぎ、運動機能が改善したという報告があります。また、関節破壊の進行を遅らせる効果も確認されています。

用法・用量

通常の使い方

通常成人の場合、1週間に4~8mgを服用します。リウマトレックスで2~4カプセルになります。一般的には、2~3回に分けて、半日ごとに、食後服用します。具体的な服用方法については、医師・薬剤師の指示に従ってください。

関節リウマチ以外の膠原病に使用される場合も、原則として服用方法は同じです。

導入の仕方

1週間に4~6mgの量から開始して、効果や副作用をみながら、2~8週ごとに適当量まで増量していきます。少なめの量から始めたほうが、副作用が少ないといわれています。

葉酸補充

一部の副作用を予防・軽減する目的で葉酸製剤「フォリアミン」、または、活性型葉酸製剤「ロイコボリン」を追加することがあります。当院では、原則としてフォリアミン錠1錠を、リウマトレックスの最終服薬の24時間後、もしくは48時間後に服用していただいています。具体的な服用方法については、医師・薬剤師の指示に従ってください。葉酸製剤の補充によって予防・軽減できる副作用には以下のようなものがあります。

  1. 口内炎
  2. 腹痛などの消化器症状
  3. 骨髄抑制
  4. 肝臓障害

用量をめぐる問題点

さきほど、用量は1週間に4~8mgと申し上げましたが、実際には、この量では十分に病気の勢いを抑えられないことがあります。体格の違いなどで単純比較はできませんが、欧米では1週間に7.5~25mgが使用されています。

メトトレキサートは、用量が増えるほど、効果も強くなります。また、効きがにぶくなってきた場合には、増量によって、再び有効になることがあります。これらの理由により、副作用に留意した上で、8mgを越えた量が使われることがあります。

使用上の注意と副作用

禁忌:次のような人には、メトトレキサートは使用できません

  1. 妊婦もしくは、妊娠している可能性のある人、授乳中の人
    胎児の形成障害を誘発する可能性があるので、妊娠時には使用できません。また、母乳の中にも移行しますので、授乳中の人にも使用できません。
  2. 以前にメトトレキサートを使ったときに、アレルギー症状がでたことがある人
    再びメトトレキサートを開始した場合には、同等あるいはより強い、アレルギー症状が出る可能性があります。
  3. 白血球や赤血球、血小板の数が、通常より少なく、これらを作る骨髄の働きが弱っていると考えられる人
    メトトレキサートは、骨髄の働きを、さらに弱らせてしまう可能性があります。
  4. 肝臓に慢性の病気がある人
    メトトレキサートによる肝臓への傷害が、起こりやすくなることが知られています。
  5. 腎臓の働きが弱っている人
    腎臓の働きが悪いと、メトトレキサートが身体の中に溜まってしまい、副作用の危険性が高まります。軽度の腎機能低下であれば、用量を減らして使用することもあります。

慎重投与:次のような人には、メトトレキサートを使用して
得られる利益と危険性を比較考慮したうえで、使用します

  1. 肺線維症(間質性肺炎)をおこしたことがある人
    肺線維症というのは、肺の壁(間質)が線維成分で置き換えられて、酸素が通りにくくなる病態です。とくに、病気の勢いが強いときに、間質性肺炎といいます。

    息切れや、咳といった症状であらわれます。肺線維症、間質性肺炎は、関節リウマチ自体の症状としても起こりますし、メトトレキサートの副作用としても起こります。メトトレキサートによる間質性肺炎を起こしたことのある人には、メトトレキサートの再使用はできません。

    しかし、関節リウマチによる間質性の肺病変の場合には、病変が軽度で、現在は落ち着いていれば、必要性に応じて、使用されることがあります。血液中のKL-6値や、胸部レントゲン、胸部CT、呼吸機能検査などで、肺の状態を評価しながら、慎重に使用していきます。
  2. 感染症(病原性を持つ微生物が体に侵入して、体を傷害すること)を合併している人
    メトトレキサートは、白血球の働きを弱めて、病原微生物に対する防衛能力を落としてしまう可能性があります。このため、感染症が悪化することがあります。特に、慢性の感染症(B型肝炎やC型肝炎など)のある人は、慎重にする必要があります。
  3. 非ステロイド性消炎鎮痛剤(いわゆる「痛み止め」、「熱さまし」)を服用中の人
    非ステロイド性消炎鎮痛剤は、メトトレキサートの作用を増強します(これは、副作用の発生率を増加させることにもなります)。関節リウマチの治療では、非ステロイド性消炎鎮痛剤を使わざるを得ない場合が多いので、注意しながら併用しているのが実状です。
  4. ひんぱんにアルコールを飲んでいる人
    アルコールを常飲する人(週に何日までOKかは、はっきりしていません)にメトトレキサートを使用すると、肝臓の障害が起こりやすいといわれています。

使用開始前の検査

以上のような注意が必要であるため、メトトレキサートを開始する前には、以下の検査を行うことが推奨されています。また、これらの検査は、使用開始後にも、適宜行われます。

  1. 赤血球、白血球、血小板数
  2. 肝機能検査
  3. 腎機能検査
  4. アルブミン(これが少ないとメトトレキサートの作用が増強されます)
  5. 胸部レントゲン、血清KL-6値
  6. B型肝炎、C型肝炎の検査

副作用

いろいろ述べますが、メトトレキサートの副作用発生率は、他の抗リウマチ薬と同程度です。メトトレキサートは、他の抗リウマチ薬に比べて、決して危険な薬ではありません。

  1. 吐き気・おなかの痛み・下痢・口内炎などの消化器症状
    メトトレキサートによって、口や消化管を保護する粘膜が傷害されることが原因です。
    対処法としては、メトトレキサートを減量することや、ステロイド軟膏、制酸剤等の胃薬の併用があります。
  2. かゆみ、発疹などの皮膚症状
    メトトレキサートによるアレルギー(過剰な免疫反応)症状です。原則として、メトトレキサートを中止します。
  3. 肝臓障害
    肝臓の検査項目GOT(AST)、GPT(ALT)などが上昇することがあります。検査の異常が主体であり、身体がだるくなるなどの肝臓の機能上の障害がでることは、めったにありません。
    メトトレキサートの減量で対処します(GPTの値が100程度までであれば、そのままでも、正常値にもどることもあります)。
  4. 骨髄抑制(白血球、赤血球、血小板が減ってしまうこと)
    白血球が減ると、風邪や肺炎などの感染症を起こしやすくなります。
    赤血球が減ると、だるさ、ふらつき、息切れが起こります。
    血小板が減ると、けがなどで出血したときに、血が止まりにくくなります。

    対処法としては、メトトレキサートの減量・中止が基本です。抑制の程度が強いときは、前述した活性型葉酸「ロイコボリン」を使って、メトトレキサートの作用を中和したり、骨髄を刺激する薬を使用したりします。場合によっては輸血を行うこともあります。
  5. 感染症(病原性を持つ微生物が体に侵入して、体を傷害すること。風邪や肺炎が代表的。)
    例をあげますと、ヘルペスウイルスの感染(水疱が特徴です)が重症化することがありますので、注意が必要です。また、風邪などもこじれやすい可能性があるので、発熱などの症状があるときは、軽視せずに医療機関を受診するようにしてください。
  6. 間質性肺炎、肺線維症
    前述しましたように、酸素の受け渡しを行う肺の間質の部分が線維成分で置き換わってしまうために、酸素不足になるという病態です。いったん線維成分で置き換わってしまうと、もとには戻りにくいので、早期発見に努めることが重要です。

    階段や坂道を上るなどの体動の後の息切れ、痰の出ない咳といった症状であらわれます。これらの症状が出た場合は、速やかに主治医に連絡を取るようにしてください。
    メトトレキサートを中止し、必要に応じてステロイド剤を使用します。
  7. 身体のだるさ
    メトトレキサートの服用日や、その翌日などに、身体がだるくなることがあります。メトトレキサートの減量、中止で対処します。
  8. 脱け毛
    メトトレキサートの減量・中止で対処します。
  9. その他
    悪性リンパ腫などの悪性腫瘍の危険が増すのでは、という指摘がありますが、現時点では確認されていません。

他の薬剤などとの相互作用

メトトレキサートの作用を増強するもの

  1. 非ステロイド性消炎鎮痛剤
    作用を増強するというのは、効果を高めるだけでなく、副作用の危険性を増加させることを意味します。関節リウマチの治療では、非ステロイド性消炎鎮痛剤を使わざるを得ない場合が多く、注意を払いながら併用します。
  2. ST合剤(薬剤名「バクタ」、「バクトラミン」)
    レミケードを使用している場合に、カリニ肺炎を予防する目的で使用されることがあります。葉酸製剤を併用していれば、あまり危険はないことがわかってきています。
  3. テトラサイクリン(「テラマイシン」など)・抗けいれん剤(「アレビアチン」、「ヒダントール」など)・睡眠薬(バルビタール酸系といわれるもの)
    相互作用は軽度です。

メトトレキサートの作用を弱くするもの

注意が必要なのは、健康食品、サプリメントの中に含まれている葉酸です。葉酸は、先に述べましたように、副作用を減らす目的にも使用されますが、量が多いと、メトトレキサートが効きにくくなる可能性があります。健康食品などを使用中の方は、主治医にご相談ください。

※本稿作成にあたっては、ワイス株式会社の、製品情報・インタビューフォームを参考にさせていただきました。